解離性障害、解離性同一性障害の治し方~9つのポイント

解離性障害、解離性同一性障害の治し方~9つのポイント

トラウマ、ストレス関連障害

 医師の監修のもと公認心理師が、解離性障害、解離性同一性障害の治し方についてまとめてみました。

 

<作成日2016.3.10/最終更新日2024.4.22>

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この記事の執筆者

三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師

大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了

20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。

プロフィールの詳細はこちら

   

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 ・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。

 ・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。

 ・可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

もくじ

解離性障害を治療するための原則
本人を取り巻く環境を整える
 1.(本人や援助者は)解離という症状を適切に理解することが必要
 2.援助する側と本人とが信頼できる関係を作る
 3.安心安全な環境を用意する/有害な刺激を取り除く
 4.交代人格や解離症状に興味を持ちすぎない
 5.解離症状の世界や、オカルト的、宗教的な解釈にのめり込まない
トラウマをケアする
 6.過去を上手に吐き出す。無理に直面化しない~トラウマをケアする
 7.無理に交代人格を呼び出したり、統合しようとしない
 8.有酸素運動(運動療法)を行う
 9.薬物療法は補助として用いられる場合がある

 

 →解離性障害の原因やその症状とチェックについては、下記をご覧ください。

 ▶「解離性障害、解離性同一性障害とは何か?その原因

 ▶「解離性障害、解離性同一性障害の症状とチェック

 

専門家(公認心理師)の解説

 まず、解離性障害の場合はトラウマケアを続けることで時間はかかりますが徐々に軽快していきます。有酸素運動などの運動療法も効果的です。解離性同一性障害(多重人格)の場合は、「簡単に統合できる」とおっしゃる治療者もいますが、実際にはそれほど簡単ではありません。特に主となる人格の力があまりにも弱い場合やトラウマが重い場合は、急いで統合などを行うのは効果がありません。また、親などの否定的な人格を内面化して人格化している場合は、否定的な人格の妨害が入ってカウンセリング自体が成立しなくなることがあります。ベテランのカウンセラーでも、妨害の激しさにカウンセリングを断念する場合もあります(同様のことは、解離性同一性障害として顕在化していない場合でも生じることがしばしばあります)。そうしたことも折り込みながら、粘り強く取組んでいく必要があります。

 

 

解離性障害を治療するための原則

 解離性障害の原因の中で

 解離性障害の発症 = トラウマ経験 + 本人の傾向 + トラウマを癒やす環境の欠如 

 と図示しましたが、解離性障害を解決することは、上記の要素にアプローチすることになります。

 本人の傾向はすぐには変えることは難しいですから、環境とトラウマ経験に対して主として心理療法でアプローチすることになります。

 特に、解離性障害は、関係性の中で生じた外傷(トラウマ)が抑圧されていることが特徴と考えられています。
 そのため人間関係も含めた環境を改善することがとても重要です。

 

 

本人を取り巻く環境を整える

1.(本人や援助者は)解離という症状を適切に理解することが必要

 本人も、症状があまりにも当たり前で独特なため、自分の症状が解離性障害であるとの意識が薄いまま過ごしていることも多いです。援助する側も、解離性障害が本当にあるのか、いまいちピンとこず、診断の際に考慮しない臨床家も少なくありません。

 家族や周囲も同様です。解離症状について詐病として疑ってしまうこともしばしばです。まずは本人がどういった悩みで苦しんでいるのか、前提なく理解しようとすることが大切です。
 

(参考)解離性障害という見立がむしろ悪影響を及ぼす恐れはないか?

  解離性障害と捉えたり、多重人格を認めることで、症状が促進される(悪化する)恐れはないか、という懸念が持たれることがあります。確かに一時的に促進される可能性はあります。大部分のケースでは大きな問題にならないと考えられます。また、交代人格を固有名詞で呼んでも人格を固定化にはつながらないと考えられています。

 このことは他の精神障害にも当てはまる懸念です。見立によっておさえられていた症状が制限なく発揮されることはありえますが、悪影響を恐れるよりも、率直に症状を把握することが適切な共感や対応を生み、解決を促進することになります。

 

2.援助する側と本人とが信頼できる関係を作る

 解離性障害では、深刻な外傷(トラウマ)経験を負っている場合も多くそれらを口にできないために、解離を起こしていることがあります。適切な援助が必要です。

 カウンセラーはもちろんですが、援助する家族なども、本人が症状や過去の外傷(トラウマ)経験を安心して伝えられるように批判なく受け止める姿勢が大切です。

 悩んでいる本人だけでは治療が難しいため、医師やカウンセラーなど信頼できる専門家の援助を求めましょう。(残念ながら、専門家自体の数もまだ十分ではないという問題点はあります)
 

 

 

3.安心安全な環境を用意する/有害な刺激を取り除く

 本人が置かれている環境が、ストレスフルな状況である場合はまずそれを除く必要があります。家族が虐待などの外傷(トラウマ)の原因であることもしばしばです。そこから離れなければ治療も進まないことも多いです。その場合は、家から離れて一人暮らしや入院を考える必要もあります。家族にカウンセリングを受けてもらい、対応を変えるように促すことも大切です。 

 

 一人暮らしや転職など環境を変えることは現実的には容易ではないことも多いです。少なくともカウンセリングの現場では本人にとって安心安全な場を提供することが必要です。

 

