今回は、公認心理師が精神疾患とその治療についてやさしく解説しています。
<作成日2021.10.3/最終更新日2023.2.6>
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この記事の執筆者みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師) 大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など シンクタンクの調査研究ディレクターを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら |
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管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考に記述しています。
可能な限り最新の知見の更新に努めています。
1.精神疾患とは
DSM-5では、精神疾患について下記のように定義されます。
精神疾患とは、精神機能の基盤となる心理学的、生物学的、または発達過程の機能不全を反映する個人の認知、情動制御、または行動における臨床的に意味のある障害によって特徴づけられる症候群です。
精神疾患は通常、社会的、職業的、または他の重要な生活における意味のある苦痛または機能低下と関連するものです。よくあるストレス因や喪失、もしくは文化的に許容された反応は精神疾患ではありません。社会的に逸脱した行動(例:政治的、宗教的、性的に)や主として個人と社会の間の葛藤も、上記のようにその逸脱や葛藤が個人の機能不全の結果でなければ精神疾患ではありません。
(参考)→「「精神疾患」と「精神障害」との違い」
2.代表的な精神疾患の成因、症状、など
2-1.主な症状と状態像(抑うつ、不安、恐怖、幻覚、妄想等)
・抑うつ
気分の落ち込みを中核として、興味関心の減退、活動性の減少、悲哀感、絶望感などを伴います。
・不安
将来についての、対象が明確ではない漠然とした恐れのことを指します。
・恐怖
特定の対象に対する切迫した恐れのことを指します。
・幻覚
外的な刺激がないにもかかわらず生じる、現実のものと区別できない知覚体験をいいます。
幻聴、幻視、幻臭などが知られています。
・妄想
不十分な根拠に基づく不合理で、反証があっても訂正されない信念をいいます
2-2.精神疾患の診断分類・診断基準<ICD10、DSM-5>
日本においては、従来は、疾患の原因を外因性(外傷など身体的病因)、内因性(遺伝的背景など)、心因性(性格やストレスによるもの)の3つに分けて捉える考えが主流でした。
治療者によって診断が食い違うなど、信頼性が確保できないなどの問題があました。
そのため近年は、マニュアルに沿って、症状を元に診断する、操作的診断基準が導入されるようになりました。
代表的な診断基準が、ICD-10(WHOの国際疾病分類 第10版)と、DSM-5(米国精神医学会 精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)です。
3.症状性を含む器質性精神障害(F0)
・認知症
認知症とは、認知機能、精神機能が後天的に低下する症状を言います。加齢に伴うものや、脳の血管障害によるもの、事故などの外傷によって起きるものがあります。
代表的なものに、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などがあります。
(参考)→「認知症」(厚生労働省HP)
・せん妄
せん妄とは、一過性の見当識障害、認知機能の障害、錯乱、幻視を伴う意識水準の低下のことをいいます。
重い疾患や手術の影響、環境の変化、薬物の影響などで生じます。
4.精神作用物質使用による精神及び行動の障害(F1)
・物質依存
物質依存とは、アルコール、麻薬、シンナー、睡眠薬、抗不安薬等によって生じる依存症状のことを言います。
(参考)→「依存症」(厚生労働省HP)
5.統合失調症、統合失調型障害及び妄想性障害(F2)
・統合失調症
統合失調症とは、さまざまな精神機能のまとまりを失ってしまうことを言います。
妄想や幻覚(陽性症状)、まとまりのない思考や言動、感情の平板化、自発性の減退など(陰性症状)を伴う症候群です。
(参考)→「統合失調症」(厚生労働省HP)
(参考)→「統合失調症の症状や原因、治療のために大切なポイント」
6.気分(感情)障害(F3)
・双極性障害
症状の程度、現れ方などから、双極性Ⅰ型、双極性Ⅱ型に分けられます。
躁病エピソードにおいては、自尊心の肥大、睡眠欲求の減少、観念奔逸などが特徴で、抑うつエピソードでは、気分の落ち込み、希死念慮などが特徴です。
(参考)→「双極性障害」(厚生労働省HP)
