悩みの原因や解決方法

大人の発達障害の本当の原因と特徴~様々な悩みの背景となるもの

[「境界例」の原因と治し方「パーソナリティ障害」の原因と治し方「発達障害」とは何か?「適応障害」の原因と治し方「生きづらさ」の原因と治し方「トラウマ、PTSD」とは何か?「愛着(障害)」とは何か?悩みの原因や解決方法]


 

発達障害

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大きく変わる?!臨床心理学

 臨床心理学は基本的に、定型発達の方が悩みや疾患に陥る、というモデルで作られているとされます。
 一般的な悩みを“神経症”、精神疾患として“統合失調症”あるいは“双極性障害”、脳のくたびれとして“うつ病”、それらの間にあるよくわからないややこしい症状は“境界例(パーソナリティ障害)”としてきました。

 しかし、近年、“発達(障害)”という視点を導入することで、これまでは対応が難しいケース、非定型的なケース、境界例、パーソナリティ障害、例えば統合失調症と診断していたものの多くが「実は“発達障害”なのでは」と言われるようになってきました。

 つまり、これまでは定型発達の人を基準に考えていたために、それにあてはまらないものは「境界例」「非定型」、理解できない人たちは「パーソナリティ障害」とされ、本当は発達(障害)による特徴を見逃してきたのではないか、ということです。
 
 パーソナリティ障害だけではありません。
 「いろんな療法を試したけど自分はなぜか良くならない」
 「良くなっては、元に戻ってを繰り返す」
 「慢性化して、ずっと悩みを抱えてモヤモヤしている」

 といった様々なケースで、“発達”という視点からあらためて悩みを見なおしてみようという取り組みが進んできています。

 実際に、発達という視点を持って取り組むと、それまで動かなかったケースが大きく改善するようになる事が珍しくないのです。

 精神科医で川崎医科大学の青木省三教授は「これまでの成人精神医学に大幅な変更を求めるものになるだろう」と述べてらっしゃいます。

 発達障害というのは、決して特殊な人の出来事ではなく、私たち全てに当てはまることです。
 私たちは皆、発達に特徴があり、人類のすべての人が少なからず発達障害であるといえます。
 私たちの生きる中で感じる悩み、生きづらさについても、“発達(発達障害、発達特性)”という視点を踏まえることで理解しやすくなります。

 

 

 

あなたの悩みが治りにくいなら~発達特性のせいかも

 あなたの悩みが治りにくいなら、それは、ひょっとしたらあなたの発達特性に起因するものかもしれません。

 例えば
 ・生きづらさをずっと抱えて生きている。
 ・人間関係が上手く行かず、職場を転々としている。
 ・うつ病と診断されたけども、治りにくい。
 ・幻聴が聞こえるのだけれども、統合失調症そのものではないみたい。
 など 

 発達という視点を持って治療に取り組んだ途端、良くなるということは珍しくありません。

 ただ、くれぐれも、あなたの悩みが治りにくく、“発達”の視点を持って治ったとしても、たちまちあなたが発達障害、ということではありません。
 発達という視点を通じて取り組むというのは、あなたの個性や特性を理解して、より適切な方法で取り組むということです。

 

 

 

私たちは皆、発達障害である

 大きく誤解されていることですが、発達障害とは特殊なことや異常ではありません。発達障害を専門にされている先生なども口をそろえておっしゃいますが、私たち人間は皆、発達障害なのです。
 ただ、その程度や特徴が異なったり、現在の環境でたまたま問題になっていないだけです。

 例えば、スポーツ選手は「負けず嫌い」な人が多く、勝ちにこだわることが良いとされます。異常なくらい負けず嫌いな人もたくさんいらっしゃいます。
 しかし、この負けず嫌いは明らかな発達障害の特徴といえるものです。

 一般の仕事においても、「こだわりを持て」といわれます。この“こだわり”というのは発達障害の代表的な特徴です。  

 過去の会議での発言などをはっきり覚えているような驚異的な記憶力を持つような人がいらっしゃいます。感情に流されず意思決定ができたり、とても論理的に話ができたりする方もいらっしゃいます。ビジネスマンとしては羨ましい能力です。実は、こららも発達障害で見られるとされる特徴です。

 こうしたこと以外にも日常のコミュニケーションで相手とズレを感じたりすることってないでしょうか?常識的だと思っていた人とのやり取りでこちらの“常識”が通用しなくて驚くことはないでしょうか?
 
 ややこしい上司、面倒くさいお客さん、使いづらい部下、こうした人達が実は“発達”という問題が背景にあると知ったらいかがでしょうか?


 そして、私たち自身も違和感を感じていたことが“発達”によるものだとしたらどう思いますか。

 最近では、発達障害という言葉は適切ではないとして、「非定型発達」「発達特性」と呼ばれたり、「発達凸凹」と呼ばれています。いわゆる発達障害ではない人のことを「定型発達」といいます。本記事でも、わかりやすくするために「発達障害」という言葉を用いていますが、基本的には誰にでもある「発達凸凹」という意味になります。

 くりかえしになりますが、発達障害は誰にでもあるもので、私たちの生き方の土台となっているものです。

 

大人の発達障害のイメージ2

 

 

 

天才や才能を生む「発達凸凹」

 発達凸凹(発達特性)は、才能の宝庫と言えます。歴史上の有名な科学者や芸術家などは、かなりの割合で発達障害の方がいることがわかっています。

 ビル・ゲイツがアスペルガー障害というのは有名ですが、ニュートン、ヴィトゲンシュタイン、ガウディ、ゴッホ、アインシュタイン、エジソン、リンカーン、ヘミングウェイなど。トム・クルーズ、スピルバーグは学習障害で知られるなど、発達障害の有名人として、そうそうたるメンバーの名前が挙がります。

 高機能な発達障害であるアスペルガー障害の別名は、「シリコンバレー症候群」とも呼ばれ、IT産業などの社員の何割かが当てはまるのではないか?と言われています。大学の研究者などでも該当する人は、たくさんいらっしゃいます。

 有名な人を全て挙げていくと、「もはやそれって、“障害”って呼べるの?単なる特徴じゃないの?」と思えてきます。その通りです。社会生活に支障がなければ、どれだけ発達障害の診断基準に当てはまったとしても「発達障害」ではありません。

 「正常」の定義が正規分布の平均に近い状態であり、「異常」が平均から外れたもの、とするならば、才能のある人は、皆、「異常」とされてしまいます。
 160キロ投げることができる野球の投手は平均を外れた規格外な特徴ですが、それが生かせれば「才能」になり、生きていく妨げとなればそれは「障害」となります。

 

 

 

ステレオタイプで誤解される大人の発達障害

 本屋さんには「大人の発達障害」「アスペルガー障害かも?」といったタイトルの本がたくさん並ぶようになりました。要は、「職場で空気が読めない変な人がいると思っていたけど、実はあの人はアスペルガー障害なんだ」ということを面白おかしく書いた本です。

