大人の発達障害・ASD(アスペルガー症候群)かどうかを判断するポイント

大人の発達障害・ASD(アスペルガー症候群)かどうかを判断するポイント

発達障害

 大人になってから「自分は発達障害、あるいはアスペルガー症候群ではないか」と悩む方は少なくありません。本記事では、自閉スペクトラム症(ASD)を考える際に確認される主なポイントと、トラウマや過緊張などによって似た状態が生じるケースについて解説します。

 ただし、これらの特徴だけで発達障害を自己診断することはできません。正式な診断は、発達歴や現在の生活状況などを含めて専門医が総合的に判断します。当センターでは、医師の監修のもと公認心理師が、その診断、判断のご紹介してまいります。よろしければご覧ください。

 

<作成日2019.9.21/最終更新日2026.10.17>

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この記事の執筆者

三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師

大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了

20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍(累計約4万部)、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。

プロフィールの詳細はこちら

   

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 ・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。

 ・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。

 ・可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

 

もくじ

・大人の発達障害・ASD(アスペルガー症候群)を判断するときに最も重要なことは?

・大人の発達障害かどうかを判断する具体的なポイント
・発達障害との区別が必要な状態

・不適切な環境が生む余裕のなさが発達障害様状態を生む

 

 →大人の発達障害、ASD(アスペルガー症候群)とは何か?その特徴については、下記をご覧ください。

 ▶「大人の発達障害、ASD(アスペルガー症候群)とは何か?公認心理師が詳しく解説」

 ▶「大人の発達障害、ASD(アスペルガー症候群)の症状、特徴~公認心理師が具体的に解説」

 

 

専門家(公認心理師)の解説

 強いストレスやトラウマの影響によって、集中しにくい、対人場面でうまく振る舞えない、過緊張になる、ミスが増えるなど、発達特性と似て見える状態が生じることがあります。実は、愛着障害、発達性トラウマによっても発達障害と類似する症状が生じることも報告されています。一方、ASDは神経発達症であり、特性は発達早期からみられます。そのため、現在の症状だけを見るのではなく、子どもの頃から社会的コミュニケーションや行動・興味の特徴がみられたか、現在のストレスやトラウマによって状態が悪化していないか、両方の可能性がないかを丁寧に確認することが重要です。
 当センターでは、元の気質の要因、そして、環境の要因とを分けて見立てを行い、現在の生きづらさにトラウマや過緊張などがどの程度影響しているのかという観点から支援を行っています。最近はグレーゾーンということも注目されていますが、より一層の見立てが大切です。その上で特徴にあった環境を選択する、必要があればトラウマケアなどによって発達過程で負ったストレス障害やハラスメントの影響を除いていくと、生きづらさはかなり改善されていきます。実際に、トラウマケアは発達障害の方にもとても効果があると感じます。

 

 

大人の発達障害・ASD(アスペルガー症候群)を判断するときに最も重要なことは?

 最も重要なのは、現在の困りごとだけではなく、ASDの特徴が子どもの頃から継続してみられたかを確認することです。ASDは発達早期からみられる神経発達症で、成人になって突然発症するものではありません。

 ただし、幼少期には環境の支えによって特性が目立たず、就職や人間関係など社会的要求が高まってから困難が明確になる人もいます。また、不安や抑うつ、ADHD、慢性的なストレス、トラウマなどでも似た困難が生じるため、一つの特徴やチェック項目だけで判断せず、発達歴と現在の状態を総合してみることが大切です。

 

 

 

大人の発達障害かどうかを判断する具体的なポイント

 発達障害はかなり広範な特徴があります。人によってもさまざまです。そのため、上記で挙げたすべての特徴が当てはまるとは限りません。また程度もさまざまです。より具体的に区別するためのポイントをまとめてみました。(青木省三、村上伸治「大人の発達障害を診るということ」(医学書院)等による)

 

・子どものころから、発達障害と思われる症状が見られたか?

 大人の発達障害というのは、成長する中で見逃されてきた特徴が現在の環境で不調として現れていると考えられます。そのため、子どものころからそうした特徴(3つ組と感覚過敏)があったかどうかがまず一番のポイントです。周囲と合わずにいじめられた経験が多いといったことも参考になります。

 ASDの特性は発達早期から存在します。ただし、幼少期には周囲の支援や環境との相性によって目立たず、進学・就職などで社会的要求が高まってから困難が表面化することもあります。

そのため、「子どもの頃に問題がなかった=ASDではない」と単純には判断できません。幼少期の対人関係、こだわり、感覚特性、集団生活での様子などを具体的に振り返ることが重要です。

 

