大人の発達障害、アスペルガー障害の本当の原因と特徴(2/4)

大人の発達障害、アスペルガー障害の本当の原因と特徴(2/4)

発達障害

 近年、注目されてきている発達障害、アスペルガー障害は奥が深く、正しく理解しようとするにはなかなか難しいテーマです。当センターでは、前回に続き、医師の監修のもと公認心理師が、発達障害、アスペルガー障害を深く理解できるようにご紹介してまいります。よろしければご覧ください。

 

 

<作成日2019.9.21/更新日2023.2.6>

 ※サイト内のコンテンツのコピー、転載、複製を禁止します。

 

この記事の執筆者

みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師)

大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など

シンクタンクの調査研究ディレクターなどを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら

   

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考に記述しています。

 可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

 

もくじ

”定型発達症候群”
”デュアルモード”としての人間
きわ立つ発達障害の多様さ~100人100様
あらためて発達障害(Developmental disability)とは何か?

 

 

(3/4)につづく  

[(3/4)のもくじ]

 ・発達障害(自閉症スペクトラム障害)の特徴
  ・社会性の障害
  ・コミュニケーションの障害
  ・イマジネーションの障害
  ・その他

 

(1/4)にもどる

 

 

”定型発達症候群”

 研究者の千住淳氏が著書(「自閉症スペクトラムとは何か?」(筑摩書房))の中で、出典がはわからないがということで、書いていることですが、”定型発達症候群”という俗称があります。これは、問題のないとされる定型発達の窮屈な実態を半ば冗談で表現したものです。

 

1.社会的に独立することの困難さ

 他人の気持ちを自分のことのように感じるという幻想。他人との過剰な接触を求める。同じ定型発達の友人を求め、そうではない人とは関係を築くことが困難である。

 

2.コミュニケーションや創造性における困難さ

 コミュニケーションにおいて、あいまいな表現や、冗長な行動、ウソ、表情やしぐさの多用などが見られ、しっかりとした論理を持つことができない。自分の主観や推測を排してロジカルに考えることが苦手。

 

3.幅の狭い興味や活動

 微細な感覚や物事の細部に気がつけない。同じ行動を繰り返す常同行動が理解できない。必要もないブランド品や機能性のないもののこだわり、集団の中での立ち位置を気にしたり、いいところを見せたり、限られた社会的場面にしか興味を持てない。

 

 このように、あいまいで、特に対人関係に異常にこだわり、自分でコントロールできないくらい気をつかい、それで疲弊することもある私たちの姿は胸を張って「自分たちこそ正常」とは言えません。単に”多数派のモード”であるというだけです。 

 

 

 

”デュアルモード”としての人間

 私たちが、普段使用しているパソコンやスマホ、タブレットなどは、WindowsやAndroid などが搭載されています。ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、もともとパソコンは、黒い(青い)画面に、コマンドを打ち込んで操作するものでした。プログラムを組んだりするような作業もそうです。

 

・グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)

 しかし、スティーブ・ジョブズなどがマッキントッシュを販売したり、Windowsが発売されるようになると、私たちも見慣れている「グラフィカルユーザインタフェース(GUI)」、つまり、マウスやタッチパネルで視覚的に、直感的にアナログに操作できるようになりました。おかげで、コンピューターにくわしくない人でも簡単に扱えるようになり、今に至ります。 一方、あまり関係のない、見た目、デザインに意識を取られることがあります。

 

 

 

 グラフィカルユーザインタフェース(GUI)の裏では、昔からあるようなコマンドが実行されるようなモードも用意されています。パソコンが不調になると、黒い(青い)画面のモードが立ち上がり、そこで昔ながらの操作を要求されたりするのを見たことのある方も少なくないかと思います。

 

・テキストユーザインタフェース(TUI)

 「テキストユーザインタフェース(TUI)」といいますが、このインターフェースでは、あいまいな指示や直感的な操作は通用しません。一字一句間違いなく、命令を打ち込まないとコンピューターは理解してくれません。

 

 

 発達障害も、まさにこれと似ています。

 グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)とは定型発達の人が感じている世界、コマンドを打ち込んで実行していくテキストインターフェース(TUI)は非定型発達の人が感じている世界。

 

