近年、愛着障害についての理解が進んでいます。しかし、愛着障害を防ぐために、あるいはすでに愛着が不安定な状態にある子どもに以下にして接すればいいか?については情報を得ることは難しいのが現状です。
本記事では、医師の監修のもと公認心理師が、子どもの愛着障害を治し方、接し方について専門知識をもとにそのポイントをまとめてみました。よろしけばご覧ください。
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→「大人(青年期以降)の愛着障害の治し方~克服に必要な5つのポイント」
<作成日2021.10.8/更新日2023.2.6>
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この記事の執筆者みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師) 大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など シンクタンクの調査研究ディレクターなどを経て、約20年にわたり心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら |
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この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
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管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考に記述しています。
可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・ポイント1.養育者(親)が、愛着のメカニズムを理解する
・ポイント2.愛着の形成に重要な養育の要点を理解する
・ポイント3.育児はうまくいかなくて当たり前。養育者は自らを責めない
・ポイント4.これからの養育で、愛着は挽回できると知る
ポイント1.養育者(親)が、愛着のメカニズムを理解する
まず、必要なことは、養育者が愛着形成のメカニズムについて理解することです。
たとえば生後半年から1年半までが愛着形成にピークである、との情報を理解しているのとしていないのとでは、養育環境づくりの方針は当然変わってきます。
家族や地域でも愛着形成のメカニズムを知れば、問題の原理を知ると応用が効くようになり、子育てに対する助言や助け合いもより良くなります。
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・愛着形成の4つの段階
愛着理論を打ち立てたボウルビィは、愛着は4つの段階で形成されるとしています。
<第一段階> 誕生から12週目ごろまで
人の識別はなく、特定対象への愛着は見られない段階です。人に対しては、微笑んだり、泣いたりという信号を発信して相手の応答引き出しています。
※最近の研究では、愛着の形成はすでにこのころから始まっているとされます。信号行動と応答という相互作用の体験が愛着形成の基盤となっているようです。
<第二段階>生後12週から6カ月ごろまで
愛着形成の直前の段階です。人を識別し、人に対する親密な反応が増大していく時期です。
特定の人物を選択して、愛着行動が見られます。母親のみならず、家族など特定の数人にも向けられるようになります。乳児に対して親が情動行動を鏡のように映し返してもらうことで、自分の情動を確認し、体験の連続性が与えられます。自分が何者かという、自己同一性の感覚の土台です。
<第三段階>生後6カ月から2~3歳まで 愛着形成のピーク
愛着形成、愛着行動が最も活発な時期です。特に、1歳半くらいまでがそのピークとされます。はいはいなどで移動しやすくなることも愛着行動を後押しします。
愛着対象に接近し、接触を求めるようになります。養育者との分離を嫌がり、不安になり、再会すると安心します。
養育者を安全基地(secure base)として探索行動を行うようになります。むやみに愛着を求めるのではなく、安心安全を得ることを設定目標として持ち、養育者の行動や対応に応じて、目標を修整するように行動することがわかっています。
他者への共感を示したり、愛他的な行動を行うようにもなります。心の理論の基礎となるものです。愛着が組織化されるのと並行して、見知らぬ人には不安が高まる時期でもあります(新奇性不安)。
愛着の対象となる養育者との長期の離別は、心身に大きな影響を及ぼす心的外傷となりえるとされます。この時期は、2,3歳まで続きます。
<第四段階> 生後3歳以降 愛着対象の実在から「内的ワーキングモデル」へ
この時期になると自分以外の他者にもそれぞれに意図や目的があり、行動しているということが理解できるようになります。
養育者が常にそばにいなくても、相手の行動を予測することで、心を安定できるようになります。
愛着対象が実在しなくても、自分の心に自分自身や養育者の存在についてのイメージを持ち、自分は愛されるに樽存在であり、母親からも愛される、という確信を持つことができるようになります。これを「内的ワーキングモデル」と呼ばれています。
この時期以降、「内的ワーキングモデル」が介在することで、心の安定が守られながら自信をもって、社会とかかわり、自立をはたしていくことができます。
養育者との関係が不安定な場合は、「内的ワーキングモデル」もいびつなもの、不安定なものとなり、その後の社会とのかかわりに大きな影響を及ぼします。
ポイント2.愛着の形成に重要な養育の要点を理解する
