公認心理師としての職責の自覚

公認心理師としての職責の自覚

公認心理師

 今回は、 日本初の心理職の国家資格「公認心理師」とは何かについてまとめてみました。よろしければご覧ください。

 

<作成日2021.10.3/最終更新日2023.2.6>

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この記事の執筆者

みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師)

大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など

シンクタンクの調査研究ディレクターを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら

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 管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考に記述しています。

 可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

 

1.公認心理師の役割

・公認心理師法

 公認心理師法第1条に「この法律は、公認心理師の資格を定めて、その業務の適正を図り、もっと国民の心の健康の増進に寄与することを目的とする」と規定されているように、公認心理師の支援対象は国民全体です。

 

 

(参考)→「公認心理師法

 

 

・公認心理師の定義

 公認心理師は、以下の4つの業務を行うものと定められています。

1.心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し、その結果を分析すること。(≒心理アセスメント
2.心理に関する支援を要する者に対して、その心理に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。(≒カウンセリング、心理療法など
3.心理に関する支援を要する者の関係者に対し、その相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。(≒コンサルテーション
4.心の健康に関する知識の普及を図るための教育および情報提供を行うこと。(≒心理教育

 

 

(参考)→「公認心理師(厚生労働省HP)

 

 

2.公認心理師の法的義務及び倫理

 公認心理師は、以下の点に留意しながら業務を行うことが求められています。 

・信用失墜行為の禁止

 公認心理師法の第40条で、「公認心理師は、公認心理師の信用を傷つけるような行為をしてはならない。」とあり、違反すると登録の取り消しなどの行政処分が行われる場合があります。

 

・多重関係の禁止

 信用失墜行為の中には、多重関係の禁止も挙げられます。多重関係とは友人関係、恋愛関係など「カウンセラー-クライアント」という以外の関係を持つことです。もともと多重関係にある人を対象とする場合は、他のカウンセラーや医師を紹介するなどが必要になります。

 

 

・秘密保持義務

 公認心理師法の第41条で、「公認心理師は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。公認心理師でなくなった後においても、同様とする」とあり、違反すると一年以下の懲役又は30万円以下の罰金、そして、登録の取り消しなどの行政処分が行われる場合があります。

 

 ※ただし、秘密保持義務には、クライアントの安心安全を守るためなど、例外状況があります。

 
 代表的な例外状況

  1.自傷他害の恐れがある場合
  2.虐待が疑われる場合(児童虐待防止法などによって通告義務があります)
  3.クライアントに直接関わっている専門家同士で話し合う場合
  4.法に定めがある場合や医療保険などの支払いが行われる場合
  5.クライアントによる明示的な意思表示がある場合

 

 

・関係者等との連携等

 公認心理師法第42条において、保健医療、福祉教育など多職種との連携が明記されています。

 特に、主訴に関わる主治医がいる場合は、公認心理師は主治医の指示を受ける必要があります。

 

 

・資質向上の責務

 公認心理師法第43条において、公認心理師は環境や業務の内容の変化に適応するために、知識、技能の向上に努めなければならないと明記されています。

 

 

・倫理的ジレンマ

 倫理的ジレンマとは、臨床を行う中で義務同士で生じる葛藤や調整を要する状況をいいます。
 
 一番多いのは、41条の秘密保持義務と42条の連携や、クライアントや関係者の安全確保との間で生じます。
 
 秘密保持義務を果たすことは当然ですが、医師など多職種との連携の必要性を見極めたり、自傷他害の恐れのあるときは警告、通報を行わなければなりません。

 

 

 

3.心理に関する支援を要する者等の安全の確保

 秘密保持義務の以前に重視するべきはクライアントやその関係者の安全確保です。

 そのためには、クライアントやその関係者に起こる虐待や自傷他害の恐れの程度を見極める必要があります。それをリスクアセスメントといいます。
 必要があれば、警告や警察や行政などへの連絡、通報を行わなければなりません。