(参考)→「双極性障害(躁うつ病)の治療と理解のために大切な4つのポイント」
・抑うつ障害
抑うつ気分、興味の減退、体重の減少あるいは増加、疲労感、気力の減退、睡眠障害、決断困難、希死念慮などが特徴です。
(参考)→「うつ病」(厚生労働省HP)
(参考)→「うつ病の真実~原因、症状を正しく理解するための10のこと」
7.神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害(F4)
・不安症群
過剰な不安、恐怖を伴う症状で、分離不安症、選択性緘黙。限局性恐怖症、社交不安症、パニック障害、広場恐怖症、全般不安症が挙げられます。
・強迫症および関連症群
強迫観念と強迫行為を伴う症状で、強迫性障害、醜形恐怖症、ためこみ症、抜毛症などが挙げられます。
(参考)→「強迫性障害」(厚生労働省HP)
・心的外傷およびストレス因関連障害群
強いストレスへの曝露によって生じる症状で、反応性アタッチメント障害、脱抑制型対人交流障害、心的外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、適応障害が挙げられます。
(参考)→「PTSD」(厚生労働省HP)
(参考)→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの原因と克服」
・解離症群
意識、記憶、同一性などの統合の破綻や不連続を特徴とする症状で、解離性同一性障害、解離性健忘、離人感・現実感消失症等が挙げられます。
(参考)→「解離性同一性障害」(厚生労働省 e-ヘルスネット)
(参考)→「解離性障害とは何か?本当の原因と治療のために大切な8つのこと」
8.生理的障害及び身体的要因に関連した行動症候群(F5)
・食行動異常および摂食障害群
食行動や摂食に関する症状で、異食症、神経性やせ症、神経性過食症などが挙げられます。
(参考)→「摂食障害」(厚生労働省HP)
・睡眠-覚醒障害群
睡眠に関する症状で、不眠障害、過眠障害、ナルコレプシーなどが挙げられます。
9.成人のパーソナリティ及び行動の障害(F6)
・パーソナリティ障害群
パーソナリティ障害とは、その人格的特徴が、社会的な規範、一般常識から大きく偏り、歪んでいて、本人または周囲が困難を感じている状態です。
(参考)→「パーソナリティ障害」(厚生労働省HP)
(参考)→「パーソナリティ障害の10のタイプと特徴をわかりやすく解説」
10.精神遅滞[知的障害](F7)
・精神遅滞
知的機能や、社会への適応機能の欠陥をいい、発達期に発症するものです。
程度によって、軽度から中等度、重度、最重度と判断されます。
11.心理的発達の障害(F8)
小児期及び青年期に通常発症する行動並びに情緒の障害、特定不能の精神障害(F9)
・注意欠陥多動性障害
学業や職業などの活動の妨げとなるほどの不注意と多動性-衝動性、そのいずれかを示す症状です。
・限局性学習障害
知的能力には問題がないにもかかわらず、読字、書字、算数などに障害が見られることを指します。
・自閉スペクトラム障害
社会的コミュニケーションと社会相互作用の障害、行動、興味または行動の反復された様式、感覚過敏・鈍麻などを特徴とする症状です。
(参考)→「発達障害」(厚生労働省HP)
(参考)→「大人の発達障害、アスペルガー障害の本当の原因と特徴」
・代表的な精神疾患の治療法
・薬物療法
文字通り薬物(向精神薬)によって行う治療です。幻覚、妄想、躁状態、抑うつ、不安など多くの症状に効果があります。
抗精神病薬、抗うつ薬、気分安定薬、抗不安薬、抗てんかん薬、睡眠薬などが挙げられます。
漢方薬も治療に用いられます。
・作業療法
作業を通じて心身の昨日の回復を目指す治療です。
・精神(心理)療法
言語や非言語の対人交流によって行われる治療です。
いわゆる支持的な傾聴(カウンセリング)や、認知行動療法、マインドフルネスなどが挙げられます。
・代表的な精神疾患の、本人や家族への支援について
・地域移行
主に長期で入院している患者が、地域での生活に移行させることを言います。
地域での資源と連携して支援の仕組みを整える必要があります。
・自助グループ
同じ悩み、症状を抱える人同士が自主的に運営する集まりです。
アルコール依存症のための集まりであるAA(アルクホリック・アノニミマス)が代表的です。
・アドヒアランス
治療について、患者が積極的に参加することを言います。
治療者側も患者が積極的に参加しやすい枠組みを作る必要があります。
・精神疾患に関する医療機関への紹介
・精神科等医療機関へ紹介すべき症状
・強い幻覚妄想や興奮などが見られ統合失調症が疑われるケース
・双極性障害(Ⅰ型)が疑われるケース
・摂食障害(神経性やせ症)が疑われるケース
・自殺念慮や中等度のうつが疑われるケース
・自傷、他害の恐れがあるケース
(参考)
加藤隆弘 神庭重信「精神疾患とその治療 公認心理師の基礎と実践22」(遠見書房)