近年、注目されてきている発達障害、アスペルガー障害は奥が深く、正しく理解しようとするにはなかなか難しいテーマです。当センターでは、前回に続き、医師の監修のもと公認心理師が、発達障害、アスペルガー障害を深く理解できるようにご紹介してまいります。よろしければご覧ください。
<作成日2019.9.21/更新日2023.2.6>
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この記事の執筆者みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師) 大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など シンクタンクの調査研究ディレクターなどを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら |
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この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
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管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考に記述しています。
可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・大人の発達障害かどうかを判断する具体的なポイント
・ニセの”発達障害”
・不適切な環境が生む余裕のなさが発達障害様状態を生む
・発達凸凹は発達する~それぞれのスタイルで成熟していく
・難しい悩みの背景にある発達凸凹
・"発達”を視野に入れた悩みの解決
・最後に
(3/4)にもどる
[(3/4)のもくじ]
・発達障害(自閉症スペクトラム障害)の特徴
・社会性の障害
・コミュニケーションの障害
・イマジネーションの障害
・その他
大人の発達障害かどうかを判断する具体的なポイント
発達障害はかなり広範な特徴があります。人によってもさまざまです。そのため、上記で挙げたすべての特徴が当てはまるとは限りません。また程度もさまざまです。より具体的に区別するためのポイントをまとめてみました。(青木省三、村上伸治「大人の発達障害を診るということ」(医学書院)等による)
・子どものころから、発達障害と思われる症状が見られたか?
大人の発達障害というのは、成長する中で見逃されてきた特徴が現在の環境で不調として現れていると考えられます。そのため、子どものころからそうした特徴(3つ組と感覚過敏)があったかどうかがまず一番のポイントです。周囲と合わずにいじめられた経験が多いといったことも参考になります。
もし、子どもの頃は普通に遊んでいたし、目立った症状はなかったといった場合は、ストレスや環境からくる適応障害、あるいはトラウマによる発達障害様の症状である(大人の発達障害ではない)と考えられます。
・自分で意識しないと人のことを察したり、直感的に理解できない
定型発達の場合は、本人が意識しなくても他者をあたかも写し取るように理解します。まさに「直感的に」理解します。発達障害の場合は、学習して人を理解するようになります。ここが大きな違いです。
ですから、「空気が読めないし変わっているから発達障害かも」と思っても、単に過剰適応すぎたり、緊張しすぎて考えすぎて、場にうまく対応できていないだけかもしれません(発達障害ではない)。空気が読めない、と言われて悩んでいる人には発達障害ではなく、人が気になりすぎて逆にうまく動けない人は多い。
・相手の立場に立つことが苦手
発達障害でも学習して相手の気持ちを推測できますが、直感的に相手の立場に立つことができない場合は発達障害が疑われます。
・ノンバ―バルな態度が平板、あるいは大げさで不自然
表情が硬い、声のトーンが平板、しぐさが乏しい、あるいは、しぐさが大げさといった場合は疑われます。大げさな場合は、単に頭で「こうしたほうがいい」と学習しておこなっているので不自然な感じになっています。男性はわかりやすいですが、女性の場合は自然にふるまえるケースも多く、見分けることが難しいとされます。
・(対等な)仲のいい友達や、ボーイフレンド、ガールフレンドがいるか?
