阪神淡路大震災、東日本大震災、能登半島地震など地震、大雨による災害、鉄道事故などの人災など、災害は身近なもので、生涯のうちにまったく経験せずに過ごすことはまれといえるかもしれません。災害時の心のケアの知識は、誰もが身につけておく必要があります。
今回は、医師の監修のもと公認心理師が、災害時の心(ストレス、トラウマ)のケアについて整理してみました。よろしければ参考にしてください。
<作成日2016.8.5/最終更新日2024.6.8>
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この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・はじめに~災害時は、心のケアより身体のケアを意識する
・正常な反応としての災害時ストレス反応
・心理的回復のプロセス
・災害時のストレスに対処するための5つの前提
・個別の感情にどのように対処するか?
・子どもに対する接し方
・ボランティアなどの支援者や遠隔地から見守る側の心構え
→関連する記事はこちら
▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状」
地震など災害の多い日本において、災害時に生じるストレスや心のケアについて知っておくことはとても重要です。そして、本文にも記載しておりますが、特に災害発生直後に心に生じる不調の多くが体調や環境といったことからもたらされるものであることを理解する必要があります。
避難生活の長期化や日常が戻ってからもうつ状態や不安が続くといった場合には、身近な人を失ったショック、生活の見通しへの不安、災害時の対応への自責や後悔など、悲嘆やトラウマへのケア、カウンセリングを検討する必要があります。本記事では、主に災害発生直後の対応を中心にまとめています。
はじめに~災害時は、心のケアより身体のケアを意識する
災害時には、ストレスから強い不安を感じたり、うつ状態に陥ったりすることなどから、心のケアは欠かすことができません。
ただ、特に災害発生直後は、身体にかかる負担、ストレスからくるものが中心であり、私たちがイメージするカウンセリングのような“心のケア”よりも、身体のケアのほうが重要であることが多いです。
”心のケア”と考えると、大きな不幸に直面した方にどうやって声掛けするか?不用意なことを言ってしまうのではないか?と二の足を踏んでしまい、ハードルが高くなってしまいます。惨事や死別などの対応は実はカウンセラーなどの専門家でもなかなか難しいのです。
しかし、ちょっとした身体のエクササイズの提供や、睡眠、食事、といった助言であれば、少し学べば誰にでもサポートすることが可能になります。本記事で紹介した対応のポイントもほとんどが身体に関するものであることに気がつかれると思います。ご活用いただければと思います。
・災害とは何か?
災害というと、自然災害をすぐに浮かべてしまいますが、大規模な鉄道事故、飛行機の事故などの人的災害も含まれます。人的災害には、非意図的なものもあれば、テロや戦争のような意図的なものもあります。それぞれ、私たちにとっては、物心両面で強いストレスを与えるものです。
自然災害:地震、津波、台風、竜巻、噴火など
人的災害:意図的災害(テロ、戦争など)非意図的災害(大規模飛行機事故、大規模な工場の事故など)
正常な反応としての災害時ストレス反応
災害に遭遇するとさまざまな症状が見られます。これらは日常にはないもので戸惑いますが、基本的には、災害というストレスに対する“正常な”反応として生じているものです。そのため、それらを異常ととらえて無理におさえたり、すぐに除こうとする必要はありません。
<災害発生直後>
強いショックから精神がマヒします。無力感やバランス感覚、コントロール感の喪失などに襲われます。死に直面しても悲しくない、といった場合はショックからくるマヒが考えられます。これらは自然な反応です。悲しんでいないからといって、感情がない、冷たい、病的であるといったように捉えることは誤った解釈です。
<時間が経過すると>
下記のようなさまざまな症状が見られます。
・主に心理、感情面
不安
恐怖の揺り戻し
孤独感
