大人の発達障害、アスペルガー症候群の症状、特徴~公認心理師が具体的に解説

大人の発達障害、アスペルガー症候群の症状、特徴~公認心理師が具体的に解説

発達障害

 近年、注目されてきている発達障害、アスペルガー障害は奥が深く、正しく理解しようとするにはなかなか難しいテーマです。当センターでは、前回に続き、医師の監修のもと公認心理師が、発達障害、アスペルガー障害を深く理解できるようにご紹介してまいります。よろしければご覧ください。

 

 

<作成日2019.9.21/更新日2024.3.15>

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この記事の執筆者

三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師

大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了

20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。

プロフィールの詳細はこちら

   

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 ・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。

 ・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。

 ・可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

もくじ

発達障害(自閉症スペクトラム障害)の特徴

 ・社会性の障害
 ・コミュニケーションの障害

 ・イマジネーションの障害

 ・感覚過敏など
 ・その他

 ・きわ立つ発達障害の多様さ~100人100様

 

 →大人の発達障害、アスペルガー症候群とは何か?診断のポイントについては、下記をご覧ください。

 ▶「大人の発達障害、アスペルガー症候群とは何か?公認心理師が本質を解説

 ▶「大人の発達障害、アスペルガー症候群かどうか診断、判断するポイント

 

専門家(公認心理師)の解説

 発達障害とは発達の凸凹、気質の凸凹であり、性格が皆異なるように100人いれば100人ともに違った顔があります。ただ、「自閉症の三つ組」といった形で整理されているように理解を支えるための補助線は存在します。補助線に沿ってまずは大きく理解したうえで、個別のケースは柔軟にとらえていくことが理解の道筋ではないかと思います。障害とは社会環境との相関で形成されるとされますが、三つ組を見るとわかるように、現代社会がコミュニケーション偏重型の社会であるために「社会性」「コミュニケーション」といった点が”障害”として浮き上がっていることがわかります。社会や時代のあり方が違えば、とらえ方も変わります。例えば軍国主義であったり、肉体労働が重んじられる社会であれば、「運動の障害」という観点が発達障害のポイントになる、ということもあり得るのです。

 発達障害があるために問題を起こす、といったようなとらえ方がありますが、大きな問題が生じるケースは根底に愛着の問題を抱えているケースです。発達の凸凹がレンズの役割をし愛着不安を増幅させた場合に大きな問題となって現れます。一方、愛着が安定していると、発達の凸凹はその方の資質、特徴となります。例えば、人の気持がわからない、というのも人の気持に左右されないことで人格者のように冷静な判断ができたりというようなことにつながったり、独特な敏感さは仕事における才能として発揮されたりするようになります。

 

 

 

発達障害(自閉症スペクトラム障害)の特徴

 発達障害は、社会的な行動に問題が生じることが多いため、自閉症を基礎にその特徴をまとめてみました。

 ・自閉症の三つ組
  ・社会性の障害
  ・コミュニケーションの障害
  ・イマジネーションの障害

   ・感覚過敏

 ・その他

 

 これら3つと感覚過敏は、自閉症スペクトラム障害全般で見られるものです。
 アスペルガー障害では、コミュニケーションの質的な異常が軽微とされます。

 発達障害は100人100様ですから、以下に挙げるものがすべて当てはまることはありません。

よりくわしく見てまいります。

 

 

社会性の障害

・人よりもモノに関心がある

 モノに関心があるからと言って、決して冷酷だとか、優しさがないということではありません。あくまで認知の特徴です。定型発達であれば人は特別な存在として既にそこに存在していますが、発達障害の場合、人も物も全く同じ並列で、新たに物を発見するかのように、人も発見されるように認識されます。人の目が気にならない、といったこともあります。結果的に、定型発達と比べて人には興味はなくなります。

 

 

・自己や他者が確立されていない。自他の区別がない(弱い)

 自己や他者の存在というものが未確立です。自己が確立するのが中学生ごろという報告もあります。意識して他者に関心がないのではなく、他者はそこにいない、状態です。

 徐々に自己が確立し、他者を発見されていきますが、それでも自分と他者との距離が取れておらず、自他の区別がついていないため、他者が自分とは異なる感覚、考えを持っていることがわからず、自分の考えや感覚というものも対象化してとらえられていません。ギブ&テイクという感覚もよくわかりません。

