適応障害の治療、治し方、接し方~5つのポイント

適応障害の治療、治し方、接し方~5つのポイント

トラウマ、ストレス関連障害

 医師の監修のもと公認心理師が、多くの人が悩む「適応障害」について、その治し方、接し方をまとめさせていただきました。

 よろしければご参考くださいませ。

 

<作成日2015.12.3/最終更新日2024.4.22>

 ※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。

 

この記事の執筆者

三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師

大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了

20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。

プロフィールの詳細はこちら

   

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 ・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。

 ・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。

 ・可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

もくじ

適応障害の治すための原則と5つのポイント

適応障害の治療
適応障害に対する周囲のサポートや接し方

 

 →適応障害とは何か?や診断基準については、下記をご覧ください。

 ▶「適応障害とは何か?~その原因を理解する

 ▶「適応障害の診断基準~症状や他の障害との違いから

 

専門家(公認心理師)の解説

 適応障害とはストレス関連障害で、いわゆる「トラウマ」に関連する診断名の一つです。比較的軽度ですが、ストレスに関連して心身にダメージを負っている状態です。ストレス障害ですから身体レベルでは自律神経などを中心に不調が見られ、心理・精神レベルでは「ハラスメント」の影響が考えられます。ハラスメントとは、心理的な呪縛や支配のことで「より良くありたい」「人と繋がりたい、良い関係をもちたい」という人間が持つ社会性が逆用、悪用されてしまうことを言います。適応障害が長引く場合は、必ずと言っていいほど、ハラスメントの影響が考えられます。

 まず、治療として有効なのは有酸素運動などの運動療法です。かなり堅いエビデンスがあり、中程度以上のうつ病でも3ヶ月程度で8割以上の回復が見られることが知られています。適応障害についても同様に、早期の回復が見込めます。屋外での20~30分程度のウォーキングや屋内でのヨガなどはとても有効です。またハラスメントの影響がある場合も有酸素運動は効果がありますが、長引く場合は、トラウマケア、カウンセリングなどを利用することが必要です。

 

 

適応障害の治すための原則と5つのポイント

 適応障害は、本人から見たストレスを取り除くことが主眼です。基本は環境が原因だと知ることです。そのため、カウンセリングでも下記のことを行っていきます。

 

・適応障害を治すための原則

1.ストレス耐性を高める

 自尊心を高めたり、認知を変えるなど、ストレスの対処法を身につけます。

2.ストレスに順応できない場合は環境を変える

 環境を変えることも大切なことです。環境を変えることへの抵抗や偏見を取り除くなど周囲がサポートを行います。まず、ストレス耐性を高めるためには、下記の3つの要素を高めることが重要だとされます。
 

・把握可能感(sense of comprehensibility)
 生じている出来事や自分の気持を自身で把握できている、という感覚のことです。
 状況が把握できれば、ストレスに対処することができます。

 

・処理可能感(sense of manageability)
 生じている出来事に自分が対処できる、解決できると感じられる感覚です。

 

・有意味感(meaningfulness)
  起きている出来事が自分にとって肯定的な意味があると感じられる感覚です。

 

 

 具体的には、下記の5つのことがポイントになります。

1.仕事、生活については、その案件に対する知識や技術を習得する。あるいは、慣れれば大丈夫だと知ること

 現時点でうまくできなくても慣れればできるようになると知る、ということです。把握可能感や、処理可能感を高めてくれます。また、知識を習得すれば、有意味感を持つこともできます。

 

2.他者の力をうまく借りる

 その環境や社会に適応している他者の視点、知恵を借りて、適応を先取りしたり、適応のコツを学ぶことができる。

 例えば、先輩や上司に相談して、
 「今が一番忙しい時期だから、来月には楽になるよ」と言われれば、把握可能感は高まります。
 「もう少しこうすればいいよ」とコツを教われば処理可能感は高まります。
 「難しいお客さんとうまくやり取りできれば、これからどんな人でも大丈夫になるよ」と言われれば、有意味感が高まります。

 

 ストレスは貯めこむと増大しますので、適度に愚痴を言ったりすることは良いことです。相談ということではなく、友だちや同僚に愚痴を聞いてもらうことも大切です。

 もし、そういう人がいない場合は、自分で日記を書きましょう。かなりすっきりします。また、環境の負荷があまりに高い場合は、他者からのアドバイスで環境のせいであると気づかせてもらえるという利点があります。その際は、相談する相手がその環境から距離をおいている方など適切な相手を選ぶ必要はあります。

