「愛着障害」とは何か?その特徴と悩み、メカニズム

「愛着障害」とは何か?その特徴と悩み、メカニズム

家族の問題(機能不全家族)愛着障害

 

 皆様の中には、対人関係がうまく行かずに悩んでいる人は多いと思います。
 なぜ、私たちは、人と接するときに、おかしな行動をとってしまうのでしょうか?頭で考えている理想的な振る舞いとは反対のことをしてしまうこともしばしばです。別にそんな行動を取らなくても、と思うことをしてしまう。本人も気がついていることも多い。でも、やってしまう。

 

 問題行動だけではなくネガティブな感情にとらわれたり、ということもあります。なぜそのようなことが起きるのでしょうか?実は、“愛着”という観点に注目するとその謎が見えてきます。“愛着”の形成がうまくいかない背景にはトラウマも影響します。
 今回、多くの人に知っていただきたいと思い、医師の監修のもと公認心理師が、愛着(愛着障害)についてまとめてみました。

 よろしければご覧ください。

 

→関連する記事はこちらをご覧ください。

  →「愛着障害の種類とチェック~あなたは当てはまる?4つの愛着スタイル

  →「子どもの愛着障害の治し方、関わり方~愛着を育むために必要な4つのポイント

  →「大人(青年期以降)の愛着障害の治し方~克服に必要な5つのポイント

 

 

<作成日2015.10.16/最終更新日2023.2.6>

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この記事の執筆者

みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師)

大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など

シンクタンクの調査研究ディレクターを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら

   

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考に記述しています。

 可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

 

もくじ

愛着(アタッチメント)とは何か?
愛着のメカニズム

愛着障害とはなにか?~さまざまな悩みを生む
あなたはどのスタイル?~愛着スタイル4つの分類

愛着障害を克服するために必要なこと

 

 

 

愛着障害

 

 

 

愛着(アタッチメント)とは何か?

 愛着(Attachment)とは、特定の他者との間に形成される情緒的な絆 のことを指します。
 愛着自体は、さまざまな人(もの、こと、動物など)へも形成されますが、愛着障害における「愛着」とは、生存、安全を確保するために特定の養育者に対して子どもが一方的に形成する絆です。

 

 現実に、あるいは潜在的に危機や不安を感じた時に、特定の人との近接を求めて不安を緩和し、「安全感」を得ようという生まれながらの性質のことです。
 心理的な性質ではなく人間以外の動物でも見られるものであり、生物にとっては進化の過程で得られた本能というべきものです。

 

 「愛着」というと余分な意味も含まれてしまうために、研究書では「アタッチメント」とカタカナ書きされます。

 

 

愛着のメカニズム

・人類発祥以前から続く生物学的なメカニズム

 愛着というのは心理的なメカニズムというだけではなく、生物学的な現象であり、ネズミなど人間以外の動物でも見られるメカニズムです。
 愛着を形成することが生物の生存にとって有利なためだと考えられます。

 

・人間の場合、生後半年~1歳半の間に形成のピークを迎え、その後の社会へのかかわりに影響を及ぼす

 愛着は、人間の場合、生後半年~1歳半の間に形成のピークを迎えます(個人差があり、2,3歳まで続く場合もあります)。

 愛着理論を確立したボウルビィは、

 「望まれない子どもは、“自分は両親によって望まれていない”と感じるだけではなく、本質的に望まれるに値しない、つまり、“自分は誰からも望まれない”と信じるようになるし、逆に両親から愛されている子どもは、両親の愛情に対する確信だけでなく、他のすべての人からも愛されると確信して成長する」

 

 「大人のパーソナリティは、未成熟な時期を通じての重要な人物たちとの相互作用、なかでも愛着人物たちとの相互作用の所産とみなされる」
 と述べているように、その後のパーソナリティや社会へのかかわりの基礎となると考えられています。

 

・特定の対象(人物)を中心に愛着は形成される

 特定の人物を中心に愛着は形成されます。特定の人物を選んで愛着を形成することを「モノトロピー」と言います。モノトロピーとは単一の人だけに愛着を持つということではありません。愛着は母親以外の家族や保育士などに対しても形成していくことが分かっています。その中でも、特定の人を選ぶというのは、愛着対象が優先順位づけされるように階層をなしているということを示しています。 

 

 愛着対象は、恋人、配偶者、などと生涯にわたって変化していきます。中でも最初に形成される特定の養育者との愛着が重要とされるのは、愛着が変化、更新していく際、最初に形成された愛着がモデルとなるからです。

 

一貫性や個別性のない集団保育は要注意

 大切なのは、特定の愛着対象からの「かかわりの一貫性や継続性、個別性」であるとされます。そのため、イスラエルの集団農場キブツの試みで知られるような一貫性や個別性のない集団保育は、愛着を不安定にすることがわかっています。

 

 

 

 

 

 

愛着障害とはなにか?~さまざまな悩みを生む

愛着障害(不安定型愛着)とはなにか?

