今回は、医師の監修のもと公認心理師が、インターネット・ゲーム依存症(Internet addiction/Game addiction)についてまとめてみました。
「依存症」全体については下記の記事を参考にしてください。
「依存症(アルコール等)とは何か?真の原因と克服に必要な6つのこと」
<作成日2016.4.19/最終更新日2023.2.6>
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この記事の執筆者みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師) 大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など シンクタンクの調査研究ディレクターなどを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら |
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この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考に記述しています。
可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・はじめに~インターネット依存、ゲーム依存を疑うその前に
・インターネット・ゲーム依存の社会
・若者のインターネット・ゲーム依存の有病率
・インターネット・ゲーム依存症のチェックと診断
・依存症のタイプ
・インターネット・ゲーム依存症の特徴(派生する問題)
・併発する問題
(下)につづく
[(下)のもくじ]
・インターネット・ゲーム依存症のメカニズム
・インターネット・ゲームへの依存を促進する仕組み
・インターネット・ゲーム依存症の原因(背景)
・インターネット・ゲーム依存を治療(予防)するための8つのポイント
はじめに~インターネット依存、ゲーム依存を疑うその前に
本記事にてまとめておりますが、インターネット依存、ゲーム依存の背景には家庭や現実での居場所のなさが原因であることが多い。つまり、インターネット依存、ゲーム依存そのものは原因そのものではなく、居場所のなさに対する「未熟な自己治療」という現象です。
・まずは背景にある問題に目を向ける
当センターでも、ご相談を寄せられるケースのほとんどは、周囲やご家族が根本的な問題を直視しないままに、「ネット依存」「ゲーム依存」という目先の問題や”当人の異常さ”に原因を求めてしまっているものです。
「家族がゲーム依存なんです」と、カウンセラーがくわしくお話をうかがってみると、実はご家族は本人と膝を交えて本音の話し合いをしたことがなかったり、過干渉すぎたり等、背景があるにもかかわらず、そのことに目を向けていないことが多い。
・現象にとらわれない
家に引きこもってゲームばかりしている、仕事(学校)に行かない、勉強しないからといって、たちまちネット依存、ゲーム依存ということではありません。
引きこもって他にやることが無ければ、時間をつぶしたり、やり場のないエネルギーをインターネットやゲームばかりになるのはある意味当たり前です。それが、真のゲーム依存、インターネット依存か、といえばそうではないことがわかります。
インターネット依存、ゲーム依存はあくまで現象に過ぎないともいえます。「家に閉じこもってゲームばかりしているから、ゲーム依存に違いない!」と表面的な現象に飛びついたりしないでください。まずは、ご本人の考えをゆっくり聴く機会を持ち、「背景にあるもの」、「問題の全体像」を先入観なく明らかにすることが大切です。
そのためにも、本記事をご参考いただければ幸いです。
インターネット・ゲーム依存の社会
IT革命以後、PCからのインターネットの利用者は2015年4月の時点で、日本全体で約5,000万人、スマートフォンユーザーは4832万人と言われます。スマートフォンのゲームはヒット作になると1000万ダウンロードを超えるほどです(ファミコンのヒット作のドラクエⅢの売上が約380万本といわれますから、その拡がりの大きさがわかります)。
・スマホの登場
かつて、パソコンやゲームは据え置き型で家や職場で行うものであったのが、今はいつでもどこでも簡単にネットやゲームを楽しむことができるようになりました。
その副作用として、いつもスマホを触っていないと落ち着かない、メール着信、LINEなどSNSをチェックしている。暇を見つけてはオンラインゲームを行う。さらに歩きながらスマホを触るという、「歩きスマホ」への注意を呼びかけるまでになっています。
一方で、リアルな人間同士のつながりは希薄になりつつあり、全く人と話さず日常生活を送ることも珍しくありません。
・海外では国家レベルでの対策が始まっている
そんな中、インターネットやゲームへの依存症が問題となっています。日本においては、インターネット・ゲーム依存の患者は500万人とも言われています。中国や韓国など、海外では国家レベルでの対策に乗り出すなど深刻な問題となっています。
ただ、いつもネットばかりしている人を見て道徳的に問題視されているといったレベルではなく、薬物依存と同様に、脳のあり方を変え、認知機能や社会性を損なうことが明らかになってきたからです。
「21世紀のアヘン」と呼んで警鐘を鳴らす専門家もいます。
・誰もが依存に陥りやすい
