モラハラ(モラルハラスメント)への対策、対処法~6つのポイント

モラハラ(モラルハラスメント)への対策、対処法~6つのポイント

ハラスメント・生きづらさトラウマ、ストレス関連障害

 

 医師の監修のもと公認心理師が、<ハラスメント>の対策、対処するのために大切なことをまとめてみました。特に今まさに苦しんでいる多くの人に知っていただきたいと思っています。よろしければご覧ください。

 

<作成日2015.12.30/最終更新日2024.4.11>

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この記事の執筆者

三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師

大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了

20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。

プロフィールの詳細はこちら

   

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 ・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。

 ・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。

 ・可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

もくじ

1.ハラスメントの二重構造
2.<ハラスメント>を招き寄せる愛着障害
3.<ハラスメント>に執着してしまうアンカーとしての“トラウマ”

4.<ハラスメント>から抜け出すための視点
5.<ハラスメント>を見分ける方法
6.まとめ~<ハラスメント>から抜け出す方法

 

→関連する記事はこちら

 ▶「ハラスメント(モラハラ)とは何か?~原因と特徴

 ▶「生きづらさとは何か?その原因と克服

 

 

専門家(公認心理師)の解説

 ハラスメント(モラハラ、モラルハラスメント)とは、決して独立した特殊な事象ではありません。まさに悩みの中核を形成するものです。そのため、ハラスメントを解消するポイントを知ることは、長く苦しめる悩み、生きづらさの解消にとても役に立ちます。ハラスメントの知識なくして、現代の臨床心理、カウンセリングを行うことはできません。

 ハラスメントとは、私たちの社会性、善性を悪用して影響しています。私たちがよくよくありたい、より良い関係を持ちたいという気持ちに巣食うのです。より良くあろうという気持ち自体が問題を長引かせたり、「自分のせいだ」という感覚から問題自体を見えなくさせてしまうこともあります。今回の記事では、問題に気づくことから、解決にまつわる落とし穴まで、ハラスメント被害を経験した公認心理師がまとめて解説しています。

 

 

1.ハラスメントの二重構造

 <ハラスメント>とは、今まさに起きている問題ですが、実はその構造は2つのハラスメントから成り立っています。

 

・オリジナルの<ハラスメント>

 例えば、職場で、上司から<ハラスメント>を受けている。本当に精神的に参ってしまって困っている、というような場合、まさに起きていることは職場での問題です。

 しかし、同じ職場でも、<ハラスメント>を受ける人と、距離をとってやり過ごしている人とがいます。その違いを生む原因の一つが、もう一つの<ハラスメント>を受けてきたかどうかにあります。もう一つのものとは、幼いころなどに主として家族などから受けてきた<ハラスメント>です。私たちは、「オリジナルの<ハラスメント>(支配)」と呼んでいます。

 虐待などはもちろんですが、感情が不安定な親に育てられたり、礼儀、躾、価値観の強制、愛情過多による過干渉も<ハラスメント>になります。

 子どもは生まれながらにして、自分の独自の人格(【本来の自分】)を持っています。<ハラスメント>とは、それを他人が変更しようとする行為です。

 

 【本来の自分】との信頼関係が壊されてしまう。自分とは何かがわからずにさまよい、外側にあるルールに依存してしまうことになります。【本来の自分】との関係もうまくとれなくなっていますから、直感的におかしいと感じにくくもなります。そうすると、現在受けている理不尽なことについてもおかしいと思わなくなってしまう。

 

 

・現在、問題となる<ハラスメント>がやってくる

 幼いころに家族から受けた理不尽なことを美化している場合も少なくありません。「自分の為を思って厳しくしてくれている」「苦労が多いほうが成長できる」と信じている人が<ハラスメント>を受けると、「まさに成長のためだ」とその場から離れることをちゅうちょしてしまいます。どんよりした重い気持ち、生きづらさを背負ったまま頑張って働き続けてしまう。

