<家族>とは何か?家族の機能と機能不全~さらにくわしく知りたい方のために

<家族>とは何か?家族の機能と機能不全~さらにくわしく知りたい方のために

家族の問題(機能不全家族)

 

  医師の監修のもと公認心理師が、「<家族>とは何か?家族の機能と機能不全」について、さらにくわしくお知りになりたい方のためにより詳細な参考情報をまとめています。よろしければご覧ください。

 

関連する記事はこちら

→「<家族>とは何か?家族の機能と機能不全

→「私たちを悩ませる<機能不全な家族>の問題を解決する7つのポイント

 

<作成日2019.9.11/更新日2023.2.6>

 ※サイト内のコンテンツのコピー、転載、複製を禁止します。

 

この記事の執筆者

みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師)

大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など

シンクタンクの調査研究ディレクターなどを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら

   

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考に記述しています。

 可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

 

 

もくじ

<家族>とは歴史的、社会的に変化する暫定的な観念
「家族の愛」「親子の愛」もあくまで観念に過ぎない

家族研究が明らかにした、「夫婦の愛」「家族の愛」「母性愛」の神話

日本の歴史における家族や親子の姿

”しつけ””教育”は家庭の普遍的な機能、役割ではない。

家族の成長と変化

家庭裁判所の研究報告や非行の事例などから見る問題のある家族の特徴

その他、機能不全家族の特徴

 

狭義の機能不全家族で見られる事象

 

 

 

「<家族>とは何か?家族の機能と機能不全」にもどる

 

 

関連する記事はこちら

→「私たちを悩ませる<機能不全な家族>の問題を解決する7つのポイント

 

 

<家族>とは歴史的、社会的に変化する暫定的な観念

 その時代で当たり前とされる家族の在り方はあくまでその時代、社会が生み出す「観念」です。決して普遍で本能的なものではありません。そのため、全ての人間がその役割を果すことは容易ではありません。当然気質的にその時代の家族の在り方に適応できない人もたくさんいます。また、望ましい姿の家族が成立するためには実際は共同体、社会、親族から多くの支援、条件が必要です。

 

 時代は少しずつ変化するため、家族が成立するために必要な条件が変わったり、なくなったりして正しく機能できなくなることがあります。しかし、私たちはそのことに問題が起きてから遅れて気がつきます。また、近代以降は個人に問題の原因を求める通念も強いため、ついつい自分たちのせいだと考えてしまいますが、ほとんどの場合は環境に原因が求められます。

 

 

 

「家族の愛」「親子の愛」もあくまで観念に過ぎない

 家族研究においては、友愛で成り立つ家族というのは、近代、現代の産物とされます。それ以前は、結婚や家族も制度として形成されるもので、そこに現代で考えられるような「家族の愛」はなかったとようです。夫婦の間でのロマンティックラブや、母性的な情愛というものも近代の産物とされます。

 現代の私たちからは信じられませんが、例えば、近代以前のヨーロッパでは子どもは生まれれば里子に出してしまい、不慮の事故で死んでも親は涙を流して悲しむというようなことはなったとされます(E・バダンテール「母性という神話」など)。子どもは人間とは異なる生物であると考えられていました。死んでもあわれみに値しないものでした。

 「家族の愛」というのも歴史的に作られて、そして社会や家族の関係性の中で育まれていくものであり、あらかじめ生理的に存在するものではないようです。

 

 歴史的な背景を知ることはとても大切です。なぜなら、現在の社会において、「なんだかんだ言っても、家族や親子は愛があるものだ」「夫婦は愛し合わなければならない」といった考えは真理でもなんでもなく、特定の時代の条件付きの観念であることがわかります。

 私たちは家族や夫婦の問題に直面した際に、家族や夫婦にどんなに不和や虐待があっても必ず分かり合える、と考えてしまうことは誤った思い込みにすぎません。

 

 特に心理臨床においては、「家族の愛」や「親子の愛」という常識や社会的通念は必ず脇に置いて考える必要があります。(悩みをサポートする専門家も「愛」を当然の前提としていないか、気をつける必要があります。セカンドハラスメントを生む恐れがあります。)

 

 

 

 

家族研究が明らかにした、「夫婦の愛」「家族の愛」「母性愛」の神話

 エドワード・ショーター「近代家族の形成」E・バダンテール「母性という神話」フィリップ・アリエス「<子供>の誕生」などによれば、近代以前の社会においては、いわゆる私たちが考えるような夫婦の情愛や、家族の愛、母性愛といったものが見られないことがあきらかになっています。前近代の夫婦は家系を軸とした男女関係であり、多忙なために母親は子どもに無関心、家族の結びつきよりも共同体を優先する、といったことが普通の在り方でした。