明らかに違法である薬物とは異なり、インターネット、ゲーム自体は合法であり、インターネットそのものは現代社会になくてはならないインフラでもありますから、簡単にアクセスでき、病識も持ちづらく、対応が難しい依存症とも言えます。現代は、簡単に誰もがインターネット、ゲームに依存しやすい社会と言えます。
若者のインターネット・ゲーム依存の有病率
各国での調査の基準の差もあるが、インターネットの普及やゲーム産業の発展の違いなどによって有病率には国ごとに差があります。
日本8.1%(2013年)
韓国12.4%(2010年)
中国、アメリカ、イギリス、ノルウェイなども8%台、
ドイツ、オランダなどは3%台。
となっています。日本では、中高生のうち約50万人が依存症に陥っていると推計されています。
インターネット・ゲーム依存症のチェックと診断
・インターネット・ゲーム依存症の基準(DSM-Ⅴより)
DSM(米国精神医学会の診断マニュアル)の第5版で「インターネット・ゲーム障害」という名称で、インターネット・ゲームへの依存症について基準が定められています。この基準では、「ゲーム」に焦点があたった記述となっていますが、その他のサービスについても同様とお考えください。
以下の項目に5つ以上に該当する場合、依存症と考えられます。
1.インターネットゲームへのとらわれ
2.インターネットゲームが取り去られた際の離脱症状
3.耐性、すなわちインターネットゲームに費やす時間が増大していくことの必要性4.インターネットゲームにかかわることを制御する試みの不成功があること
5.インターネットゲームの結果として生じる、インターネットゲーム以外の過去の趣味や娯楽への興味の喪失
6.心理社会的な問題を知っているにもかかわらず、過度にインターネットゲームの使用を続ける7.家族、治療者、または他者に対して、インターネットゲームの使用の程度についてウソをついたことがある
8.否定的な気分を避けるため、あるいは和らげるためにインターネットゲームを使用する
9.インターネットゲームへの参加のために、大事な交友関係、仕事、教育や雇用の機会を危うくした、または失ったことがある※いわゆるインターネットの使用や、インターネットを利用したギャンブルの利用は除きます。
・スマホ依存に関する基準(S-スケール)
韓国政府が作成したスケールです。文化的にも近い日本でも利用できます。※成人の場合は、学業や成績についての記述は仕事に置き換えて仮にチェックしてみてください。
1.スマートフォンの使いすぎで、学校の成績が下がった
2.家族または友人と一緒にいるより、スマートフォンを使っている時のほうが楽
3.スマートフォンを使えなくなったら、我慢するのが大変そう
4.スマートフォンの利用時間を減らそうとしたが失敗した
5.スマートフォンの利用で、計画したこと(勉強、宿題または塾の受講等)をするのが難しい
6.スマートフォンを使えないと、世界が終わったような気がする
7.スマートフォンがないと、落ち着かずイライラする
8.スマートフォンの利用時間を自分でコントロールできる
9.いつもスマートフォンを使っていると指摘されたことがある
10.スマートフォンがなくても不安にならない
11.スマートフォンを使っているとき、やめなくてはと思いながらも続けてしまう
12.家族または友人からスマートフォンを頻繁に、または長時間使いすぎだと不満を言われたことがある
13.スマートフォンの利用は、今している勉強のじゃまにならない
14.スマートフォンを使えないとき、パニック状態になる
15.スマートフォンの長時間利用が習慣化している
1~7,9,11,12,14,15の答えは下記の点数で総得点を計算します。
まったく当てはまらない=1点
当てはまらない=2点
当てはまる=3点
とても当てはまる=4点
8、10,13の答えは下記の点数で計算します。
まったく当てはまらない=4点
当てはまらない=3点
当てはまる=2点
とても当てはまる=1点
<判定>
※実際の判定は、要因別に計算したものも加味しますが、個々ではシンプルにするために、総得点だけとしています。
総得点45点以上=スマホ依存症の危険性が高い
総得点42~44点=潜在的な危険性がある
総得点41点以下=一般的な利用者
・インターネット依存についての基準(ヤングのチェックリスト)
1998年に米国の心理学者キンバリー・ヤングが作成したチェックリストです。※成人の場合は、学業や成績についての記述は仕事に置き換えて仮にチェックしてみてください。
1.気がつくと思っていたより、長い時間インターネットをしていることがありますか
2.インターネットをする時間を増やすために、家庭での仕事や役割をおろそかにすることがありますか
3.配偶者や友人と過ごすよりも、インターネットを選ぶことがありますか
4.インターネットで新しい仲間を作ることがありますか
5.インターネットをしている時間が長いと周りの人から文句を言われたことがありますか
6.インターネットをしている時間が長くて、学校の成績や学業に支障をきたすことがありますか
7.他にやらなければならないことがあっても、まず先に電子メールをチェックすることがありますか
8.インターネットのために、仕事の能率や成果が下がったことがありますか
9.人にインターネットで何をしているのか聞かれた時に防衛的になったり、隠そうとしたことがどのくらいありますか
10.日々の生活の心配事から心をそらすためにインターネットで心を静めることがありますか
11.次にインターネットをするときのことを考えている自分に気づくことがありますか
12.インターネットのない生活は、退屈でむなしく、つまらないものだろうと恐ろしく思うことがありますか
