摂食障害とは何か?拒食、過食の原因と治療に大切な7つのこと(下)

摂食障害とは何か?拒食、過食の原因と治療に大切な7つのこと(下)

依存症身体に現れる不調家族の問題(機能不全家族)

 

 過度に体重を制限したり、過食がやめられなくなったり、など多彩な症状を見せる摂食障害。女性に顕著に見られる症状です。「ダイエットのし過ぎ」など誤解も多い。
 前回につづき、医師の監修のもと公認心理師が、摂食障害についてまとめてみました。

 

<作成日2016.4.13/最終更新日2023.2.6>

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飯島慶郎医師  

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

 

この記事の執筆者

みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師)

大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など

シンクタンクの調査研究ディレクターなどを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考に記述しています。

 可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

 

もくじ

摂食障害の特徴
摂食障害の克服、治療のために必要な7つのこと
治療方法

 

 

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摂食障害の特徴

<メインとなる症状>

痩せ願望・肥満恐怖 

 痩せることを強く求め、標準体重よりも低いにもかかわらず、少しでも体重が増えることに強い恐怖感をもっています。

 

・ボディイメージの障害 

 自身が痩せていることを認識していません。逆に太っていると認識し、自分の外見を否定的に捉えています。

 

・食行動の異常 

 多彩な行動があります。全く食べない場合もあれば、特定のものを食べない。食べるタイミングが決まっている、など。チューイングや、食べずに部屋に食べ物を溜め込む食物貯蔵なども見られます。

 

・過食

 過食も多彩な症状がありです。家では食べないが、外ではいっぱい食べる。お菓子ばかり食べる。こっそり隠れて食べる。家族に買いに行かせる、など

 

・無月経

 栄養が少なくなった状態で生じる生体防御反応と考えられています。身体の自然な反応ですから、無理に薬で戻さなくても構いません。拒食が治ると正常化していきます。体重が戻っても生理が戻らない場合は、産婦人科にかかるよいでしょう。

 

・パージ/代償行為

 特に過食が見られる場合は自発性嘔吐、下剤や浣腸の使用、極端な運動・ダイエット、絶食が行われます。
 

 

 

<派生、あるいは背景となる症状:精神的な症状>

・病識の欠如 

 自分が摂食障害であるという認識を持っていないことが多い。特に拒食の場合は病識の欠如が多く見られます。これは、本人が不安に対処しようとして始めた行為であることと、症状が進むと低栄養によって判断がつかなくなるということも病識の欠如の原因です。過食が見られるようになると、自分の意志によらない症状であるため、病識をもち、医療機関に駆け込むことがあります。

 

・完璧主義

 摂食障害の患者は小さい頃から完璧主義の傾向があり、きっちりとしていて、優等生が多いとされます。

 

・対人関係の障害

 対人関係を築くことが苦手で、対人不信があります。成長する中で培われた対人関係における問題や、発達障害の関与なども疑われます。

 

・他者の不在

 本人にとっては自分の中だけで完結するような孤独の中で痩せることに取り組んでいるような感覚があります。実際、摂食障害に陥ることで人間関係も少なくなって、心から信頼できる人は限られるようになります。

 

・抑うつと不安

 肥満への不安以外にも対人関係への不安や、抑うつ、自己嫌悪や無力感が生じることがあります。

 

・自尊心の低下

 摂食障害の背後には自尊心の低下があるとされます。過食の場合は、過食行動や嘔吐など代償行為によって自尊心をさらに低下させています。

 

・症状による縛られ感

 摂食障害の症状が進むことで、決まったものを食べないといけない、という義務感、強迫感が生じます。

 

 

<派生、あるいは背景となる症状:身体的、行動面での症状>

・まきこみ

 人に食べさせたがったり、人の食べ物を気にしたり、人が自分よりも食べないと不安になったりすることがあります。 

 

・過活動

 拒食で痩せ過ぎの場合に生じるもので、せかせかと動きまわったり。一日に何度も体重計に乗ったりします。 

 

・問題行動

 摂食障害には万引きが良く見られます。摂食障害の6割が経験するとされます。過食になる際に生じるとされ、欲しいものを我慢できなくなってしまうために起きるとされます。過食症の排出型の患者に多いとされます。

 

・運動強迫

 強迫的に運動を続ける。

 