 

 

 

 

日本の歴史における家族や親子の姿

 さまざまな研究から日本は子どもに比較的寛容な文化であったのではと考えられています。古代においては捨て子の記録が見られないことや、万葉集でも親子の情を歌った歌が多く残されています。奈良、飛鳥時代以降になると都市が誕生したり、個人に付与される口分田などの影響のためか、捨て子が見られるようになり、親子の関係はぎこちないものになったとされます。中世末から近世初頭までは子どもについては無関心、無頓着であったようです。しかし、近世中期以降は子どもは大切にされる存在として扱われるようになっていきました。

 

 江戸時代にはさまざまな識者によって子育て本が出版されました。子どもの遊びや戯れは叱ったり禁止したりせずに、自由に気の向くままにさせ、ただ、わがままな習慣はつけさせないように注意せよ、ということが共通して主張されていました。子どもを溺愛する傾向が強かった当時の親たちを諫め、教育の大切さを訴える内容が多かったようです。

 

 教育についても父親が積極的に関わっていました。家族の他に乳母が子育てや教育を行うこともみられました。胎教の重要性が主張されたり、習い事も盛んになっていきました。

 

 もちろん、良いことばかりではありません。経済的な問題などから、捨て子や、間引き(えい児殺し)といったことが見られました。捨て子については江戸中期以降では庶民でも家が確立し、子どもを「子宝」として見る価値観が広まっていったことと、地域社会で受け皿となったり、幕府も捨て子対策が整備されていくなど対策が取られていきました。

 

 そして、欧州ではムチで罰したりするのに対して、日本では、子どもを罰したり懲らしめたりしないことが子育ての特徴の一つで、当時日本にやってきた外国人が「子ども天国」と驚くような文化があったと考えられます。

 

 明治維新以降は富国強兵の流れの中、夫婦での分業が強調され、夫は社会で働き、女性は夫や姑に従い、子を育て教育する良妻賢母であることが求められるようになりました。戦後、専業主婦が誕生しました。

 都会に出る人も多く、親族からも遠く離れて一世代だけで暮らす家庭が増え、夫婦の問題、子育てなど家族の問題はより閉じた家庭の中で生じるようになりました。

 

 

 

 

”しつけ””教育”は家庭の普遍的な機能、役割ではない。

 多くの家庭が本格的にしつけや教育を行うようになったのは、実は戦後のことです。戦前や江戸時代などはしつけが厳しいイメージがありますが、実は全く逆です。もともとは子どもは放任で育てられていました。しつけといったことは、青年団などの共同体内の集まりや、仕事の中で行われていました。学校ができるようになってからローカルなルールではない、共通の教育が行われるようになりました。さらに、都市中産階級が誕生すると家庭内でしつけや教育が求められるようになり、熱心な教育ママ(パパ)といった現象が見られるようになります。

 

 私たちが素朴に考えている「昔はしつけがしっかりしていた(最近の子供は!)」というのは幻想です。むしろ、家庭が行うしつけ、教育は史上最高の水準と言えます。また「家庭のしつけがなっていない。ろくな子にならない(家庭が子どものしつけをするのは当たり前)」ということも耳にすることがありますが、歴史的に見るとしつけは家庭の普遍的な役割ではないことがわかります。

 

 

 

 

家族の成長と変化

 エリクソンによると、発達は8つの段階で区別されます。

 乳児期-幼児前期-幼児後期-児童期-青年前期-青年後期-成人期-成熟期

 

 その中で、第一次反抗期、第二次反抗期(思春期)と二回の反抗期を経てアイデンティティを確立していきます。その後も、中年でもアイデンティティの危機を迎える場合があったり、病気などによるライフスタイルの変化など、一定であることは不可能です。しかし、機能不全家族は柔軟性がなく、変化に抵抗する傾向があります。

 

 

 

 

家庭裁判所の研究報告や非行の事例などから見る問題のある家族の特徴

益田哲「第10章 青少年問題と家族」『第3版家族社会学』より)

さらに、問題が進んで子どもが非行(行為障害)に走るようになると下記の下記のようなことが特徴として見られます。家庭裁判所の研究報告ですが、とても参考になります。

 