 その環境を支持している人だと環境そのものを擁護したりしますし、逃げることが悪いことだと思い込んでいる人だと、相談者の責任にさせられてしまう場合があります。(セカンドハラスメントといいます)

 

3.認知を変える

 私たちは物事を、従来の経験から判断する傾向があります。しかし、進学、就職、結婚、離婚、病気、死別、退職、など未経験の出来事は人生の中で必ずやってきます。都度、物事の捉え方、受け取り方を適度に修正していく必要があります。その際は認知行動療法の視点が役立ちます。カウンセリングを受ける、あるいは、認知行動療法については書籍がたくさん出版されています。漫画もありますので、ぜひ本屋などでお読みください。

 

4.自分のせいだと思わない

 自分のせいだとは思わないでください。環境や雰囲気が悪い職場や家庭はたくさんあります。新しいメンバーを教育したり、受け入れる体制が不十分な職場もたくさんあります。ストレスが過大な状況もあります。うまく行かなくてもお互い様。自分のせいだとは思いすぎないようにしましょう。

 そして、もしどうしてもその状況に慣れない場合は環境を変える、ということです。環境を変えることは逃げることだ、という誤った観念がありますがそうではありません。すべての環境に適応できる人はいません。プロスポーツの一流選手でも監督やチームが変わると活躍できなくなる人はたくさんいます。

 人間というのは環境の影響を強く受ける存在です。自分自身で環境を選択することは、豊かな人生を作る上で大切な方法です。

 

5.本質的な改善に向けて~「安全基地」を持つ、必要な場合は愛着やトラウマのケアをする

 さらに、耐性を高めるためには「安全基地」を持つことが大切です。

 「安全基地」とは、自分自身との信頼関係のことです。普通は母親などとのやり取りを通じて幼いころに形成されます。それが阻害されていると、土台が不安定なままで世の中と付き合うことになります。

 

 阻害する要因としてトラウマがあります。トラウマとは決して大きな出来事ではなく、日常のささいな出来事でもトラウマ経験となります。適応障害は、DSV-Ⅴでは、「心的外傷およびストレス因関連障害群」に含まれているように、トラウマと関連する症状でもあります(「DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引」(医学書院))。

 

 もし、自信がない、対人関係で問題を抱えやすい、生きづらさを感じるなどがある場合は、愛着障害、トラウマなどが原因と考えられますので、一度トラウマケア(ソマティック・エクスペリエンシング・アプローチ、ハコミセラピー、トラウマ解放エクササイズ、ブレインジム、TFT、フラワーエッセンス、その他トラウマケア、など)を受けることを検討してみてください。

 トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状

 

 

 

適応障害の治療

 適応障害の治療は、精神的にサポートしたり、ストレスへの対処法を身につけることが主となります。また、不安障害や、うつ病などが疑われるケースもありますので、治療法は個々のケースについて適切に選択される必要があります。

 

・運動療法(有酸素運動など)

 運動療法とは、有酸素運動などを行い、脳や身体の機能を改善、回復させるものです。さまざまな精神障害の改善にも高い効果があることがわかっています。
 運動の効果として明らかになっているのは、まず脳内のニューロンの新生が活発になり認知機能が改善することです。ラットの実験では、ニューロンの新生は3、4倍になることがわかっています。次にシナプスの可塑性や伝達効率が上がるなど、脳内伝達物質の循環も活性化されます。また、運動を通じて自分の身体感覚が戻り、自律神経系、免疫系、内分泌系といった身体の機能が回復すると考えられています。
(例えば、うつ病の治療でも、統計上あらゆる療法の中で最も効果が高い方法は運動療法です。副作用もなく、再発もわずかとされます。) 

 有酸素運動といってもハードな運動は必要ありません。週に2,3日30分程度ウォーキングを行うだけで大丈夫です。日中外に出ることが難しい場合は、夜中に歩く、屋内でのヨガ、ピラティスなども効果的です。最近であればYoutubeなどの動画を見ながら簡単に自分でヨガを行うことができます。

 

 
Point

 有酸素運動は、決して気休めや道徳的な助言ではありません。非常に高い効果が見込めますので、すべての方に必ず取組んでいただきたいセルフケアの方法の1つですし、適応障害の治療の第一選択となります。

