いじめ(学校、職場、地域など)の対策と解決方法~公認心理師が解説する

いじめ(学校、職場、地域など)の対策と解決方法~公認心理師が解説する

ハラスメント・生きづらさ家族の問題(機能不全家族)

 今回は、医師の監修のもと公認心理師が、いじめの対策と解決方法についてわかりやすくまとめてみました。よろしければ、ご覧ください。

 

<作成日2017.4.14/最終更新日2024.3.15>

 ※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。

 

この記事の執筆者

三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師

大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了

20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。

プロフィールの詳細はこちら

   

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 ・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。

 ・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。

 ・可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

もくじ

いじめの対策と解決方法~予防も含めて必要なこと

 

 

 →いじめの原因とメカニズムについては、下記をご覧ください。

 ▶「いじめ(学校、職場、地域など)の原因とメカニズム~公認心理師が解説する

 

専門家(公認心理師)の解説

 いじめに対する対策は、様々な事例からある程度の処方箋が明らかになっています。問題は、学校や家庭がその処方箋や解決策を実行できるかどうかです。長引く場合、学校や家庭の機能不全が生じている場合があります。機能不全が生じている場合は、外部の手を借りる必要があります。NPOや警察といった外部の目が入ることで状況が大きく改善することがあります。転校と言った形で環境を変えることも必要な手段の一つとなります。学校中心で記述しておりますが、ケースに応じて「職場」「地域」などと読み替えて参考になさってください。

 いじめで負ったトラウマについてトラウマケアなどで解消することができます。

 

 

いじめの対策と解決方法~予防も含めて必要なこと

・特定の共同体やつながりを強制しない枠組みつくり

・もっともらしい理念の強制から全体主義が生まれる

 上記にも書きましたが、秩序が揺らいでいる中で、造られた単一の人工的な理念や秩序を全体に覆いかぶせて、それに従うことが正しいとすることを「全体主義」と言います。現代においては、残念ながら、「家族」「友だち」「夫婦」「性別」「学校」「会社」「地域」そして「愛着」「絆」などがまさにその全体主義に該当するような作用を及ぼしてしまっています。

 

 それぞれは、私たちにとってはなくてはならないものです。ただ、人によってあり方はさまざまですし、時代によっても急速に変化します。その多様性や時代性を考慮せず、頭の中でこしらえた「こうあるべき」「こうであるにちがいない」という幻想を他者に強制するようになると、たちまち「全体主義的(ハラスメント的)」なものとなってしまいます。

 たとえば、「ナチズム」「ファシズム」などは危険なものだということは誰でもわかりますが、「家族」「友だち」「学校」というと、表面で語られる家族愛、友情、教育愛などに惑わされて、その問題点はなかなか感じ取ることはできなくなってしまいます。

 

 

・機能としてとらえなおす

 ではどうすればいいのか?、
 一つには、社会学では「ゲマインシャフト(共同体組織)」と「ゲゼルシャフト(機能体組織)」という分け方が参考になります。上記で上げた項目の多くは「ゲマインシャフト(共同体組織)」に分類される項目です。※会社などは西洋では、「ゲゼルシャフト(機能体組織)」ですが、日本では会社共同体として凝集性の高い性質があります。

 「家族」「友だち」「夫婦」「性別」「学校」「会社」「地域」「愛着」「絆」なども、そこで語られる共同体的なつながりを当たり前のことととらえずに、機能としてとらえなおすということです。そして、その機能が満たされていなければ、そこからは離れて機能を満たす新たなつながりをつくることをちゅうちょしない、そして社会もそのことを承認して後押しするということを当たり前とすることです。

 

 例えば、「学校」の機能とは、本来、「産業的身体の育成(将来、社会に出て働けるような知識や規範を身に付けること)」です。子どもも10人いれば10人ともあり方が異なります。最近では、非定型発達という考えが提唱されるようになっているように、想像以上に人間は異質なもので、単一の秩序、規範では収まることはできません。

 社会学者など専門家の多くも、従来のように学校共同体を基本単位としては捉えずにクラス制度を解体して、大学のように科目ごとに選択して受講したりする必要や多様な教育機会の拡充が唱えられています。

 

 

・社会化には「適応」と「抵抗」の両方が必要

 それでは集団生活での所作が身につかないではないか、いじめというマイナス要素があってもそれに耐えることで社会で生き抜く力が身に付くという反論も予想されます。しかし、科目単位でも、集団での活動や作業は当然ながら発生します。さらに、集団規範が、場面ごとに構成するメンバーによって異なる、自分の役割や位置づけも変化する、ということを経験することはとても重要です。

 

 環境に合わせて変化を対応すること、相対化する視点を身に着けられることは社会で生き抜くうえで必須です。集団生活での所作とは、「適応」と同時に「抵抗(離脱したり、相対化したりする方法)」も身につけなければ完成とは言えないのです。

 

 

・「家族」「会社」「地域」「友だち」「夫婦」も機能としてとらえなおす

 「家族」「夫婦」等も同様で、当たり前のものとせずに、例えば、「安心安全な環境の提供」「社会で生きていくための導きや支え」といった“機能”が満たされていないならば、その家族には問題があり、その環境からは離れる、あるいは専門家のサポートが必要となります。

 

 「会社」「地域」「友だち」「夫婦」等も同様です。表面的な言説に幻惑されず、「機能体」としてとらえることで、その本質(エートス)が見えてきます。

 

 

 