・インターフェースが制限されている

 大多数の人間や社会は、直感的なインターフェースを前提として作られていますが、発達障害ではそのモードがありません。あっても、制限されています。そして、実は、最新のスマホやパソコンでも、裏側ではコマンドで実行する黒い(青い)モードも存在しています。

 

・定型発達でも、ストレスにさらされるとモードが変わる

 実際、定型発達の人も、自分に不利な環境や、強い不安、緊張にさいなまれる場面で強いストレス、トラウマを負うと、発達障害様の状態となり、コミュニケーションや認知が制限されるようになります。不調をきたしたパソコンがセーフティーモード、DOSモード(黒い画面)が立ち上がるのととてもよく似ています。

 

・正確でダイレクトでもある

 ただ、テキストインターフェース(TUI)そのものは異常でもなんでもありません。使い方によってはグラフィックに振り回されず正確でとても便利なものです。ビジュアルを介さずにプログラムソースにダイレクトにアクセスすることができたりもします。

 

 このように、定型発達者でもデュアルモード(2重のモード)として非定型発達(発達障害)と同様の世界も持ち合わせていると考えられます。そのため、発達障害とされる特性も人類にとっては必須の性質といえそうです。

 

 

 

きわ立つ発達障害の多様さ~100人100様

 例えば、うつ病や統合失調症など心に関連する不調はありますが、発達障害はそれらと並列にはできないくらいに多様です。100人いれば100人とも異なります。

 

 研究者の千住淳氏は、「100人の自閉症者がいれば、遺伝子と自閉症の関係には100通りの違いがあるといっても、あながち間違いではありません。遺伝子から見たら、自閉症は一人ひとり異なる、極めて多彩な「症候群」なのです。」としています。

 

・粗すぎる診断名

 精神科医の神田橋條治氏も「発達障害に関連する現行の)診断名は粗すぎる」としていて、個々の人にはどういった特徴があり、どういったケアが必要か、ということを観ないと意味がないとしています。

 

・「発達障害」ということばではとらえきれない

 私たちも、発達障害と診断される方と多く接しますが、非常に多様です。気に病むくらい相手のことを気にする方も多くいらっしゃいます。「空気が読めない人」といったようなステレオタイプでは到底とらえられないくらいに多様なものを「発達障害」と大くくりにくくっているだけにすぎません。

 

 発達障害は100人100様だということはぜひ押さえておく必要があります。

 

 

 

 

 

あらためて発達障害(Developmental disability)とは何か?

・定義とその種類

 ここで、発達障害(Developmental disability)とは何か?を簡単にまとめてみたいと思います。

 発達障害の権威である杉山登志郎教授は、
 「発達障害とは、子どもの発達途上において、何らかの理由により、発達の特定の領域に、社会的な適応上の問題を引き起こす可能性がある凹凸を生じたもの」  
 と定義し、

 

 「発達障害=発達凸凹+適応障害」

 と表現しています。

 

 適応障害があることが前提ですから、たとえ検査で明らかに問題があったとしても、本人や周囲が不具合を抱えていなければ「発達障害」とは言えません。

 

 

・種類

 発達障害は代表的なものとして以下の4つのものがあります。上記にも書きましたように、あくまで大くくりな診断名ですから、個々のケースの特徴を理解する必要があります。

 

・自閉症スペクトラム障害(自閉症、アスペルガー障害が含まれます。)

  社会的行動やコミュニケーション、認知に問題がある。

・注意欠陥多動性障害

  不注意や衝動性などに問題がある。

・学習障害(LD)

  読み書き、計算などに問題がある。

・精神発達遅滞

 

 人口に占める割合は、線引が難しいために幅がありますが、発達障害全体で、1~10% 自閉症スペクトラム障害で1~2%とされます。

 それぞれの障害は、併発することも多く、自閉症スペクトラム障害とADHDを併発したりということも多いとされます。知的障害と併発がある場合もあります。

 

(参考)名称について

 「自閉症」「アスペルガー障害」「高機能自閉症」「広汎性発達障害」「自閉症スペクトラム障害」とさまざまな名称があり、同じようで同じではないなどこれも初学者には混乱の元となっています。なぜ名称がさまざまに存在しているかというと、研究者や機関によって捉え方や概念が異なることが大きな原因です。ですから、ほとんど同じといってよい場合でも完全な互換性がないのです。例えば、「高機能自閉症」と「アスペルガー障害」とはほぼ同じといってよいと考えられますが、その起こりが異なるために、全く同じといえないといったようなことです。