 そうした本の内容は、明らかに間違っているわけではありません。そこで記されている特徴も、DSM(アメリカ精神医学会の診断マニュアル)などで挙げられているものを踏まえています。
 しかし、例えて言えば、「アメリカ人は皆、ハンバーガーを食べている」「日本人は背が低い」というような表現に似ていて、確かにそうかもしれないけど、そのもの全体を表現しているとはいえません。

 発達障害は研究が広範にわたり、その理解も難しいため、第一線の専門家でも全貌をとらえることが難しいとされています。実は医師やカウンセラーでも発達障害について十分に理解できておらず、硬直的な知識、情報をクライアント側に伝えてしまっている場合もあります。

 発達というのは、想像以上に多様なものです。特に、日本では昭和40年以降、1歳未満、1歳6ヶ月、3歳と乳幼児健診が行われています。また、小学校、中学校と義務教育もあります。典型的な発達障害であれば、そこで見つかることが多いです。

 そのため、大人の発達障害とはそもそも明らかな障害ではないもの、軽症であり、環境やコンディションによっては障害とは言えないもの、典型的ではない多様なものなのです。

 

 

 

運動音痴、味音痴は発達障害?

 障害の定義とは、「身体障害、精神薄弱又は精神障害(以下「障害」と総称する。)があるため、長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者をいう。」(障害者基本法)とされています。
 社会生活が問題とされるため、発達障害の定義も、社会適応がクローズアップされています。しかし、実は、発達の凸凹はあらゆるところに及ぶのです。

 例えば、バラエティ番組で、芸人が自身の運動神経の悪いことをネタにして笑いを取るものがあります。
「なんでこんな簡単なことができないのか?」と思うような簡単な運動、スポーツも上手くできず失敗してしまいます。

 そもそも芸人の人口は現在、何千、何万人もいるとされ、テレビに出ることができるのは本の一握りの才能の持ち主たちです。テレビに出ることができている時点でとてもすごいことです。


 しかし、運動という領域では全く動けない。発達が凸凹しているのです。もし、スポーツを仕事とする世界に生きていたら間違いなく「発達障害」とされてしまうでしょう。簡単なこともできないことをもって、脳を検査されて「あれがおかしい、これもおかしい」とされてしまうかもしれません。しかし、幸いにもスポーツは日常生活を生きる上でメインの活動ではないために、運動神経の悪い人たちは「発達障害」とは見なされません。

 

 会社員として活躍している味覚音痴の人が、もし料理人の世界に進んだらどうでしょうか?細かな味がわからない。料理人として当たり前のことが苦手だとします。その人は、“味”という能力の発達に凸凹がある。あるいは発達が遅れている。そのため「社会生活に相当な制限を受け」、彼は活躍できず、「発達障害」とされてしまいます。

 はたまた、方向音痴の人がタクシードライバーに転職したらどうでしょうか。道を間違えて、たちまちその仕事で不適応を起こしてしまうでしょう。

 

 このように発達というのは皆、凸凹しているものなのです。“定型発達”とはあくまで架空の概念であって、完璧な定型発達というのはこの世には存在しないものです。
(もし存在すれば、それ自体がまれなために“非定型”な存在とされてしまうでしょう。)

 

 私たちはつい「会社での仕事が社会人の仕事のスタンダード」と思い込んでしまっています。会社の仕事は、世の中の多様な仕事のうちのほんの一握りに過ぎません。事務仕事、計算や段取りを組んだり、交渉したり、接客したり・・・人間ですから、運動や味覚と同じように苦手があって当たり前です。しかし、現代社会では、そうしたことが不得手だと「発達障害」とされてしまいます。

 同じ人がもし、農業や漁業に進んだらそうは見なされなくなるかもしれません。実際に、発達障害の方が、農業、漁業に転職して活躍されるといったことはあります。

 こうした例からも、世にあふれる「大人の発達障害」といったテーマの本がいかに全体像を表していないかがわかります。

 

 

 

異文化としての発達凸凹

 以上では、誰にでもあり、連続しているものとして書いていますが、もう一つの側面は「異文化」である、ということです。発達凸凹は誰にでもあり、実は異文化の者同士が構造化された環境を介してコミュニケーションを取りながら、社会は成り立っています。環境の構造化が十分ではない組織やコミュニティでは、途端に軋轢や違和感が表面化します。たとえば、仕事をしていても、「なんでこんな簡単なことがわからないの?伝わらないの?理解してもらえないの?」と感じることはないでしょうか? 実は、それは私たちは同じ日本人同士であっても発達に凸凹があり、異文化であるためです。上記でも書きましたが、その凸凹が相対的に少ない人たちを「定型発達」と言い、多い人たちを「非定型発達(アスペルガー障害や自閉症など)」と言います。

 異文化理解というのは、よく知られるように、相手を理解するという美談のような良いことばかりではありません。ときに生理的な違和感(怖れ、嫌悪感)を感じながらの関わりでもあります。特に、まさに明らかにアスペルガー障害などになると異文化の度合いは強く、当事者も自らや相手を指して「異星人同士のよう」と言うほどに、考え方、感じ方が異なります。もちろん、究極的に見れば、どちらが異常ということもないのです。

 

 

 

”定型発達症候群”

 研究者の千住淳氏が著書(「自閉症スペクトラムとは何か」)の中で、出典がはわからないがということで、書いていることですが、”定型発達症候群”という俗称があります。これは、問題のないとされる定型発達の窮屈な実態を半ば冗談で表現したものです。

 

1.社会的に独立することの困難さ

 他人の気持ちを自分のことのように感じるという幻想。他人との過剰な接触を求める。同じ定型発達の友人を求め、そうではない人とは関係を築くことが困難である。

 

2.コミュニケーションや創造性における困難さ

 コミュニケーションにおいて、あいまいな表現や、冗長な行動、嘘、表情やしぐさの多用などが見られ、しっかりとした論理を持つことができない。自分の主観や推測を排してロジカルに考えることが苦手。

 

3.幅の狭い興味や活動

 微細な感覚や物事の細部に気がつけない。同じ行動を繰り返す常同行動が理解できない。必要もないブランド品や機能性のないもののこだわり、集団の中での立ち位置を気にしたり、いいところを見せたり、限られた社会的場面にしか興味を持てない。

 

 このように、あいまいで、特に対人関係に異常にこだわり、自分でコントロールできないくらい気をつかい、それで疲弊することもある私たちの姿は胸を張って「自分たちこそ正常」とは言えません。単に”多数派のモード”であるというだけです。 

 

 

 

”デュアルモード”としての人間

 私たちが、普段使用しているパソコンやスマホ、タブレットなどは、WindowsやAndroid などが搭載されています。ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、もともとパソコンは、黒い(青い)画面に、コマンドを打ち込んで操作するものでした。プログラムを組んだりするような作業もそうです。しかし、スティーブ・ジョブズなどがマッキントッシュを販売したり、Windowsが発売されるようになると、私たちも見慣れている「グラフィカルユーザインタフェース(GUI)」、つまり、マウスやタッチパネルで視覚的に、直感的にアナログに操作できるようになりました。おかげで、コンピューターに詳しくない人でも簡単に扱えるようになり、今に至ります。 一方、あまり関係のない、見た目、デザインに意識を取られることがあります。

