当センターでも療法の一つとして採用している「FAP療法」についてその歴史やメカニズムについて公認心理師がまとめてみました。よろしければご覧ください。
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<作成日2015.11.27/最終更新日2023.2.6>
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この記事の執筆者みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師) 大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など シンクタンクの調査研究ディレクターなどを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら |
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管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考に記述しています。
可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・FAP療法とは何か?
・FAP療法の発展の歴史
・FAP療法の特徴
(下)につづく
[(下)のもくじ]
・FAP療法のしくみ、メカニズム~なぜ高い治療効果が生み出されるのか?
・どのように行われるのか?~FAP療法を用いたセッションの様子
・どのような変化があるのか?~FAP療法の効果
FAP療法とは何か?
トラウマを解消し、本来の自分になる日本発の療法
FAP療法とは、1999年に発見され、2000年に日本においてカウンセラーの大嶋信頼氏らによって確立された心理療法です。ブリーフセラピーの一つとして位置づけられています。
日本発として療法は、森田療法などがあります。多くのものは、海外発であったり、TFT、マインドフルネスなどのように海外に渡って発展してから、日本(東洋)に逆に入ってくるといったものがあります。FAP療法は、日本発で発展した数少ない療法の一つといえます。
一般的な悩みはもちろんですが、PTSDや依存症をはじめ、強迫性障害、パニック障害、統合失調症の症状の軽減など、目覚ましい効果のある画期的な療法として注目されてきました。
(参考)ブリーフセラピーとは何か?
ブリーフセラピーとは、比較的短期に悩みを解決できる現代的心理療法群の総称です(特定の療法を指しているわけではありません)。
文化人類学者グレゴリー・ベイトソンの思想や,心理療法家ミルトン・エリクソンの手法を源流としています。比較的短期に解決できることからブリーフ(短期),セラピー(療法)と呼ばれています。
参考)→「FAP療法について インサイトカウンセリング」
FAP療法の発展の歴史
・臨床現場での発見~クライアントの状態をカウンセラーが写し取る
もともとFAP療法が成立したきっかけは、カウンセラー(大嶋信頼先生)が暴露療法を用いてトラウマ治療を行っている際に、あるとき、クライアントの状態を投影してカウンセラー側の体調が変化することに気づいたことに始まります。
かつてのトラウマ治療とは、相手の本当の苦しい体験や記憶、感情を引き出し、それにカウンセラーが共感することで、トラウマを解消していくものでした。しかし、従来の方法では、つらい体験を思い出すクライアントも負担が大きく、長い時間を要する作業でした。
大嶋先生は当初ストレスによって、自分の身体が痛くなっているのと考えていましたが、ある時、来所したクライアントがドアノブに手をかけた瞬間に自分の胃が痛くなったことから、クライアントの症状を写しとるようにカウンセラーの内臓が反応していることを発見したのです。
今では、相手の状態を写し取るミラーニューロンの存在はポピュラーとなってきていますが、当時はまだそれほど知られていない中、大嶋先生は脳と脳とのつながりが実際に存在することに気づいたのです。
そして、その内臓の反応を感じながら、相手の痛みに共感することでそれまでよりも解決が早くなることを見出しました。
(参考)ミラーニューロンとは?
1990年にイタリアの脳科学者リゾラッティ博士によって発見された神経システム。リゾラッティは、サルの実験を行う中で、サルが実際の動作を行っていなくても別のサルの動作を見るだけで動作をつかさどる脳の部位が作動していることを見つけました。従来の脳科学では、視覚などを通じて相手の行動を認知することで相手の行動を理解していると考えられていましたが、ミラーニューロンの発見によって、人間は相手を自分の脳にまさに“写し取るようにして相手を理解している”ことが分かったのです。脳科学においてエポックメイキングな発見とされています。
ミラーニューロンは自動的に作動しているので、私たちも他者の感情や考えを無意識に写し取っており、クライアントと家族との間や、カウンセラーとクライアントの間でも同様の作用が生じていることが考えられます。