成人でいないと答えて、子どものころからもいない場合は疑われます。また、「いる」と答える場合でも、例えば、男性で相手が母親のように保護してくれていて対等の関係ではない、といった場合は発達障害が疑われます。
・社会生活能力の乏しさ
年齢や知的能力に比して、社会生活能力がいじる敷く乏しい場合も発達障害が疑われます。ゴミ出しや洗濯の仕方がわからない。上司・先輩、後輩への言葉遣いの区別がうまくできない。著しく常識を欠いた、場をわきまえない行動。空気が読めない。段取りやスケジュールが組めない、など 本人に自覚がない場合も多い。
・感覚過敏がある
上記で書いたような光や音、接触に敏感であることや、特定の銘柄しか食べないといったような偏食があるといった場合も疑われます。
・極端にものが片づけられない、といった問題がある
片づけが極端に苦手で、部屋がゴミ屋敷になっているような場合は、ADHDなどが疑われます。
・親族に発達障害と思われる人がいる
発達障害は遺伝性が強い症状です(遺伝がすべてではありません)。そのため、親族に、発達障害と思われる場合は、可能性が高くなります。
ニセの”発達障害”
・トラウマからくる症状
「私は発達障害かも?」と本人は不安になっていますが実はそうではないケースも多い。特に、人に気をつかいすぎる、緊張しすぎるために対人関係でうまくいかない。ミスが多い。仕事で成果が上がらない、段取りが組めない、といったケースは、俗に考えられる発達障害の症状がみられるためにもしかしたらと考えてしまいますが、実はこれらは発達障害というよりは、ストレスやトラウマからくる症状と考えられます。
・過剰適応
特に、周りから「あなたは、気をつかえない」と言われているケースでは、本当に気をつかえていないためではなく、気をつかいすぎて空回りしていたり、モラハラなどで相手が意図的に悪く評価していたり、といったケースが考えられます。
・人とうまく行かない、仕事ができない、だけではわからない
単に、人とうまくいかない、仕事ができない、といったことでは「発達障害」とは言えません。子どもでも、人間関係がうまくいかない、勉強できない、多動が見られる、ということでは判断できず、家庭の状況などもくわしく見ないといけません。
こうしたケースは多く見られ、(人に関心がない)発達障害のむしろ対極にある症状(過剰適応、過緊張、心理的支配、など)と考えられます。こうした場合はカウンセリングやトラウマケアを行う必要があります。
不適切な環境が生む余裕のなさが発達障害様状態を生む
・発達性トラウマ症候群
虐待を受けると発達障害様状態が生じることが知られています。杉山登志郎教授は精神発達遅滞、自閉症スペクトラム、ADHD・学習障害に次ぐ「第四の発達障害」と呼んでいます(杉山登志郎「子ども虐待という第四の発達障害」(学研))。最近は、「発達性トラウマ症候群」と呼ばれることもあります。
・愛着障害
精神科医の岡田尊司氏も、愛着障害になると発達障害用状態を生むことから、発達障害が増えている要因を愛着障害によるものではないかとしています。
→関連する記事はこちら
完全には明らかになっていませんが、不適切な環境が、もともとある発達障害的な要素を浮かび上がらせて、さらに不適切な反応を呼びこむ、ということもありますし、もともと発達障害的な要素を持つ人は愛着の形成が遅れるため、周囲から不適切な扱いをされる要因にもなる、といったことが考えられています。
・睡眠不足、栄養不足、過度なストレス
私たちも、睡眠不足や栄養不足の状態に置かれたり、過剰なストレス下に置かれるとイライラしたり、ピリピリしたりして、普通の自分で入られなくなる経験をしたことがあると思います。
その時、冷静に段取りが組めなくなったり、人にあたったり。目の前の仕事に精一杯で一度に複数の仕事をこなせなくなったり。まさに発達障害の特徴とされるような状態になります。余裕のなさが、もともとある私たちの凸凹を浮かび上がらせることになるのです。
図にすると下記のようなイメージです。
余裕のある時は凸凹が目立たないが、余裕のない時は凸凹が浮かび上がる。
発達凸凹は発達する~それぞれのスタイルで成熟していく
発達凸凹とは非定型であることもありますが、もう一つの特徴は、「遅れている」ということです。ですから、「発達障害は治らない」というのは間違いで、それぞれのスタイルで遅れて発達してくるものであるという側面もあります。
実際に、幼いころに自閉症、発達障害とされた人でも社会で活躍されている方はたくさんいらっしゃいます。幼いころのまま、症状が固定されているということはありません。
精神科医の神田橋條治氏は「発達障害は発達する」と呼んでいます。年齢とともに発達していき、それぞれに成熟していくのです。
「大器晩成」「晩熟」と呼ばれる人たちも、ある意味で発達が遅れてきている人たちだとも言われています。