GUI2

GUI1

 

 グラフィカルユーザインタフェース(GUI)の裏では、昔からあるようなコマンドが実行されるようなモードも用意されています。パソコンが不調になると、黒い(青い)画面のモードが立ち上がり、そこで昔ながらの操作を要求されたりするのを見たことのある方も少なくないかと思います。「テキストユーザインタフェース(TUI)」といいますが、このインターフェースでは、あいまいな指示や直感的な操作は通用しません。一字一句間違いなく、命令を打ち込まないとコンピューターは理解してくれません。

DOSモード

 発達障害も、まさにこれと似ています。

 グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)とは定型発達の人が感じている世界、コマンドを打ち込んで実行していくテキストインターフェース(TUI)は非定型発達の人が感じている世界。大多数の人間や社会は、直感的なインターフェースを前提として作られていますが、発達障害ではそのモードがありません。あっても、制限されています。そして、実は、最新のスマホやパソコンでも、裏側ではコマンドで実行する黒い(青い)モードも存在しています。実際、定型発達の人も、自分に不利な環境や、強い不安、緊張にさいなまれる場面で強いストレス、トラウマを負うと、発達障害様の状態となり、コミュニケーションや認知が制限されるようになります。不調をきたしたパソコンがセーフティーモード、DOSモード(黒い画面)が立ち上がるのととてもよく似ています。ただ、テキストインターフェース(TUI)そのものは異常でもなんでもありません。使い方によってはグラフィックに振り回されず正確でとても便利なものです。ビジュアルを介さずにプログラムソースにダイレクトにアクセスすることができたりもします。

 このように、定型発達者でもデュアルモード(2重のモード)として非定型発達(発達障害)と同様の世界も持ち合わせていると考えられます。そのため、発達障害とされる特性も人類にとっては必須の性質といえそうです。

 

 

きわ立つ発達障害の多様さ~100人100様

 例えば、うつ病や統合失調症など心に関連する不調はありますが、発達障害はそれらと並列にはできないくらいに多様です。100人いれば100人とも異なります。研究者の千住淳氏は、「100人の自閉症者がいれば、遺伝子と自閉症の関係には100通りの違いがあるといっても、あながち間違いではありません。遺伝子から見たら、自閉症は一人ひとり異なる、極まめて多彩な「症候群」なのです。」としています。精神科医の神田橋條治氏も「発達障害に関連する現行の)診断名は粗すぎる」としていて、個々の人にはどういった特徴があり、どういったケアが必要か、ということを観ないと意味がないとしています。

 私たちも、発達障害と診断される方と多く接しますが、非常に多様です。気に病むくらい相手のことを気にする方も多くいらっしゃいます。「空気が読めない人」といったようなステレオタイプでは到底とらえられないくらいに多様なものを「発達障害」と大くくりにくくっているだけにすぎません。

 発達障害は100人100様だということはぜひ押さえておく必要があります。

 

 

大人の発達障害のイメージ3

 

 

 

あらためて発達障害(Developmental disability)とは何か?

・定義とその種類

 ここで、発達障害(Developmental disability)とは何か?を簡単にまとめてみたいと思います。

 発達障害の権威である杉山登志郎教授は、
 「発達障害とは、子どもの発達途上において、何らかの理由により、発達の特定の領域に、社会的な適応上の問題を引き起こす可能性がある凹凸を生じたもの」  
 と定義し、

 

 「発達障害=発達凸凹+適応障害」

 と表現しています。

 

 適応障害があることが前提ですから、たとえ検査で明らかに問題があったとしても、本人や周囲が不具合を抱えていなければ「発達障害」とは言えません。

 

 

・種類

 発達障害は代表的なものとして以下の4つのものがあります。上記にも書きましたように、あくまで大くくりな診断名ですから、個々のケースの特徴を理解する必要があります。

  ・自閉症スペクトラム障害(自閉症、アスペルガー障害が含まれます。)

   社会的行動やコミュニケーション、認知に問題がある。

  ・注意欠陥多動性障害
   不注意や衝動性などに問題がある。
  ・学習障害(LD)
   読み書き、計算などに問題がある。

  ・精神発達遅滞

 人口に占める割合は、線引が難しいために幅がありますが、発達障害全体で、1~10% 自閉症スペクトラム障害で1~2%とされます。

 それぞれの障害は、併発することも多く、自閉症スペクトラム障害とADHDを併発したりということも多いとされます。知的障害と併発がある場合もあります。

 

(参考)名称について

 「自閉症」「アスペルガー障害」「高機能自閉症」「広汎性発達障害」「自閉症スペクトラム障害」と様々な名称があり、同じようで同じではないなどこれも初学者には混乱の元となっています。なぜ名称が様々に存在しているかというと、研究者や機関によって捉え方や概念が異なることが大きな原因です。ですから、ほとんど同じといってよい場合でも完全な互換性がないのです。例えば、「高機能自閉症」と「アスペルガー障害」とはほぼ同じといってよいと考えられますが、その起こりが異なるために、全く同じといえないといったようなことです。

 現時点で、最も用いやすいのは、「自閉症スペクトラム障害」という概念です。その中には、定型発達から非定型発達まで連続体としてとらえられており、非定型発達の一番重いものに自閉症が位置します。

 非定型発達の特徴には次の項目にある三つ組がすべてありますが、その中で明らかな言語障害がないものが「アスペルガー障害」、言語障害が見られるものが「自閉症」という分け方になります。より細かな症状、特徴はケースによってさまざまになります。

 


・原因

 発達障害というのは人類の起こりからあったと考えられますが、明らかにとらえられるようになったのは、ごく最近のことです。自閉症については、レオ・カナーが論文を発表した1943年、アスペルガー症候群に至っては1980年代に入って認知されるようになりました。そのため、まだまだ分からないことが多いです。また研究も広範に及ぶために、研究者でさえ、もはや全体像は捉えることは困難であるといわれています。

 発達障害は、かつては「冷蔵庫マザー」というように、母親の養育のせいだと考えられていましたが、今は明確に否定されています。

 ただ、全くの生まれつきかというとそうではありません。「遺伝と環境の相互作用」というように理解されています。また、例えば、発達障害の方を100人集めても、100通りの違いがあると言われています。それほど、発達障害は多様で複合的です。また、遺伝子は環境によってスイッチのオンオフがあることが知られています。環境の負因が重なると特徴が目立ってくる、ということがあります。

