うつ病を本当に克服するために知っておくべき16のこと(下)

うつ病を本当に克服するために知っておくべき16のこと(下)

うつ・気分障害

 近年、うつ病は、専門家でさえも困るほどに定義や対処に混乱が見られます。そのため、うつ病患者が適切な情報を得ることはなかなか大変です。

 前回につづき、医師の監修のもと公認心理師が、うつ病を克服するために大切なことについて、皆様にわかりやすくまとめてみました。よろしければ参考にしてください。

 

 ⇒関連する記事はこちらをご覧ください。

 「うつ病の真実~原因、症状を正しく理解するための10のこと」

 「うつ病を本当に克服するために知っておくべき16のこと(上)」

 「双極性障害(躁うつ病)の理解と克服のために大切な4つのポイント」

 

 

<作成日2019.9.19/更新日2023.2.6>

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この記事の執筆者

みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師)

大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など

シンクタンクの調査研究ディレクターなどを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら

   

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考に記述しています。

 可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

もくじ

7.うつ病は、どのように治っていくのか?
8.典型的なうつ病(重度のうつ病)にしか、抗うつ剤は効果がない

9.セカンドオピニオンを求めることが必要なケース

10.軽症~中等度の場合は、経過の観察と精神療法が主となる

11.どの程度のうつ病でも、土台にあるのは、生活習慣の改善
12.具体的な症状や環境から治療方針を相談する

13.新型うつ、現代型うつへの対応方法
14.「休養」とは、ただ休むことではない

15.適切なタイミングと方法で勇気づけ、回復を後押しする

16.うつを治すとは、元に戻ろうとすることではなく新たな自分へ変わろうとすることである

 

 

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[(上)のもくじ]

 1.混乱するうつ病治療について患者側もある程度の知識をそなえておく必要がある
 2.適切なうつ病の診断~治療の流れを知る
 3.自分がうつ病なのか?をまず自分でもチェックしてみる
 4.自分は、どのタイプのうつ状態(うつ病)かを知る
 5.うつ病の原因についても大切なことを押さえておく
 6.うつ病の治療方法

 

 

 

7.うつ病は、どのように治っていくのか?

 典型的なうつ病とはそもそも、特別な理由なく症状が出て、症状の反復がありながら、次第に自然に回復していくものです。
 進行性の病気ではなく、症状が一定期間現れる病気であるとされます。

 

 自然に治るものなのですが、その間の苦しみは想像を絶するものがあります。
 人によって、数カ月から数年かかることがあります。
 また自殺のリスクもあります。そのため、薬物や、精神療法の助けを借りて、苦しみを緩和して、回復を助けていきます。

 

 

 

8.典型的なうつ病(重度のうつ病)にしか、抗うつ剤は効果がない

 実は昔から日本の臨床現場では常識として、内因性うつ病には抗うつ剤は効果を発揮するが、神経症性うつ病や軽症うつにはほとんど効果がないということはわかっていました。

 神経症性うつ病は、休息と生活習慣の改善、精神療法がおこなわれるものでした。

 

 しかし、2000年代以降に、SSRIという従来と比較すると副作用が軽減された抗うつ剤が普及すると、うつ病といえばまずは処方されるものとなり近年問題となっています。

 実際に、さまざまな調査でも明らかになっていますが、
 抗うつ剤は、うつ病と診断される患者の約2割程度にしか効果がありません。

 

 たとえば、米国の食品検査局(FDA)のデータにもとづいて2008年に公表された論文よると、抗うつ剤(SSRI)とプラセボ(偽薬)とを比較すると、軽症、中等度の患者では、有意差がなく、最重症でのみ優位差があったということです。

 
 2010年に公表された別の論文でも同様の結果で、プラセボに対する抗うつ剤の効果は「皆無か微小」しかない、との論文が発表されました。

 調査では、内因性かどうかという区別があるかはわかりませんが、いわゆる中核的なうつ病の割合と重なるのではないかと考えられます。

 