・家庭内の問題

1.親の養育態度など親子の関係における問題

 ①虐待、②親が子に対して横暴で支配的、③過干渉 ④情感や愛情に乏しい

2.父母関係の問題

 ①夫婦の不和 ②親の精神面の不調 生活の困難さから家庭内で情緒の安定さを得られない。

3.家族に困難な問題を抱えている

 ①兄弟の中で精神に不調を抱えるものがいる ②家庭内暴力をする者がいる
 これらへの対応に親が追われて、子どもへの配慮が回らない。情緒的な安定を得られない。

※上記以外には、子どもへの期待過剰や、友達のような親子関係といったこともあります。

 

 

・非行に走る子どものタイプ

1.幼少期から問題行動を起こしてきたタイプ

 親側にも余裕がなく、子どもの問題行動に適切に対処できない。
 しつけと称するひどい体罰を受けて育っている。

 

2.表面上は問題を感じさせることがなかったタイプ

 表面上は適応しているように見えて、突然問題を起こすタイプ
 親の期待が過剰で子供らしい感情がおさえられてきた。両親もそろい表面的には不和はないが、情感のこもったコミュニケーションに乏しい。夫婦のきずなが弱い。

3.思春期になって大きな挫折を経験したタイプ

 親の期待にこたえて勉強やスポーツで頑張ってきたが、思春期に挫折を経験してプライドが傷つき、不安定となり、問題行動を起こしたタイプ。
 家庭の特徴としては、夫婦は表面的には円満、子どもを過大評価している。子どもの挫折に適切に対処できない。「よい子」という幻想にとらわれて、実際の子どもを無視したり怒りをぶつけたりしてしまう。

 

上記の問題に共通する家族像として下記のことが指摘されています。

1.母親(やそれに代わる存在)への基本的信頼感の欠如

2.親が「良い子」「理想の姿」だけを求めている(期待過剰)

3.父親の役割の欠如

  父親が母をサポートできなかったり、父親像を示すことができない。主体性がなく感情表出が乏しい影の薄いタイプや、暴力的で威圧的なタイプなどがあります。

 

4.祖父母の陰に隠れる両親

 

 

 

・子どもの社会化を阻害するもの

 子どもの社会化機能を阻害するものとして、家族問題情報センター会員の益田哲は下記のものを上げています。

1.期待過剰な親

 子どもを過大評価し、親にとって都合の良い「よい子」のイメージを作り上げて、それが子どものすべてであるとしてしまう。現実の子どもはポジティブな感情やネガティブな感情をもち、それらを受け入れたり、時には叱ったりしながら社会性をはぐくんでいく。

 良い面しか見なかったり、親の期待を押し付けてしまうと、子どもは本来の姿を受け入れてもらえずに心に闇を抱えることになります。

 

2.家庭内の一体感のなさ

 情感に乏しい、仕事に没頭する父、夫婦の不和、親が世間体を気にしすぎたり、家族の役割にも建前に終始したり、といったことがあると子どもにとって親の姿は見えず、社会性や自立性が育ちません。

 

3.父の役割の欠如

 父の役割とは社会への導き役とされますが、ただ厳しいだけであったり、全く関与がなかったり、といったように役割をはたすことができていないケースは多いです。

 父の役割も時代とともに変わっていきます。家族の気持ちを受け止め、時にきぜんと対応する。家族全体を包むような愛情を自然に伝えるようにすることが大切です。

 

4.社会性の未発達、社会経験の乏しさ

 少子化も影響して兄弟間での関係による社会性発達の機能が弱まってきています。

 

5.社会体験の乏しさ~ギャングエイジ体験の衰退

 

 

 

 

その他、機能不全家族の特徴

・家族は、機能不全になるほど結びつきはむしろ強くなる

 健全な家庭では、各人の距離感も適切ですが、機能不全家族の場合は、境界があいまいであったり、足りない機能を補おうと過干渉になったり、一人が複数の役割を担うことになります(共依存となり、世話とコントロールとを担う、など)

 そのため、当事者は「問題はあるけど仲がいい」と勘違いしていることがあります。

 

・機能不全家族で生じる問題には、機能不全を代替物で回復するための行動、という側面がある

 子どもの家出、非行、夫婦の不倫、依存症、摂食障害などといったことも単に問題行動というだけではなく、緊急避難や家族でははたせない機能を家族外や代替物ではたしている、といった側面があることがわかります。

 

 

 

 

 

狭義の機能不全家族で見られる事象

問題が進むと下記のようなことも機能不全家族に見られる事象です。

 

・情緒的な虐待

 ネガティブな発言、暴言などを繰り返して、メンバーの自尊心の発達を阻害し、自らで問題を解決する力を奪います。

 