 

 また、うまく<ハラスメント>に気づいても、立ち向かわなければいけない、負けてはいけない、なんとかしなくてはいけないと思って、その場に執着してしまいがちです。そうした下地があるところに、現在問題となる<ハラスメント>状況がやってきているわけです。

 

 

・解決にはオリジナルのハラスメントをケアすることが必要

 このように、<ハラスメント>とは二重になっている。<ハラスメント>を解決しようとすると、必然的にオリジナルのものも含めて解決しようとしなければいけません。

 一方、オリジナルの<ハラスメント>の影響が少ない方、安定型愛着の方はどうなのかというと、そもそもどこか侵しがたい雰囲気も持っていますので<ハラスメント>に出会いにくい。万一、<ハラスメント>に遭遇しても、静かにその場を立ち去って、自然と距離を取ります。決して立ち向かわない。筋の悪い人間関係に巻き込まれやすい人とそうではない人とがいますが、まさにそのような感じです。<ハラスメント>の影響のない方の姿というのは、<ハラスメント>を解決する基本が隠されています。

 

 

 

2.<ハラスメント>を招き寄せる愛着障害

 <ハラスメント>は、精神の土台となる“安全基地”の形成を妨げ、愛着障害を引き起こし、愛着障害はさらなる<ハラスメント>を招き寄せます。

 ⇒関連する記事はこちらをご覧ください。

  「「愛着障害」とは何か?その特徴と症状

 

・社会との関わり方の土台となる”愛着”

  “愛着”とは、もう一つの遺伝子とも呼べるもので、社会との関わり方の土台となるものです。愛着という精神の基盤は、通常は、生後半年から一歳半の間に形成されます。子どもが愛着対象となる親とコミュニケーションを取る中で、【本当の自分】との信頼を持つことができ、そして他者についても信頼できるようになります。

 この土台があることで、社会に出た時に、外側からやってくるメッセージに対して、自分の感覚を頼りに適切な判断を行うことができます。

 例えば、<ハラスメント>は、ネガティブな意図を隠したまま、相手を否定したり、混乱するメッセージを発したりして、最終的に支配しようとします。しかし、愛着の土台があると、表面的なメッセージには惑わされにくく、むしろ、直感的にネガティブな意図を読み取り、うさん臭さを感じることができます。

 

 

・愛着不安により<ハラスメント>に巻き込まれる

 しかし、生後半年から一年半の間、ハラスメントを受けて育つと、愛着が不安定、つまり“安全基地”がうまく機能せず、【本当の自分】とのコミュニケーションが十分に取れません。

 そのため、<ハラスメント>のメッセージが来ても、【本当の自分】が伝える直感を信頼できず、頭での判断に頼って「相手は評判のいい人だから」「仕事ができる人だから」といった上辺の情報に惑わされてしまいます。<ハラスメント>のメッセージを受け取った結果、混乱させられて相手を頼り、コントロールされてしまいます。

 <ハラスメント>は私たちを孤立させようともします。正確に言うと本当は孤立などしていないし単に不要な関係から離れているだけなのですが、孤立していると感じさせます。

 

 愛着という精神の土台があるとその罠にはかかりません。そもそも【本当の自分】とのつながりがあるので少々のことでは動じることがなく、自分にとって本当に必要な人とそうではない人を見分けることができるからです。もし、対人関係がうまく行かなくなっても、それが孤立を意味するのではなく、必要のない関係が終わるのだということがわかります。また、必要のない関係に無駄な労力をかけることをやめることで、本当に大切な人との絆がさらに深まるのです。

 

 

・ハラッサーにしがみついてしまう

 一方、愛着の土台が不安定な場合は「見捨てられ不安」も強いため、相手から<ハラスメント>を仕掛けられ揺さぶられると、本当は付き合うべき人ではないにもかからず去られると自分は孤立してしまうと思わされてしまうのです。