 

 そのため、他者に対して傍若無人ふるまい、相手を侵害してあつれきを生んでしまうことがあります。例えば職場で自分の考え方やり方をダイレクトに他者に押し付けたり、家庭では虐待となることもあります。いわゆる我が強いわけでもなく、むしろ無私な状態で相手に踏み込んでしまいます。自他の区別がないため、ゼロ距離からの侵害となり相手に与えるダメージは大きなものです。周囲からは強い嫌悪や反発を招きます。

 

 

・他者の存在やルールに気づいた後に、強烈な羞恥やパニックに襲われることもある

 発達障害は他者に関心がないように言ったり、そのように見えます。たしかに、子どもの時、自己が未確立の場合は、他者の存在が意識されておらず、そのために一人でいても平気な場合はあります。一度自己が確立されて他者の存在が意識され始めると、孤独感を感じますし、他者を求めます。

 しかし、他者とのかかわり方がわからず、本当につながることは難しいのです。他者が自分とは違う考えを持っているとは思えないときは、平然と冷酷な仕打ちをしていても、大人になって他者の存在や暗黙のルールに気づき始めると強烈な羞恥やパニックに襲われることがあります。

 

 

・自分の中でさまざまなキャラクターをもっている~自己の未形成のため

 自己が未形成である傾向があるため、自分の中にさまざまなキャラクターを持っていることがあります(解離性障害とは異なります)。状況に合わせてキャラクターになりきって対処していることがあります。「自閉症だったっわたしへ」のドナ・ウィリアムズも自伝の中で、さまざまなキャラクターを演じていたことを書いています。

 

 

・こだわり行動(予定変更や変化を嫌う、特定のものを集める、並べる)

 こだわる理由の一つには、発達障害の人にとっては、世界は常に無秩序であり、不安を感じていることが挙げられます。定型発達の人でも不安な場面ではルーチンにこだわったり(スポーツ選手や受験生がゲンを担いだり)するように、発達障害の場合も、こだわることで自分流に世界を”構造化”しようとしていると考えられます。

 一方で、実はこだわりを好きでやっているとは限りません。当事者たちが体験記で述べていますが、本人も嫌なこだわり、止めたいこだわりもあります。でも、無意識に引っ張られるようにこだわってしまい、無理に止めさせられるとかんしゃくを起こしたり、不安になったりするのです。

 

 ただ、こだわりの背景にあるものを認めてもらったうえで、秩序を保つ別の方法へとスライドするような周囲からのサポートを求めています。

 

 

・ファンタジーへの没頭

 アスペルガー障害では、小学校高学年から青年期にかならずファンタジーへの没頭が見られます。対象との心理的な距離が取れていないために、自己意識にさまざまなものが流れ込むような形態をとります。自分の意識が自然の物や無機物に乗り移ったように感じたりする場合もあります。

 

 

・世界が作り物に見える

 発達障害の方からは世界が映画のセットのような作り物のように見えています。人間も大道具のようにそこにあるものという感覚です。”社会”という見えないものも意識しづらく、自分が社会の一部という感覚も持ちづらいとされます。

 世界がとても不安定なもので、自分とも区別されておらず、物事同士の影響などについて対象化してとらえられていません。そのため、自身の行動と世界とが密接に結びついているように感じられたり、自身が死ねば、世界も映画のように終わってしまう、といった感覚を持っていることがあります。

 

 

・起きた物事に理由を必要とする

 理由のわからないと納得ができず、また、自分のしたことが関係のないものに影響していると考えてしまうことがああります。

 

 

 

コミュニケーションの障害

・言語障害/意識中枢での言語の役割の違い

 自閉症では言語障害が見られますが、いわゆるアスペルガー障害では、発話という意味での明らかな言語障害はありません。ただ、表面上の言語障害はなくても、発達障害では言語が意識活動の中枢となっていないことが考えられます。

 例えば、「私」と「他者・対象」との区別をしたり、自分に起きた出来事を言語的に意味づけたり、対象化したりといったことには言語が用いられますが、発達障害ではその機能が弱いと考えられています。テンプル・グランディンなど当事者たちは、物事は視覚的にイメージで想起していて、言葉のコミュニケーションも、一度、視覚的に翻訳してコミュニケーションを取っていると言っています。

