愛着の不安定さ(愛着障害)は、うつやパーソナリティ障害、依存症、トラウマなど実はさまざまな問題の原因と考えられています。
ただ、具体的にはどのように取り組めばよいのかについて情報を得ることは難しいのが現状です。
本記事では、医師の監修のもと公認心理師が、愛着障害を治療、克服するために必要なことについて、専門知識をもとにそのポイントをまとめてみました。よろしけばご覧ください。
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<作成日2019.9.8/更新日2023.2.6>
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この記事の執筆者みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師) 大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など シンクタンクの調査研究ディレクターなどを経て、約20年にわたり心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら |
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この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
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管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考に記述しています。
可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・ポイント1.養育者(母親)との関係にこだわらない
・ポイント2.過去へのとらわれを解消する~「内的ワーキングモデル」を更新する
・ポイント3.トラウマを解消する
・ポイント4.現在の環境を整える~よりよい絆を育んでいく
・ポイント5.「愛着」は回復できると知り、良い関係を育む
ポイント1.養育者(母親)との関係にこだわらない
愛着障害というのは、幼少期に安心安全な環境を与えられなかった影響を引きずり、さまざまな問題を引き起こしているということを指します。解決のためには、原初的に抱えている不安感を解消することが必要です。
原因を考えるストーリーとして「養育者との関係」という視点は非常に有効ですが、解決する際に養育者との関係にこだわることは問題を長引かせます。
養育者が自責の念に駆られたり、当人が養育者との和解や謝罪を引き出すことにこだわったりしてももちろんそれでうまくいくケースもあるかもしれませんが、逆に失望するケースのほうが多い。なぜなら、相手は容易には変わらないからです。養育者自身が愛着障害や発達障害という特徴があり、そのために養育が淡泊なものであったケースも少なくありません。
相手を説得して、自身の苦しみを理解してもらおうとすることは難しいことです。それよりも、解決に向かって進んでいくこと。原初的に抱えた愛着不安を癒し、安定型愛着の人たちが反抗期にそうするように、親へのこだわりや与えられた価値観を捨て、自らが自立、成長し、社会のさまざまな人たちとゆるやかにつながっていくことが大切です。
ポイント2.過去へのとらわれを解消する~「内的ワーキングモデル」を更新する
・内的ワーキングモデルとはなにか? ~心の中の”安全基地”
上記にも書きましたが、成人は、愛着を内面化していて、愛着対象がいなくても心の中でシミュレーションすることで安心を得ています。それを「内的ワーキングモデル」といいます。愛着に関する内的ワーキングモデルとは、自分自身が愛されるに足る人物ととらえる自己イメージと、自分は愛着対象から愛される、助けてもらえるという信頼によって成り立っています。心の中の安全基地を「内的ワーキングモデル」といいます。
・過去を客観的に吟味し、意味づけしなおす
東洋英和女学院大学の久保田まり教授はメインらの研究をもとに「成人期以降の愛着の安定性とは、過去や現在の親子関係が情愛に満ちた温かいものであり続け、愛着に関連する外傷的経験がない、ということでは決してなく、肯定的なことも否定的なことも過去の事実として自由に想起でき、葛藤のない感情状態で率直に語ることができ、意味ある自分の歴史として客観的に吟味できること、人生における“愛着”の意義に深い価値をおけること、であるといえる。」(久保田まり「アタッチメントの研究」(川島書店))としています。
・自分の中のわだかまりを解消する