 ▶「大人の発達障害、ASD(アスペルガー症候群)の症状、特徴~公認心理師が具体的に解説」

 
Point

 私たちの気質、体質は幼い頃から発現していると考えられます。そのため、子どもの頃から周囲との関係で継続的な困難があったかどうかも参考になります。例えば、幼い頃から周囲との関係で繰り返しすれ違いがあった、集団の中で孤立しやすかった、あまり周囲と遊ばなかった、周囲との違いからいじめを経験していた、といった対人関係や集団生活での特徴が表れていたエピソードがなかったかを確認することが大切です。※ただし、いじめを受けた経験だけで発達障害を判断することはできません。総合的に見る必要があることは言うまでもありません。

 

 

・意識しないと人のことを察したり、直感的に理解できない

 相手の表情や文脈、暗黙の意図を自然に読み取ることが難しく、経験や知識を用いて意識的に理解している場合があります。定型発達の場合は、本人が意識しなくても他者をあたかも写し取るように理解していると言われます。※一方、こうした特徴の程度には大きな個人差があります。

 

 ですから、周囲から「空気が読めない」「変わっている」と言われ、「自分は発達障害なのでは」と悩んでいても、実際には人を気にしすぎたり、過度に緊張して考えすぎたりするために、その場でうまく動けなくなっている場合もあります(発達障害ではない)。空気が読めない、と言われて悩んでいる人の中には発達障害のためではなく、人が気になりすぎて逆にうまく動けない人は多いです。

 

 

・相手の意図や気持ちを、文脈から推測することが難しいことがある

 相手の言葉の裏にある意図や、その場の暗黙のルールを読み取ることが難しい場合があります。ただし、他者への思いやりや感情的な共感がないという意味ではありません。

 

 

・ノンバーバルな表現が「平板」「大げさ」「不自然」と受け取られることがある

 表情、視線、声の調子、身振りなどの非言語的コミュニケーションが、周囲からは「表情が乏しい」「大げさに見える」「どこか不自然」と受け取られることがあります。一方、とくに成人では、周囲を観察して社会的な振る舞いを学習し、こうした特徴が目立ちにくくなっている人もいます。

 

 

・対等な人間関係を築き、維持することに継続的な難しさがあるか

 友人関係や恋愛関係を築いたり、関係を長く維持したりすることに難しさがみられる場合があります。ただし、友達や恋人がいないこと自体でASDを判断することはできません。関係の数ではなく、相互的なやり取りや距離感の調整に、子どもの頃からどのような特徴があったかを見ることが重要です。

 

 

・日常生活や社会生活の段取りに大きな困難がある

 年齢や知的能力に比べて、家事、予定管理、複数の作業の段取り、場面に応じたコミュニケーションなどに大きな困難がみられることがあります。ただし、こうした困難はADHD、不安・抑うつ、強いストレスなどでも生じるため、これだけでASDとは判断できません。

 

 

・感覚過敏がある

 光や音、接触に敏感であることや、特定の銘柄しか食べないといったような偏食があるといった場合も疑われます。

 

 

・極端にものが片づけられない、といった問題がある

 片づけが極端に苦手で、いわゆる「ゴミ屋敷」のような状態になってしまう場合には、ADHDなどにみられる実行機能の問題が背景にないか確認してみる必要があります。

 

 

・親族にも似た発達特性がみられる

 ASDやADHDには遺伝的要因が強く関係しており、親族にも似た発達特性がみられることがあります。家族や親族にASD・ADHDの診断を受けた人がいることや、似た認知・行動上の特徴がみられることは、発達歴を確認する際の参考になります。※ただし、遺伝だけで決まるわけではなく、親族にASDの人がいることだけで診断することはできません。

 

 

 

発達障害との区別が必要な状態

・トラウマからくる症状

 「私は発達障害かも?」と本人は不安になっていますが実はそうではないケースも多いです。特に、人に気をつかいすぎる、緊張しすぎるために対人関係でうまくいかない。ミスが多いです。仕事で成果が上がらない、段取りが組めない、といったケースは、俗に考えられる発達障害の症状がみられるためにもしかしたらと考えてしまいますが、こうした特徴はASDやADHDでもみられますが、不安、抑うつ、睡眠不足、過緊張、慢性的ストレス、トラウマなどでも起こることがあります。そのため、症状の形だけではなく、いつから続いているのか、どのような状況で強くなるのかを見ることが重要です。

 

・過剰適応

 特に、周りから「あなたは、気をつかえない」と言われているケースでは、本当に気をつかえていないためではなく、気をつかいすぎて空回りしていたり、モラハラなどで相手が意図的に悪く評価していたり、といったケースが考えられます。

 

・人とうまく行かない、仕事ができない、だけではわからない

 単に、人とうまくいかない、仕事ができない、といったことでは「発達障害」とは言えません。子どもでも、人間関係がうまくいかない、勉強できない、多動が見られる、ということでは判断できず、家庭の状況などもくわしく見ないといけません。

 