 

 つまり、言葉は自分の思考や感情そのものという感覚ではなく、外国語をしゃべるかのように道具として用いられます。そのためはたから見ると、話し方が平板で感情が乗らなかったり、衒学的であったり、ということがあります。

 

 

・ストレス、トラウマを負いやすい

 発達障害とトラウマとは親和性が高いと言われています。言葉が中枢にないために、身に起こる出来事に言語を挟んで心理的な距離を取ることが苦手です。そのため、ちょっとした出来事もダイレクトに身に迫るように感じられてしまい、ストレス、トラウマを負いやすいことが指摘されています。

 

 

・内省が苦手

 内省とは、 自分の考えや行動などを深くかえりみることですが、発達障害の場合はとても苦手です。それは、言語が意識活動の中枢にないために言葉によって自身の言動を整理して、振り返ることが難しいと考えられます。

 

 

・文字通り理解する。言葉の裏の意味、意図が分からない

 言葉の裏にある感情や意図ということを読み取ることが苦手です。皮肉を言われても平然としていたり、言外に暗に匂わすといったようなことは通じません。相手の言われたことも文字通り理解し、相手からの影響を受けやすいとされます。

 

 

・被暗示性が強い。すぐに真に受け、その通りになる

 上記とも関連しますが、相手の言葉を真に受けやすいことから、被暗示性が強いといわれています。周りから言われたことで調子が左右されます。インターネットや書籍で見た体験談や情報をそのまま自分事として真に受けたりします。周囲の人の調子が悪かったりするとあたかも自分の調子が悪いかのようになってしまいます。

 

 

・「心」を介さずに、ダイレクトに物事を感じ取る(共感ではなく、共振する)

 発達障害では、いわゆる「心」を介して物事を理解することは苦手ですが、例えばモノや自然、動物、そして人間が持つ痛みや不安な感覚をダイレクトに感じ取ることができます(共感ではなく、共鳴・共振)。

 テンプル・グランディンなどは定型発達の人では感じ取れない動物の感覚を感じ取ることができ、動物にとって最適な環境を整えることができます。別にケースでは、人に対しては残酷な仕打ちをしている発達傷害の方が動物やぬいぐるみは「かわいそう」と感じたり。誤解されますが、発達障害は鈍感なのではなく、むしろ定型発達よりも敏感なところがあり、感覚が異なるのです。当事者たちは、太古の人間の感性が残っている、という表現をされることがあります。

 

 社会でいうところの「心」を介さないために、文脈や相手の気持ちを考えないコミュニケーションになってしまうのです。

 

 

・「心」がないように見える

 発達障害の特徴として、意識中枢での言語の役割が少なく、心理・情動が対象化されない。感情ではなく感覚でダイレクトに人やモノを理解する。人への関心が薄い(人と物とが並列)。自他の距離がうまくとれていない。葛藤が伝わってこない、などの特徴から、定型発達の人たちが感じるような「心」がないように見えます。本当はそのようなことはないのですが、定型発達から見るとそのように感じられてしまうのです。

 

 

・感情は基本的に正常だが、人の気持ちの捉え方が特徴的

 しばしば「発達障害の人は人の気持ちがわからない」として誤解されていることですが、発達障害の場合も感情の在り方に問題はないとされます。むしろ、ある意味一般の人よりも、繊細で共感性が高い人もいらっしゃいます。空気が読めないケースが多いのですが、人の気持ちが理解できないわけではありません。奥にある感情は基本的に正常とされます。

 

 

・悪意や善意など、「心」を前提とした複雑な感情がよくわからない

 発達障害の感情のやり取りには特徴があります。悪意、善意、嫉妬、やっかみ、ふてくされ、不機嫌、当てつけ、皮肉、媚びといった屈折した感情はよくわかりません。

 

 

・他者の存在や距離を考慮しないコミュニケーション~「私心なき傍若無人さ」

 インターフェースに問題があり、読み取ることが難しいことと、自他の区別がないために、良くも悪くも“無私”に相手と関わります。そのため、他者の気持ちは考慮されないコミュニケーションとなってしまうのです。