疎外感
意欲の減退
イライラ
落ち込み
怒り
ささいなことに過敏になる
生き残ったことへの罪悪感(サバイバーズ・ギルド)
体験した出来事や感情がよみがえる(再体験)
災害を思い出すような場所や行動、話題を避ける(回避)
・主に行動面
集中困難
無気力
思考力のマヒ
混乱
短期的な記憶喪失
判断力、決断力の低下
選択肢や優先順位がつけられない
ちょっとしたことでケンカや口論となる
過激な行動
ひきこもり
社会からの孤立
子どもがえり
飲酒、喫煙の増加
・主に身体面
睡眠障害
頭痛
手足のだるさ
虚脱感
のどのしこり
筋肉痛
胸の痛み
はき気
下痢
胃腸障害
食欲不振
呼吸障害
悪寒
のぼせ
めまい
ふるえ
冷え
しびれ
免疫機能の低下(アレルギー、インフルエンザの流行など)
PTSD/ASDの主な症状と診断基準
下記の1~4の中核症状すべてが1カ月以上続いている場合にPTSDとされ、3カ月未満は急性、3カ月以上は慢性とされます。なお、1カ月未満の場合は急性ストレス障害/急性ストレス症(ASD)と診断されます。
1.侵入症状(トラウマとなった経験や感情がよみがえるフラッシュバックなど)
2.回避症状(トラウマの原因となっている出来事を回避しようとする)
3.認知や気分の陰性の変化(自分や他者、社会に対してネガティブな認識や気分を持つようになること。関心の低下。トラウマに関する記憶を想起できなくなる、など)
4.覚醒度と反応性の著しい変化(常に緊張しているような状態で、不安、不眠、集中困難、驚がく反応、イライラなど)
PTSDは、1カ月後で全体の3割が、3カ月後で1割が経験するとこれまで考えられてきましたが、最近の報告では、それよりも低いのでは、とされています。DSMの調査では3~5%とされます。(戦争のような過酷な体験でも全体の25%程度とされています。)
出典:大江美佐里「エビデンスでわかる トラウマ・PTSD診療」(じほう) など
・二次的外傷性ストレス(代理受傷)
援助者や、周囲でサポートする人が体験を聞く中で、共感の副作用として起きるものです。実際に被災していなくても、テレビを通じて自分もストレスを被る「メディア被災」、「バーチャル被災」と呼ばれる現象もみられます。
心理的回復のプロセス
各時期によっても、声掛けの仕方など対処法は変わってきます。
本記事では、主に英雄期からハネムーン期までの対処法を扱っています。
幻滅期~再建期になっても、ストレス反応が見られる場合はPTSDや気分障害などが疑われます。その際は、医療機関やカウンセリングルームに相談することが必要です。
・英雄期(災害直後)
自分や家族、地域の人たちを守るために、勇気ある行動をとる時期です。
・ハネムーン期(1週間~6カ月間)
災害をくぐり抜けて、被災者同士が強い連帯感を感じる時期です。被災地が暖かいムードに包まれます。
・幻滅期(2カ月~1,2年)
被災したことによる悲しみ、生活の不自由さなどへの我慢が限界に達して、不満が噴出する時期です。ささいなトラブルやけんかが起きたり、個々人の生活再建に力を入れることから地域の連帯感が失われていきます。
・再建期(数年間)
被災地に日常が戻り始める時期です。地域の問題へも積極的に参加することで、自分たちにも自信が戻ってきます。一方で、復興から取り残されたり、支えを失った人たちにとっては依然としてストレスの多い生活が続きます。
・PTSDとレジリエンス
ショック、ストレスを受けることと、PTSDになるということとは異なります。PTSDとは精神障害の診断名ですが、ストレスを受けて一定期間たってもさまざまな症状が回復しない状態を指します。大切なことは、すべての人がPTSDになるわけではないということです。大半のケースでは時間とともに自然と回復します。
特に、近年はレジリエンス(トラウマ、ストレスへの耐性や回復力)ということが注目されてきています。レジリエンスとは、そもそもトラウマに対しての反応が比較的少なく、影響が少ないまま経過することを指します。考えられていた以上に人間には本来持つ強さがあるということが分かってきています。また、ストレスを受けた後の回復過程についても、一様ではなく多様性があることが示されてきており、すべての人がPTSDとなる、といった考えは修正されつつあります。