・ネグレクト

 食事や衣服や医療、愛情など子どもに必要なものを与えない状態です。

 

・過保護

 子どもは10代の終わりまでに自立をはたせるように支援する必要があります。
 そのためには自らで問題を解決できるようにする必要があります。
 親が先回りして問題を解決することは子どもの成長に役立ちません。

 

・支配的な親、家族

 自分の考えは正しい。私の世話がなければ生きていけない、といった考えを家族に押し付ける親や家族がいる場合です。その言葉の裏には「あなたはダメな人間」という罪悪感の植え付けがあります。言葉ではなく、無意識に刷り込んでくることもあります。

 

・性的虐待

 いわゆる性的虐待もそうですが、ポルノを見せる。性的な発言をするということも含まれます。

 

・身体的な虐待

 

・完全主義

 完璧であれ、ということや一方的に親の期待やルールを押し付けることは子どもの自尊心や帰属感をそぎます。

 

・依存症

 アダルトチルドレンの本来の意味は依存症の親の子ども、という意味ですが、依存症に陥っている親や家族がいると身体的、精神的にさまざまな悪影響があります。

 

・宗教や政治的狂信

 親が偏った信念に執着すると家族の精神的、知的な成長が止まってしまうことがあります。

 

・ワーカホリック

 親が仕事優先すぎて家族に必要な関与ができないと、子どもにとって必要なものを満たすことができなくなります。

 

・精神的な疾患

 親や家族が精神障害や発達障害を持っていると、身体的、精神的に必要な支援を受けることができなくなります。実は精神障害、発達障害傾向を持つ親や家族が不安、心配過多でネガティブな発言を繰り返したり、こだわりが強すぎて柔軟に対応ができないということはよく見られます。 

 

・障害のある子どもがいる場合

 障害のある子供がいるからすなわち機能不全家族ではありません。
 手のかかる子どもばかりに愛情を注ぎ、ほかの家族がないがしろにされる場合に機能不全となることがあります。

 

 

 

「<家族>とは何か?家族の機能と機能不全」にもどる

 

 

関連する記事はこちら

→「私たちを悩ませる<機能不全な家族>の問題を解決する7つのポイント

 
 
 
 

 

※サイト内のコンテンツのコピー、転載、複製を禁止します。

(参考)

エドワード・ショーター「近代家族の形成」(昭和堂) 
エリザベート・バダンテール「母性という神話」(筑摩書房)
日本家族研究・家族療法学会編「家族療法テキストブック」(金剛出版) 
団士郎「対人援助職のための家族理解入門 家族の構造理論を活かす」 (中央法規出版)
東豊「家族療法の秘訣」(日本評論社)
フィリップ・アリエス「<子供>の誕生 アンシァン・レジーム期の子供と家族生活」(みすず書房)
岩間 暁子「問いからはじめる家族社会学」(有斐閣)
木下 謙治「家族社会学 :第3版 -基礎と応用-」(九州大学出版)
レイモンド・M.ジャミオロスキー「わたしの家族はどこかへん? -機能不全家族で育つ・暮らす-」(大月書店)
斎藤 学「「家族神話」があなたをしばる -元気になるための家族療法-」(NHK出版)
信田さよ子「アダルトチルドレン完全理解」(三五館)
斎藤学「アダルトチルドレンと家族」(学陽書房)
西尾和美「機能不全家族」(講談社)
星野仁彦「機能不全家族」(アートヴィレッジ)
亀口憲治「家族療法」(ミネルヴァ書房)
若島孔文、長谷川啓三「事例で学ぶ家族療法・短期療法・物語療法」(金子書房)
AERAムック「家族学のみかた。」(朝日新聞社)

森山茂樹「日本子ども史」(平凡社)
柴田純「日本幼児史 子どもへのまなざし」(吉川弘文社)
上笙一郎「日本子育て物語 育児の社会史」(筑摩書房)
中江和恵「江戸の子育て」(文春新書)
柴崎正行「歴史からみる日本の子育て」(フレーベル館)
梅村恵子「家族の古代史 恋愛・結婚・子育て」(六一書房)

広田照幸「日本人のしつけは衰退したか」(講談社)

E.トッド「家族システムの起源 上・下」(藤原書店)

E.トッド「新ヨーロッパ大全 Ⅰ Ⅱ」(藤原書店)

アスク・ヒューマン・ケア研修相談室「アダルト・チャイルドが自分と向きあう本

など