統合失調症の原因と背景~11の仮説

統合失調症の原因と背景~11の仮説

統合失調症

 100人に1人がかかるとされる病「統合失調症」。特殊な病ではなく、本当は誰でもかかる可能性のある身近な存在です。統合失調症は、単に“病気”ということでは収まらない、私たちの大切な側面を知らせてくれる存在でもあります。今回は、医師の監修のもと公認心理師が、統合失調症の原因についてまとめてみました。

 

<作成日2016.5.20/最終更新日2026.9.12>

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飯島慶郎医師  

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

 

この記事の執筆者

三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師

大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了

20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍(累計約4万部)、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。

プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 ・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。

 ・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。

 ・可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

もくじ

統合失調症の原因~11の仮説
 

 

 →統合失調症の診断とチェック、その治し方については、下記をご覧ください。

 ▶「統合失調症の診断とチェック~症状など7つの視点から

 ▶「統合失調症の治療と家族の接し方~回復を支える6つのポイント

 

 

専門家(公認心理師)の解説

統合失調症は、遺伝的・神経発達的な要因だけでなく、ストレス、社会環境、幼少期の逆境体験など複数の要因が関係する、異質性の高い病態と考えられています。

また、幻聴や妄想のようにみえる体験が、トラウマや解離、気分障害など他の状態でも生じることがあるため、症状だけでなく生育歴や現在の生活状況まで含めて丁寧に評価することが重要です。

歴史的にはベイトソンのダブルバインド論など、家族関係やコミュニケーションを重視する理論も提唱されました。現在、ダブルバインドそのものを統合失調症の直接原因とする考えは支持されていませんが、心理社会的ストレスや家族環境が症状や再発に影響することは現在も重視されています。

 

 

統合失調症の原因~11の仮説

 統合失調症の原因は一つには特定されていません。現在は、多数の遺伝的要因や脳の発達・神経伝達の特徴に、幼少期の逆境体験、ストレス、都市環境、大麻使用などの環境要因が複雑に関係して発症すると考えられています。

 したがって、「遺伝だけ」「親の育て方だけ」「ストレスだけ」で発症する病気ではありません。以下では、統合失調症の原因を理解するために提唱されてきた代表的な仮説や臨床的な見方を紹介します。

1.遺伝的要因

 遺伝の影響も指摘されています。ただ、その他多くの病気と同じように多因子遺伝であり、一つの遺伝子で決まるものではありません。統合失調症に関連する遺伝子は誰もが持っている可能性があります。また、環境要因などと相互作用すると考えられています。

 

2.ドーパミン仮説

 ドーパミン仮説では、統合失調症の一部の症状にドーパミン神経系の機能異常が関係すると考えられています。とくに中脳辺縁系などのドーパミン活動の亢進は幻覚・妄想などの陽性症状と関連し、抗精神病薬がドーパミンD2受容体に作用することも、この仮説を支持する根拠の一つです。

 ただし、ドーパミンだけですべての症状や病態を説明することはできません。

 

 

3.グルタミン酸仮説

 グルタミン酸仮説では、グルタミン酸系、とくにNMDA受容体の機能低下が統合失調症の認知機能障害や陽性・陰性症状に関係するのではないかと考えられています。

 

 

4.その他の神経伝達・細胞内シグナル仮説

 ドーパミンやグルタミン酸以外にも、GABA、セロトニン、炎症、酸化ストレス、細胞内シグナルなど多くのメカニズムが研究されています。統合失調症を一つの分子異常で説明することは難しいと考えられています。

 

 

5.神経発達仮説

 胎児期から思春期・青年期にかけての脳の発達過程に、遺伝的要因と環境要因が影響し、それが後の統合失調症の発症リスクにつながるという考え方です。妊娠・出産時の合併症、母体感染、栄養状態なども研究されています。

 

 

6.脳構造・脳機能の特徴

 統合失調症では、研究集団の平均として、脳室の拡大や前頭葉・側頭葉・海馬などの体積や機能に違いが報告されています。ただし、これらの変化には大きな個人差があり、脳画像だけで統合失調症を診断することはできません。