 愛着を形成する時期に、愛着対象が定まらなかったり、不安定な愛情しか得られなかったり、虐待されたり、ということがあると、安定した愛着が形成されなくなります。不安定な愛着しか得られないと、社会との関わり方も不自然とならざるを得なくなります。

 これが「不安定型愛着」で呼ばれるものであり、特に支障が出るほどの状態を「愛着障害」といいます。世の中の3分の1の人が程度の差があれ不安定型愛着とされます。 

 

愛着障害の診断上の分類

 DSM(米国精神医学会の診断マニュアル)では、虐待やネグレクトなどで愛着対象との関係が損なわれた状態を「反応性愛着障害」と呼んでいます。その中でも、誰にも懐かないタイプを「抑制型愛着障害」、見境なく懐くタイプを「脱抑制型愛着障害」と呼んでいます。

 

 通常、「反応性愛着障害」は虐待やネグレクトなどによって生じた相当重度のケースにしか診断がつきません。そのため、一般に「愛着障害」と呼ばれる状態よりも狭義の定義です。

 

(参考)「米国精神医学会」「DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル」(医学書院)

 

 診断基準に満たなくても、問診などで幼少期に養育の問題が疑われる場合は、比較的軽度の場合は「不安定型愛着」と呼び、特に生活において支障が生じている状態を「愛着障害(Attachment disorder)」と呼びます。

 

 

・不安定な愛着(愛着障害)が生む問題、症状

 愛着が不安定になるとどうなるのでしょうか?社会で生きていく上で、さまざまな不具合が生じてきます。主要なものとして下記のようなことが挙げられています。

 

・社会に出た際に対人関係、コミュニケーションが不安定となる。

・アイデンティティや適応に問題が生じるため、生きづらさを感じやすくなる。

・ストレスへの耐性や対応力が低下する。

 

・発達障害や、ADHDに非常に似た症状が見られるようになる。

・知能が低下する(安定型と不安定型でIQで平均10以上の差が生まれる)。

・認知機能(聴覚的反応や空間統合能力、問題解決力など)が低下する。

 

・成人してからうつ病や人格障害などになりやすくなる。

・生きづらさを解消するために依存症や自傷行為に陥りやすくなる。

 

・性的活動をうまく行えず、満足を得にくい。

・倒錯した対人関係の要因ともなる。

 など

 

⇒さらにくわしく知りたい方は

さらにくわしくお知りになりたい方はこちらをご覧ください。

参考)→「あなたが生きづらいのはなぜ?<生きづらさ>の原因と克服

参考)→「対人恐怖症、社交不安障害とは何か?原因、克服、症状とチェック」

参考)→「パニック障害とは何か?その症状のチェックと本当の原因」

参考)→「パーソナリティ障害の正しい理解と克服のための7つのポイント

参考)→「うつ病の真実~原因、症状を正しく理解するための10のこと

参考)→「依存症(アルコール等)とは何か?真の原因と克服に必要な6つのこと」

参考)→「摂食障害とは何か?拒食、過食の原因と治療に大切な7つのこと

参考)→「リストカット、自傷行為の本当の心理、原因・理由とその対応

 

 

 

愛着パターン、スタイル~4つの分類

  愛着パターン、愛着スタイルは大きく4つに分類されます。各パターンについてご紹介させていただきます。各パターンに明確に分けられるわけではなく、一人の人が複数の要素を持ちあわせていることが多い。

  ※18歳未満は、「愛着パターン」と呼ばれ、18歳以降は「愛着スタイル」と呼ばれます。

 

 愛着スタイルを知りたい方は以下のサイトで診断できます。

(参照)「愛着スタイル診断テスト」

 

 

→関連する記事はこちらをご覧ください。

  →「愛着障害の種類とチェック~あなたは当てはまる?4つの愛着スタイル

 

 

回避型(「愛着軽視(Dismissing)型」)

 「回避型」とは、子どもの頃の愛着パターンの名称で、「愛着軽視型」とは、大人の愛着スタイルの名称です。

・回避型(愛着軽視型)の特徴

 回避型の名前の通り、養育者とのかかわりが乏しく、探索行動の際も養育者を安全基地としません。養育者が離れた時も不安や抵抗を示さず、養育者と再会しても無関心あるいは回避的な行動をとります。子どもに対する拒否的、回避的、統制的な親の関わり方が原因とされます。
 

 成人してからも、親密さを回避し、距離をおいた対人関係を好みます。親しい関係や情緒的な共有は心地よいと感じません。
 回避型にとって最も重要視するのは、「縛られないこと」。自立自存を最良として、人に迷惑をかけることを避けて、自己責任を重んじます。