・自傷行為

 摂食障害では自傷行為も多く、約3割が経験するとされます。

 ⇒「リストカット、自傷行為の本当の心理、原因・理由とその対応

 

・日常生活での制限、対人関係での制限

 他人と食事ができなくなることで交友範囲が狭まったりなどさまざまな制限を受けるようになり、背景にある対人関係の障害がさらに促進される事にもなります。

 

・骨粗しょう症

 無月経によって、骨粗しょう症にもなりやすくなります。思春期であれば身長などの発育が遅れることになります。

 

・睡眠障害

 摂食障害を発症すると睡眠が浅くなります。睡眠薬もあまり効果がありません。脳の過興奮が伴っているためと考えられます。

 ⇒「心の健康に影響する不眠症・睡眠障害~原因とチェック、克服のための10のポイント

 

参考)「厚生労働省 みんなのメンタルヘルス 睡眠障害」

 

・低代謝による「寒さ」

 代謝が下がり低体温になるため普通以上に寒く感じることがあります。

 

・低栄養によるけん怠感

 血糖値の低下や、肝機能障害、不眠などの影響でけん怠感を感じることがあります。

 

・高い死亡のリスク

 不整脈による突然死や自殺などがあげられます。全体の7%で見られます。

 

・その他

 貧血、肝機能障害。感染症のリスクの増大。便秘。脱毛。脳の萎縮。集中力の低下。吐きだこ。嘔吐の際の胃酸で歯が溶けて失われる。

 

 

 

摂食障害の克服、治療のために必要な7つのこと

 摂食障害は身体や行動に症状が現れますが、“摂食の障害”ではなく「不安、自己不信」を特徴とする心の病です。根底にある、不安を解消していくことが必要です。
 
 そのポイントをまとめてみました。

 

1.摂食障害は「こころの病気」と捉える

 摂食障害とは、”摂食の障害”ではなく、不安や自信のなさを主とする「こころの病気」です。本人の人格や意志の問題ではありません。病気であるという認識を本人も家族も持つことが大切です。本人を責めたりする必要はありません。摂食障害を本人の個性として擁護する考え(プロアナ)もありますが、基本的に病として捉えることが必要です。

 

 その際、人格の問題など本人を異常だとはとらえないことです。自分は人格に問題があると周囲から思われて安心が得られるはずがありません。摂食障害は、本人が環境によって否応なくそうした状態に陥っていることを理解して関わることが大切です(問題が外にあると適切に理解することを、外部化といいます)。

 

 

2.本人の自信のなさ、不安に寄り添い、安心を提供する

 摂食障害は、自信のなさや無価値観、人生をコントロールできないという不安や、対人関係のモヤモヤから生じています。克服のためには、根底にある不安を解消することが必要です。

 その不安というのは、単に気のせいや本人の思い込みといったような軽いものではありません。本人にとっては寄る辺なき不安に襲われています。本当は周囲に頼ったりして、自己愛を育てていくわけですが、それが困難になっているのです。

 そこへ、無理にしっせきしたり、説得したり、強引に食べさせようとすることは泳げない人から浮き輪を奪うようなものです。安心感をを与えつつ、早期に「摂食障害専門」の医療機関に相談することが大事です。摂食障害の治療は極めて専門性が高く、通常の精神科医・心療内科医では有効なかかわりができるケースはまれです。特に摂食障害の専門治療をうたっている病院につながる必要があります。県境を越えて病院にかかることも躊躇しないでください。それくらい専門性の高い病気です。

 

 

3.「痩せること」以外に安心できること、自信が持てるものを見つける

 摂食障害は、不安から「痩せていることにしか」価値を見いだせない、自信が持てないという症状です。そのため不安を解消すると同時に、痩せていること以外に価値を見いだせるようにすることが必要です。

 

 

4.過食や拒食症状を直接コントロールしようとしない

 拒食や過食についてコントロールしようとしたり、周囲が注意しても全く意味がありません。拒食や過食は、未熟な自己治療として生じているともいえます。それらがあるから、生きていることができている、とも言えるわけです。症状は、摂食障害の根本が解決していけば自然と回復していきます。症状には目を向けず、根底にある不安などの問題に寄り添うことが大切です。

 