人間については弱いとみるか強いとみるかは、観点によってさまざまです。両者は張り合わせといえます。例えば、人間は虐待など過酷な環境でも生き残る力がありますが、過酷な環境に適応するために身に着けた方略がのちに生きづらさを生みます。それは強さでもあり、弱さでもあります。うつ病になるのも実は過酷な環境への反応の結果として身を守り、方向転換を促す心身の強さともいえるのです。
また、PTSDの診断基準には至らなくても、災害の体験が心に影を落としている、というケースは少なくありません。PTSDかレジリエンスかといった概念からではなくその当事者の状態をありのままにみる、ということが大切です。
あらかじめ、すべての人がPTSDになると決めつけるのもよくありませんが、自分にはレジリエンスがあると過信するのも危険なことです。ストレスには適切にケアを行うことは必要です。
災害時のストレスに対処するための5つの前提
1.生じている反応は、ストレスに対する正常な反応です
感情があふれることは、正常なことです。個人の弱さや異常さの表れではありません。
2.安心感、安全感を回復することがまずケアの大前提です
3.災害や事故はすべて環境からやってきたストレス
悲惨な出来事、そしてストレスは個人に現れますが、実際はすべて環境によるものです。災害や事故も環境からやってきたストレスです。最もぜい弱な人やポイントにその自然な反応は現れます。もし、ある被災者がくじけそうならその方の責任ではなく、くじけそうな環境があり、支える環境がないためです。ストレスで眠れない、体がしんどい、というときには、自分自身がそうなっているととらえるのではなく、環境の影響が自分に現れている、と知るだけでもぐっと楽になります。 自分はある意味ストレスの通り道、パイプだと思い、環境から来たストレスは環境へと受け流す、という捉え方が必要です。
4.個人の選択、責任という観念は脇に置く
個人の選択、責任であるとか、個人が頑張らないといけない、といった観念は脇に置いてみましょう。ついつい「(あなたが)頑張りなさいよ」と声掛けをしてしまい、言葉を受けた相手はよりストレスを受けてしまいます。事実、被災者が一番ストレスに感じた声掛けは「頑張れ」だったそうです。
5.災害直後は身体のリラックスが基本
心理的なケアというと言葉や認知にアプローチするものと考えがちですが、災害直後は身体をリラックスさせる方法ほうがより効果的です。
6.災害時のストレスに対してはまずはセルフケアが原則
あまりにもつらい症状や、一定期間(6カ月程度)を経ても強い症状が残る場合は専門家のサポートを求めてください。
災害ストレスに対処する11の方法
1.深呼吸して、リラックスする
呼吸は意識と無意識にまたがる動作で、心身に安心感を取り戻すためのとても効果的な方法です。ゆっくり、深く、お腹まで深く呼吸することで、心身が安心感、安全感を感じることができます。
呼吸法などについては専門的なさまざまな方法があります。ただ、あまりそれらにとらわれる必要はありません。お腹まで深く吸って、吐く、ゆっくりと繰り返すだけで十分効果があります。その際は、体も一緒に動かしてみることです。
1.いすなどに腰を掛けて、楽にして、目を閉じて、片手は胸に、片手はお腹に当てます。
2.鼻から息を吸いお腹を膨らませます。正しくできていれば胸は膨らみません。
3.大きく息を吸い、5秒止めて、吐き切る。
4.吐ききったら5秒止めて、また吸い始める、というのを繰り返します。
5.呼吸を繰り返している間の体の動きや変化を感じます。
2.身体を動かす
心の悩みなどに対する有酸素運動がもたらす改善の効果は、かなり固いエビデンスで確認されています。有酸素運動とは、例えばウォーキングやヨガなどです。災害時に運動をすることはなかなか難しいのですが、可能であれば、安全な場所を散歩、あるいは上記のように深呼吸しながら体をほぐしてみるだけでもストレスのケアに効果が見込めます。
参考:ジョン J. レイティ「脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方」(NHK出版) など
3.スキンシップをする