 そのため、生まれつきでどうしようもなく固定された「障害」とはとらえないほうが良いです。英語では、「ディスオーダー」といい「失調」という日本語のほうが適切です。

 ”発達”障害というように、発達障害とは発達の非定型さともう一つ「発達の遅れ」ということもあります。そのため発達障害の人は普通の人よりも遅れて発達していきます。特に子供の場合、ある年齢を境に急に能力が伸びたり、といったことも報告されています。大人の場合も環境が適していれば晩熟していきますが、自覚がなく不利な環境で過ごすと歳とともに不適応を強め、苦しくなっていきます。

 

 

 

発達障害(自閉症スペクトラム障害)の特徴

 発達障害は、社会的な行動に問題が生じることが多いため、自閉症を基礎にその特徴をまとめてみました。

 ・自閉症の三つ組
  ・社会性の障害
  ・コミュニケーションの障害
  ・イマジネーションの障害
   ・感覚過敏

 これら3つと感覚過敏は、自閉症スペクトラム障害全般で見られるものです。
 アスペルガー障害では、コミュニケーションの質的な異常が軽微とされます。

 発達障害は100人100様ですから、以下に挙げるものがすべて当てはまることはありません。

より詳しく見てまいります。

 

・社会性の障害

・人よりもモノに関心がある

 モノに関心があるからと言って、決して冷酷だとか、優しさがないということではありません。あくまで認知の特徴です。定型発達であれば人は特別な存在として既にそこに存在していますが、発達障害の場合、人も物も全く同じ並列で、新たに物を発見するかのように、人も発見されるように認識されます。人の目が気にならない、といったこともあります。結果的に、定型発達と比べて人には興味はなくなります。

 

・自己や他者が確立されていない。自他の区別がない(弱い)

 自己や他者の存在というものが未確立であることがあります。自己が確立するのが中学生ごろという報告もあります。意識して他者に関心がないのではなく、他者はそこにいない、状態です。徐々に自己が確立し、他者を発見されていきますが、それでも自分と他者との距離が取れておらず、自他の区別がついていないため、他者が自分とは異なる感覚、考えを持っていることがわからず、自分の考えや感覚というものも対象化してとらえられていません。ギブ&テイクという感覚もよくわかりません。そのため、他者に対して傍若無人ふるまい、相手を侵害して軋轢を生んでしまうことがあります。例えば職場で自分の考え方やり方をダイレクトに他者に押し付けたり、家庭では虐待となることもあります。いわゆる我が強いわけでもなく、むしろ無私な状態で相手に踏み込んでしまいます。自他の区別がないため、ゼロ距離からの侵害となり相手に与えるダメージは大きなものです。周囲からは強い嫌悪や反発を招きます。

 

・他者の存在やルールに気づいた後に、強烈な羞恥やパニックに襲われることもある

 発達障害は他者に関心がないように言ったり、そのように見えます。たしかに、子どもの時、自己が未確立の場合は、他者の存在が意識されておらず、そのために一人でいても平気な場合はあります。しかし、一度自己が確立されて他者の存在が意識され始めると、孤独感を感じますし、他者を求めます。しかし、他者とのかかわり方がわからず、本当につながることは難しいのです。他者が自分とは違う考えを持っているとは思えないときは、平然と冷酷な仕打ちをしていても、大人になって他者の存在や暗黙のルールに気づき始めると強烈な羞恥やパニックに襲われることがあります。

 

・自分の中で様々なキャラクターをもっている~自己の未形成のため

 自己が未形成である傾向があるため、自分の中に様々なキャラクターを持っていることがあります(解離性障害とは異なります)。状況に合わせてキャラクターになりきって対処していることがあります。「自閉症だったっわたしへ」のドナ・ウィリアムズも自伝の中で、様々なキャラクターを演じていたことを書いています。

 

・こだわり行動(予定変更や変化を嫌う、特定のものを集める、並べる)

 こだわる理由の一つには、発達障害の人にとっては、世界は常に無秩序であり、不安を感じていることが挙げられます。定型発達の人でも不安な場面ではルーチンにこだわったり(スポーツ選手や受験生がゲンを担いだり)するように、発達障害の場合も、こだわることで自分流に世界を”構造化”しようとしていると考えられます。一方で、実はこだわりを好きでやっているとは限りません。当事者たちが体験記で述べていますが、本人も嫌なこだわり、止めたいこだわりもあります。でも、無意識に引っ張られるようにこだわってしまい、無理に止めさせられるとかんしゃくを起こしたり、不安になったりするのです。ただ、こだわりの背景にあるものを認めてもらったうえで、秩序を保つ別の方法へとスライドするような周囲からのサポートを求めています。

 

・ファンタジーへの没頭

 アスペルガー障害では、小学校高学年から青年期にかならずファンタジーへの没頭が見られます。対象との心理的な距離が取れていないために、自己意識に様々なものが流れ込むような形態をとります。自分の意識が自然の物や無機物に乗り移ったように感じたりする場合もあります。

 

・世界が作り物に見える

 発達障害の方からは世界が映画のセットのような作り物のように見えています。人間も大道具のようにそこにあるものという感覚です。”社会”という見えないものも意識しづらく、自分が社会の一部という感覚も持ちづらいとされます。世界がとても不安定なもので、自分とも区別されておらず、物事同士の影響などについて対象化してとらえられていません。そのため、自身の行動と世界とが密接に結びついているように感じられたり、自身が死ねば、世界も映画のように終わってしまう、といった感覚を持っていることがあります。

 

・起きた物事に理由を必要とする

 理由のわからないと納得ができず、また、自分のしたことが関係のないものに影響していると考えてしまうことがああります。

 


・コミュニケーションの障害

・言葉障害/意識中枢での言語の役割の違い

 自閉症では言語障害が見られますが、いわゆるアスペルガー障害では、発話という意味での明らかな言語障害はありません。ただ、表面上の言語障害はなくても、発達障害では言語が意識活動の中枢となっていないことが考えられます。例えば、「私」と「他者・対象」との区別をしたり、自分に起きた出来事を言語的に意味づけたり、対象化したりといったことには言語が用いられますが、発達障害ではその機能が弱いと考えられています。テンプル・グランディンなど当事者たちは、物事は視覚的にイメージで想起していて、言葉のコミュニケーションも、一度、視覚的に翻訳してコミュニケーションを取っていると言っています。つまり、言葉は自分の思考や感情そのものという感覚ではなく、外国語をしゃべるかのように道具として用いられます。そのためはたから見ると、話し方が平板で感情が乗らなかったり、衒学的であったり、ということがあります。

 

・ストレス、トラウマを負いやすい

 発達障害とトラウマとは親和性が高いと言われています。言葉が中枢にないために、身に起こる出来事に言語を挟んで心理的な距離を取ることが苦手です。そのため、ちょっとした出来事もダイレクトに身に迫るように感じられてしまい、ストレス、トラウマを負いやすいことが指摘されています。

 

・内省が苦手

 内省とは、 自分の考えや行動などを深く省みることですが、発達障害の場合はとても苦手です。それは、言語が意識活動の中枢にないために言葉によって自身の言動を整理して、振り返ることが難しいと考えられます。

 

