【保存版】災害(震災、水害、事故など)時の心のケアと大切なポイント(下)

【保存版】災害(震災、水害、事故など)時の心のケアと大切なポイント(下)

トラウマ、ストレス関連障害

 阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震など地震、大雨による災害、鉄道事故などの人災など、災害は身近なもので、生涯のうちにまったく経験せずに過ごすことはまれといえます。災害時の心のケアの知識は、誰もが身につけておく必要があります。

 前回に続き、医師の監修のもと公認心理師が、災害時の心(ストレス、トラウマ)のケアについて整理してみました。よろしければ参考にしてください。

 

関連する記事はこちら

→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの原因と克服

 

 

<作成日2019.9.21/更新日2023.2.6>

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この記事の執筆者

みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師)

大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など

シンクタンクの調査研究ディレクターを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら

   

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考に記述しています。

 可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

 

もくじ

災害時のストレスへの対処方法

  ・ストレスへ対処するための5つの前提
  ・災害ストレスに対処する11の方法

 

個別の感情にどのように対処するか?
子どもに対する接し方
支援者の心構え

 

 

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・はじめに~災害時のケアは、”心のケア”より、身体のケアを意識する
・災害とは何か?
・災害を受けた直後に生じる反応~正常な反応としての災害時ストレス反応
・心理的回復のプロセス

 

 

 

災害時のストレスへの対処方法

・ストレスへ対処するための5つの前提

1.生じている反応は、ストレスに対する正常な反応です。

  感情があふれることは、正常なことです。弱さや異常さの表れではありません。

 

2.安心感、安全感を回復することがまずケアの大前提です。

 

3.災害や事故はすべて環境からやってきたストレスです。自分のものではありません。

  直面しているストレスは自分でかかえる責任、問題ではなく、周囲でともに支えあいながら再び環境に返すものという意識を前提としましょう。

 

4.心理的なケアというと言葉や認知にアプローチするものと考えがちですが、災害直後は身体をリラックスさせる方法ほうがより効果的なことが多いです。

 

5.災害時のストレスに対してはまずはセルフケアが原則で、あまりにもつらい症状や、一定期間(6カ月程度)を経ても強い症状が残る場合は専門家のサポートを求めてください。

 

 

 

・個人の弱さの表れではなく、自然な反応である

 前提として知っておくことは、災害時に起きる反応とはストレスへの自然な反応であるということです。個人の弱さの現れでも異常なものでもありません。

 

 

・原因は環境にある

 悲惨な出来事、そしてストレスは個人に現れますが、実際はすべて環境によるものです。
 災害や事故も環境からやってきたストレスです。最もぜい弱な人やポイントにその自然な反応は現れます。 
 もし、ある被災者がくじけそうならその方の責任ではなく、くじけそうな環境があり、支える環境がないためです。

 ストレスで眠れない、体がしんどい、というときには、自分自身がそうなっているととらえるのではなく、環境の影響が自分に現れている、と知るだけでもぐっと楽になります。 

 

 

・個人の選択、責任という観念は脇に置く

 個人の選択、責任であるとか、個人が頑張らないといけない、といった観念は脇に置いてみましょう。ついつい「(あなたが)頑張りなさいよ」と声掛けをしてしまい、言葉を受けた相手はよりストレスを受けてしまいます。事実、被災者が一番ストレスに感じた声掛けは「頑張れ」だったそうです。

 

 

・ストレスは環境から環境へと受け流す、という捉え方

 自分はある意味ストレスの通り道、パイプだと思い、環境から来たストレスは環境へと受け流す、という捉え方が必要です。人間は弱く、すべて環境によってできている、ということを前提に関わってみることが大切です。

 

 

 

災害ストレスに対処する11の方法

1.深呼吸して、リラックスする

2.身体を動かす

 
3.スキンシップをする

4.自分の体験を誰かに話す。相手の話に耳を傾ける

 

5.感情はおさえず、表現する

6.気分転換する

 

7.しっかりと栄養を取る

8.できるかぎり休養や睡眠をとる

 
9.無理をしない

10.一人にならない

 

11.自己暗示の言葉を唱えてみる

 

(参考)避難所内は禁酒が原則

 急激なストレスにさらされると、お酒やたばこで紛らわせたくなります。しかし、もともとアルコール依存傾向のあった人や、そうではない人でも、アルコール依存に陥ってしまう恐れがあります。そのため、避難所などでは禁酒が原則となります。

 

・どのように話すのか?