 

 現時点で、最も用いやすいのは、「自閉症スペクトラム障害」という概念です。その中には、定型発達から非定型発達まで連続体としてとらえられており、非定型発達の一番重いものに自閉症が位置します。

 

 非定型発達の特徴には次の項目にある三つ組がすべてありますが、その中で明らかな言語障害がないものが「アスペルガー障害」、言語障害が見られるものが「自閉症」という分け方になります。より細かな症状、特徴はケースによってさまざまになります。

 

・原因

 発達障害というのは人類の起こりからあったと考えられますが、明らかにとらえられるようになったのは、ごく最近のことです。自閉症については、レオ・カナーが論文を発表した1943年、アスペルガー症候群に至っては1980年代に入って認知されるようになりました。

 そのため、まだまだ分からないことが多い。また研究も広範に及ぶために、研究者でさえ、もはや全体像は捉えることは困難であるといわれています。

 

・かつては母の養育に原因とされた

 発達障害は、かつては「冷蔵庫マザー」というように、母親の養育のせいだと考えられていましたが、今は明確に否定されています。

 

 

・遺伝と環境の相互作用

 ただ、全くの生まれつきかというとそうではありません。「遺伝と環境の相互作用」というように理解されています。また、例えば、発達障害の方を100人集めても、100通りの違いがあると言われています。それほど、発達障害は多様で複合的です。また、遺伝子は環境によってスイッチのオンオフがあることが知られています。環境の負因が重なると特徴が目立ってくる、ということがあります。

 

 そのため、生まれつきでどうしようもなく固定された「障害」とはとらえないほうが良いです。英語では、「ディスオーダー」といい「失調」という日本語のほうが適切です。

 

 

・「障害」ではなく、”発達の遅れ”

 ”発達”障害というように、発達障害とは発達の非定型さともう一つ「発達の遅れ」ということもあります。そのため発達障害の人は普通の人よりも遅れて発達していきます。特に子供の場合、ある年齢を境に急に能力が伸びたり、といったことも報告されています。大人の場合も環境が適していれば晩熟していきますが、自覚がなく不利な環境で過ごすと歳とともに不適応を強め、苦しくなっていきます。

 

 

 

(3/4)につづく:発達障害(自閉症スペクトラム障害)の特徴

 
 
 
 

 

 

 

 ※サイト内のコンテンツのコピー、転載、複製を禁止します。

(参考)

 青木省三、村上伸治「大人の発達障害を診るということ」(医学書院)
 杉山登志郎「発達障害の子どもたち」(講談社)
 杉山登志郎「発達障害のいま」(講談社)
 備瀬哲弘「大人の発達障害」(マキノ出版)
 本田秀夫「自閉症スペクトラム障害が分かる本」(講談社)
 平岩幹男「自閉症スペクトラム障害」(岩波書店)
 神田橋條治ほか「発達障害は治りますか?」(花風社)

 神田橋條治「神田橋條治 医学部講義」(創元社)
 杉山登志郎「子ども虐待という第四の発達障害」(学研)
 ドナ・ウィリアムズ「ドナ・ウィリアムズの自閉症の豊かな世界」(明石書店)

 広沢正孝「「こころの構造」からみた精神病理 広汎性発達障害と統合失調症をめぐって」(岩崎学術出版社)

 ローナ・ウィング「自閉症スペクトル」(東京書籍)

 テンプル・グランディン「自閉症の脳を読み解く」(NHK出版)

 田中千穂子ほか「発達障害の心理臨床」(有斐閣)

 杉山登志郎「発達障害の豊かな世界」(日本評論社)

 ニキリンコ「俺ルール!」(花風社)

 ニキリンコ「自閉っ子、こういう風にできてます!」(花風社)

 千住淳「自閉症スペクトラムとは何か?」(筑摩書房)

 宮岡等、内山登起夫「大人の発達障害ってそういうことだったのか」(医学書院)

 内海健「自閉症スペクトラムの精神病理」(医学書院)

 高橋和巳「消えたい 虐待された人の生き方から知る心の幸せ」(筑摩書房)

 黒田洋一郎 木村- 黒田純子「発達障害の原因と発症メカニズム」(河出書房新社)

 など