 また、過去に人間関係をしっかりと築くことができていないという後悔の念も湧き上がってきます。【本当の自分】とコミュニケーションが取れれば、その後悔は幻想であると知ることもできます。しかし、土台が不安定な場合は、その後悔に巻き込まれてしまいます。後悔から逃れるために、目の前の「ハラッサー(ハラスメントを仕掛ける人)」にしがみつくように関係を維持してしまい、さらに傷ついてしまうのです。

 

 

・「モラルハラスメント」とは

 このように、<ハラスメント>は、【本当の自分】とのコミュニケーションを阻害し、外的規範や人を頼りにしないと行けない状況を作り出し、他者に支配される状況を作り出します。これがいわゆる「モラルハラスメント」というものです。

 発達の過程で愛着という土台をそこなう<ハラスメント>と成長し大人になってから仕掛けられる<ハラスメント>があり、前者があると後者に巻き込まれやすくなるのです。

 

 <ハラスメント>を克服するためには、背景にある愛着障害を解消する必要があります。

 

 

 

3.<ハラスメント>に執着してしまうアンカーとしての“トラウマ”

 <ハラスメント>を受けてしまう人は、その前段階としてオリジナルの<ハラスメント>の呪縛にかかっていることが多いです。ただ、容易には抜け出すことはできません。なぜなら、理不尽な状況に執着するようなアンカーを植え付けられてしまっているからです。それが、トラウマ というものです。 

 →関連する記事はこちらをご覧ください。

  ▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状

 

・トラウマとは

 トラウマというのは「処理されずに残った理不尽な出来事の記憶」のことをいいます。通常、記憶というのは日々処理されていって過去のものとなっていきます。睡眠をとると薄れていきます。記憶を処理する場合に大切なのは、感情 です。出来事の記憶に、適切な感情を充てることができると記憶は処理されていきます。このことを別の言い方では 共感 と呼びます。
 

 あまりにも理不尽な出来事というのは、「なんでなんだ!?」とショックを受けます。わかりやすい例で言えば、本当は子どもを大切にする・守るはずの親が子どもを罵倒する。なぜそんなことをするのか、通常の感情で割り切れない。そうするとその記憶は残っていってしまう。

 

 

・本当の自分をないがしろにされ、トラウマが生じる

 また、【本当の自分】の感覚をないがしろにされるようなコミュニケーションが継続された場合も、同じようにトラウマになります。例えば、子どもがお腹が空いているのに、躾として無理やり眠らされてしまう、といったことです。

 夜中にお腹がすいた、というのはわがままと言われるかもしれません。しかし、人間というのは、自分の感覚を適切に捉えることができれば、必要のないときにはお腹はすきません。肥満を生むような過剰な食欲は執着によるものであることが多いです。なぜなら、動物を見ればわかるように自然界ではお腹いっぱいになるとそれ以上は求めないからです。際限のない欲望というのは本能ではなく、むしろ頭で起きている幻想、トラウマが原因でし癖(中毒)として起きていることが多いのです。

 【本当の自分】の感覚をサポートするようにすれば、自分や世界への信頼がありますから、わがままもなくなります。

 

 反対に、【本来の自分】の感覚を否定されて世界への信頼が失われることで、欠乏への恐怖がおき、問題行動が生じるのです。感じている自分の感情を否定されることが続くと、そもそも充てるべき自分の感情が何かもよくわからなくなります。そうして大人になってからも傷つきやすい体質になっていきます(不安定型愛着)

 

 

・理不尽な記憶が自分を打ちのめし続ける

 このような状況では、【本来の自分】に対する不信を回復しようとしても常に「処理されない理不尽な記憶」が傍にあって、立ち直ろうとする自分を打ちのめし続けます。

 理不尽な出来事について割り切れない状況が続くと、次第に歪んだ意味付けを行うようにもなります。
 「僕がいい子にしていないから、お母さんは僕を罰したんだ。」 とか、
 「僕のためを思って、罰してくれたのだ」と。