 参考:ジョン J. レイティ「脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方」(NHK出版) など

 

・心理療法(環境調整)

 ストレスへの対応の仕方を変えるなど、根本的な改善のためにおこないます。本人の心の問題というよりも本人から見た環境を変えるということが主眼です。カウンセリングを主として、状況に応じて認知療法や、マインドフルネス、家族療法、アサーション、リラクゼーションなどを用いる。(ストレス耐性が弱いことが、愛着形成の不全による場合はトラウマケアなどが必要です。)

 マインドフルネスとは何か?~本当の定義、やり方、学び方のまとめ

 トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状

 
Point

 特に、長引く場合は、ハラスメントの影響や幼少期からのトラウマ、愛着不安が考えられます。その場合は、カウンセリングやトラウマケアを行うことが必要となります。

 

・薬物療法

  抑うつ、不安など症状を軽減させる。あくまで補助的な治療になります。

 

 

 

適応障害に対する周囲のサポートや接し方

 昨今は、安易に本人の問題にしてしまうことがありますが、心理的な不調は、実は環境の問題であることが多いのです。たまたまその方が自分たちを代表して不調を抱えていると考えられます。「心の問題」と原因帰属しまうことは、本人の自尊心を傷つけてしまいます。
  

 同僚や家族、知人・友人が適応障害に陥った場合は

・ストレスの原因である環境そのものを調整すること

・ストレスへの対処力を高めること

・ストレスを発散させること

 をサポートすることです。

 適応障害は、環境(ストレス)のせいだということを忘れず、環境に適応するための具体的なサポートを行うことが大切です。

 

 例えば職場での問題であれば、以下の5点を行ってください。

1.環境を改善する

 心の不調は環境や人間関係のあらわれであることがほとんどです。本人の問題とせずにまずは環境を見なおして、改善を行ってください。一人の症状は、その環境のメンバーの問題を代表しています。職場全体の問題として、コミュニケーションの方法、職場の風土、マネジメントの仕方や仕事の進め方などできる範囲で見直しましょう。

 

2.技術的な教育、サポートやアドバイスを行う

 適応障害は、取り組んでいる仕事の見通しがつかないこと、うまくできないこと、意味が見出せない場合に生じやすい。先輩、上司であれば、仕事についての技術的なアドバイスやサポートを行なってください。

 ストレス耐性を高める3要素に効果があります。特に新しく職場に来て慣れない人には有効です。

  
3.悩みや愚痴を聴く

 ただ、ゆっくりと話を聞いてあげることも大切です。その際は、安易に本人のせいや根性論などにはしないように気をつけてください。

   
4.抑うつ症状が見られる場合は休ませる

 抑うつなどが見られる場合は、仕事の負荷を下げるなど休ませてください。健康相談室やクリニックなどと連携することが大切です。

 

5.励ますことは悪いことではない

 励ましが必ずしも悪いわけではありません。適応を支えるような励ましはOKですが、ただ本人のせいにすることは、適応を妨げるだけで、励ましではありません。(「あなたは大丈夫だ」と心の中で信頼しながら行ってください。)※うつ病で励ましが禁忌とされるのは、原因を本人に帰属させてしまうからです。

 

 

 

 →適応障害とは何か?や診断基準については、下記をご覧ください。

 ▶「適応障害とは何か?~その原因を理解する

 ▶「適応障害の診断基準~症状や他の障害との違いから

 

 ※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。

参考

岡田尊司「ストレスと適応障害」(幻冬舎)
貝谷久宣「適応障害のことがよく分かる本」(講談社)

福間詳「ストレスのはなし」(中公新書)

田中正敏「ストレスの脳科学」(講談社)

ブルース・マキューアンなど「ストレスに負けない脳」(早川書房)

ステファン・W・ポージェス 「ポリヴェーガル理論入門: 心身に変革をおこす「安全」と「絆」」(春秋社)

ロバート・M・ サポルスキー「なぜシマウマは胃潰瘍にならないか」(シュプリンガー・フェアラーク東京 )

杉晴夫「ストレスとはなんだろう」(講談社)

「ストレス学ハンドブック」(創元社) 

ジョン J. レイティ「脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方」(NHK出版)

「DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引」(医学書院)

「ICD-10(世界保健機構の診断ガイドライン)」(医学書院)

など