あくまで相手との関係(既知かどうか、異性かどうかなど)によりますが、肩に手を置く、横に座る、ハグをするなど、自然な方法をとってください。人がそばにいるだけで安心するものですから、相手を尊重して、その場にふさわしい方法を採れば大丈夫です。
臨床心理士の堀之内高久氏がすすめているセルフスキンシップという方法もあります。
1.枕や毛布、タオル、衣類などを丸めて、抱きしめます。
2.抱きしめた腕を片方の手で、赤ん坊をあやすようにトントンとたたきます。
3.これを繰り返します。
4.自分の体験を誰かに話す。相手の話に耳を傾ける
自分が話せる範囲で結構ですから、「何があったか?」-「どのように考えたか?」-「どのように感じたか?」といったように話をするとよいでしょう。自分の中でため込まないことが原則です。ただ、トラウマに触れるようなことは無理に掘り起こす必要はありません。
5.感情はおさえず、表現する
(参考)ディブリーフィングについて
阪神大震災の頃は、救援者などがPTSDを防止するために、自らの体験をできるだけ吐き出す「ディブリーフィング」が効果的とされました。しかし、その後の研究で、安全ではない環境で無理に吐き出させることは強い身体反応を引き起こすことや、まずは、身体をリラックスさせるなどの安心、安全を取り戻すことが大切とされ、今では推奨されなくなりました。
ただ、語りたいときに自らの体験や感情を語ったり、表現したり、救援者が活動の総括として互いに経験を述べあったりすることはストレスの緩和に寄与します。常に、安全感の回復を前提として、本人のコンディションを尊重しながら、ふさわしいタイミングで行うことが大切です。
6.気分転換する
7.しっかりと栄養を取る
(参考)避難所内は禁酒が原則
急激なストレスにさらされると、お酒やたばこで紛らわせたくなります。しかし、もともとアルコール依存傾向のあった人や、そうではない人でも、アルコール依存に陥ってしまう恐れがあります。そのため、避難所などでは禁酒が原則となります。
8.できるかぎり休養や睡眠をとる
9.無理をしない
10.一人にならない
個別の感情にどのように対処するか?
<怒り>
怒りという感情はある程度発散しないと建設的な段階や心境には進めません。
そのため、まずは怒りを表現することが大切です。
(自分が怒りを感じている場合)
・人に迷惑がかからない場所で大声を出すことはとても有効です。
・その後に、悲しみや不安が出てくることがあります。その時はセルフスキンシップを行ってみましょう。
(他者が怒りを持っている場合)
・まずは怒りを発散してもらうことが大切です。
怒りを持つのも当然として肯定しましょう。
何に困っているのか?怒りを感じているのか?を聞きましょう。
怒りを否定したり、反論したり、言い返したりしないようにしましょう。
・目の前にいるあなたを攻撃しているわけではなく、状況について怒りを感じています。
挑発的な言動があっても、それに乗らないようにしましょう。
・グループを相手とする場合は、エスカレートする恐れがあります。
代表者を決めていただき、代表者とだけ話をするようにしましょう。
・怒りがある程度発散されたら、「どうなればよいですか?」と話題を問題の解決に向けるようにすると効果的です。
<悲しみ>
・基本的に、泣いたり、悲しみを十分に吐き出すことが必要です。
・周囲の人はアドバイスや声掛けは必要ありません。ただ、寄り添い、静かに横にいてあげることです。
・時間が解決してくれます。
<自責感、罪悪感(サバイバーズ・ギルド)>
・人間とは弱く、限界があります。人間に罪は過失はありません。今起こっていることは否応なく襲い掛かってきた問題です。ご自身を責める何ものもありません。実は、罪悪感、自責感も災害のように外からやってきたものです。
子どもに対する接し方~安心感、安全感を確保する
災害に対する子どもの反応は大人とは異なります。大人と比べると現状否認やまひは少ないですが、強い分離不安や幼児がえりなど直接的な反応が見られます。 大人が不安にしていると二次的に外傷を受けやすく、災害そのものへの理解も子ども独自の解釈でとらえていることが特徴です。
・なるべく一緒にいる