 自分が話せる範囲で結構ですから、「何があったか?」-「どのように考えたか?」-「どのように感じたか?」といったように話をするとよいでしょう。自分の中でため込まないことが原則です。ただ、トラウマに触れるようなことは無理に掘り起こす必要はありません。

 

 

・相手の話をどのように聞くか?

・無理に話をさせない。無理に掘り下げない。あくまで相手のペースを尊重してください

 

・「あなたは大丈夫」という前提を頭に浮かべておく

  人間は、非言語でコミュニケーションを取り合うものです。このことを頭に浮かべて聴くだけでも、話し手の気持ちはかなりほぐれます。

 

・善悪の判断や評価をしない

・言葉を挟まず、聞き流す

 

・安心感をもって、リラックスして聴く

・カウンセラーのようにうまく聞こうと考えない

 うまく聞かなければと考えると、そのことばかり考えてしまい、負担になります。リラックスして、ただ、聞き流すだけで大丈夫です。

 

・気の利いた、上手な声掛けをする必要はない

  ストレスを受けて間もない時期に必要なのは安心感を取り戻し、感情を発散させることです。気持ちを切り替えるのは、次の段階になります。災害発生の間もない時期に無理に声掛けしようとするとどうしても相手に負担となってしまいます。声をかけるとしても、「私もつらいと感じました」と自分の感情を素直に語るか、「私にできることはありますか?」といったニーズを聞き出す言葉が適切です。

 

(参考)ディブリーフィングについて

 阪神大震災の頃は、救援者などがPTSDを防止するために、自らの体験をできるだけ吐き出す「ディブリーフィング」が効果的とされました。しかし、その後の研究で、安全ではない環境で無理に吐き出させることは強い身体反応を引き起こすことや、まずは、身体をリラックスさせるなどの安心、安全を取り戻すことが大切とされ、今では推奨されなくなりました。

 ただ、語りたいときに自らの体験や感情を語ったり、表現したり、救援者が活動の総括として互いに経験を述べあったりすることはストレスの緩和に寄与します。常に、安全感の回復を前提として、本人のコンディションを尊重しながら、ふさわしいタイミングで行うことが大切です。

 

 

・どのように声をかけるのか?

 (参考)として掲載しているものは、SFAなどに掲載されている「避けるべき言葉」です。ご覧いただいていかがでしょうか?正直言って、医師やカウンセラーといった専門職でも、何と声をかけていいかわからなくなってしまいます。厚生労働省の委託で作られた「心的トラウマの理解とケア」という本でも、「言ってもらうと必ずうれしい言葉は残念ながら存在しない」とされています。状況や相手によって異なります。

 

 声をかける際は、下記のことが基本になります。
 ・上手に声かけしようとするよりは、相手の話を聞き、気持ちを受け止めること、肯定すること。
 ・今心身に起きていることは、当然の反応であると伝えること。
 ・できることはないか、といったように相手のニーズを聞くこと。
 

 

 (参考)災害直後に声をかける際に、避けるべき言葉

 ※以下の言葉でも状況や関係性によっては伝えても問題ない場合もあります。あまり機械的にとらえないことが大切です。

・「心的トラウマの理解とケア」に掲載されている被害を受けた人を傷つける言葉
 がんばれ。
 あなたが元気にならないと亡くなった人も浮かばれないですよ。

 命があったんだからよかったと思って。

 まだ、家族もいるし、幸せなほうじゃないですか。

 このことはなかったことと思ってやり直しましょう。
 こんなことがあったのだから将来はきっといいことがありますよ。

 思ったより元気そうですね。
 私ならこんな状況は耐えられません。私なら生きていられないと思います。

 

 

・SFAに掲載されている「言ってはいけないこと」
 お気持ちはわかります。
 きっと、これが最善だったのです。
 彼は楽になったんですよ。
 これが彼女の寿命だったのでしょう。
 少なくとも、彼には苦しむ時間もなかったでしょう。
 頑張ってこれを乗り越えないといけませんよ。
 あなたには、これに対処する力があります。
 彼が苦しまずに逝ったことを喜ばなくては。
 我々は生き延びたことによって、もっとたくましくなるでしょう。
 そのうち楽になりますよ。
 できるだけのことはやったのです。
 悲しまなくてはいけません。
 リラックスしなくてはいけません。
 あなたが生きていてよかった。
 ほかには誰も死ななくてよかった。
 もっとひどいことが起きたかもしれませんよ。あなたにはまだ、兄弟もお母さんもいます。
 この世に起こるすべてのことは、より高い次元の存在が計画した最善の結果なのです。
 耐えられないようなことは、起こらないものです。
 これから、あなたが一家を背負っていくんですよ。
 いつの日か、あなたは答えを見つけるでしょう。