13.インターネットをしている最中に誰かに邪魔されると、イライラしたり、怒ったり、大声を出したりすることがありますか
14.睡眠時間を削って、深夜までインターネットをすることがありますか
15.インターネットをしていない時でもネットのことを考えていたり、ネットをしているところを空想したりすることがありますか
16.インターネットをしているとき「あと数分だけ」と言っている自分に気づくことがありますか
17.インターネットをする時間を減らそうとしても、できないことがありますか
18.インターネットをしていた時間の長さを隠そうとすることがありますか
19.誰かと外出するより、インターネットを選ぶことがありますか
20.インターネットをしていないと憂うつになったり、イライラしたりしても、再開するといやな気持ちが消えてしまうことがありますか
それぞれの質問について下記の点数で計算します。
いつもある=5点
よくある=4点
ときどきある=3点
まれにある=2点
まったくない=1点
<判定>
総得点70点以上=依存傾向が高い。治療が必要
総得点40~69点=依存傾向がある
総得点39点以下=平均的なユーザー
依存症のタイプ
日本の総務省の研究プロジェクトが下記のような分類を示しています。
・リアルタイム型ネット依存
チャットやゲームなどリアルタイムにやり取りをすることを前提としたサービスへの依存です。オンラインゲームなどはこれに該当します。ユーザーが集まる深夜にプレイし、昼夜逆転を引き起こします。
・メッセージ型依存
ブログや、掲示板、SNSへの書き込みやメール交換など、利用者同士のメッセージをやり取りするサービスへの依存です。LINE、ツイッターなどが代表的です。
・コンテンツ型依存
ネット上の記事や動画など、受信のみで成立する一方向のサービスへの依存です。動画配信サイト、ニュースサイト、まとめサイトなどが代表的です。
インターネット・ゲーム依存症の特徴(派生する問題)
インターネット・ゲーム依存症になると、下記のような特徴が現れます。衝動の制御や認知、注意力、社会的機能に悪影響があることがわかります。
・神経過敏
・不機嫌になりやすい
・イライラしやすい
・不安、
・うつ状態
・無気力
・注意力や集中力の低下
・社会的機能の低下
・多動、不注意の増加
・学力、仕事の成績の低下
・睡眠障害や昼夜逆転
・偏食、欠食
・無断欠席、無断欠勤、遅刻
・課金など金銭面でのトラブル
・ネットでの不正アクセスのトラブル
また、上記以外でも、視力の低下や腰痛、肥満、エコノミークラス症候群など付随する身体の不調も指摘されています。
・依存行動は多様で波がある
アルコール依存症においても指摘されていることですが、依存症の行動は人によって多様で、波があります。
あるとき熱中しているかと思えば、パタリとやめてしまう。そしてまた行うようになる。スマホのゲームはしないが家での据え置きゲームはする。逆に家では全くしない、といったことです。
多様で波があるということを知らず誤ったイメージをもっていると、「自分は依存症ではない」と考えたり、家族も「いつもしているわけではないから、依存症というわけではないかも」と捉えてしまい、適切な対処が遅れてしまう原因となりかねません。
併発する問題
・ひきこもりとの併発
インターネット・ゲーム依存症は、ひきこもりと併発することも多いです。
その際にも2つのタイプがあります。一つはもともとひきこもりの人がインターネット・ゲーム依存症に陥ってしまうケース。もう一つは、インターネット・ゲーム依存症の人がひきこもりとなってしまうケース。
前者の場合は対応が難しく、インターネット・ゲーム依存症から回復してもひきこもり自体が治るかどうかはわかりません。しかし、後者の場合は、インターネット・ゲーム依存症から回復することでひきこもりも解消していきます。
⇒「ひきこもり、不登校の真の原因と脱出のために重要なポイント」
・発達障害、適応障害、うつ病など精神疾患との併発
発達障害を持つ人が、対人関係や適応がうまくいかないために、インターネットの世界に没入してしまうというケースも多いです。
昨今、後天的な環境によっても発達障害様の状態に陥ることがわかってきており、インターネット・ゲームへの過剰な依存が、認知や社会性の低下を生み、発達障害様障害を引き起こす危険性も指摘されています。
韓国では、ネット依存の75%が何らかの精神疾患を併発しているとの報告もあります。脳内の神経伝達物質のバランスが崩れることが原因と考えられます。
⇒「大人の発達障害の本当の原因と特徴~さまざまな悩みの背景となるもの」
⇒「うつ病の真実~原因、症状を正しく理解するための10のこと」
・その他の依存症との併発
クロスアディクションといいますが、依存症は、根底にある問題は共通しているため、複数の依存症を併発したり、ある依存症が治ると別の依存症に陥るなど、依存症同士で行ったり来たりということが起きます。
(下)につづく:インターネット・ゲーム依存を治療(予防)するための8つのポイント、など
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(参考)
樋口進「ネット依存症」(PHP研究所)
樋口進「ネット依存症のことがよくわかる本」(講談社)
岡田尊司「インターネット・ゲーム依存症」(文春新書)
遠藤美季「脱ネット・スマホ中毒」(誠文堂新光社)
墨岡孝、遠藤美季「ネット依存から子どもを救え」(光文社)
清川輝基編著「ネットに奪われる子どもたち」(少年写真新聞社)
岡本卓、和田秀樹「依存症の科学」(化学同人)
廣中直行「依存症のすべて」(講談社)
など