 また、こうした脳の特徴が原因なのか、発症後の経過や治療、生活環境などの影響も含むのかについては、単純には分けられません。

 

 

7.妊娠期の感染・炎症などの環境要因

 母体の感染や炎症、周産期の合併症などが、後の統合失調症リスクと関連することが報告されています。ただし、それだけで発症が決まるわけではなく、あくまで複数あるリスク要因の一つです。

 

 

8.性格気質

 統合失調症には特定の「性格」が原因としてあるわけではなく、どのような性格の人でも発症します。一方、精神医学の歴史では、発症前の気質・人格傾向として「分裂気質(schizothymia)」などが論じられてきました。

 クレッチマーは、内向性、対人距離の取り方、繊細さなどを特徴として挙げました。ただし、これは現在のDSMなどの診断基準ではなく、歴史的・臨床的な気質概念です。

 また、臨床家の中には、統合失調症の人に「無垢さ」「純粋さ」といった印象を持つと記述する人もいます。これも診断特徴ではなく、臨床家による人物像の記述です。

 

9.ストレス(ライフイベントなど)

 強いストレスや大きなライフイベントは、もともとの脆弱性がある人において発症や再発のきっかけになることがあります。就職、進学、結婚、離別など、生活環境が大きく変わる時期に症状が表面化することもあります。
 精神科医の笠原嘉氏は「出立の病」としています。出立とは旅立ちや自立のことです。また、サリヴァンは「対人関係の病」としていますが、対人関係のストレスというのは刺激としては最も強いものとなります。

 

 

10.虐待など養育環境

 虐待、ネグレクト、いじめ、家庭内の強いストレスなどの幼少期の逆境体験は、その後の精神病症状や統合失調症のリスク上昇と関連することが、多くの研究で報告されています。

 2025年の大規模メタ解析でも、幼少期の逆境体験がある人では精神病性障害・精神病症状のリスクが高いことが確認されています。ただし、逆境体験があれば必ず統合失調症になるという意味ではなく、遺伝的要因など他の要因と相互に関係すると考えられます。※これは「親の育て方が統合失調症を作る」という古い家族原因論とは区別が必要です。

 かつては家族間の矛盾するコミュニケーション「ダブルバインド」によって生じるとするベイトソンの説などもありました。現在、ダブルバインドを統合失調症の直接原因とする証拠はありません。ただし、家族内の批判・敵意・過度な情緒的巻き込まれなどの「高EE」は、再発リスクと関連することが現在も確認されています。

 精神科医の中井久夫氏も「私はひょっとすると、分裂病は特に幼少期にあるいは青年期のマインド・コントロールに対する防衛という面があるのではないかと思っています」としています。

 
 
Point

 オープンダイアローグの登場で、近年は、あらためて環境要因、心理的要因が注目されています。オープンダイアローグでは、症状を理解する一つの考え方として「ポリフォニー(多声性)」が重視されています。これは医学的な統合失調症の病因モデルそのものではありませんが、本人・家族・支援者の多様な声を対話の中に取り戻すことを重視する臨床的な理解モデルです。

 オープンダイアローグでは、人間は様々な声が集積されて人格が形成されるとされます。そして、その”声”が多様であることが健康であることを示すとされます(多声的=ポリフォニー)。一方、統合失調症では、その声の多様性が低いとされます(単声的=モノフォニー)。一つの見方として、本人の経験が限られた声に支配されている状態として幻聴を捉える議論があります。オープンダイアローグは、グループでの対話を通じてその声の多様性を回復することが高い効果の要因の一つとされています。こうしたとらえ方は、先達の知見とも符合する部分が多いです。

 

 

11.社会環境

 統合失調症は、人口の約1%がかかる病気であり、私たちにとって実は身近な病です。男女間で有病率に差はないとされます。地域によって0.4~1%と差があります。貧困は、環境の悪さなどストレスを高めるためか、貧困層での有病率が高いとされます。一方、後進国では、裕福な層に多い、ともいわれます。貧しい層のほうが人とのつながりがあり、ストレスが少ないことが背景にあるとも考えられます。移民に多くみられるなど、環境変化や居場所のなさが発症に影響するのではないかとも言われています。地方で育った人よりも、都会で育った人のほうが発症リスクが高いことが指摘されています。国や地域によってや社会階層でも発症リスクが異なることが知られています。好景気になって仕事につきやすくなると有病率が減ることもあります。若年での大麻など薬物の使用などもリスクとなります。