 

 

・スキンシップの方法

 あくまで相手との関係(既知かどうか、異性かどうかなど)によりますが、肩に手を置く、横に座る、ハグをするなど、自然な方法をとってください。人がそばにいるだけで安心するものですから、相手を尊重して、その場にふさわしい方法を採れば大丈夫です。

 

 臨床心理士の堀之内高久氏がすすめているセルフスキンシップという方法もあります。
 1.枕や毛布、タオル、衣類などを丸めて、抱きしめます。
 2.抱きしめた腕を片方の手で、赤ん坊をあやすようにトントンとたたきます。
 3.これを繰り返します。

 

 

・深呼吸の方法

 呼吸は意識と無意識にまたがる動作で、心身に安心感を取り戻すためのとても効果的な方法です。ゆっくり、深く、お腹まで深く呼吸することで、心身が安心感、安全感を感じることができます。

 

 呼吸法などについては専門的なさまざまな方法があります。ただ、あまりそれらにとらわれる必要はありません。お腹まで深く吸って、吐く、ゆっくりと繰り返すだけで十分効果があります。その際は、体も一緒に動かしてみることです。 

 
 1.いすなどに腰を掛けて、楽にして、目を閉じて、片手は胸に、片手はお腹に当てます。
 2.鼻から息を吸いお腹を膨らませます。正しくできていれば胸は膨らみません。
 3.大きく息を吸い、5秒止めて、吐き切る。
 4.吐ききったら5秒止めて、また吸い始める、というのを繰り返します。
 5.呼吸を繰り返している間の体の動きや変化を感じます。

 

 

 

個別の感情にどのように対処するか?

 

<怒り>

 怒りという感情はある程度発散しないと建設的な段階や心境には進めません。
 そのため、まずは怒りを表現することが大切です。

(自分が怒りを感じている場合)

 ・人に迷惑がかからない場所で大声を出すことはとても有効です。

 ・その後に、悲しみや不安が出てくることがあります。その時はセルフスキンシップを行ってみましょう。

 

(他者が怒りを持っている場合)

 ・まずは怒りを発散してもらうことが大切です。
  怒りを持つのも当然として肯定しましょう。
  何に困っているのか?怒りを感じているのか?を聞きましょう。
  怒りを否定したり、反論したり、言い返したりしないようにしましょう。

 
 ・目の前にいるあなたを攻撃しているわけではなく、状況について怒りを感じています。
  挑発的な言動があっても、それに乗らないようにしましょう。

 

 ・グループを相手とする場合は、エスカレートする恐れがあります。
  代表者を決めていただき、代表者とだけ話をするようにしましょう。

 
 ・怒りがある程度発散されたら、「どうなればいいですか?」と話題を問題の解決に向けるようにすると効果的です。

  
<悲しみ>

 ・基本的に、泣いたり、悲しみを十分に吐き出すことが必要です。

 ・周囲の人はアドバイスや声掛けは必要ありません。ただ、寄り添い、静かに横にいてあげることです。

 ・時間が解決してくれます。 

 

<自責感、罪悪感(サバイバーズ・ギルド)>

 ・人間とは弱く、限界があります。人間に罪は過失はありません。今起こっていることは否応なく襲い掛かってきた問題です。ご自身を責める何ものもありません。実は、罪悪感、自責感も災害のように外からやってきたものです。

  それらは自分の感情ではないと知って、自分の“心”にお願いして、取り除いてもらい、本来の自分に戻してもらいましょう。

 

 

 

子どもに対する接し方

 災害に対する子どもの反応は大人とは異なります。大人と比べると現状否認やまひは少ないですが、強い分離不安や幼児がえりなど直接的な反応が見られます。

 大人が不安にしていると二次的に外傷を受けやすく、災害そのものへの理解も子ども独自の解釈でとらえていることが特徴です。

 

子どもならではのストレス反応~安心感、安全感を確保する

・なるべく一緒にいる

 子どもに見られる幼児がえりとしては、駄々をこねたり、甘えたり、おねしょ、夜泣きといったことが起きます。それらは、ストレスに対する一時的なものですから、しかりつけたりするのではなく、なるべく一緒にいて、安心させてあげてください。

 

 

・栄養や休息をしっかりとる

 栄養や休息はしっかりとることを心掛けてください。ただし、食欲のない時は無理に食べさせないようにしましょう。

 