 

 

・問題行動で苦しみを和らげる

 また、理不尽な出来事というのはものすごいストレスです。常に緊張が下がらない状況にあります。そのストレスを人為的に緩和するためにし癖行動、問題行動を起こします(アルコール、リストカット、薬物、暴力、人間関係での問題 などなど)。

 問題行動を起こすと脳内ホルモンが分泌されて一時的に苦しみが和らぎますが、ホルモンが切れると急激に不安や自責の念がやってきてさらに緩和するために問題行動を繰り返すことになります。

 

 

・<ハラスメント>に対抗できず、支配されてしまう

 【本来の自分】を信頼することができないと、社会を生きる中で受ける<ハラスメント>にうまく対抗することができない。ダブルバインドで容易に揺るがされてしまう。他者から支配されてしまう。

 こうした状況を解決するためには、目先のコミュニケーションの改善でなんとかするということではとても追いつきません。根本部分でアンカーとなっているトラウマを解消する必要があります。

 

 

 

4.<ハラスメント>から抜け出すための視点

・ハラスメントの人間観

 <ハラスメント>というのは、表面的な嫌がらせにどのように対処するのか、ということもありますが、そもそも人間をどう捉えるのか?という根本部分が関係している問題でもあります。

 人間というものは生まれた時は野蛮でどうしようもないから、躾や教育で社会化しなければならない、と捉えるのか。
 人間というのは、本来固有の人格が備わっていて誰もそれを変えることができない。正しく判断できる基盤をちゃんと持っている、と捉えるのか、によって人に対する対応は全然異なります。


 前者は、<ハラスメント>の考えであり、後者はそこから自由になるための視点です。

 子どもと接しているとわかりますが、子どもの人格というのは、親や、躾が作っているのではなく、明らかに固有の人格、気質をそなえて生まれてきていることがわかります。親子でも別々の人間ですから、その子にとって何が良いのか正しいのかなどわかりようもない。ただ、大人にできることは、その子が自分の感覚を適切に感じられるようにサポートしてあげることしかない。

 しかしながら、基本的に教育や躾というものは前者の考えで作られていることが多いです。もちろん、表面的には理想的なことをいう人でも、よくよく詰めていくと、前者の考えが顔を出してきたります。

 会社の教育や指導などはまさに前者そのもの。多くの人が、会社や上司が発してくる
「おまえはそもそもおかしい」
「仕事を通じて人間性を高めなければならない」
という闇のメッセージと闘いながら頑張っています。 

 また、家庭においても、表面的に優しい夫(妻)でも、蓋を開けてみると、自分は相手よりも上であり、妻(夫)は、マナーも身についていない不完全な人格だから自分が正して当然だ、と思っていることも珍しくない。

 

 

・常識とはなにか

 人間性を高める、正すなどというのは、当人が自発的に思うのであればまだしも、他人が他人に言うことではありません。同じ人間同士なのですから、一方の考えが他方よりあらかじめ上等などということはありえない。たとえ、相手がくらいが上、実績が上であっても、その人の考えが自分に当てはまるのかどうかなど決まってもいない。

 常識や規範も、この世で決まっているものは何一つない。国や地域が違えば通用しなくなります。同じ地域の中でも、例えばご飯の食べ方一つとっても決まりがあるようで、明確なものはない。だから、これが決まりだと決めつけると、夫婦でケンカになったりします。

 孔子も、
 礼儀というのは決まりを知っていることではなく学ぶこと、
 相手と調和を取るためにあること、
 といっていますが、常識とは、相手の人格を尊重しながら対話をするためのものであるし、対話により作り上げていくものだということです。

 

 