 また、好景気になって仕事につきやすくなると有病率が減ると言われており、雇用は統合失調症の発症や治癒に関連が強いようです。

(出典:岡田尊司「統合失調症」(PHP研究所)

 

・その歴史

 古代にも統合失調症とみられる特徴を持つ人たちの記述があることから、おそらく人類の歴史とともに統合失調症は存在していたと考えられています。かつては、預言者や神との仲介をするといった役割を与えられ、神聖な存在として社会の中で尊敬される立場にもありました。しかし、近代に入ると、秩序を乱し、職に就かない異常者としてみなされるようになり監禁されるようになりました。病気としてとらえられるようになったのは近代に入ってからのことで、病気としての歴史は長いものではありません。

 一方で、治療に取り組む善意の医師たちもいました。当初は、認知能力の低下などから「早発性痴呆」と呼ばれたり、「破瓜病」「緊張病」と呼ばれたりしていました。現代のような捉え方で整理されたのはブロイラーによって「スキゾフレニー」と命名されたことによってからです。日本では「精神分裂病」と訳されていましたが、適切ではないとして、2002年以降は「統合失調症」と呼ばれています。

 

 

・時代とともに変わる病像~軽症化、そして社会に棲みながら治る病気、付き合う病気へ

 日本の臨床では、かつて典型的とされた重い緊張病症状や長期入院を伴う病像が減り、統合失調症の現れ方が変化しているという「軽症化」の議論があります。一方、統合失調症には現在も重症例が存在し、すべての患者が軽症化しているという意味ではありません。また、「統合失調症消滅仮説」など病像の歴史的変化を論じる議論もありますが、統合失調症そのものが消滅しつつあることが確立しているわけではありません。

 現在は陽性症状だけでなく、認知機能や社会機能の問題も重要視されています。

 

 そのため、統合失調症の昔ながらのタイプ分けも実際的ではなくなりつつあります。有病率の低下から「統合失調症消滅仮説」なるものも登場するような時代です。

 

 治療のあり方も、入院しての治療から外来での治療が中心となってきています。社会に棲みながら治る病気、あるいはつき合える病気へと変貌しています。

 

 油断はもちろん禁物であることは言うまでもありませんが、ただ、病像の変化を知らずに、書籍やインターネットのサイトにあるかつての教科書通りのイメージのままに捉えていると、早期発見の遅れ、家族や本人が勝手に諦めてしまったり、時代遅れのイメージによる不適切なサポート、差別につながってしまいます。基本的には比較的新しい情報を参考にして、変化しつつある姿を知ることがとても大切です。

 

 

 

 →統合失調症の診断とチェック、その治し方については、下記をご覧ください。

 ▶「統合失調症の診断とチェック~症状など7つの視点から

 ▶「統合失調症の治療と家族の接し方~回復を支える6つのポイント

 

 

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(参考・出典)

中井久夫「最終講義」(みすず書房)
伊藤順一郎「統合失調症」(講談社)
岡田尊司「統合失調症」(PHP研究所)
功力浩「やさしくわかる統合失調症」(ナツメ社)
福智寿彦「家族が統合失調症と診断されたら読む本」(幻冬舎)
蟻塚亮二「統合失調症とのつきあい方」(大月書店)
山下格「精神医学ハンドブック」(日本評論社)
丹野義彦ほか「臨床心理学」(有斐閣)
中井久夫「世に棲む患者」(筑摩書房)

広沢正孝「「こころの構造」からみた精神病理 広汎性発達障害と統合失調症をめぐって」(岩崎学術出版社)
「統合失調症の広場 統合失調症に治療は必要か No.1 2013春」(日本評論社)
「こころの科学 統合失調症の治療の現在 No.180」(日本評論社)

斎藤環「オープンダイアローグとは何か」(医学書院)

など