医師の監修のもと公認心理師が、多くの人が悩む「適応障害(適応反応症)」について、診断方法をまとめさせていただきました。
よろしければご参考くださいませ。
<作成日2015.12.3/最終更新日2024.6.7>
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この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・適応障害(適応反応症)かどうかを、診断基準からチェックする
・他の障害との違い、見分け方からチェックする
・適応障害(適応反応症)の症状の分類からチェックする
→適応障害(適応反応症)とは何か?やその治し方については、下記をご覧ください。
▶「適応障害(適応反応症)の治療、治し方、接し方~5つのポイント」
適応障害(適応反応症)とはストレス関連障害で、いわゆる「トラウマ」に関連する診断名の一つです。比較的軽度ですが、ストレスに関連して心身にダメージを負っている状態です。ただ、心療内科や病院では、漠然とした基準で診断されるケースも多く(ゴミ箱的診断)、ほんとうの意味では理解されていないことがあります。今回の記事では、正しく理解できるように診断基準だけではなく、他の類似の病気との違いや症状からも判断できるようにまとめています。
適応障害(適応反応症)かどうかを、診断基準からチェックする
下記のことに当てはまる場合、適応障害(適応反応症)と考えられます。
1.はっきり確認できるストレス因に反応して、そのストレス因の始まりから3カ月以内に行動面、情動面で変化があった
2.そのストレスの程度からは不釣り合いなほどに苦痛が生じている
または、
3.仕事など、社会的な活動に支障がある
<2.3の例>
心理面:不安、抑うつ、焦燥感、過敏、混乱、など
身体面:けん怠感、頭痛、肩こり、腹痛、多汗、めまい、など
問題行動:対人関係での問題、遅刻、欠勤、暴飲、暴食、ケンカ、犯罪行動、自傷行為、その他問題行動、など
5.他の身体的、精神的な問題の悪化によるものではない
6.ストレス因が収まるとその苦痛、症状は6月以上は続かない(収まる)
出典:米国精神医学会 DSM-5-TR(医学書院) をもとに作成
適応障害(適応反応症)の条件として、要因となっているストレスが特定できること、ということがあります。通常ストレス経験の3カ月以内に発症し、ストレスの要因が取り除かれたり、対処できれば、半年以内で症状は消えます。特定できない場合や、症状が半年以上続く場合は、別の問題であることが疑われます。
他の障害との違い、見分け方からチェックする
実は他の病気が疑われるが、基準に完全に当てはまらないために「適応障害(適応反応症)」との診断がつくケースも少なくありません。そのため、ケースごとに具体的に症状や背景の詳細を見ていく必要があります。全体的に程度が弱いということがありますが、加えて下記のような違いがあります。
・うつ病(大うつ病)との違い
うつ病がストレスから離れても抑うつ感が消えないのに対して、適応障害(適応反応症)の場合はストレスから離れると抑うつ感が緩和される点などが異なります。DSM-Ⅴの診断基準によってうつ病と診断されているものの9割は、実際には適応障害(適応反応症)といわれます。いわゆる非定型うつや新型うつなども、実は適応障害(適応反応症)である場合も多いとされます。
▶「うつ(鬱)病とは何か~原因を正しく理解する9のポイント」
厳密に適応障害(適応反応症)の条件に該当しなくても、うつ病未満という場合に「適応障害(適応反応症)」との診断がつけられる場合がありますし、反対に「適応障害(適応反応症)」との診断が適切な場合にうつ病という診断名がつけられてしまっているケースもあります。
・不安障害との違い
不安障害とは異なる点は、不安障害の場合は原因がよくわからないのに対して、適応障害(適応反応症)の場合は、ストレスの原因がわかっていることです。
・心身症との違い
円形脱毛症や胃潰瘍など器質的な異常が見られる場合は心身症とされ、器質的な異常が見られない場合には、まずは特定不能の抑うつ障害や身体表現性障害(身体症状症)などが検討され、それらを満たさない場合に適応障害(適応反応症)と診断されます。
適応障害(適応反応症)の症状の分類からチェックする
適応障害(適応反応症)はさまざまな症状が現れます。症状の分類から6つに分けられます。
分類はご自身の状況を理解する上でも助けになります。
1.「抑うつ気分」を伴うタイプ
憂うつさ、気力の低下、絶望感、思考・集中力・判断力の低下、涙もろい、感情がうまくコントロールできない。気分障害(うつ病など)と似ているが、気分障害と診断されるほどの程度ではないものです。 いわゆる新型うつや、非定型うつ、といったものなど、うつ状態とされるもののほとんどが、実は適応障害(適応反応症)ではないか、ともいわれています。
2.「不安」を伴うタイプ
心配しすぎたり、漠然とした不安、イライラしたり、神経過敏、軽いパニック障害など。ただ、不安障害と診断される程ではないものです。子どもの場合は不安を表現できないために「退行」としてあらわれます。幼稚園や学校に行くことを拒む場合は、発達障害や分離不安障害といったケースが見られます。
3.「抑うつ気分」&「不安」を伴うタイプ
上記の1,2が同時に現れて、生活に支障がある。
4.「行為障害」を伴うタイプ
行為障害とは、社会的に問題とされる行動を取ってしまうことです(無断欠勤、遅刻、万引き、暴力、落書き、など)。本人にも行為が悪いという自覚がありますが、適応できないことからくるストレスと向き合うことができず、投げやりな行動に現れます。いわゆる非行というのもこれにあたります。
5.「行為障害」&「抑うつ気分 or 不安」を伴うタイプ
4および1,あるいは2が同時にあらわれ、生活に支障があるタイプです。子どもの場合によく見られます。
6.特定不能のタイプ
身体の症状として現れる場合(肩こり、頭痛、だるさ、疲れなど)や、ひきこもり、睡眠障害が見られるなど。1~5に分類できないタイプ
→適応障害(適応反応症)とは何か?やその治し方については、下記をご覧ください。
▶「適応障害(適応反応症)の治療、治し方、接し方~5つのポイント」
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(参考・出典)
岡田尊司「ストレスと適応障害」(幻冬舎)
貝谷久宣「適応障害のことがよく分かる本」(講談社)
ブルース・マキューアンなど「ストレスに負けない脳」(早川書房)
ステファン・W・ポージェス 「ポリヴェーガル理論入門: 心身に変革をおこす「安全」と「絆」」(春秋社)
ロバート・M・ サポルスキー「なぜシマウマは胃潰瘍にならないか」(シュプリンガー・フェアラーク東京 )
ジョン J. レイティ「脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方」(NHK出版)
「ICD-10(世界保健機構の診断ガイドライン)」(医学書院)
など