・文字通り理解する。言葉の裏の意味、意図が分からない

 言葉の裏にある感情や意図ということを読み取ることが苦手です。皮肉を言われても平然としていたり、言外に暗に匂わすといったようなことは通じません。相手の言われたことも文字通り理解し、相手からの影響を受けやすいとされます。

 

・「心」を介さずに、ダイレクトに物事を感じ取る(共感ではなく、共振する)

 発達障害では、いわゆる「心」を介して物事を理解することは苦手ですが、例えばモノや自然、動物、そして人間が持つ痛みや不安な感覚をダイレクトに感じ取ることができます(共感ではなく、共鳴・共振)。テンプル・グランディンなどは定型発達の人では感じ取れない動物の感覚を感じ取ることができ、動物にとって最適な環境を整えることができます。別にケースでは、人に対しては残酷な仕打ちをしている発達傷害の方が動物やぬいぐるみは「かわいそう」と感じたり。誤解されますが、発達障害は鈍感なのではなく、むしろ定型発達よりも敏感なところがあり、感覚が異なるのです。当事者たちは、太古の人間の感性が残っている、という表現をされることがあります。

 社会でいうところの「心」を介さないために、文脈や相手の気持ちを考えないコミュニケーションになってしまうのです。

 

・「心」がないように見える

 発達障害の特徴として、意識中枢での言語の役割が少なく、心理・情動が対象化されない。感情ではなく感覚でダイレクトに人やモノを理解する。人への関心が薄い(人と物とが並列)。自他の距離がうまくとれていない。葛藤が伝わってこない、などの特徴から、定型発達の人たちが感じるような「心」がないように見えます。本当はそのようなことはないのですが、定型発達から見るとそのように感じられてしまうのです。

 

・感情は基本的に正常だが、人の気持ちの捉え方が特徴的

 しばしば「発達障害の人は人の気持ちがわからない」として誤解されていることですが、発達障害の場合も感情の在り方に問題はないとされます。むしろ、ある意味一般の人よりも、繊細で共感性が高い人もいらっしゃいます。空気が読めないケースが多いのですが、人の気持ちが理解できないわけではありません。奥にある感情は基本的に正常とされます。

 

・悪意や善意など、「心」を前提とした複雑な感情がよくわからない

 発達障害の感情のやり取りには特徴はあります。悪意、善意、嫉妬、やっかみ、ふてくされ、不機嫌、当てつけ、皮肉、媚びといった屈折した感情はよくわかりません。

 

・他者の存在や距離を考慮しないコミュニケーション~「私心なき傍若無人さ」

 インターフェースに問題があり、読み取ることが難しいことと、自他の区別がないために、良くも悪くも“無私”に相手と関わります。そのため、他者の気持ちは考慮されないコミュニケーションとなってしまうのです。自閉症スペクトラム障害の方が虐待者となることはしばしばありますが、その場合も悪意がなく純粋に、ただ自他の区別がないままに相手の存在を侵害してしまうのです。精神科医の内海健は「私心なき傍若無人さ」と表現しています。

 

・タイプスリップ現象(過去と現在の混在、パニック)

 発達障害の場合、時間の感覚が異なり、記憶がモザイクのようになっていたり、過去の記憶も今と同じと感じられたりします。言語によって対象化されていないことも背景にあると考えられます。そのため、現在とは関係のない記憶が急に蘇ってパニックに陥ったり、周囲も忘れているような過去の出来事のことを挙げて急に怒り出したり、といったことがあります。一方で、未来のことを考えることは苦手です。

  また、基本的に記憶は丸暗記であり、自分の解釈(ストーリー)によって編成し直されることがありません。誤記憶ということが少ない反面、意味づけされていないために、意味を持って過去を振り返ることも不得手です。

 

・未来を想像することが苦手

 見えるものがすべてで、時間間隔も独特なものがあるため、未来を創造することはとても苦手ですし、不安も強い傾向があります。スケジュールや段取りを組むことも苦手です。

 

・視点の切り替えが難しい

 発達障害は対象に吸い寄せられるようにモノを認知します。例えば、模様に意識が行き、そのものと一体となるような感覚になる、など。そのため、対象からの視点の切り替えがとても難しいとされます。

 

・抽象的なルールに気づきにくく、一度セットされると硬直的に守られる

 認知の仕方がボトムアップ型のために、世の中の暗黙のルールなどを理解して、そのポリシーのもとで行動することが苦手です。意識して学習することができますが、一度意識にセットしてしまうと、硬直的に守られて融通が利かなくなったり、損得にうるさくなりすぎたり、他者をルールで追い込んだりするようになることがあります。

 

 

・その他、独特な認知の在り方

  意識の中枢における言語の役割の違いもあり、認知の特徴としては以下の様なことがあります。

  ・注意の絞り込みができない

  ・全体よりも細部にこだわる

  ・変化への余裕が少なく、不意打ちを受けやすい

  ・唐突に行動する
  ・一度に処理できる情報が限られる
  ・情報の中の雑音が除去できない
  ・一般化や概念化ができない(ボトムアップ型の情報処理、アバウトに考えられない)

  ・個別ケースへの対処は身に付けられても一般化したルールを身に付けるのが苦手

   (ここで~してはいけない、と言われて理解しても、別の場所で同じミスをする、など)

  ・習慣形成が困難(その都度やりなおし)

  ・選択、決定することが苦手
  ・心理的距離が保てない

  ・人の顔が覚えられない

  ・人の属性が変わると同じ人と認識できない(眼鏡、髪型、服装が変わる)

  ・奥行きが捉えられない

  ・話すことよりも書くことのほうが得意

   など

 


・イマジネーションの障害

・ごっこ遊びができない

 子どもの頃に、ごっこ遊びや、まね事、ふり遊びができない、といったことが見られます。ままごとなどは典型的で、お友達同士で、目の前にないご飯をそこにあるというイメージを共有しあったり、役割を演じたりといったことがうまくできません。

 

・暗黙のルールがわからない

 私たちは、暗に、その場でしてよいこと悪いことや、言葉では明示されていない暗黙のルールを感じ取って生活をしていますが、発達障害ではそうしたことがとても苦手です。もちろん、学ぶことで行動を修正していくことはできます。しかし、それは直感的に感じ取るというよりは、頭で学習して合わせている、といった趣で、感覚でわかるといったようにはわかりません。ですから、「こんなこと言わなくてもわかるはず」といったことが一切通用しません。また、暗黙のルールがわからないために、悪意や嫉妬という感情もわからないですし、自分でももてない。せいぜい、頑張ってもやきもち程度です。定型発達の人と違い、意図を変に裏読みをすることがありませんから、感情に流されない冷静な判断をすることができるといった長所となることもあります。

 