 家族や治療者も症状について答えたり、患者と同じ土俵に乗らない様にすることが大切です。説得を試みたり、脅したり、不安にさせたりすることは避けなければなりません。
 ※実際の治療にはさまざまな方法があります。

 

 
5.病気についてしっかりと説明し、治療するかしないかは本人の判断に委ねる

 パンフレットや書籍などで摂食障害とは何かを伝えて、病識の醸成を促すことが大切です。
 その上で、このままの状態で良いこと、悪いことを書き出してもらい、良いことが多ければそのまま経過を見て、悪いことが多ければ治療を受けるかどうかを確認して、その上で治療に取り組むことが大切です。

 

 

6.治ること、治った後のことを過度に期待し過ぎない

 治す、ということに過度にこだわることは回復の妨げとなります。痩せていたとしても、その人なりに社会生活を送ることができる、幸せを見つけることができる状態が目標とすることが適切で、一方的な価値観を押し付けることは有益ではありません。拒食、過食を完全になくすことを目的にしてしまうとむしろ回復は遅れます。

 

 特に周囲が治ったあとに、難関大学への合格や有名企業への就職、結婚、など過度に期待がある場合も回復の妨げとなります。焦らず、粘り強く、治らなくても良い、といったくらいの感覚で取り組むことが大切です。

 

 

7.環境を調整する

 家族や、学校、職場でも正しい認識をもち、ストレスを除くことはとても大切です。もし、ストレスの多い職場や学校なのであれば、異動や転職、転校を考えることも必要です。

 

 

 

 

治療方法

・薬物療法

 摂食障害は心の病ですが、摂食障害そのものを治す薬というものはありません。過食などの結果で生じつ抑うつ状態や併存するうつ病などには抗うつ剤を投与します。過食などの衝動をおさえるためにSSRIが有効とされていますから、場合によっては薬物療法も補助的に用いられます。
 ただ、過食は、拒食の結果生じている身体の正常な反応ともいえます。そのため、過食を薬でおさえるということが有効かどうかは本人の状態などを見ながら慎重な判断が必要です。

 

参考)「SSRI 日経メディカル」

 

 

・精神療法

 摂食障害では、基本的に精神療法が主になります。行動療法、認知行動療法、対人関係療法、トラウマ療法(ソマティック・エクスペリエンシング・アプローチ、ハコミセラピー、トラウマ解放エクササイズ、ブレインジム、TFT、フラワーエッセンス、ストレス応答系へのアプローチFAP療法、など)があります。

 

 行動療法とは、目標を達成したらそれに応じて行動制限を弱めたりといった学習を利用した方法です。認知行動療法は非常にポピュラーですが、認知を変えていくものです。対人関係療法は、重要な他者との関係を焦点に当てて取り組んでいきます。特に過食に対して効果があるというエビデンスが上がっています。

 

 治療者によって対応方針には差があります。いずれの方法を取るにしても、表面的な認知や行動の修正ではなく、本人の自信のなさ、寄る辺のない不安といったものを解消して、自己愛を育んでいく必要がある、ということは共通しています。

 

参考)入院が必要なケース

 著しく痩せていたり、栄養が低下している場合、低体温、脱水症状など身体に陥っている場合などは、入院を積極的に検討する必要があります。特に標準体重の75%以下になるとさまざまな不調が現れます。
 入院が必要な場合でも、最初は強制的ではなく、しっかりとした説明によって本人の理解を促すことが理想ですが、生命の危機が差し迫っている場合には本人の意思に反してでも、躊躇なく法に沿って強制入院をさせることが求められます。強制入院も含めた臨機応変な危機介入ができる状態を常に確保することが、この疾患の高い死亡リスクから本人を守るために必要なのです。

 

 

 

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(参考)

日本摂食障害学会「摂食障害治療ガイドライン」(医学書院)
滝川一廣・小林隆児・杉山登志郎・青木省三=編「そだちの科学25号 摂食障害とそだち」(日本評論社)

富澤 治「裏切りの身体-「摂食障害」という出口」(エム・シー・ミューズ)
松木邦裕「摂食障害というこころ」(新曜社)
水島 広子「焦らなくてもいい!拒食症・過食症の正しい治し方と知識」(日東書院出版)

水島 広子「摂食障害の不安に向き合う」(創元社)

など