【保存版】災害(震災、水害、事故など)時の心のケアと大切なポイント(上)

【保存版】災害(震災、水害、事故など)時の心のケアと大切なポイント(上)

トラウマ、ストレス関連障害

 阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震など地震、大雨による災害、鉄道事故などの人災など、災害は身近なもので、生涯のうちにまったく経験せずに過ごすことはまれといえます。災害時の心のケアの知識は、誰もが身につけておく必要があります。
 今回は、医師の監修のもと公認心理師が、災害時の心(ストレス、トラウマ)のケアについて整理してみました。よろしければ参考にしてください。

 

 

関連する記事はこちら

→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの原因と克服

 

 

<作成日2016.8.5/最終更新日2023.2.6>

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この記事の執筆者

みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師)

大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など

シンクタンクの調査研究ディレクターを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら

   

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考に記述しています。

 可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

 

 

もくじ

はじめに~災害時のケアは、”心のケア”より、身体のケアを意識する
災害とは何か?
災害を受けた直後に生じる反応~正常な反応としての災害時ストレス反応
心理的回復のプロセス

 

(下)につづく

[(下)のもくじ]

 ・災害時のストレスへの対処方法
  ・ストレスへ対処するための5つの前提
  ・災害ストレスに対処する11の方法

 ・個別の感情にどのように対処するか?
 ・子どもに対する接し方
 ・支援者の心構え

 

 

 

 

はじめに~災害時のケアは、”心のケア”より、身体のケアを意識する

 災害時には、ストレスから強い不安を感じたり、うつ状態に陥ったりすることなどから、心のケアは欠かすことができません。

 

 ただ、実は不安を感じるメカニズムは、ストレス応答系(自律神経系、免疫系、内分泌系)と呼ばれる身体の機能の不調からくるものであることから、私たちがイメージするカウンセリングのような“心のケア”よりも、身体のケアのほうが重要であることが多いです。

 

 ”心のケア”と考えると、大きな不幸に直面した方にどうやって声掛けするか?不用意なことを言ってしまうのではないか?として二の足を踏んでしまい、ハードルが高くなってしまいます。実はカウンセラーなどの専門家でもなかなか難しいのです。

 

 しかし、実際、災害時PTSDとは、ストレス応答系の失調(ストレスによる身体の失調からくるもの)ですから、ちょっとした身体のエクササイズの提供や、睡眠、食事、といった助言から誰でもサポートすることが可能になります。本記事で紹介した対応のポイントもほとんどが身体に関するものであることに気がつかれると思います。

 

 「災害時の心のケアとは身体のケアなのだ」とお知りになり、ご活用いただければと思います。

 

 

 

災害とは何か?

 災害というと、自然災害をすぐに浮かべてしまいますが、大規模な鉄道事故、飛行機の事故などの人的災害も含まれます。人的災害には、非意図的なものもあれば、テロや戦争のような意図的なものもあります。それぞれ、私たちにとっては、物心両面で強いストレスを与えるものです。

 

 自然災害:地震、津波、台風、竜巻、噴火など
 人的災害:意図的災害(テロ、戦争など)

      非意図的災害(大規模飛行機事故、大規模な工場の事故など)
      

 

 

災害を受けた直後に生じる反応~正常な反応としての災害時ストレス反応

 災害に遭遇するとさまざまな症状が見られます。これらは日常にはないもので戸惑いますが、基本的には、災害というストレスに対する“正常な”反応として生じているものです。そのため、それらを異常ととらえて無理におさえたり、すぐに除こうとする必要はありません。

<災害発生直後>

 強いショックから精神がマヒします。無力感やバランス感覚、コントロール感の喪失などに襲われます。死に直面しても悲しくない、といった場合はショックからくるマヒが考えられます。これらは自然な反応です。悲しんでいないからといって、感情がない、冷たい、といったように感じることは誤った解釈です。

 

<時間が経過すると>

 下記のようなさまざまな症状が見られます。

・主に心理、感情面

 不安
 恐怖の揺り戻し
 孤独感
 疎外感
 意欲の減退
 イライラ
 落ち込み
 怒り
 ささいなことに過敏になる
 生き残ったことへの罪悪感(サバイバーズ・ギルド)
 体験した出来事や感情がよみがえる(再体験)
 災害を思い出すような場所や行動、話題を避ける(回避)

 

・主に行動面

 集中困難
 無気力
 思考力のマヒ
 混乱
 短期的な記憶喪失
 判断力、決断力の低下
 選択肢や優先順位がつけられない   
 ちょっとしたことでケンカや口論となる
 過激な行動
 ひきこもり
 社会からの孤立
 子どもがえり
 飲酒、喫煙の増加

 

・主に身体面

 睡眠障害
 頭痛
 手足のだるさ
 虚脱感
 のどのしこり
 筋肉痛
 胸の痛み
 はき気
 下痢
 胃腸障害
 食欲不振
 呼吸障害
 悪寒
 のぼせ
 めまい
 ふるえ
 冷え
 しびれ
 免疫機能の低下(アレルギー、インフルエンザの流行など)
 

 