・エセ神様化

 最初から基準が決まっていて、自分のものが正しくて、従え、という人は単なる<ハラッサー>です。「上司だから」「会社の決まりだから」といって、一方の人間性を矯正するようなことが行われています。「社員をしつける」というようなことをいう会社はとても危ない。パートナーでも「夫(妻)を教育する/しつける」という表現を使う人も危険です。

 モラルハラスメントで生じる意識の特徴として、「“エセ神様”化」といいますが、ハラスメントを仕掛ける側が暗に「自分は相手を矯正する資格がある、立場である」という無意識の思いをもち、相手を変えることができる支配的な存在(“エセ神様”)になります。そして、相手はそれを受け入れるべきだ、と考えて、行動を正そうとするのです。
 

 あからさまに「自分は神様だ」などと言っては、おかしいな事になるので、表面的にはそれを隠すようなメッセージ(ダブルバインドの第2のメッセージ)を発します。「自分は親だから。役目で行っている」「上司だから」「おまえの為を思っておこなっている」「世の中の礼儀、常識だから」という理由で覆い隠すのです。

 

 

・<ハラスメント>から抜け出すために

 <ハラスメント>から抜け出すためには、そのことを糾弾するというよりは、自分がメカニズムに気づき、活かすことが大事です。<ハラスメント>について知ることも、相手を罰するためではなく自分がそのことに気づき、そこから立ち去るためにあります。

 

 私たちも、うっかりすると“エセ神様”になってしまう場合があります。相手の行動にイラッとして、その行動を正そうとする場合がそれです。もし、対話の中で不快を感じても、私たちに許されていることは、自分の感覚を伝えることだけです。その際も相手の人格のせいではなく、ただ自分にとって嫌だ、ということを伝えるだけです。そうして対話をすることしかできません。

 <ハラスメント>から自由になるためには【本来の自分】は誰にも変える権利はない、ということを知ることがとても大事です。そうすると、自分から見た自分自身も変える必要がない、変えることはできない尊い存在であることがわかるようになり、相手を尊重するだけではなく、自分自身を完全に肯定して信頼できるようになるのです。

 

  

 

5.<ハラスメント>を見分ける方法

 <ハラスメント>というのは巻き込まれている人にとっては見分けることが難しく感じられます。というのも、そのメカニズムがノンバーバルなものも含めた人間のコミュニケーションに潜んでいるからです。しかし、本当は身体は違和感を告げてくれていたりします。

 

・直感は<ハラスメント>を見抜いている

 以前書いた記事にもありますが、ダブルバインドに基づいた構造がわかっていればそれは明らかになります。愛着の土台がしっかりしている人も直感的にわかったりします。

 例えば、
 会社で厳しい上司がいて、職場で怒鳴り声が響いている。
 その時に、
 「あの上司は厳しいけど、本当は部下を思って心を鬼にして厳しくしているんだ」
 と思うのか、
 「なんか、この職場おかしい」
 と思うのか。解釈はさまざまです。

 実は、後者のほうが認識としては適切で、前者はトラウマを負った人に多い考え方になります。

 適切な例ではないかもしれませんが、宗教団体で教祖の振る舞いに疑問を感じても
 「何か理由があるに違いない」
 と思うのか、
 「何か、おかしい」
 と思うのか、
 にも似た構造だと思います。

 相手がどんな権威であっても直感を信じて違和感を見逃さない。土台がしっかりしているほど、その直感はしっかり感じられるし、適切に解釈できる。

 

 

・”理不尽さは愛”というファンタジー

 トラウマを負った人がどうして前者の考えになりやすいかというと簡単で、それはその人が理不尽な環境を生きてきた(サバイブしてきた)から。完全に乗り越えた人であれば違和感を感じられるのですが、まだその最中でなんとか解釈でやり過ごしている場合は、「(親や周囲の)理不尽な行動は、本当は私のことを愛してくれているからだ」といった、ファンタジーをもっています。