・多様なつながりを大切にする~絆ユニット

・つながりが限定されると病的な依存が生まれる

 依存症の研究などでも示されている定義ですが、人間はさまざまなものに依存しながら生きています(健全な依存)。しかし、限られたものにしか依存できなくなると、そこから離れることは死を意味するため、過度なしがみつきが生まれます(病的な依存)。これが依存症のメカニズムとされるものです。

 
 学校や会社でも、「それしかない」「そこからの脱落したら、もう他ではやっていけない」というように追い込まれると、群生秩序を生み、人間は容易に不全感に陥ってしまいます。会社の不祥事や追い込まれての自殺など、「なぜ、そんなおかしなことが起きるのか」ということはまさにこうしたことを背景にしています。

 

 いじめについても、いじめる側がなぜ全能欲求によってその場をコントロールしたくなるのかと言えば、「依存する場が学校しかない」からです。専門家も指摘するように、例えば、予備校や自動車教習所でいじめはおこりません。なぜなら、所属する場所はほかにもあるからです。

 

 

・「絆」ブームへの懸念

 震災後も「絆」ということを強調することに称賛と同時に懸念も示されました。それは、多様であるはずのきずなを、社会がノリで決めた「こうあるべき」という単一のありかたを全体に覆いかぶせることへの懸念です。

 

 

・多様なつながり(絆ユニット)

 絆は一つではありません。多種多様なものであり、さまざまなものとの接続と離脱をくりかえりながら人間は生きていきます。最近では「愛着」という概念がブームとなっていますが、それが絶対視され「それしかない」となった瞬間に全体主義的(ハラスメント的)となり、私たちを苦しめます(実際、「愛着」とは多様な人間のきずなの一つにすぎません)。

 

 社会学者の内藤朝雄氏はこうした多様なつながりを「絆ユニット」と呼んでいます。

 

 

・暴力など違法な振る舞いには法的な措置を

 暴力など違法な振る舞いには、法的な措置を採ることをちゅうちょする必要はありません。
特にこれまで学校や家庭、職場について、出席停止や警察を介入させることについてはルール違反とするような空気がありました。しかし、いじめは、合理的な計算も同時に働いているために、警察沙汰になると割が合わないとなれば途端に収まることがわかっています。

 
 また、ブラック企業やモラルハラスメント、パワーハラスメントなどこれまではなかなかわかりにくかった問題についても、社会で問題視されることで、問題の基準や規制が生まれて、再発防止につながります。

 

 

・コミュニケーションによるいじめへの対処法は

 コミュニケーションを操作したり、無視したり、といった微妙な問題を当事者が現場で対処することは容易ではありません。中長期的には、上にも書きましたように、特定の秩序を強制しないような仕組みづくりが必要です。私たちも、本当の絆とは何か?多様性とは何か?といったことへの理解が広まることも大切です。

 

・相談窓口への相談

 短期的には、いじめ(ハラスメント)があまりにもひどい場合は、学校であれば親、教師、会社であれば人事、労組、外部の相談窓口などの適切な機関に相談することです。その際は普段から細かな記録を取っておくことは大切です。もちろん、相談相手自体が秩序に巻き込まれているため、適切な対処が期待できない場合もたくさんあります。セカンドハラスメントと言いますが、訴えた側が悪いとされることもあります。そのため、最終的には、環境を変える必要も覚悟する必要があります(本来は、出ていくべきは加害者であることは言うまでもありませんが)。

 

参考)NPOなどへの相談

 いじめ問題を扱うNPOも活動しているため、学校の対応が十分ではない場合に相談することも有効です。

  いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン

  NPO法人ストップいじめ!ナビ   など

 下記のような本も参考になります。

  阿部 泰尚「保護者のためのいじめ解決の教科書」(集英社新書)

 

 

・環境を変えることをためらわない

 ただ、環境を変えることは「逃げ」「弱さ」ではないということです。私たち人間は本来、適切な環境を選択しながら、自己を形成していくものだからです。従来信じられてきたように、進路が単線で自分に合わなくても我慢して歩いていかなければならないといった考えは本来の在り方ではありません。いじめのある環境からはちゅうちょなく離れることです。

 

 

 

 →いじめの原因とメカニズムについては、下記をご覧ください。

 ▶「いじめ(学校、職場、地域など)の原因とメカニズム~公認心理師が解説する

 

※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。

(参考)

森口朗「いじめの構造」(新潮社)
土井隆義「友だち地獄 「空気を読む」世代のサバイバル」(筑摩書房)
土井隆義「つながりを煽られる子どもたち」(岩波書店)
土井隆義「キャラ化する子どもたち」(岩波書店)
菅野 仁「教育幻想」(筑摩書房)
菅野 仁「友だち幻想」(筑摩書房)
宮台真司他「学校が自由になる日」(雲母書房)
森田洋司「いじめとは何か 教室の問題、社会の問題」(中公新書)
菅野盾樹「いじめ 学級の人間学」(新曜社)
内藤朝雄「<いじめ学>の時代」(柏書房)
内藤朝雄「いじめの社会理論 その生態学的秩序の生成と解体」(柏書房)
内藤朝雄「いじめの構造」(講談社)
内藤朝雄「いじめと現代社会」(双風社)

内藤朝雄「いじめの直し方」(朝日新聞社)

鈴木 翔「教室内(スクール)カースト」(光文社)

金子 雅臣「職場いじめ―あなたの上司はなぜキレる 」(平凡社)

中井久夫「いじめの政治学」『アリアドネからの糸』(みすず書房)

阿部 泰尚「保護者のためのいじめ解決の教科書」(集英社新書)

など