私たちは、タイムマシンに乗って過去に戻れるわけではありません。また、親子の関係の改善も相手あってのことで、セラピーの事例で感動的に語られる親子和解のシチュエーションが常に起きるわけでもありません。期待するような和解を示すことがどうしても難しい親がいることも事実です。それよりも、自分自身の中でわだかまりを解消し、意味づけを行うことが愛着の安定を取り戻す近道であることが分かります。
わだかまりを解消し、自己イメージと自分自身は愛されるという信頼を回復できれば、親との和解や生き直しなど難しいことを行わなくても、愛着の安定を取り戻すことが期待できます。
ポイント3.トラウマを解消する
・トラウマが「内的ワーキングモデル」の更新を阻んでいる
「内的ワーキングモデル」は、その場の環境や経験によって時間とともに常に更新されています。しかし、トラウマが邪魔することにより、適切な更新が阻まれてしまいます。不安定型愛着とは、養育環境の悪さや外傷そのものではなく、柔軟な“学習”(「内的ワーキングモデル」の更新)が阻まれることに核心があるといえます。
・トラウマの解消に取り組む
トラウマは処理されない過去の記憶のことです。大人になっても、過去のことが頭を離れない状態では、アップデートが行われなくなってしまいます。わだかまりを解消するために大切なのは過去に負ったトラウマの解消です。トラウマの解消にはトラウマケアの専門家の下で取り組む必要があります。
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・不安定な愛着が生み出すさまざまな症状の解消に取り組む
愛着障害によるさまざまな問題(うつ、不安障害、依存症など)については心療内科やカウンセリングルームなどで相談できます。
ポイント4.現在の環境を整える~よりよい絆を育んでいく
・ストレスフルな環境から離れる
現在の環境がストレスが高いものであれば、愛着はどうしても不安定なものとなります。
愛着とは根拠のない信頼や絆のことですから、実績を上げたり、期待にこたえた場合にのみ愛される、という環境は愛着の安定にとってはプラスにはなりません。
不安定型愛着の場合は、ついつい、自分に不利な環境に身を置きがちですが、ストレスレベルが高い環境や自分が認めてもらえない環境からは距離を置くことが大切です。より良い環境を選択し、ゆるやかにさまざまな人たちと信頼関係を築いていくことです。
・パートナーや家族とはほどよい距離感で支え合う
現在自分に関わるパートナーや家族とは、お互いに安全基地となることを意識し、支えあうことが大切です。
その際には、「あなたは大丈夫」と心の中で思っていること。自分から見て相手に短所があったとしても「あなたは大丈夫」として相手を受け止めること。私たちが欲しているのは間違いを指摘されることではなく、無防備でもそのまま受け止めてくれる安全な環境です。家族であっても、相手は別の人間であり、それぞれのスタイルがあることを理解し、ほどほどであることが必要です。
ポイント5.「愛着」は回復できると知り、良い関係を育む
・「愛着」に関する誤解~スティグマではなく挽回可能なもの
「愛着」理論の問題点は、それが「第二の遺伝子」としてスティグマのように影響を及ぼし続けると誤解されているところです。
愛着というのは、自らは生存を確保できない乳幼児が安心安全を特定の養育者に求めることを指し、たくさんある人間というシステムのごく限定された重要な部分を指しているにすぎません。運悪く、愛着が十分に確保できなくても、その後の環境によって十分に挽回されます。
・周囲のゆるやかな人間関係から絆をはぐくむ
人間は社会的な動物で、人間の絆というのは、生物学的な親だけではなく、社会における友人、先輩、先生、上司、恋人、配偶者といった人たちによってももたらされます。それらは生涯を通じて変化して発達し続けます。愛着理論はあくまで仮説にすぎません。愛着という視点にこだわりすぎないことが大切です。
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→「子どもの愛着障害の治し方、関わり方~愛着を育むために必要な4つのポイント」
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参考
庄司順一、奥山眞紀子、久保田まり「アタッチメント」(明石書房)
久保田まり「アタッチメントの研究」(川島書店)
数井みゆき、遠藤利彦「アタッチメント~生涯にわたる絆」(ミネルヴァ書房)
数井みゆき、遠藤利彦「アタッチメントと臨床領域」(ミネルヴァ書房)
岡田尊司「愛着崩壊」(角川選書)
岡田尊司「愛着障害」(光文社)
岡田尊司「愛着障害の克服」(光文社)
滝川一廣、小林隆児、杉山登志郎、青木省三「そだちの科学 愛着ときずな」
「子育て支援と心理臨床 vol.9 2014 9月 愛着理論と心理臨床」
高橋惠子「人間関係の心理学 愛情ネットワークの生涯発達」(東京大学出版会)