 日本うつ病学会のうつ病治療のガイドラインでも下記のように述べられています。
 
 「近年わが国ではうつ病患者が急増しているとされるが、その多くは軽症うつ病、もしくはうつ病と診断される基準以下の抑うつ状態の患者であると推測されている」
 「各国のガイドラインやアルゴリズムを俯瞰(ふかん)すると、軽症に対して抗うつ剤を第一選択とせず心理療法やその他の治療方法と優先するものが少なくない」
 「軽症うつ病において、プラセボに対する抗うつ剤の優位性には疑問符がつくことが示されている」

 ただし、処方された薬については自分で中断したり、減薬したりせず服用しましょう。疑問があれば医師に相談するか、セカンドオピニオンを求めましょう。

 

参考)「日本うつ病学会治療ガイドライン」

 

 

 

9.セカンドオピニオンを求めることが必要なケース

 薬物療法も、最初から合う薬を探すのは難しく、通常いくつか薬を試して適合するものを探していきます。さらに、抗うつ剤は、効果が出るまでは2週間程度タイムラグがあることが知られています。一つの薬で6~8週間試してダメなら薬を変えて様子を見ていくことになります。

 

 基本的に、同じ役割の薬は同時に1種類のみが望ましいとされます。同時に複数の薬を出すと適合や副作用の影響がわからなくなってしまうからです。

 
 同時に3種類以上出る場合は医師の見立てが明確ではない恐れがあります。また、薬は合うかどうかが大事で種類が多ければ効くというものではありません。改善しないと訴えた場合に漫然と処方が増えるようでしたら、セカンドオピニオンを求めましょう

 

 セカンドオピニオンを求めることが適切なのは下記のような場合です。
 (精神科医の井原裕教授の書籍より)

 ・初診で3種類以上だす。
 ・処方した薬の説明をしない。
 ・副作用の説明がない
 ・不調を伝えるたびに薬が増える※1。

 ・治療に関して疑問を伝えると機嫌が悪くなる
 ・薬だけで、助言、指導、提案をしない。
 ・症状ばかりを訪ねて生活を知ろうとしない※2。

 

 

 ※1.SSRIなど抗うつ剤については、効果が出ない場合は効果が出る最大量まで増やしていくのが通常です。そのために、改善しない場合に処方する量が増えることはおかしなことではありません。

 ※2.日本の病院では、一人の患者に長時間対応することはできません。
  そのため診療時間が短いからという理由だけで医師への不信を抱くことは適切ではありません。

 

 

 

10.軽症~中等度の場合は、経過の観察と精神療法が主となる

 前項で紹介した日本うつ病学会のガイドラインでも、軽症うつ病については、
 「初診時には、薬物療法は開始せず、傾聴、共感など受容的精神療法と心理教育を開始し、治療経過の中で病態理解を深め」
 とあるように、軽症うつ病については、経過の観察と精神療法が主となります。

 軽症の場合は、うつ病ではない可能性も高いとされます。

 

参考)「日本うつ病学会治療ガイドライン」

 

 

 

11.どの程度のうつ病でも、土台にあるのは、生活習慣の改善

 うつ病の治療では、薬物療法や心理療法、そして休養ばかりが過度に注目されますが、どのタイプ、どの程度のうつ病でも土台として求められるのは、生活習慣、生活リズムの改善になります。
 多くの場合、睡眠時間が足りていなかったり、不規則であったりします。飲酒なども悪く影響します。

 

 薬物療法を行うのであれば、禁酒は必須です。また、睡眠時間も一日7時間は確保できるようにすることが必要です。入眠困難、早朝覚醒なども、睡眠リズムの乱れでおきていることが多いと言われています。

 

 

 

12.具体的な症状や環境から治療方針を相談する

 本記事でも説明させていただいておりますように、一概に「うつ病」といっても、症状の重さや内容によって対応の方法が異なります。また、仕事や家庭などの環境も人それぞれ違います。

 明らかに重度であれば迷うことなく休養と治療に専念することが必要ですが、グレーゾーンのうつ状態であれば、可能な範囲で日常生活を続けながら、生活改善と精神療法などの治療を受けることが適切と考えられます。 

 具体的な症状から治療方針や職場への伝え方など、医師と相談して決めていくことが必要です。

 

 

 