適切な環境を選択し、また成熟して適応できれば、それはもはや「障害」ではないのです。何度も繰り返しますが、発達障害は誰にでもあるものです。
ただし、ADHDやLD(学習障害)は、歳とともに自然と改善されていくことが多いことに比べて、ASD(自閉症スペクトラム障害)の場合は、放っておくと、深刻になっていくことが多いとされます。適切な支援が求められます。
難しい悩みの背景にある発達凸凹
発達の視点で見なおした場合に、改善が進む例をいくつか挙げさせていただきました。
・パーソナリティ障害
いわゆる人格が未熟(発達が遅れている)という観点からは、パーソナリティ障害も発達の障害という側面がありますが、パーソナリティ障害などの場合は、意図して相手を振り回したり、コントロールしようとしますが、発達障害の場合は本人が意図せずに相手を困らせてしまっています。また、親子関係がしっかりしていて愛着が安定しているケースでは、パーソナリティ障害は見られないために、発達障害が疑われます。
⇒「パーソナリティ障害の正しい理解と克服のための7つのポイント」
・統合失調症様状態
統合失調症は、妄想や幻聴、自我障害といったことが特徴とされます。自分を責める声が聞こえたり、訳の分からない妄想を信じこんだり、自分と他人との境界が曖昧になったり。実は、こうしたことは発達障害など他の障害によっても生じることがわかっています。
最近は、統合失調症患者の3~7割で発達障害が見逃されているのでは?とも指摘されています。
統合失調症と発達障害による統合失調症様状態との鑑別のポイントとして以下の様な点が挙げられています。
・統合失調症患者はある意味自分の世界があり安定的。発達障害の場合は向上心があり不安定。
・親族に発達障害の人間がいるかいないか。
・統合失調症は話すことは得意なことが多く、発達障害の場合は書くほうが得意。
・統合失調症では幻覚、幻聴が続くが、発達障害ではフラッシュバックや感覚過敏によるもので一時的であったり、過去のことにこだわっているだけや(過去に言われた悪口)、普通の人が聞こえない音に敏感に反応しているだけであることが多い。声の主も聞くたびに変わることがある。
・妄想も、妄想ではなくファンタジーである。妄想の定義は「訂正不能な確信」、基本的に状況に応じて揺らがない。ファンタジーの場合は状況によって揺らいだり、変化する。
・発達障害の場合は環境が変わると症状が改善する。
など
統合失調症でも、“発達”の観点で見直されていく可能性があります。
・強迫性障害
発達障害の特徴として、過剰なこだわりが挙げられます。それが強迫性障害と同様の症状となることがあります。単なる強迫障害だと思っていると実は発達障害的な要素が背景に存在することがしばしばあります。
行動の枠組みを構造化するなどの対処で改善されていきます。
⇒「強迫性障害を克服するために知っておきたい9つのこと~原因、症状、チェック」
・ひきこもり、不登校
不登校やひきこもりも半数近くが発達障害によるものではないかと指摘されています。
発達障害を理解した上で対応しないと登校しても適応できずまた不登校となってしまったり、
家に居続けると今度は通常のケースよりも登校させることが困難です。
本人の空間や時間を確保して、引きこもる時間を区切るなど、構造化することで改善される場合があります。
⇒「ひきこもり、不登校の真の原因と脱出のために重要なポイント」
・うつ病
自閉症スペクトラム障害の2割で併存するとされます。なかなか治らないうつ病や、非定型なうつ病の場合は発達障害が背景にあることが考えられます。発達特性を考慮した環境調整で改善されることがあります。
⇒「うつ病の真実~原因、症状を正しく理解するための10のこと」
・双極性障害
発達障害でも、要求水準が高まり、自分の能力以上のことをさせられると急にはしゃいだり。言語表現が乏しいために、すぐに行動化してしまったり。舞い上がってしまったり。ADHDの落ち着きのなさによるものであるなど、双極性障害の躁と紛らわしいものがあります。躁の現れ方が短時間である場合は発達障害かもしれません。
⇒「双極性障害(躁うつ病)の治療と理解のために大切な4つのポイント」
・トラウマ・PTSD、愛着障害(不適切な養育環境、虐待)
発達障害と間違われる症状がトラウマ・PTSD、愛着障害です。第四の発達障害ともいわれますが、後天的な影響で発達障害様の症状が現れるものです。また、過剰適応や過緊張の結果、人とうまくやり取りができない、段取りが組めない、といった問題が現れることがあります。トラウマと発達障害は相似形といってよい関係にあり、互いが互いの原因になる関係にあります。
・治療が積み上がらないケース
これは長年臨床に携わっていれば経験し、悩まされる問題です。