・見えるものがすべて。見えないものも存在することがわからない

 見えるものがすべてで見えない部分を想像して感じるということができません。たとえば、お医者さんは、お医者さんという役割の人で病院の付属物としてそこにあるもの、というふうに理解されます。お医者さんも自分と同じ人間で仕事が終わると家に帰り、同じように私生活がある、といったことは想像することができません。できていても、それは直感的な理解ではなく、学習の結果として知的に理解しているという感覚です。あるいは別の例では、自分の足がスカートやコタツに隠れると、足がなくなったと考えて不安になってしまう、といったこともあります。アスペルガー障害のニキ・リンコさんは、8歳まで自分には背中がないと思っていたそうです。

 

・全体を把握することが苦手

 発達障害では、全体を統合することが苦手です。一方、細部については全体に邪魔をされずに捉えることができます。

 


・感覚過敏(過敏さと、鈍感さ)

 感覚の過敏さと鈍感さとが併存することがあります。感覚過敏とは、視覚(視覚がオーバフローして突然目が見えなくなる、単色の食べ物は気持ちが悪い)、聴覚(人の声や、特定の音が苦手、など)、嗅覚(芳香剤や、特定の食べ物のにおいがダメ、など)、触覚(シャワーの水が針のように痛い、風が痛い、髪を切られると痛い、産毛が痛いなど)。感覚鈍麻とは、呼びかけても答えない、疲れを知らずにずっと働き続けてダウンしてしまう、痛みを感じにくく骨折していても気が付かない、ひどい虐待されても痛みを感じない、といったことです。最近は注目されるようになってきましたが、発達障害は身体の障害(失調)であるとも言えます。

 

・身体をコントロールすること、運動が苦手

 発達協調性運動障害といいますが、様々な体の動きを同時にコントロールすることが苦手です。一般に10歳を過ぎると目立たなくなるとされますが、当事者の体験記を見ると、成人でも「体がバラバラになる」といった表現を用いています。その他、・汗をかかない。意識しないと汗が出ない。・傷が治りにくい(血小板が少ない場合もある)・つばの飲み込み方や、くしゃみの仕方がわからなくなる、といったように、本来は自動的にコントロールされるような生理的な動きも意識しないとコントロールできないといったことがあります(オートマチックではなく、マニュアル操作)。

 
・不定愁訴がある

 例えば、月の半分は発熱がある、といったことや、季節が変わると調子が悪くなる、といったことです。過敏さや、ストレスへの弱さ、マニュアル的な身体のコントロールも原因と考えられます。

 全てのケースではありませんが、自閉症スペクトラムとてんかんとは合併しやすいことが指摘されています。

 

 

・その他

・アプリオリな不安、罪悪感

 発達障害の人は常にアプリオリな不安や罪悪感(理由のない、常にある不安、罪悪感)を抱えています。それは、独特な認知の特徴や、対象との距離が取れないことや、感覚過敏が原因であると考えられます。この世界が秩序が無く、トラウマティックで、自分にとって恐ろしい場所として感じられています。

 

・うつ状態に陥りやすい

 もともと、不安な状態にあり、ストレスを受けやすいために、うつ状態など他の精神障害を併発することもしばしばです。考え方もゼロか百かと極端にもなりやすいこともあります。

 

・社会的なこじれ(強い被害者意識、行動障害、引きこもり)

 発達障害の1次的な特徴ではないですが、社会でうまく適応できないことで社会に対して強い被害者意識を持つようになったり、行動障害(最悪の場合、特異な犯罪としてクローズアップされることも)や、引きこもりとなるなどがあります。

  異文化に来た外国人が差別されたり不遇な状況になると、被害的になり、極端な場合は反社会的な立場、テロリストになることがあるように、発達障害の方が起こす問題の多くは、発達障害そのものではなく「二次障害」、つまり発達特性を受け入れる環境がないために、情緒がこじれたり、戸惑ったり、気に病んだりすることで生じるのです。ただ、目に見えない”社会”や”世間”といったものを漠然と恨むというのは苦手です。

 

・虐待の加害者になることも

 児童虐待(パワハラなども)の加害者には、発達障害、知的障害、精神障害も多いとされます。子どもともうまく愛着が形成されず、子どもに対しても自他未分のまま非常に残酷な対応をしたり、社会性が身に付いていないままに親となりネグレクトを行ったりすることがあります。

 

 

 

大人の発達障害かどうかを判断する具体的なポイント

 発達障害はかなり広範な特徴があります。人によっても様々です。そのため、上記で挙げたすべての特徴が当てはまるとは限りません。また程度も軽い思いがあります。より具体的に区別するためのポイントをまとめてみました。(宮岡等、内山登起夫「大人の発達障害ってそういうことだったのか」等による)

 

・子どものころから、発達障害と思われる症状が見られたか?

 大人の発達障害というのは、成長する中で見逃されてきた特徴が現在の環境で不調として現れていると考えられます。そのため、子どものころからそうした特徴(3つ組と感覚過敏)があったかどうかがまず一番のポイントとなります。周囲と合わずにいじめられた経験が多いといったことも参考になります。

 もし、子どもの頃は普通に遊んでいたし、目立った症状はなかったといった場合は、ストレスや環境からくる適応障害、あるいはトラウマによる発達障害様の症状である(大人の発達障害ではない)と考えられます。

 

・自分で意識しないと人のことを察したり、直感的に理解できない

 定型発達の場合は、本人が意識しなくても他者をあたかも写し取るように理解します。まさに「直感的に」理解します。発達障害の場合は、学習して人を理解するようになります。ここが大きな違いです。

 ですから、「空気が読めないし変わっているから発達障害かも」と思っても、単に過剰適応すぎたり、緊張しすぎて考えすぎて、場にうまく対応できていないだけかもしれません(発達障害ではない)。空気が読めない、と言われて悩んでいる人には発達障害ではなく、人が気になりすぎて逆にうまく動けない人は多いです。

 

・相手の立場に立つことが苦手

 発達障害でも学習して相手の気持ちを推測することができますが、直感的に相手の立場に立つことができない場合は発達障害が疑われます。

 

・ノンバ―バルな態度が平板、あるいは大げさで不自然

 表情が硬い、声のトーンが平板、しぐさが乏しい、あるいは、しぐさが大げさといった場合は疑われます。大げさな場合は、単に頭で「こうしたほうがいい」と学習しておこなっているので不自然な感じになっています。男性はわかりやすいですが、女性の場合は自然にふるまえるケースも多く、見分けることが難しいとされます。

 

・(対等な)仲のいい友達や、ボーイフレンド、ガールフレンドがいるか?