・FAP療法の成立~クライアントの反応を指に表して、トラウマを解消する
内臓の反応に共感することで治療につながることはわかりました。ただ、内臓の反応は非常に主観的であり、カウンセラーもうまく感じられる時もあれば、そうではない時もあります。そうしたなか、大嶋先生は経絡の流れに注目し、その終端である指にクライアントから読み取った微細な反応を表すことができるのではないか?と思いつき、弛緩しながら指を振り、どの指が反応するかによって、クライアントの状態を表すにするようにしました。
さらに、反応した指の爪の付け根を順番に押さえることで、クライアントの悩み、症状が消失することが分かったのです。
初期のFAP療法は、カウンセラーもクライアントも指を押さえる方法で、セッションを行っていました。
治療の効果は目覚ましく、これまでは何回もかけて解決しなければならなかった問題が、短時間で解消されて行きました。当初からFAP療法の研修会などに参加されている医師も、その高い効果に驚くようになります。
こうして、FAP療法はスタートすることになりました。
・難しいケースを解決するために、進化を続ける
FAP療法の発展の歴史は、まさに難ケースに対する挑戦の歴史でもあります。
目覚ましい効果で多くのクライアントの悩みが解消する一方で、FAP療法を用いても解消できない難しいケースもありました。
そうした難しいケースについても改善するべく、FAP療法は進化を続けていきました。主観や予断を挟まずに、クライアントをまさに先生として、その訴えに即して発展してきました。
最初は単純に症状に対して行っていたものが、脳の構造や、影響物質、見捨てられ不安や怒りなど心理的な背景にあるもの、果てはシステムズアプローチのように家族からの支配の影響などに拡大していきました。
認知行動療法(暴露療法)を身体に投影するような形でスタートし、生体(脳、影響物質、遺伝子)、心理(怒り、見捨てられ不安)、社会(支配)というまさに臨床心理学で本質とされることをなぞるように作られてきたといえます。
その方法も、当初はクライアントも一緒に指を押さえていたものが、カウンセラーが言葉を発するだけの方式に変わっていきました。最近では、ホルモンや、遺伝子に関する言葉を暗示として唱えていただく方法(ver.α)も加わっています。
今この現在も、FAP療法は進化を続けています。
FAP療法の特徴
FAP療法には、いくつもの特徴がありますが、主なものとしては以下の4つが挙げられます。
1.トラウマだけではなく、従来の心理療法では対応が難しいさまざまな症状でも解決できる
FAP療法がカウンセラーやクライアントを魅了する一番のポイントは、難しい症状でも解決してくれる、ということです。
なかおさまらなかった子どもの多動が数回で収まる。難しいとされる統合失調症の幻覚や妄想の軽減や人格の統合が数回のセッションで行われた。重い自閉症の症状が改善した、など特に初期の気鋭な頃に起こった伝説的なエピソードを耳にします。
当センターで一番最初にFAPの効果を目の当たりにした例をご紹介させていただくと、恋煩いで悩む女性から相談を受けて、「男性と一緒の空間にいることができない。この居ても立ってもいられない感じをどうにかしたい。」という訴えに対して、20分程度の簡易なFAP療法を提供したことがあります。その頃は、また聞きで聞いた方法を訳も分からず試してもらったという程度です。
すると、わずか20分にも関わらず、その女性は相手の男性のことを想像しても何も感じなくなったとおっしゃったのです。しばらくして、あるパーティーの席でその女性が平気な顔で男性が同席しているのを目にしました。恋煩いというと簡単なようでなかなか解決に手こずる訴えです。これがはたして従来の心理療法で20分で解消できるでしょうか?傾聴中心のカウンセリングであれば、セッションが何回も必要になるかもしれません。その効果の速さと深さには驚かされました。
(参考)どのような悩み、症状に効くのか?
いわゆるPTSD(心的外傷後ストレス障害)のみならず、各種の神経症(悩み)、気分障害、不安障害(パニック障害)、強迫性障害、摂食障害、依存症、解離性障害、人格障害、吃音、愛着障害、発達障害圏の疎通性や適応の向上、ADHD症状の緩和、統合失調症の症状の緩和、など、広範な事例が挙げられています。
(統合失調症などの難しいケースは、医師の管理のもと慎重な対応が必要です)
2.クライアントに負担が少なく、比較的短期間で効果が期待できる
クライアントは基本的に、過去のつらい記憶(トラウマ)を思い出したり、負担になる作業をしていただくことはありません。ただ、カウンセラーの指示に従って、キーワードを唱えたり、カウンセラーの言葉を聞いているだけで結構です。クライアントに負担が少なく、上記にも書きましたように比較的短期間で効果が狙えることが特徴です。
(参考)Q&A:副作用はありますか?