 

⇒さらにくわしく知りたい方は

さらにくわしくお知りになりたい方はこちらをご覧ください。

参考)→「回避型(愛着軽視型)の特徴」

 

 

不安型[抵抗/両価型](「とらわれ(Preoccupied)型」)

「不安型[抵抗/両価型]」とは、子どもの頃の愛着パターンの名称で、「とらわれ型」とは、大人の愛着スタイルの名称です。

・不安型(とらわれ型)の特徴

 「不安型」という名称からわかるように、不安が強いことが特徴です。特に「見捨てられる不安」がとても強いです。すべての場面を通じて不安が強く、養育者といても情緒が安定しません。そのため養育者がいても探索行動をあまり行いません。養育者との接触でも、接触を求めながら激しく抵抗するという特徴があります。

 

 常に周囲に気を使い、機嫌をうかがったりバカ丁寧に対応したり、迎合したり、不当な要求にも従ってしまうことが多い。少しでも相手が拒絶的な反応を示すと、激しい不安に襲われ、それを容易にふっしょくできません。自己価値が低く、他者は自分を傷つけたり非難する存在として捉えてしまいます。子どもの頃はいじめられやすい傾向があります。

 身近な人に依存し、その人に自分の存在を保証してもらうことで何とか、自分のアイデンティティを保っています。

 

⇒さらにくわしく知りたい方は

さらにくわしくお知りになりたい方はこちらをご覧ください。

参考)→「不安型(とらわれ型)の特徴」

 

混乱型(「未解決型」)

 「混乱型」とは、子どもの頃の愛着パターンの名称で、「未解決型」とは、成人後の愛着スタイルの名称です。

 

・混乱型(未解決型)の特徴

 混乱型は、回避型と不安型が錯綜してとても不安定なものになりがちです。虐待や著しく不安定な親の場合に生じやすいとされます。まさに親の対応が混乱しているために子どものコミュニケーションも混乱をみせてしまうのです。

 一人は不安で人と仲良くしたいが親密になるとストレスに感じて傷ついてしまう。自己開示できないが、人に頼りたい気持ちも強い傾向があります。

 

⇒さらにくわしく知りたい方は

さらにくわしくお知りになりたい方はこちらをご覧ください。

参考)→「混乱型(未解決型)の特徴」

 

 

安定型(「自律型」)

 養育者との分離前には養育者を「安全基地」にして探索行動を行い、養育者が分離すると抵抗や不安を示します。
 しかし、養育者と再会すると、養育者との接触によって分離のストレスを解消し、気持ちを安定させることができます。

 

・安定型(「自律型」)の特徴

 絆が安定しており、自分を愛してくれる人がいつまでも愛してくれると当然のように信頼しています。気軽に助けを求めたり、相談できます。人の反応を肯定的に捉え、うがった見方をしたり誤解することがありません。また相手がどう反応するかにあまり左右されません。

 

⇒さらにくわしく知りたい方は

さらにくわしくお知りになりたい方はこちらをご覧ください。

参考)→「安定型(「自律型」)の特徴」

 

 

愛着障害を治すために、克服するために必要なこと

 愛着は私たちに強く影響を及ぼしますが、のちの環境や取り組み方で愛着障害は克服できます。

 そのためにはいくつかポイントや必要なことがあります。

 下記の記事にてそのことをまとめています。よろしければご覧ください。

 

  →「子どもの愛着障害の治し方、関わり方~愛着を育むために必要な4つのポイント

  →「大人(青年期以降)の愛着障害の治し方~克服に必要な5つのポイント

 

 

→関連する記事はこちらをご覧ください。

  →「愛着障害の種類とチェック~あなたは当てはまる?4つの愛着スタイル

 

 
 
 
 
 

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参考

庄司順一、奥山眞紀子、久保田まり「アタッチメント」(明石書房)
久保田まり「アタッチメントの研究」(川島書店)
数井みゆき、遠藤利彦「アタッチメント~生涯にわたる絆」(ミネルヴァ書房)
数井みゆき、遠藤利彦「アタッチメントと臨床領域」(ミネルヴァ書房)
岡田尊司「愛着崩壊」(角川選書)
岡田尊司「愛着障害」(光文社)

岡田尊司「愛着障害の克服」(光文社)
滝川一廣、小林隆児、杉山登志郎、青木省三「そだちの科学 愛着ときずな」
「子育て支援と心理臨床 vol.9 2014 9月 愛着理論と心理臨床」

高橋惠子「人間関係の心理学 愛情ネットワークの生涯発達」(東京大学出版会)

高橋惠子「絆の構造」(講談社現代新書)

愛甲修子「愛着障害は治りますか?」(花風社)

神田橋條治「治療のための精神分析ノート」(創元社)

など