 こうしたケースは多く見られ、人に気を遣いすぎる、過度に緊張する、相手に合わせすぎるといった状態は、慢性的なストレスやトラウマ、愛着の問題などを背景に生じる場合があります。一方、発達障害の方が周囲に合わせるために強くマスキングしている場合もあるため、単純な二分はできません。

 

 →関連する記事はこちら

 ▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因とそのしくみ」

 

 

 

不適切な環境が生む余裕のなさが発達障害様状態を生む

・発達性トラウマ障害

 虐待やネグレクトなどの発達期のトラウマによって、注意、感情調整、対人関係、衝動性などに、ASDやADHDと似た困難が現れることがあります。杉山登志郎教授は精神発達遅滞、自閉症スペクトラム、ADHD・学習障害に次ぐ「第四の発達障害」と呼んでいます(出典:杉山登志郎「子ども虐待という第四の発達障害」(学研))。最近は、「発達性トラウマ障害」と呼ばれることもあります※正式な診断名ではありません(「第四の発達障害」も同様です)。

 

 

・愛着障害

 精神科医の岡田尊司氏も、愛着の問題によって発達症に似た対人・行動上の困難が現れるケースがあることを重視しています。これは発達障害そのものの原因を愛着の問題とするものではありません。(出典:岡田尊司「発達障害と呼ばないで」(幻冬舎新書))。

 発達特性があることで周囲とのコミュニケーションにすれ違いが生じたり、感覚過敏などへの理解が得られず、本人が強いストレスを受けることがあります。また、発達障害とトラウマや愛着の問題が併存する場合もあります。

 

 →関連する記事はこちら

 ▶「「愛着障害(アタッチメント障害)」とは何か?その特徴と症状」

 

 

・睡眠不足、栄養不足、過度なストレス

 私たちも、睡眠不足や栄養不足の状態に置かれたり、過剰なストレス下に置かれるとイライラしたり、ピリピリしたりして、普段の自分でいられなくなる経験をしたことがあると思います。

 その時、冷静に段取りが組めなくなったり、人にあたったり。目の前の仕事に精一杯で一度に複数の仕事をこなせなくなったり。集中力や段取り、感情調整などが低下し、発達特性に似た困難が一時的に強く現れることがあります。余裕のなさが、もともとある私たちの凸凹を浮かび上がらせることになるのです。

 

図にすると下記のようなイメージです。

発達凸凹

 余裕のある時は凸凹が目立たないが、余裕のない時は凸凹が浮かび上がります。

 

 

 

 →大人の発達障害、ASD(アスペルガー症候群)とは何か?その特徴については、下記をご覧ください。

 ▶「大人の発達障害、ASD(アスペルガー症候群)とは何か?公認心理師が詳しく解説」

 ▶「大人の発達障害、ASD(アスペルガー症候群)の症状、特徴~公認心理師が具体的に解説」

 

 

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(参考・出典)

 青木省三、村上伸治「大人の発達障害を診るということ」(医学書院)
 杉山登志郎「発達障害の子どもたち」(講談社)
 杉山登志郎「発達障害のいま」(講談社)
 備瀬哲弘「大人の発達障害」(マキノ出版)
 本田秀夫「自閉症スペクトラム障害が分かる本」(講談社)
 平岩幹男「自閉症スペクトラム障害」(岩波書店)
 神田橋條治ほか「発達障害は治りますか?」(花風社)

 神田橋條治「神田橋條治 医学部講義」(創元社)
 杉山登志郎「子ども虐待という第四の発達障害」(学研)
 ドナ・ウィリアムズ「ドナ・ウィリアムズの自閉症の豊かな世界」(明石書店)

 広沢正孝「「こころの構造」からみた精神病理 広汎性発達障害と統合失調症をめぐって」(岩崎学術出版社)

 ローナ・ウィング「自閉症スペクトル」(東京書籍)

 テンプル・グランディン「自閉症の脳を読み解く」(NHK出版)

 田中千穂子ほか「発達障害の心理臨床」(有斐閣)

 杉山登志郎「発達障害の豊かな世界」(日本評論社)

 ニキリンコ「俺ルール!」(花風社)

 ニキリンコ「自閉っ子、こういう風にできてます!」(花風社)

 千住淳「自閉症スペクトラムとは何か?」(筑摩書房)

 宮岡等、内山登起夫「大人の発達障害ってそういうことだったのか」(医学書院)

 内海健「自閉症スペクトラムの精神病理」(医学書院)

 高橋和巳「消えたい 虐待された人の生き方から知る心の幸せ」(筑摩書房)

 黒田洋一郎 木村- 黒田純子「発達障害の原因と発症メカニズム」(河出書房新社)

 杉山登志郎「子ども虐待という第四の発達障害」(学研)

 岡田尊司「発達障害と呼ばないで」(幻冬舎新書)

 など