 

・上手に話を聞いてあげる

 子どもは自分の体験や感情をうまく表現できないことがあります。上手に質問しながら、何があって、どのように感じたのかを聞いてあげてください。ただ、子どものペースに合わせて、むりに聞き出そうとしなくてもよいです。絵を描くことなどもよいです。ただ、あくまで自発的な場合のみです。無理に絵を描かせることは、外傷記憶を想起させることになり、あまりよくないとされます。

 

 

・「ごっこ遊び」は制止せず、見守る

 子どもに見られるストレス反応(フラッシュバック)として、「津波ごっこ」「地震ごっこ」が見られることがあります。遊びとしてトラウマ体験を繰り返すことで、トラウマに対処しようとする行動です。この遊びについても、「やめなさい」といって制止するのではなく、見守り、ときに大人も入り共感し、心理的な安心感を醸成することが大切です。

 

 地震や津波に対して壊されない安全なものを遊びの中で大人が表現してあげることも、安心を生む効果をもたらすとされます。会話も絵も遊びも安全な枠組みの中で行われることが原則です。

 

 

・災害は自分のせいではないと伝える 

 子どもは災害について空想的なとらえ方や、自分が悪い子だったからだと考える傾向があります。災害はどのように起きるものであり、それは自分のせいではない、と伝えましょう。

 

 

・お手伝いや役割を与えることも有効

 役割や仕事は気持ちを安定させます。年齢によってふさわしいお手伝いや、役割を与えることも有効です。

 

 

 

事実を伝える

 子どもに対しても、事実を伝えることが基本です。事実を隠すことは結局伝わってしまい、ぎこちなさやある種の不信感を生みます。家族や友達の死などについても、必ず事実を伝えてください。

 その際は、「星になった」とか「遠くに行った」といった婉曲ではなく、「死んでしまって、もう会えない」ということ。葬式にも立ち会わせとちゃんとお別れを伝えるようにして区切りをつけるようにしましょう。ただ、嫌がる場合などは無理をさせる必要はありません。

 

 

ニュースなど災害の情報は時間を区切る

 災害のニュースなどを長時間見せることはストレスになります。時間を区切って視聴するようにしましょう。

 

子どもの心のケア

 

 

 

支援者の心構え

・サポートする側の心構え

 援助者も、災害時には強いストレス(惨事ストレス)を受けます。
消防や警察、自衛隊などプロでも、その負担は計り知れません。

 サポートをする側も下記のような心構えが大切です。

 1.自分の仕事の意義や限界を把握する。無理をしない
 2.支援対象との距離を適切にとる。
 3.交代や休息をしっかりととる。リフレッシュを図る
 4.一人で抱えない。複数やチームで活動する。
 5.体験したことは仲間で共有する
 

 

・遠隔地の心構え~自分の日常を守る

 遠隔地にいると自分も何かをしないといけないという焦燥感や、偽善者ではないかという罪悪感にかられることがあります。実際にボランティアとして出向くことが無理なくできる場合は、それもよいことです。

 しかし、最も支援となるのは、同じ共同体のメンバーが、自分の日常を守ることです。日常生活を平穏に送ることは、実は一番の安心となります。自分が安心感、安全感をもって、できる範囲のことをする、ということが最も大切です。

 

 遠隔地にいながら悲しみや怒り、罪悪感にさいなまれる場合は、「メディア被災」、「バーチャル被災」が考えられます。本記事に記したストレスケアの方法を試して、適切に対処してください。

 

 

 

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(参考)

「心的トラウマの理解とケア」(株式会社じほう)

「サイコロジカルファーストエイド(SFA)WHO版」
「災害時のこころのケア サイコロジカル・ファーストエイド実施の手引き」(医学書院)
デビット・ロモ「災害と心のケア ハンドブック」(アスク・ヒューマン・ケア)
高橋晶、高橋祥友 編「災害精神医学入門」(金剛出版)
冨永 良喜「大災害と子どもの心 -どう向き合い支えるか-」(岩波書店)
加藤 寛「消防士を救え! -災害救援者のための惨事ストレス対策講座-」(東京法令出版)
宮地 尚子「震災トラウマと復興ストレス」(岩波書店)
和田 秀樹「震災トラウマ」(KKベストセラーズ)
堀之内 高久「3・11後に心のフタが壊れてしまった人たち -「疑似被災」という病-」(産経新聞出版)

「精神療法 第45巻3号 複雑性PTSDの臨床」(金剛出版)

など