 

 自閉症スペクトラム障害の方が虐待者となることはしばしばありますが、その場合も悪意がなく純粋に、ただ自他の区別がないままに相手の存在を侵害してしまうのです。精神科医の内海健は「私心なき傍若無人さ」と表現しています。

 

 

・タイプスリップ現象(過去と現在の混在、パニック)

 発達障害の場合、時間の感覚が異なり、記憶がモザイクのようになっていたり、過去の記憶も今と同じと感じられたりします。言語によって対象化されていないことも背景にあると考えられます。

 そのため、現在とは関係のない記憶が急によみがえってパニックに陥ったり、周囲も忘れているような過去の出来事のことを挙げて急に怒り出したり、といったことがあります。一方で、未来のことを考えることは苦手です。

  また、基本的に記憶は丸暗記であり、自分の解釈(ストーリー)によって編成し直されることがありません。誤記憶ということが少ない反面、意味づけされていないために、意味を持って過去を振り返ることも不得手です。

 

 

・トラウマを負いやすい。記憶やストレスを処理することがとても苦手

 発達障害の方で最も特徴的なのことは、記憶の処理が独特であり、不得手であるということです。そのためストレスに弱く、トラウマを負いやすい特徴があります。

 

 

・過誤記憶を持ちやすい

 記憶が断片化しやすく、ちょっとした刺激で解離したりすることがあります。被害者意識とも相まって、周囲や治療者から自分はいじめられた、といったような過誤記憶を持つことがあります。

 

 

・未来を想像することが苦手

 見えるものがすべてで、時間感覚も独特なものがあるため、未来を想像することはとても苦手ですし、不安も強い傾向があります。スケジュールや段取りを組むことも苦手です。

 

 

・視点の切り替えが難しい

 発達障害は対象に吸い寄せられるようにモノを認知します。例えば、模様に意識が行き、そのものと一体となるような感覚になる、など。そのため、対象からの視点の切り替えがとても難しいとされます。

 

 

・抽象的なルールに気づきにくく、一度セットされると硬直的に守られる

 認知の仕方がボトムアップ型のために、社会の暗黙のルールなどを理解して、そのポリシーのもとで行動することが苦手です。意識して学習することができますが、一度意識にセットしてしまうと、硬直的に守られて融通が利かなくなったり、損得にうるさくなりすぎたり、他者をルールで追い込んだりするようになることがあります。

 

・その他、独特な認知の在り方

 意識の中枢における言語の役割の違いもあり、認知の特徴としては以下の様なことがあります。

・注意の絞り込みができない

・全体よりも細部にこだわる

・変化への余裕が少なく、不意打ちを受けやすい

 

・唐突に行動する
・一度に処理できる情報が限られる
・情報の中の雑音が除去できない

 

・一般化や概念化ができない(ボトムアップ型の情報処理、アバウトに考えられない)

・個別ケースへの対処は身に付けられても一般化したルールを身に付けるのが苦手

 (ここで~してはいけない、と言われて理解しても、別の場所で同じミスをする、など)

 

・習慣形成が困難(その都度やりなおし)

・選択、決定することが苦手
・心理的距離が保てない

 

・人の顔が覚えられない

・人の属性が変わると同じ人と認識できない(眼鏡、髪型、服装が変わる)

・奥行きが捉えられない

 

・話すことよりも書くことのほうが得意

 など

 

 

 

イマジネーションの障害

・ごっこ遊びができない

 子どもの頃に、ごっこ遊びや、まね事、ふり遊びができない、といったことが見られます。ままごとなどは典型的で、お友達同士で、目の前にないご飯をそこにあるというイメージを共有しあったり、役割を演じたりといったことがうまくできません。

 

 

・暗黙のルールがわからない

 私たちは、暗に、その場でしてよいこと悪いことや、言葉では明示されていない暗黙のルールを感じ取って生活をしていますが、発達障害ではそうしたことがとても苦手です。もちろん、学ぶことで行動を修正していくことはできます。しかし、それは直感的に感じ取るというよりは、頭で学習して合わせている、といった趣で、感覚でわかるといったようにはわかりません。