13.新型うつ、現代型うつへの対応方法

 昨今話題の「新型うつ病(軽症も含む)」についてですが、新型うつについての診断は慎重に行うことが必要です。他の要因で症状が出ているおそれがあるにも関わらず、「うつ病」と診断されるとかえって症状を悪化させてしまうケースがあります。

 

 また、新型うつの場合は休養が改善のためになるとは限らないとされています。
 多少つらくても、生活リズムを整えながら、働き続けることが大切です。

 
 周囲も、本人の病気を理解しつつ、本人は責めず、どっしりと構えて、本人の認識を徐々にポジティブなものへと変容させていくことが適切です。

 

 

 

14.「休養」とは、ただ休むことではない

 正しく伝わっていないうつ病に関する情報の一つが「休養」についてです。

 「休養」というと、ただ何もせず休むことであると思われています。
 もちろん、急性期、治療導入の最初の1カ月は心身を休めることが必要です。
 

 しかし、回復期に入ったら、生活リズム特に睡眠リズムを整えることが重要です。おっくうでも、床に伏せず、散歩をしたり、日を浴びたりするなど生活リズムを整えることが求められます。
 (タイミングや方法は個々のケースによります。)

 

 ワークスタイル、ライフスタイルと新たなものへと変えて、社会へ復帰していくためのリハビリ期間がほんとうの意味での「うつ病治療の休養」になります。 

 

 

 

15.適切なタイミングと方法で勇気づけ、回復を後押しする

 海外のうつ病治療のガイドラインでは、適切なタイミングで励ますことが示されています。特に回復期などは適切なタイミングで勇気づけて、回復を後押しすることは大切とされます。

 その際に必要なのは、うつ病は本人のせいではない、ということを前提とすることです。
 新しい人生の生き方に進むために必要なことが生じているだけととらえて周囲も寄り添う事が必要です。

 (「がんばれ」といった本人にさらなる行動を求めたり、責任を感じさせるような不適切な声掛けは回復期でも避ける必要があります。)

 

 

 

16.うつを治すとは、元に戻ろうとすることではなく新たな自分へ変わろうとすることである

 前回の記事で、「ユウウツが本当に消えるのは、その人が長く追求してきた目的を完全にあきらめ、自分のエネルギーを別の方向に向けるようになった時である」(野村総一郎「うつ病の真実」(日本評論社)

 ということばを紹介しましたが、

 
 うつ病は再発率の高い病です。単に症状を消すことだけを考えるような治療を行うと、再発しやすいと言われます。
 もし、うつ病のメカニズムが新しい生き方へと切り替えるためにあるのであれば、単に症状が消えただけの回復は目的が達せられたとはいえません。

 

 一方、生活習慣を改善し、新しい(本来の)スタイルや考え方を身につけるとうつ病の目的は達成されて、再発防止につながると考えられます。

 

 

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 ⇒関連する記事はこちらをご覧ください。

 「うつ病の真実~原因、症状を正しく理解するための10のこと」

 「双極性障害(躁うつ病)の理解と克服のために大切な4つのポイント」

 

 
 
 
 

 

 

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参考

山下格「精神医学ハンドブック」(日本評論社)
笠原嘉「うつ病臨床のエッセンス」(みすず書房)
宮岡等「うつ病医療の危機」(日本評論社)
野村総一郎「うつ病の真実」(日本評論社)
神庭重信ほか「現代うつ病の臨床」(創元社)
岡田尊司「うつと気分障害」(幻冬舎)
井原裕「うつの8割に薬は無意味」(朝日選書)
井原裕「生活習慣病としてのうつ病」(弘文堂)
井原裕「激励禁忌神話の終焉」(日本評論社)
大野裕「うつを治す」(PHP新書)
野村総一郎「やさしくわかるうつ病の症状と治療」(ナツメ社)
野村総一郎「ウルトラ図解 うつ病」(法研)
廣瀬久益「完全復職率9割の医師が教える うつが治る食べ方、考え方、すごし方」(CCCメディアハウス)
玉村勇喜「うつ病を心理カウンセリングで治す本」(ほおずき書籍)

池谷敏郎「体内の「炎症」をおさえると、病気にならない!」(三笠書房)

エドワード ブルモア「「うつ」は炎症で起きる」(草思社)

ジョン J. レイティ「脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方」(NHK出版)

など