基本的に副作用はありません。セッションの後に眠気を感じたり、といったことがある程度です。副作用がなく安全であることもFAP療法の特徴の一つです。
3.クライアントが自分自身を肯定、受容する枠組みを提供している
従来のカウンセリングは、個人の主体性を尊重するがゆえに、その副作用として“心理偏重”“個人還元主義”が問題となってきました。“心理偏重”“個人還元主義”とは、簡単に言えばすべてを本人の認識(心理)の在り方に責任を帰する枠組みを言います。「あなたは人生の主体であり、自分で自分を変えることができる≒今の悩みもあなたの責任だ」という前提が暗にあります。
そのため、カウンセリングを続けるたびにクライアントは責められているようで苦しく、環境に問題があるようなことまで個人に還元されてきました。そのため、途中でカウンセリングを続けられずにドロップしてしまうことも珍しくありませんでした。
一方、FAP療法では悩みの原因を、心理(心的外傷)、社会(家族など周囲からの支配の影響)、生物(ホルモンや遺伝などの体質、気質)といったように、本人が意志でコントロールできる外側にあるととらえています。※心理についても、心的“外”傷というように個人の意思のコントロール外にあるものと考えます。
このようにFAP療法は、悩みの原因をニュートラルにとらえる枠組みがあり、これまでのカウンセリングではアプローチが難しかった社会、生物的要因まで解決するための方法があります。
そのため、クライアントは、周囲から負わされた無用な罪悪感を免責され、自分を肯定し、安心してセッションを受けることができます。
4.現在も進化を続けている
いったん成立するとその方式が固定されてしまう療法も多い中、発展を続ける拡張性もFAP療法の特徴の一つです。 FAP療法では、それぞれの発展段階を「バージョン」と表現しています。
16年の歴史を経て、2019年11月現在では、下記のようになっています。
FAP療法の全体像
1.トラウマケア
FAP療法ver.13(トラウマを解消したり、支配の影響を切る)
2.暗示の言葉
FAP療法ver.α(遺伝子コードを唱える)
→「大嶋信頼「あなたを困らせる遺伝子をスイッチオフ! ―脳の電気発射を止める魔法の言葉」(青山ライフ出版)」
3.“心”に聞く
FAP療法ver.χ(無意識にアクセスする)
→「大嶋信頼「無意識さんの力で無敵に生きる」(青山ライフ出版)」
4.その他
Immerse in Fear Technique(恐怖に浸る)※この方法は、最近はほとんど用いられていません。
→「大嶋信頼「それ、あなたのトラウマちゃんのせいかも?」(青山ライフ出版)」
(下)につづく:FAP療法のしくみ、メカニズム
⇒関連する記事はこちらをご覧ください。
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参考
吉本雄史/中野善行「無意識を活かす現代心理療法の実践と展開」(星和書店)
ジャコモ ・リゾラッティ「ミラーニューロン」(紀伊國屋書店)
マルコ イアコボーニ 「ミラーニューロンの発見」(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
大嶋信頼「言葉でホルモンバランス整えて「なりたい自分」になる!」(青山ライフ出版)
大嶋信頼「ちいさなことにイライラしなくなる本」(マガジンハウス)
大嶋信頼「「すぐ不安になってしまう」が一瞬で消える方法」(すばる舎)
大嶋信頼「あなたを困らせる遺伝子をスイッチオフ! ―脳の電気発射を止める魔法の言葉」(青山ライフ出版)
大嶋信頼「「いつも誰かに振り回される」が一瞬で変わる方法」(すばる舎)
大嶋信頼「それ、あなたのトラウマちゃんのせいかも?」(青山ライフ出版)
大嶋信頼「ミラーニューロンがあなたを救う」(青山ライフ出版)
大嶋信頼「「ずるい人」が周りからいなくなる本」(青春出版社)
大嶋信頼「小さなことで感情をゆさぶられるあなたへ」(PHP研究所)
大嶋信頼「その苦しみはあなたのものではない」(青山ライフ出版)
大嶋信頼「「自己肯定感」が低いあなたが、すぐ変わる方法」(PHP研究所)
大嶋信頼「誰もわかってくれない「孤独」がすぐ消える本」(PHP研究所)
大嶋信頼「消したくても消せない嫉妬・劣等感を一瞬で消す方法」(すばる舎)
大嶋信頼「【DVD】人間関係の悩みから解放! 他人に振り回されずにリミットレスに生きる!」(すばる舎)
大嶋信頼「【DVD】不安を一瞬で消し去る最強メソッド」(すばる舎)
大嶋信頼「【DVD】「孤独」を消す最強メソッド」(すばる舎)
大嶋信頼「【DVD】人間関係の悩みから解放!嫉妬・劣等感を一瞬で消して本当に自由になる!」(すばる舎)
大嶋信頼「「自分を苦しめる嫌なこと」から、うまく逃げる方法」(光文社)
大嶋信頼「「お金の不安」からいますぐ抜け出す方法」(総合法令出版)
大嶋信頼「「本当の友達がいなくてさびしい」と思ったとき読む本」(角川書店)
大嶋信頼「「気にしすぎてうまくいかない」がなくなる本」(あさ出版)
大嶋信頼「スルースキル - “あえて鈍感"になって人生をラクにする方法 -」(ワニブックス)
大嶋信頼「「やる気が出ない」が一瞬で消える方法 」(幻冬舎新書)
大嶋信頼「いつも「ダメなほうへいってしまう」クセを治す方法」(廣済堂出版)
大嶋信頼「リミットレス! あなたを縛るリミッターを外す簡単なワーク 」(飛鳥新社)
大嶋信頼「「断れなくて損している」を簡単になくせる本」(宝島社)
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