 成人でいないと答えて、子どものころからもいない場合は疑われます。また、「いる」と答える場合でも、例えば、男性で相手が母親のように保護してくれていて対等の関係ではない、といった場合は発達障害が疑われます。

 

・社会生活能力の乏しさ

 年齢や知的能力に比して、社会生活能力がいじる敷く乏しい場合も発達障害が疑われます。ゴミ出しや洗濯の仕方がわからない。上司・先輩、後輩への言葉遣いの区別が上手くできない。著しく常識を欠いた、場をわきまえない行動。空気が読めない。段取りやスケジュールが組めない、など 本人に自覚がない場合も多い。

 

・感覚過敏がある

 上記で書いたような光や音、接触に敏感であることや、特定の銘柄しか食べないといったような偏食があるといった場合も疑われます。

 

・極端にものが片づけられない、といった問題がある

 片づけが極端に苦手で、部屋がゴミ屋敷になっているような場合は、ADHDなどが疑われます。

 

・親族に発達障害と思われる人がいる

 発達障害は遺伝性が強い症状です(遺伝がすべてではありません)。そのため、親族に、発達障害と思われる場合は、可能性が高くなります。

 

 

 

ニセの”発達障害”

 「私は発達障害かも?」と本人は不安になっていますが実はそうではないケースも多いです。特に、人に気をつかいすぎる、緊張しすぎるために対人関係でうまくいかない。ミスが多い。仕事で成果が上がらない、段取りが組めない、といったケースは、俗に考えられる発達障害の症状がみられるためにもしかしたらと考えてしましますが、実はこれらは発達障害というよりは、ストレスやトラウマからくる症状と考えられます。

 特に、周りから「あなたは、気をつかえない」と言われているケースでは、本当に気をつかえていないためではなく、気をつかいすぎて空回りしていたり、モラハラなどで相手が意図的に悪く評価していたり、といったケースが考えられます。

 単に、人とうまくいかない、仕事ができない、といったことでは「発達障害」とは言えません。子どもでも、人間関係がうまくいかない、勉強できない、多動が見られる、ということでは判断できず、家庭の状況なども詳しく見ないといけません。

 こうしたケースは多く見られ、(人に関心がない)発達障害のむしろ対極にある症状(過剰適応、過緊張、心理的支配、など)と考えられます。こうした場合はカウンセリングやトラウマケアを行う必要があります。

 トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服

 

 

 

不適切な環境が生む余裕の無さが発達障害様状態を生む

 虐待を受けると発達障害様状態が生じることが知られています。杉山登志郎教授は精神発達遅滞、自閉症スペクトラム、ADHD・学習障害に次ぐ「第四の発達障害」と呼んでいます。最近は、「発達性トラウマ症候群」と呼ばれることもあります。

 精神科医の岡田尊司氏も、愛着障害になると発達障害用状態を生むことから、発達障害が増えている要因を愛着障害によるものではないかとしています。

 →関連する記事はこちら

 「「愛着障害」とは何か?その症状・特徴と治療、克服のために必要なこと」

 

 完全には明らかになっていませんが、不適切な環境が、元々ある発達障害的な要素を浮かび上がらせて、さらに不適切な反応を呼びこむ、ということもありますし、元々発達障害的な要素を持つ人は愛着の形成が遅れるため、周囲から不適切な扱いをされる要因にもなる、といったことが考えられています。

 私たちも、睡眠不足や栄養不足の状態に置かれたり、過剰なストレス下に置かれるとイライラしたり、ピリピリしたりして、普通の自分で入られなくなる経験をしたことがあると思います。
 その時、冷静に段取りが組めなくなったり、人にあたったり。目の前の仕事に精一杯で一度に複数の仕事をこなせなくなったり。まさに発達障害の特徴とされるような状態になります。余裕の無さが、元々ある私たちの凸凹を浮かび上がらせることになるのです。

図にすると下記のようなイメージです。

発達凸凹

 余裕のある時は凸凹は目立たないが、余裕の無い時は凸凹は浮かび上がる。

 

 

 

発達凸凹は発達する~それぞれのスタイルで成熟していく

 発達凸凹とは非定型であることもありますが、もう一つの特徴は、「遅れている」ということです。ですから、「発達障害は治らない」というのは間違いで、それぞれのスタイルで遅れて発達してくるものであるという側面もあります。
 
 実際に、幼いころに自閉症、発達障害とされた人でも社会で活躍されている方はたくさんいらっしゃいます。幼いころのまま、症状が固定されているということはありません。

 精神科医の神田橋條治氏は「発達障害は発達する」と呼んでいます。年齢とともに発達していき、それぞれに成熟していくのです。

 「大器晩成」「晩熟」と呼ばれる人たちも、ある意味で発達が遅れてきている人たちだとも言われています。

 適切な環境を選択し、また成熟して適応できれば、それはもはや「障害」ではないのです。何度も繰り返しますが、発達障害は誰にでもあるものです。

 ただし、ADHDやLD(学習障害)は、歳とともに自然と改善されていくことが多いことに比べて、ASD(自閉症スペクトラム障害)の場合は、放っておくと、深刻になっていくことが多いとされます。適切な支援が求められます。

 

 

 

難しい悩みの背景にある発達凸凹

 発達の視点で見なおした場合に、改善が進む例を幾つか挙げさせていただきました。

・パーソナリティ障害

 いわゆる人格が未熟(発達が遅れている)という観点からは、パーソナリティ障害も発達の障害という側面がありますが、パーソナリティ障害などの場合は、意図して相手を振り回したり、コントロールしようとしますが、発達障害の場合は本人が意図せずに相手を困らせてしまっています。また、親子関係がしっかりしていて愛着が安定しているケースでは、パーソナリティ障害は見られないために、発達障害が疑われます。

⇒「パーソナリティ障害の特徴とチェック、治療と接し方の7つのポイント

 


・統合失調症様状態

 統合失調症は、妄想や幻聴、自我障害といったことが特徴とされます。自分を責める声が聞こえたり、訳の分からない妄想を信じこんだり、自分と他人との境界が曖昧になったり。実は、こうしたことは発達障害など他の障害によっても生じることがわかっています。

 最近は、統合失調症患者の3~7割で発達障害が見逃されているのでは?とも指摘されています。
 
 統合失調症と発達障害による統合失調症様状態との鑑別のポイントとして以下の様な点が挙げられています。

 ・統合失調症患者はある意味自分の世界があり安定的。発達障害の場合は向上心があり不安定。
 ・親族に発達障害の人間がいるかいないか。
 ・統合失調症は話すことは得意なことが多く、発達障害の場合は書くほうが得意。
 ・統合失調症では幻覚、幻聴が続くが、発達障害ではフラッシュバックや感覚過敏によるもので一時的であったり、過去のことにこだわっているだけや(過去に言われた悪口)、普通の人が聞こえない音に敏感に反応しているだけであることが多い。声の主も聞くたびに変わることがある。

 ・妄想も、妄想ではなくファンタジーである。妄想の定義は「訂正不能な確信」、基本的に状況に応じて揺らがない。ファンタジーの場合は状況によって揺らいだり、変化する。
 ・発達障害の場合は環境が変わると症状が改善する。
 など

 統合失調症でも、“発達”の観点で見直されていく可能性があります。

⇒「統合失調症の症状や原因、治療のために大切なポイント

 

 

・強迫性障害

 発達障害の特徴として、過剰なこだわりが挙げられます。
 それが強迫性障害と同様の症状となることがあります。
 単なる強迫障害だと思っていると実は発達障害的な要素が背景に存在することがしばしばあります。
 行動の枠組みを構造化するなどの対処で改善されていきます。