子どもに見られる幼児がえりとしては、駄々をこねたり、甘えたり、おねしょ、夜泣きといったことが起きます。それらは、ストレスに対する一時的なものですから、しかりつけたりするのではなく、なるべく一緒にいて、安心させてあげてください。
・栄養や休息をしっかりとる
栄養や休息はしっかりとることを心掛けてください。ただし、食欲のない時は無理に食べさせないようにしましょう。
・上手に話を聞いてあげる
子どもは自分の体験や感情をうまく表現できないことがあります。上手に質問しながら、何があって、どのように感じたのかを聞いてあげてください。ただ、子どものペースに合わせて、むりに聞き出そうとしなくてもよいです。絵を描くことなどもよいです。ただ、あくまで自発的な場合のみです。無理に絵を描かせることは、外傷記憶を想起させることになり、あまりよくないとされます。
・「ごっこ遊び」は制止せず、見守る
子どもに見られるストレス反応(フラッシュバック)として、「津波ごっこ」「地震ごっこ」が見られることがあります。遊びとしてトラウマ体験を繰り返すことで、トラウマに対処しようとする行動です。この遊びについても、「やめなさい」といって制止するのではなく、見守り、ときに大人も入り共感し、心理的な安心感を醸成することが大切です。
地震や津波に対して壊されない安全なものを遊びの中で大人が表現してあげることも、安心を生む効果をもたらすとされます。会話も絵も遊びも安全な枠組みの中で行われることが原則です。
・災害は自分のせいではないと伝える
子どもは災害について空想的なとらえ方や、自分が悪い子だったからだと考える傾向があります。災害はどのように起きるものであり、それは自分のせいではない、と伝えましょう。
・お手伝いや役割を与えることも有効
役割や仕事は気持ちを安定させます。年齢によってふさわしいお手伝いや、役割を与えることも有効です。
・事実を伝える
子どもに対しても、事実を伝えることが基本です。事実を隠すことは結局伝わってしまい、ぎこちなさやある種の不信感を生みます。家族や友達の死などについても、必ず事実を伝えてください。その際は、「星になった」とか「遠くに行った」といった婉曲ではなく、「死んでしまって、もう会えない」ということ。葬式にも立ち会わせとちゃんとお別れを伝えるようにして区切りをつけるようにしましょう。ただ、嫌がる場合などは無理をさせる必要はありません。
・ニュースなど災害の情報は時間を区切る
災害のニュースなどを長時間見せることはストレスになります。時間を区切って視聴するようにしましょう。
ボランティアなどの支援者や遠隔地から災害を見守る側の心構え
・サポートする側の心構え
援助者も、災害時には強いストレス(惨事ストレス)を受けます。
消防や警察、自衛隊などプロでも、その負担は計り知れません。
サポートをする側も下記のような心構えが大切です。
1.自分の仕事の意義や限界を把握する。無理をしない
2.支援対象との距離を適切にとる
3.交代や休息をしっかりととる。リフレッシュを図る
4.一人で抱えない。複数やチームで活動する
5.体験したことは仲間で共有する
・相手の話をどのように聞くか?
・無理に話をさせない。無理に掘り下げない。あくまで相手のペースを尊重してください
・「あなたは大丈夫」という前提を頭に浮かべておく
人間は、非言語でコミュニケーションを取り合うものです。このことを頭に浮かべて聴くだけでも、話し手の気持ちはかなりほぐれます。
・善悪の判断や評価をしない
・言葉を挟まず、聞き流す
・安心感をもって、リラックスして聴く
・カウンセラーのようにうまく聞こうと考えない
うまく聞かなければと考えると、そのことばかり考えてしまい、負担になります。リラックスして、ただ、聞き流すだけで大丈夫です。
・気の利いた上手な声掛けをする必要はない
ストレスを受けて間もない時期に必要なのは安心感を取り戻し、感情を発散させることです。気持ちを切り替えるのは、次の段階になります。災害発生の間もない時期に無理に声掛けしようとするとどうしても相手に負担となってしまいます。声をかけるとしても、「私もつらいと感じました」と自分の感情を素直に語るか、「私にできることはありますか?」といったニーズを聞き出す言葉が適切です。
・どのように声をかけるのか?