 理不尽な存在を嫌悪しながらも愛着を持っていることもあるので、厳しい人についていこうとしたりします。
 さらには、多くの人に見られる考え方ですが、
 「嫌なことから逃げてはいけない」
 と思いこまされていることもある。そのため、まじめな人ほど余計に逃げることができない。 

 

 

・<ハラスメント>に気づく具体的な方法

 <ハラスメント>に気づくことができるかどうかですが、いくつかの方法があります。

 一番よい方法は、直感的に接していて罪悪感を感じる、責められているような感じがする場合は<ハラスメント>である可能性が高い、と疑ってみることです。次に、自分がその場にいて、生きづらい、居づらい場合も同様に疑ってみることです。

 毎日、何か鉛のような、曇り空を見ているようなどんよりした気分がする、といった場合(うつ病など明らかな気分障害などは除く)も同様です。

 そうしたら、<ハラスメント>の構造に当てはめてみて、今起きていることを分析してみてください。もし、その構造が当てはまるようでしたら、あなたは<ハラスメント>状況にある、ということです。

 

 

 

6.まとめ~<ハラスメント>から抜け出す方法

・自分の苦しみの原因は<ハラスメント>だと知ること、気づくこと

 生きづらい状況、苦しい状況にある時、一番大事なのは、それが<ハラスメント>によるものだと知ることです。気づくことです。そのためには、まずは何よりも、<ハラスメント>のメカニズムを知る事が大事です。

 そうすることで、今の状況が<ハラスメント>に当たるのかを自分で確認できます。何が起きているかがわかりますから、次に打つ対策にもつながっていきます。

 

 

・自分には罪はない、問題はないと知る

 <ハラスメント>は、相手に罪悪感を植え付けてきます。自分が悪いと思わされます。自分にも非があると思ったまま対策を打つと、どうしても努力して自分を変えようとしてしまいます。

 自分を変える、というのは、【本来の自分】で大丈夫とは思えていないこと、自分に非があることを受け入れていることになります。そのため、自分を変えようとすればするほど【本来の自分】からは遠ざかってしまい、悩みは増すことになります。

 <ハラスメント>とは、【本来の自分】を変えろと他人から干渉されることですから、自分を変えなければと思うことは思うツボと言えるのです。必要なのは変わる必要がない、そのままで大丈夫だと知ることなのです。

 

 

・できる限り早く、静かにその場から立ち去る。相手を変えようとしない

 その上で、できる限り早く静かにその場から去ることを画策することです。<ハラスメント>への対応策の基本は、その状況から“抜け出すこと”です。

 そして、<ハラスメント>を仕掛けてくる相手を変えようとはしない。相手は絶対に変わりませんから。職場であれば、配置や部署を変われないか、場合によっては転職を検討してみる。パートナーとの関係であれば離縁や離婚を考えてみる。

 これらが簡単ではないことは重々承知しているのですが、ただ、<ハラスメント>とは、ヒモにつながれた象のように、本当は自由になる力があるのに自分は自由になれない、経済的にも能力的にも無理だと思わされている精神的な呪縛です。精神的な呪縛から自由になろうとすることが一番大事です。

 結果としてどのような選択肢を取るにせよ、自立につながる選択肢を視野にいれることは<ハラスメント>から抜け出すきっかけになります。諸々の事情に今の環境にとどまらざるをえないとしても、自分のあり方は全く違うものになっています。

 また、<ハラスメント>を受けたことが実は「本当の居場所は別にある」ということを知らせてくれるシグナルであることもとても多いものです。【本当の自分】を知り、自分らしい人生を切り開くチャンスとしてもとらえてみることが大切です。

 

 

・小手先のコミュニケーションテクニックでは回避できない

 小手先でコミュニケーションのテクニックを学んでも、なかなか成功にはつながらないでしょう。オリジナルの<ハラスメント>の呪縛を受けているために、理不尽なことに出会うとすぐに解離し、自分じゃない状態にさせられてしまいます。結局、頭でセリフを知っていてもうまく言い返せなかったり、動けなくなったりしてしまいます。