治療していて、ある程度順調に来ても、少し改善が停滞したり、うまく行かなくなると、「全然変わっていない」といって治療が振り出しに戻ってしまう、といったケースです。
これは、発達障害の特徴で、時間が連続しておらず全てが「今」としてとらえられるため、「今」がダメなら全てダメといった極端な考えになってしまうのです。
さらに、現れている不調も環境に対する反応性のものであるために、状況が悪くなるとぶり返してしまう。
治療が積み上がらずに援助する側も困惑してしまうことになります。
"発達”を視野に入れた悩みの解決
発達の視点でその人が抱える“厄介な”悩みを解決するために大切なことは、その人本来の特性は何かを考えて、特徴が発揮できる方向に解決していく、ということです。
そのためには、
・外的な環境調整(環境の選択や構造化)
・内的環境の調整と二次障害の除去
をおこなっていきます。
・外的な環境調整(環境の選択や構造化)
外的な環境調整とは、その人の特徴に合う環境づくりを支援することです。無理に努力して、難しい環境で頑張ろうとすることは自尊心を傷つけるだけです。
実は、私たちも、成長する中で知らず知らずのうちに環境調整を行っています。例えば、「自分は計算が苦手だから、文系に進もう」とか、「自分は絵が得意だから美術の専門学校に進もう」とか、「体育が得意だから、スポーツのコーチになろう」とか、就職活動の時にも、「自分に合う社風の会社を探そう」といったように自分に合う環境を探して、進路を決めています。
もし、合わなければ、環境に適応できず退職に追い込まれたり、気に病んだりします。
まずは、自分にあった環境を選択するようにアドバイスすることが大切です。
そして、その人の認知の特徴にあわせて日常生活を構造化することも大事です。例えば、スケジュールを決めたり、行動の範囲を明確にしたりすると戸惑いもなくなることが多い。仕事でも曖昧なものではなく、作業内容が明確になったものだと活躍できるようになります。
・内的環境の調整と二次障害の除去
内的環境の調整と二次障害の除去とは、これまで無理解のために傷ついてきたことによる情緒のこじれ、その人が内面化しているトラウマを除き、不適切な常識や規範を修正して、余裕を取り戻すことです。
人間は、生まれてくる中で常識や規範を内面化して内的な環境を作っていきます。ただ、生まれてくる中で、虐待やいじめなど不適切な環境によるトラウマがあると、本人の中では常に過酷な精神的環境に囲われている状態になります。
私たちも逆境に陥ると、自分のマイナス部分ばかりが出てしまうことがありますが、まさにそのような状況です。
内的環境を調整して、余裕を取り戻していくと発達凸凹は目立たなくなり、社会性は向上し、その人本来の才能が発揮されるようになります。
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・内省を求める精神療法は不向き
アスペルガー障害、自閉症といった”真に”発達障害の場合は、意識中枢における言語の役割が定型発達と異なります。自身の体験を言語で意味づけたり、対象化したりということが苦手です。そのため、内省を求める精神療法には適しておりません。基本的には、環境調整が主で、適応を促す具体的な行動変容を行うことが適しています。
最後に
“発達”という観点は、これからの心理臨床にはなくてはならないものになるとされます。発達凸凹は人間であれば誰にでも存在します。すべての人、すべての悩みの背景に”発達”の要素が存在します。
ご自身についても自身でどういった発達凸凹があるのか少し意識を向けてみると、悩みを解決するために必要な自己理解が進んでいくように思います。
(3/4)にもどる
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(参考)
青木省三、村上伸治「大人の発達障害を診るということ」(医学書院)
杉山登志郎「発達障害の子どもたち」(講談社)
杉山登志郎「発達障害のいま」(講談社)
備瀬哲弘「大人の発達障害」(マキノ出版)
本田秀夫「自閉症スペクトラム障害が分かる本」(講談社)
平岩幹男「自閉症スペクトラム障害」(岩波書店)
神田橋條治ほか「発達障害は治りますか?」(花風社)
神田橋條治「神田橋條治 医学部講義」(創元社)
杉山登志郎「子ども虐待という第四の発達障害」(学研)
ドナ・ウィリアムズ「ドナ・ウィリアムズの自閉症の豊かな世界」(明石書店)
広沢正孝「「こころの構造」からみた精神病理 広汎性発達障害と統合失調症をめぐって」(岩崎学術出版社)
テンプル・グランディン「自閉症の脳を読み解く」(NHK出版)
宮岡等、内山登起夫「大人の発達障害ってそういうことだったのか」(医学書院)
高橋和巳「消えたい 虐待された人の生き方から知る心の幸せ」(筑摩書房)
黒田洋一郎 木村- 黒田純子「発達障害の原因と発症メカニズム」(河出書房新社)
など