 ですから、「こんなこと言わなくてもわかるはず」といったことが一切通用しません。また、暗黙のルールがわからないために、悪意や嫉妬という感情もわからないですし、自分でももてない。せいぜい、頑張ってもやきもち程度です。定型発達の人と違い、意図を変に裏読みをすることがありませんから、感情に流されない冷静な判断をできるといった長所となることもあります。

 

 

・見えるものがすべて。見えないものも存在することがわからない

 見えるものがすべてで見えない部分を想像して感じるということができません。たとえば、お医者さんは、お医者さんという役割の人で病院の付属物としてそこにあるもの、というふうに理解されます。お医者さんも自分と同じ人間で仕事が終わると家に帰り、同じように私生活がある、といったことは想像することができません。

 

 できていても、それは直感的な理解ではなく、学習の結果として知的に理解しているという感覚です。あるいは別の例では、自分の足がスカートやコタツに隠れると、足がなくなったと考えて不安になってしまう、といったこともあります。アスペルガー障害のニキ・リンコさんは、8歳まで自分には背中がないと思っていたそうです。

 

 

・全体を把握することが苦手

 発達障害では、全体を統合することが苦手です。一方、細部については全体に邪魔をされずに捉えることができます。

 

 

 

感覚過敏など

・感覚過敏(過敏さと、鈍感さ)

 感覚の過敏さと鈍感さとが併存することがあります。感覚過敏とは、視覚(視覚がオーバフローして突然目が見えなくなる、単色の食べ物は気持ちが悪い)、聴覚(人の声や、特定の音が苦手、など)、嗅覚(芳香剤や、特定の食べ物のにおいがダメ、など)、触覚(シャワーの水が針のように痛い、風が痛い、髪を切られると痛い、産毛が痛いなど)。

 

 感覚鈍麻とは、呼びかけても答えない、疲れを知らずにずっと働き続けてダウンしてしまう、痛みを感じにくく骨折していても気がつかない、ひどい虐待されても痛みを感じない、といったことです。最近は注目されるようになってきましたが、発達障害は身体の障害(失調)であるとも言えます。

 

 

・身体をコントロールすること、運動が苦手

 発達協調性運動障害といいますが、さまざまな体の動きを同時にコントロールすることが苦手です。一般に10歳を過ぎると目立たなくなるとされますが、当事者の体験記を見ると、成人でも「体がバラバラになる」といった表現を用いています。

 その他、・汗をかかない。意識しないと汗が出ない。・傷が治りにくい(血小板が少ない場合もある)・つばの飲み込み方や、くしゃみの仕方がわからなくなる、といったように、本来は自動的にコントロールされるような生理的な動きも意識しないとコントロールできないといったことがあります(オートマチックではなく、マニュアル操作)。

 

・不定愁訴がある

 例えば、月の半分は発熱がある、といったことや、季節が変わると調子が悪くなる、といったことです。過敏さや、ストレスへの弱さ、マニュアル的な身体のコントロールも原因と考えられます。頭痛や、のどの違和感などを訴える方も多いです。

 

 全てのケースではありませんが、自閉症スペクトラムとてんかんとは合併しやすいことが指摘されています。

 

 

その他

・アプリオリな不安、罪悪感

 発達障害の人は常にアプリオリな不安や罪悪感(理由のない、常にある不安、罪悪感)を抱えています。それは、独特な認知の特徴や、対象との距離が取れないことや、感覚過敏が原因であると考えられます。この世界には秩序がなく、トラウマティックで、自分にとって恐ろしい場所として感じられています。

 

 

・うつ状態に陥りやすい

 もともと、不安な状態にあり、ストレスを受けやすいために、うつ状態など他の精神障害を併発することもしばしばです。考え方もゼロか百かと極端にもなりやすいこともあります。

 

 

・睡眠障害(不眠症)になりやすい

 発達障害の方で訴えが多いのは睡眠障害です。ストレスや記憶の処理にしづらさとも相関していると考えられます。

 

 

・社会的なこじれ(強い被害者意識、行動障害、ひきこもり)

 発達障害の1次的な特徴ではないですが、社会でうまく適応できないことで社会に対して強い被害者意識を持つようになったり、行動障害(最悪の場合、特異な犯罪としてクローズアップされることも)や、ひきこもりとなるなどがあります。