 

 

・<ハラスメント>環境への執着を解消する

 最後に、「<ハラスメント>から立ち去るというのは釈然としない」と感じる場合についてです。

 私たちは自分にとってどうでもいいものは何も感じずに、避けたり、意識しなかったりします。それは、そこに執着がないからです。逆にこだわったり、立ち向かおうとする場合は対象にとらわれていたりします。

 街で変な人と出会ったら、多くは自然と避けると思います。避けるからといって、決して逃げているわけではありません。立ち向かっていっては逆にトラブルになります。 

 街を歩いていても仕事をしていても何かをしているということは、実はその裏で何か不必要な選択肢を捨てたり、避けたりしていることでもあります。そうして、自分にとって必要な物を選んで生きているのです。
これは自然なことです。

 しかし、【本来の自分】が感じていることがわからなくさせられていると、大切なものが何かがわからず、不安なまま不要な物に対して執着させられて、立ち向かってしまうのです。

 つまり、<ハラスメント>に立ち向かわなければ、と思う事自体が実は執着だったりするのです。執着はトラウマによって引き起こされます。

 

 <ハラスメント>の構造の中に、「逃げてはいけない」という第3のメッセージがあるということを見てきましたが、親や周囲から躾や教育として「嫌なことから逃げてはいけない」と刷り込まれているためです。

 

 オリジナルの<ハラスメント>を解消して、自分にかかった呪縛や執着を解決するためにはトラウマケア(ソマティック・エクスペリエンシング・アプローチ、ハコミセラピー、トラウマ解放エクササイズ、ブレインジム、TFT、フラワーエッセンス、FAP療法)などは有効な手段です。

 →関連する記事はこちら

 ▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状

 

 執着がなければ、立ち向かおうとも思わず、自然と距離を取ることができます。そして、代わりに本当に必要な物に出会えるようになります。

 

 例えば、つらい環境の職場で働いていた人が転職をちゅうちょしていたが、さすがに耐え切れずに転職した先で暖かな人間関係の中で本当にしたい仕事ができるようになったり。支配的な親との関係に悩んでいる人が、当初は、親元を離れて一人暮らしなど経済的に無理だと思っていたのが、思い切って一人暮らしをしてみると気持ちが軽くなって、安定した仕事に就けるようになったり、といったことが実際に起きてきます。

 

 

・【本来の自分】の感覚を基準に生きる

 <ハラスメント>の呪縛から抜けるということは、世の中の常識や規範とされるものではなく【本来の自分】の感覚を基準に生きるということです。

 

 <ハラスメント>を解決するというのは、単なるテクニックではなく人生を選択し直すことです。そうすることで徐々に不快なものは去り、自分とって本当に必要なものに出会えるようになるのです。

 

 

→関連する記事はこちら

 ▶「ハラスメント(モラハラ)とは何か?~原因と特徴

 ▶「生きづらさとは何か?その原因と克服

 

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参考

イルゴイエンヌ「モラル・ハラスメント」(紀伊國屋書店)

安冨歩・本條晴一郎「ハラスメントは連鎖する」(光文社)

大嶋信頼「支配されちゃう人たち」(青山ライフ出版)

アリス・ミラー「魂の殺人」(新曜社)

アルノ・グリューン「「正常さ」という病」(青土社)

深尾葉子「魂の脱植民地化とは何か」(青灯社)

安冨歩「誰が星の王子さまを殺したのか――モラル・ハラスメントの罠 」(明石書店)

深尾葉子「日本の社会を埋め尽くすカエル男の末路」(講談社)

深尾葉子「日本の男を喰い尽くすタガメ女の正体 」(講談社)

ベイトソン「精神と自然―生きた世界の認識論」(新思索社)

安冨歩「生きる技法」(青灯社)

みきいちたろう『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』(ディスカヴァー携書)

など