下記に掲載しているものは、SFAなどに掲載されている「避けるべき言葉」です。ご覧いただいていかがでしょうか?正直言って、医師やカウンセラーといった専門職でも、何と声をかけていいかわからなくなってしまいます。厚生労働省の委託で作られた「心的トラウマの理解とケア」という本でも、「言ってもらうと必ずうれしい言葉は残念ながら存在しない」とされています。状況や相手によって異なります。
声をかける際は、下記のことが基本になります。
・上手に声かけしようとするよりは、相手の話を聞き、気持ちを受け止めること、肯定すること。
・今心身に起きていることは、当然の反応であると伝えること。
・できることはないか、といったように相手のニーズを聞くこと。
(参考)災害直後に声をかける際に、避けるべき言葉
※以下の言葉でも状況や関係性によっては伝えても問題ない場合もあります。あまり機械的にとらえないことが大切です。
・「心的トラウマの理解とケア」に掲載されている被害を受けた人を傷つける言葉
がんばれ。
あなたが元気にならないと亡くなった人も浮かばれないですよ。命があったんだからよかったと思って。
まだ、家族もいるし、幸せなほうじゃないですか。
このことはなかったことと思ってやり直しましょう。
こんなことがあったのだから将来はきっといいことがありますよ。思ったより元気そうですね。
私ならこんな状況は耐えられません。私なら生きていられないと思います。
・SFAに掲載されている「言ってはいけないこと」
お気持ちはわかります。
きっと、これが最善だったのです。
彼は楽になったんですよ。
これが彼女の寿命だったのでしょう。
少なくとも、彼には苦しむ時間もなかったでしょう。
頑張ってこれを乗り越えないといけませんよ。
あなたには、これに対処する力があります。
彼が苦しまずに逝ったことを喜ばなくては。
我々は生き延びたことによって、もっとたくましくなるでしょう。
そのうち楽になりますよ。
できるだけのことはやったのです。
悲しまなくてはいけません。
リラックスしなくてはいけません。
あなたが生きていてよかった。
ほかには誰も死ななくてよかった。
もっとひどいことが起きたかもしれませんよ。あなたにはまだ、兄弟もお母さんもいます。
この世に起こるすべてのことは、より高い次元の存在が計画した最善の結果なのです。
耐えられないようなことは、起こらないものです。
これから、あなたが一家を背負っていくんですよ。
いつの日か、あなたは答えを見つけるでしょう。
・遠隔地から災害を見守る側の心構え~自分の日常を守る
遠隔地にいると自分も何かをしないといけないという焦燥感や、偽善者ではないかという罪悪感にかられることがあります。実際にボランティアとして出向くことが無理なくできる場合は、それもよいことです。
しかし、最も支援となるのは、同じ共同体のメンバーが自分の日常を守ることです。日常生活を平穏に送ることは、実は一番の安心となります。自分が安心感・安全感をもってできる範囲のことをするということが最も大切です。
遠隔地にいながら悲しみや怒り、罪悪感にさいなまれる場合は、「メディア被災」、「バーチャル被災」が考えられます。本記事に記したストレスケアの方法を試して、適切に対処してください。
→関連する記事はこちら
▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状」
※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。
(参考・出典)
「サイコロジカルファーストエイド(SFA)WHO版」
「災害時のこころのケア サイコロジカル・ファーストエイド実施の手引き」(医学書院)
デビット・ロモ「災害と心のケア ハンドブック」(アスク・ヒューマン・ケア)
高橋晶、高橋祥友 編「災害精神医学入門」(金剛出版)
冨永 良喜「大災害と子どもの心 -どう向き合い支えるか-」(岩波書店)
加藤 寛「消防士を救え! -災害救援者のための惨事ストレス対策講座-」(東京法令出版)
宮地 尚子「震災トラウマと復興ストレス」(岩波書店)
和田 秀樹「震災トラウマ」(KKベストセラーズ)
堀之内 高久「3・11後に心のフタが壊れてしまった人たち -「疑似被災」という病-」(産経新聞出版)
「精神療法 第45巻3号 複雑性PTSDの臨床」(金剛出版)
大江美佐里「エビデンスでわかる トラウマ・PTSD診療」(じほう)
など