⇒「強迫性障害を克服するために知っておきたい9つのこと~原因、症状、チェック

 

 

・ひきこもり、不登校

 不登校やひきこもりも半数近くが発達障害によるものではないかと指摘されています。
 発達障害を理解した上で対応しないと登校しても適応できずまた不登校となってしまったり、
 家に居続けると今度は通常のケースよりも登校させることが困難となります。

 本人の空間や時間を確保して、引きこもる時間を区切るなど、構造化することで改善される場合があります。

⇒「ひきこもり、不登校の真の原因と脱出のために重要なポイント

 

 

・うつ病

 自閉症スペクトラム障害の2割で併存するとされます。
 なかなか治らないうつ病や、非定型なうつ病の場合は発達障害が背景にあることが考えられます。
 発達特性を考慮した環境調整で改善されることがあります。

⇒「うつ病の真実~原因、症状を正しく理解するための10のこと

 

 

・双極性障害

 発達障害でも、要求水準が高まり、自分の能力以上のことをさせられると急にはしゃいだり。言語表現が乏しいために、すぐに行動化してしまったり。舞い上がってしまったり。ADHDの落ち着きのなさによるものであるなど、双極性障害の躁と紛らわしいものがあります。躁の現れ方が短時間である場合は発達障害かもしれません。

  ⇒「双極性障害(躁うつ病)の治療と理解のために大切な4つのポイント

 

・トラウマ・PTSD、愛着障害(不適切な養育環境、虐待)

 発達障害と間違われる症状がトラウマ・PTSD、愛着障害です。第四の発達障害ともいわれますが、後天的な影響で発達障害様の症状が現れるものです。また、過剰適応や過緊張の結果、人とうまくやり取りができない、段取りが組めない、といった問題が現れることがあります。

  ⇒「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服

  ⇒「「愛着障害」とは何か?その症状・特徴と治療、克服のために必要なこと」

 

 

・治療が積み上がらないケース

 これは長年臨床に携わっていれば経験し、悩まされる問題です。
 治療していて、ある程度順調に来ても、少し改善が停滞したり、上手く行かなくなると、「全然変わっていない」といって治療が振り出しに戻ってしまう、といったケースです。

 これは、発達障害の特徴で、時間が連続しておらず全てが「今」としてとらえられるため、「今」がダメなら全てダメといった極端な考えになってしまうのです。

 さらに、現れている不調も環境に対する反応性のものであるために、状況が悪くなるとぶり返してしまう。
治療が積み上がらずに援助する側も困惑してしまうことになります。

 

 

 

"発達”を視野に入れた悩みの解決

 発達の視点でその人が抱える“厄介な”悩みを解決するために大切なことは、その人本来の特性は何かを考えて、特徴が発揮できる方向に解決していく、ということです。

 そのためには、

 ・外的な環境調整(環境の選択や構造化)
 ・内的環境の調整と二次障害の除去 

 をおこなっていきます。

 

・外的な環境調整(環境の選択や構造化)

 外的な環境調整とは、その人の特徴に合う環境づくりを支援することです。無理に努力して、難しい環境で頑張ろうとすることは自尊心を傷つけるだけです。

 実は、私たちも、成長する中で知らず知らずのうちに環境調整を行っています。例えば、「自分は計算が苦手だから、文系に進もう」とか、「自分は絵が得意だから美術の専門学校に進もう」とか、「体育が得意だから、スポーツのコーチになろう」とか、就職活動の時にも、「自分に合う社風の会社を探そう」といったように自分に合う環境を探して、進路を決めています。
 もし、合わなければ、環境に適応できず退職に追い込まれたり、気に病んだりします。

 まずは、自分にあった環境を選択するようにアドバイスすることが大切です。

 そして、その人の認知の特徴にあわせて日常生活を構造化することも大事です。例えば、スケジュールを決めたり、行動の範囲を明確にしたりすると戸惑いもなくなることが多いです。仕事でも曖昧なものではなく、作業内容が明確になったものだと活躍できるようになります。

 

・内的環境の調整と二次障害の除去

 内的環境の調整と二次障害の除去とは、これまで無理解のために傷ついてきたことによる情緒のこじれ、その人が内面化しているトラウマを除き、不適切な常識や規範を修正して、余裕を取り戻すことです。

 人間は、生まれてくる中で常識や規範を内面化して内的な環境を作っていきます。ただ、生まれてくる中で、虐待やいじめなど不適切な環境によるトラウマがあると、本人の中では常に過酷な精神的環境に囲われている状態になります。
 
 私たちも逆境に陥ると、自分のマイナス部分ばかりが出てしまうことがありますが、まさにそのような状況です。

 内的環境を調整して、余裕を取り戻していくと発達凸凹は目立たなくなり、社会性は向上し、その人本来の才能が発揮されるようになります。

 →関連する記事はこちら

 「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服」

 

・内省を求める精神療法は不向き

 アスペルガー障害、自閉症といった”真に”発達障害の場合は、意識中枢における言語の役割が定型発達と異なります。自身の体験を言語で意味づけたり、対象化したりということが苦手です。そのため、内省を求める精神療法には適しておりません。基本的には、環境調整が主で、適応を促す具体的な行動変容を行うことが適しています。

 

 

 

最後に

 “発達”という観点は、これからの心理臨床には無くてはならないものになるとされます。発達凸凹は人間であれば誰にでも存在します。すべての人、すべての悩みの背景に”発達”の要素が存在します。
 ご自身についても自身でどういった発達凸凹があるのか少し意識を向けてみると、悩みを解決するために必要な自己理解が進んでいくように思います。

 

 

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(参考)

 青木省三、村上伸治「大人の発達障害を診るということ」
 杉山登志郎「発達障害の子どもたち」
 杉山登志郎「発達障害のいま」
 備瀬哲弘「大人の発達障害」
 本田秀夫「自閉症スペクトラム障害が分かる本」
 平岩幹男「自閉症スペクトラム障害」
 神田橋條治ほか「発達障害は治りますか?」

 神田橋條治「神田橋條治 医学部講義」
 杉山登志郎「子ども虐待という第四の発達障害」
 ドナ・ウィリアムズ「ドナ・ウィリアムズの自閉症の豊かな世界」

 広沢正孝「「こころの構造」からみた精神病理 広汎性発達障害と統合失調症をめぐって」

 ローナ・ウィング「自閉症スペクトル」

 テンプル・グランディン「自閉症の脳を読み解く」

 田中千穂子ほか「発達障害の心理臨床」

 杉山登志郎「発達障害の豊かな世界」

 ニキリンコ「俺ルール!」

 ニキリンコ「自閉っ子、こういう風にできてます!」

 千住淳「自閉症スペクトラムとは何か?」

 宮岡等、内山登起夫「大人の発達障害ってそういうことだったのか」

 内海健「自閉症スペクトラムの精神病理」

 高橋和巳「消えたい 虐待された人の生き方から知る心の幸せ」

 

 

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