・PTSDとレジリエンス

 ショック、ストレスを受けることと、PTSDになるということとは異なります。
 PTSDとは精神障害の診断名ですが、ストレスを受けて一定期間たってもさまざまな症状が回復しない状態を指します。大切なことは、すべての人がPTSDになるわけではないということです。大半のケースでは時間とともに自然と回復します。

 

 特に、近年はレジリエンス(トラウマ、ストレスへの耐性や回復力)ということが注目されてきています。レジリエンスとは、そもそもトラウマに対しての反応が比較的少なく、影響が少ないまま経過することを指します。考えられていた以上に人間には本来持つ強さがあるということが分かってきています。

 また、ストレスを受けた後の回復過程についても、一様ではなく多様性があることが示されてきており、すべての人がPTSDとなる、といった考えは修正されつつあります。

 

 人間については弱いとみるか強いとみるかは、観点によってさまざまです。両者は張り合わせといえます。例えば、人間は虐待など過酷な環境でも生き残る力がありますが、過酷な環境に適応するために身に着けた方略がのちに生きづらさを生みます。それは強さでもあり、弱さでもあります。うつ病になるのも実は過酷な環境への反応の結果として身を守り、方向転換を促す心身の強さともいえるのです。

 また、PTSDの診断基準には至らなくても、災害の体験が心に影を落としてしる、というケースは少なくありません。PTSDかレジリエンスかといった概念からではなくその当事者の状態をありのままにみる、ということが大切です。

 

 あらかじめ、すべての人がPTSDになると決めつけるのもよくありませんが、自分にはレジリエンスがあると過信するのも危険なことです。ストレスには適切にケアを行うことは必要です。

 

 

・PTSD(ASD)の主な症状と診断基準

 下記の1~4の中核症状すべてが1カ月以上続いている場合にPTSDとされ、3カ月未満は急性、3カ月以上は慢性とされます。なお、1カ月未満の場合は急性ストレス障害(ASD)と診断されます。

  
 ・侵入体験(トラウマとなった経験や感情がよみがえるフラッシュバックなど)

 ・過覚醒症状(常に緊張しているような状態で、不安、不眠、集中困難、驚がく反応、イライラなど)

 ・回避・まひ症状(トラウマの原因となっている出来事を回避しようとする)

 ・否定的認知や気分(自分や他者、社会に対してネガティブな認識や気分を持つようになること)

 

 PTSDは、1カ月後で全体の3割が、3カ月後で1割が経験するとこれまで考えられてきましたが、最近の報告では、それよりも低いのでは、とされています。DSMの調査では3~5%とされます。(戦争のような過酷な体験でも全体の25%程度とされています。)
  

参考)「厚生労働省 みんなのメンタルヘルス PTSD」

 

・二次的外傷性ストレス(代理受傷)

 援助者や、周囲でサポートする人が体験を聞く中で、共感の副作用として起きるものです。実際に被災していなくても、テレビを通じて自分もストレスを被る「メディア被災」、「バーチャル被災」と呼ばれる現象もみられます。

 

 

 

 

 

心理的回復のプロセス

 各時期によっても、声掛けの仕方など対処法は変わってきます。
 本記事では、主に英雄期からハネムーン期までの対処法を扱っています。
 幻滅期~再建期になっても、ストレス反応が見られる場合はPTSDや気分障害などが疑われます。その際は、医療機関やカウンセリングルームに相談することが必要です。

 

・英雄期(災害直後)

 自分や家族、地域の人たちを守るために、勇気ある行動をとる時期です。

 

・ハネムーン期(1週間~6カ月間)

 災害をくぐり抜けて、被災者同士が強い連帯感を感じる時期です。被災地が暖かいムードに包まれます。

 

・幻滅期(2カ月~1,2年)

 被災したことによる悲しみ、生活の不自由さなどへの我慢が限界に達して、不満が噴出する時期です。ささいなトラブルやけんかが起きたり、個々人の生活再建に力を入れることから地域の連帯感が失われていきます。

 

・再建期(数年間)

 被災地に日常が戻り始める時期です。地域の問題へも積極的に参加することで、自分たちにも自信が戻ってきます。一方で、復興から取り残されたり、支えを失った人たちにとっては依然としてストレスの多い生活が続きます。

 

 

 

(下)につづく:災害時のストレスへの対処方法 など

 

 

 

関連する記事はこちら

→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの原因と克服

 

 
 
 
 

 

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(参考)

「心的トラウマの理解とケア」(株式会社じほう)

「サイコロジカルファーストエイド(SFA)WHO版」
「災害時のこころのケア サイコロジカル・ファーストエイド実施の手引き」(医学書院)
デビット・ロモ「災害と心のケア ハンドブック」(アスク・ヒューマン・ケア)
高橋晶、高橋祥友 編「災害精神医学入門」(金剛出版)
冨永 良喜「大災害と子どもの心 -どう向き合い支えるか-」(岩波書店)
加藤 寛「消防士を救え! -災害救援者のための惨事ストレス対策講座-」(東京法令出版)
宮地 尚子「震災トラウマと復興ストレス」(岩波書店)
和田 秀樹「震災トラウマ」(KKベストセラーズ)
堀之内 高久「3・11後に心のフタが壊れてしまった人たち -「疑似被災」という病-」(産経新聞出版)

「精神療法 第45巻3号 複雑性PTSDの臨床」(金剛出版)

など