 

  異文化に来た外国人が差別されたり不遇な状況になると、被害的になり、極端な場合は反社会的な立場、テロリストになることがあるように、発達障害の方が起こす問題の多くは、発達障害そのものではなく「二次障害」、つまり発達特性を受け入れる環境がないために、情緒がこじれたり、戸惑ったり、気に病んだりすることで生じるのです。ただ、目に見えない”社会”や”世間”といったものを漠然と恨むというのは苦手です。

 

 

・虐待の加害者になることも

 児童虐待(パワハラなども)の加害者には、発達障害、知的障害、精神障害も多いとされます。子どもともうまく愛着が形成されず、子どもに対しても自他未分のまま非常に残酷な対応をしたり、社会性が身に付いていないままに親となりネグレクトを行ったりすることがあります。

 

 

 

きわ立つ発達障害の多様さ~100人100様

 例えば、うつ病や統合失調症など心に関連する不調はありますが、発達障害はそれらと並列にはできないくらいに多様です。100人いれば100人とも異なります。

 

 研究者の千住淳氏は、「100人の自閉症者がいれば、遺伝子と自閉症の関係には100通りの違いがあるといっても、あながち間違いではありません。遺伝子から見たら、自閉症は一人ひとり異なる、極めて多彩な「症候群」なのです。」としています。

 

・粗すぎる診断名

 精神科医の神田橋條治氏も「発達障害に関連する現行の)診断名は粗すぎる」としていて、個々の人にはどういった特徴があり、どういったケアが必要か、ということを観ないと意味がないとしています。

 

・「発達障害」ということばではとらえきれない

 私たちも、発達障害と診断される方と多く接しますが、非常に多様です。気に病むくらい相手のことを気にする方も多くいらっしゃいます。「空気が読めない人」といったようなステレオタイプでは到底とらえられないくらいに多様なものを「発達障害」と大くくりにくくっているだけにすぎません。

 

 発達障害は100人100様だということはぜひ押さえておく必要があります。

 

 

 

 →大人の発達障害、アスペルガー症候群とは何か?診断のポイントについては、下記をご覧ください。

 ▶「大人の発達障害、アスペルガー症候群とは何か?公認心理師が本質を解説

 ▶「大人の発達障害、アスペルガー症候群かどうか診断、判断するポイント

 

 

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(参考)

 青木省三、村上伸治「大人の発達障害を診るということ」(医学書院)
 杉山登志郎「発達障害の子どもたち」(講談社)
 杉山登志郎「発達障害のいま」(講談社)
 備瀬哲弘「大人の発達障害」(マキノ出版)
 本田秀夫「自閉症スペクトラム障害が分かる本」(講談社)
 平岩幹男「自閉症スペクトラム障害」(岩波書店)
 神田橋條治ほか「発達障害は治りますか?」(花風社)

 神田橋條治「神田橋條治 医学部講義」(創元社)
 杉山登志郎「子ども虐待という第四の発達障害」(学研)
 ドナ・ウィリアムズ「ドナ・ウィリアムズの自閉症の豊かな世界」(明石書店)

 広沢正孝「「こころの構造」からみた精神病理 広汎性発達障害と統合失調症をめぐって」(岩崎学術出版社)

 ローナ・ウィング「自閉症スペクトル」(東京書籍)

 テンプル・グランディン「自閉症の脳を読み解く」(NHK出版)

 田中千穂子ほか「発達障害の心理臨床」(有斐閣)

 杉山登志郎「発達障害の豊かな世界」(日本評論社)

 ニキリンコ「俺ルール!」(花風社)

 ニキリンコ「自閉っ子、こういう風にできてます!」(花風社)

 千住淳「自閉症スペクトラムとは何か?」(筑摩書房)

 宮岡等、内山登起夫「大人の発達障害ってそういうことだったのか」(医学書院)

 内海健「自閉症スペクトラムの精神病理」(医学書院)

 高橋和巳「消えたい 虐待された人の生き方から知る心の幸せ」(筑摩書房)

 黒田洋一郎 木村- 黒田純子「発達障害の原因と発症メカニズム」(河出書房新社)

 など