 その際は、秘密保持義務の例外として違反に問われることはありません。

 

 

 

4.情報の適切な取扱い 秘密保持義務

 公認心理師は、クライアントのプライバシー保護を重視する必要があります。情報の取り扱いについて、クライアントとの間で説明と同意を得ておく必要があります(インフォームドコンセント)。
特に専門家間の情報共有に際しては、あらためて確認を取る必要があります。

 プライバシー保護に際しては、公認心理師法のみならず、個人情報保護法関連5法に定められた事項も理解、遵守する必要があります。
 
 業務に関する記録などは適切に保管されなければなりません。

 

 

5.保健医療、福祉、教育その他の分野における公認心理師の具体的な業務

 公認心理師は、例えば医療分野においてはチーム医療というように多職種連携の中で自身の役割、業務を行っていきます。
具体的には医師の指示の下、患者(クライアント)の状態を心理検査などを通じて観察、分析を行います。その結果を元に、カウンセリングなど心理療法を行ないます。

 そこで得た情報については、患者との同意の元、医師や看護師などと共有し、必要なサポートが提供されるようにしていきます。

 

 

 

6.問題解決能力と生涯学習

・自己課題発見と解決能力~心理職のコンピテンシー

 コンピテンシーとは良い成果につながる行動特性のことです。

 心理職については「科学者-実践家モデル」と呼ばれます。
 心理学研究者として臨床データを分析し学会などで発表する能力と、現場での実践家とを併せ持つものとされます。

 

 

・生涯学習への準備 心理職の成長モデル

 前項のコンピテンシーの観点から、反省的実践が求められます。

 反省的実践とは、自己アセスメントを通じて、心理職が自身の現在地を見極め、改善すべきものは何かをとらえ、研鑽を積んでいくことです。そのための手段として、より経験を積んだ心理職から指導や助言を受けることをスーパービジョンといいます。 心理職はスーパービジョンや教育分析、その他の研修、学習、何より臨床経験を通じて成長していきます。

 心理職については6期モデルと呼ばれる成長モデルが提唱されています。
 
 

 

7.多職種連携・地域連携

・多職種連携・地域連携の意義及びチームにおける公認心理師の役割

 多職種連携・地域連携における公認心理師の役割としては、コンサルテーションや心理教育、心理アセスメントによる情報の提供を通じて他の専門職をサポートすることなどが挙げられます。また、クライアントやその家族へのもその役割です

 

 

・保健医療、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働との連携

 公認心理師は、公認心理師法42条で多職種連携が明記されています。

 各分野に共通するものとしては、支援に関わる専門職と組織を把握し、その中で自分の責任と限界を理解することが求められます。その中で患者本人へのケアはもちろんですが、その家族とも連携していくことが必要です。

 

・保健医療分野において

 チーム医療(1人の患者に複数の専門職が連携して治療にあたること)への貢献が求められています。特に近年は、終末期において患者本人や家族の意思を尊重した生き方を支援するアドバンス・ケア・プランニングが注目されています。

 

・教育分野において

 チーム学校(教員と専門職との共働)、とくにスクールカウンセラーとして関わる中で教員が力を発揮できるようなコンサルテーションや教員ではない専門家ならではの視点の提供が求められています。

・福祉分野において

 児童、高齢者、障害者、精神障害者など対象が多岐にわたり、関係する専門職も多いのが特徴です。そのために各領域の専門職の役割を理解して公認心理師としての役割を果たすことが求められています。

 

・司法・犯罪分野において

 司法面接や被害者支援、薬物依存者への支援などが求められています。

 

・産業・労働分野において

 とくに産業医や保健師などの産業保健スタッフとの連携が求められます。

 

 

 

 

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(参考)

公認心理師(厚生労働省HP)

一般財団法人日本心理研修センター

「公認心理師の職責(公認心理師スタンダードテキストシリーズ1)」(ミネルヴァ書房)

「公認心理師 現任者講習会テキスト」(金剛出版)