 

4.交代人格や解離症状に興味を持ちすぎない

 本人やサポートする側の家族が解離がもたらす症状に興味を持ちすぎてしまい、それが治療の妨げとなることがあります。交代人格について克明に記録したり、興味本位で呼びだそうとしたり、解離の世界の不思議にのめり込んだり、といったことです。

 サポートする側の家族が医師などに対抗心を燃やして、治療の妨げになるということもあります。本人の苦しみを理解するために一定程度の理解は必要ですが、関わりが過度になり過ぎないことが大切です。

 

5.解離症状の世界や、オカルト的、宗教的な解釈にのめり込まない

 解離はとてもドラマティックな現象です。オカルト的なさまざまな解釈も可能ですが、そこにのめり込んだり、関連する書籍やインターネットを見るのもほどほどにしましょう。没入してしまうことは治療の妨げになります。

 

 

 

トラウマをケアする

6.過去を上手に吐き出す。無理に直面化しない~トラウマをケアする

 過去のつらい出来事がカウンセラーや医師によって共感されて受け止められることで、徐々に症状が回復していきます。切り離した記憶も少しずつ思い出していきます。

 特に、虐待などの体験を「誰にも言ってはいけない」と制止されたり、「そんなこと言ってはいけません」と取り合ってもらえない、自己表現の抑制と呼ばれる状況が解離性障害のトリガーとなると考えられています。
 そのため、過去をうまく吐き出して受け止めてもらうことはとても重要です。

 ただ、吐き出しを急ぎすぎたり、虐待体験への直面にこだわりすぎることは負担が大きいため、本人のペースに合わせることが必要です。過去のことを無理に思い出すことよりも、安心安全な環境を確保することのほうが大切です。

  
 また、トラウマケアなど、トラウマの出来事そのものを思い出さなくても解消できる方法もあります。

 

 ⇒関連する記事はこちら
  ▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状

 

 

7.無理に交代人格を呼び出したり、統合しようとしない

 人格が分離していることに対して、無理に統合をしようとすることは逆効果です。交代人格が生じるのは、自己表現が抑制され、安心できる環境にはないために生じています。交代人格は無理に統合するのではなく、環境を整えることや過去を癒すことで自然と収まっていきます。

 

 

8.有酸素運動(運動療法)を行う

 運動療法とは、有酸素運動などを行い、脳や身体の機能を改善、回復させるものです。さまざまな精神障害の改善にも高い効果があることがわかっています。
 運動の効果として明らかになっているのは、まず脳内のニューロンの新生が活発になり認知機能が改善することです。ラットの実験では、ニューロンの新生は3、4倍になることがわかっています。次にシナプスの可塑性や伝達効率が上がるなど、脳内伝達物質の循環も活性化されます。また、運動を通じて自分の身体感覚が戻り、自律神経系、免疫系、内分泌系といった身体の機能が回復すると考えられています。
(例えば、うつ病の治療でも、統計上あらゆる療法の中で最も効果が高い方法は運動療法です。副作用もなく、再発もわずかとされます。) 

 有酸素運動といってもハードな運動は必要ありません。週に2,3日30分程度ウォーキングを行うだけで大丈夫です。日中外に出ることが難しい場合は、夜中に歩く、屋内でのヨガ、ピラティスなども効果的です。最近であればYoutubeなどの動画を見ながら簡単に自分でヨガを行うことができます。

 参考:ジョン J. レイティ「脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方」(NHK出版) など

 

 

9.薬物療法は補助として用いられる場合がある

 解離性障害は脳の機能障害ではないこともあり、薬物療法は解離症状を弱めてカウンセリングを支援するために行います。 

 さまざまな症状の中でも「緊張」と呼ばれる、不安が強く興奮している症状(過敏、幻覚、不安、抑うつなど)には抗うつ剤、抗不安薬などが効果があります。衝動性に対しては抗精神病薬(リスペリドンなど)や気分安定薬(バルプロ酸など)などを用いることもあります。暴力的な交代人格が現れるのを抗精神病薬で緩和することも効果があるようです。

 

 一方、「弛緩」と呼ばれる症状(隔離、離人症状、けん怠感、まひなど)についてはあまり効果がありません。幻聴についてもあまり効果がないとされます。薬物を用いる場合は短期間で少量であることが望ましいとされます。

 

 

 →解離性障害の原因やその症状とチェックについては、下記をご覧ください。

 ▶「解離性障害、解離性同一性障害とは何か?その原因

 ▶「解離性障害、解離性同一性障害の症状とチェック

 

 

 ※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。

(参考)

細澤仁「実践入門 解離の心理療法」(岩崎学術出版社)
柴山雅俊「解離性障害」(筑摩書房)
柴山雅俊「解離性障害のことがよく分かる本」(講談社)

岡野憲一郎「多重人格者」(講談社)
岡野憲一郎「解離性障害」(岩崎学術出版社)
岡野憲一郎「続 解離性障害」(岩崎学術出版社)
岡野憲一郎「新外傷性精神障害」(岩崎学術出版社)

F・パトナム他「多重人格障害-その精神生理学的研究」(春秋社)

パトナム『解離-若年期における病理と治療』(みすず書房)

F・パトナム「多重人格障害―その診断と治療」(岩崎学術出版社)

みきいちたろう『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』(ディスカヴァー携書)

など