愛着の研究者であるエインスワースによると、愛着形成にとって重要なのは、特定の養育者の「応答性と有効性(安全基地としての機能)」であるとしています。
1.応答性と感受性
下記の4点の程度とその一貫性が重要です。
・感度の良さ-悪さ
幼児の示すささいなサインへの感度や解釈の適切さ、適切に応答することを指します。
・受容-拒否
幼児が示す肯定、否定のさまざまな反応を受け入れられることを指します。
・協調性-介入・干渉
子どもを自立した存在として尊重できることを指します。直接、干渉しすぎるのではなく、望んでできるように間接的に気分づくりや誘導を行います。
・近づきやすさ-無視
子どもにとって親が利用しやすい状態にあることで、子どもにすぐに関心を向けられることを指します。
2.養育者と過ごす時間の長さ
特に生後半年から1年半は、特定の養育者は文字通りつきっきりでの世話が必要です。この時期の離別、死別、養育の一貫性の配慮がないままに保育所に長時間預けられたりといったことは、愛着が不安定になる要因です。養育者は、子どもと十分な時間を過ごすことが大切です。
3.養育方法
どのような濃度やスタイルで養育を行うのかは重要です。当然ですが、ネグレクトや虐待は悪影響を及ぼします。虐待というと暴力などを想起するかもしれませんが、転居などの幼少時の環境の変化、子どもの人格を否定するような態度、夫婦の不和などの環境も大きく影響することが分かっています。できるかぎり、ストレスが少なく安心安全が保たれるようにすることが必要です。
4.養育者の愛着スタイル
愛着には世代間伝達がみられるように、養育者の愛着スタイルは、子どもの愛着形成に影響を及ぼします。親も自分自身の愛着スタイルを理解して、不足する部分は意識して補う。あるいは、無理をせずに家族の力を借りるなどが必要です。
ポイント3.育児はうまくいかなくて当たり前。養育者は自らを責めない
・イライラするのは自然な反応
近年の研究では。人間の母子は産後のホルモンの変化や、自立をはたすための機能として、愛情と同時にうつや嫌悪感、イライラが生じるのだということがわかってきています。また、周囲のサポートが少なくストレスにさらされると余裕がなくなると、どんな人でも育児をやめてしまいたくなる、ということも起きます。
発達の特性もあり、育てにくい子がいることも事実です。育てやすさは子どもによってさまざまです。「他の家庭はうまくできている」とプレッシャーに感じる必要はありません。
・自分の状況を客観的に知る
子どもにうまく接することができない場合でも内的(身体的な)、あるいは外的な環境のせいだと理解できると行動を修整しやすくなります。養育者は自分を責めることはなく、ただ、客観的に自分の状況を知ることが大切です。
※親がアスペルガー障害など発達障害傾向にある場合は子どもへの関わりは淡泊になったり、自他未分化で強迫的に自分の価値観を押し付けたり、ということが起きる場合もあります。こうしたことについても養育者は自らの特徴を知ることが大切です。
・同調と反発のバランスの大切さ
養育とは、同調と反発、言い換えると、愛着の形成と自立という矛盾する二つの動きが揺らぎながら進んでいきます。つまり、つながりながら離れていく。離れていくからつながりが求められ、適切につながるためには離れていくことが必要です。親子はへその緒が切り離された瞬間からずっと離れ続けていくものといえます。
どれだけうまくいっている母子でも同調状態の割合は3割程度であり、大半は望んでいることと応答にはズレがあるとされます。それ以上の過度な同調や干渉はむしろ逆効果となることがわかっています。極端に言えば、母子でも3割程度しか同調できないことを考えると、他者との共感とは完全な同調によってではなく、相手の世界を尊重するという適度なわきまえによって成り立つものとも言えます。
過干渉は養育者の感覚の押しつけとなり、適切な共感を育てることになりません。子どもは、自分の感覚を自覚したり、相手に適切に伝えることができなくなったり、相手の顔色を過度にうかがうようになるなど、人間関係を支配-被支配の文脈でとらえるようになります。
参考)愛着を支える2つのホルモン
愛着の形成には、脳内の下垂体後葉から分泌されるオキシトシンとバソプレシンがかかわっていることがわかっています。ともに、ストレスレベルを下げ、基本的な信頼感や安心感を高めます。
オキシトシンは特に女性ホルモンによって、パソプレシンは男性ホルモンによって強化されます。
いずれも、養育環境に影響を受けることがわかっています。不安定型愛着の場合は、オキシトシン-バソプレシンシステムがうまく機能しなくなってしまいます。
・ポイントを押さえて賢く手を抜く
家庭や母親が子どもの教育やしつけ、食事などにこれほどまでにかかわるようになったのは人類史上初の事態です。親(特に母親)の責任が異常なくらい強調されすぎているのが実情です。それがむしろ愛着形成にマイナスに作用しているとも言えます。
家庭にこれ以上の要求をすることは限界に達しています。逆説的ですが、愛着を安定させるためには「さらに手厚い養育を」ということではなく、適切な知識は得ながら「ポイントを押さえて賢く手を抜く」。社会の仕組みを整えて、子どもへの家族の関与、責任を低減する必要があります。
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ポイント4.これからの養育で、愛着は挽回できると知る
・環境によって改善する愛着
1歳半までの養育環境が十分ではなく不安定型愛着を示しているケースでも、その後の養育環境次第では、安定型愛着となることが分かっています。
実際、1歳半頃まで安定型を示していて、その後に養育環境が悪化したケースと、不安定型でその後、養育環境が改善した場合では、後者のほうが良い結果を示しています。
・養育者を支える環境づくり~母親だけに責任を押し付けず、家族全体、社会全体で養育する
生後3歳までは十分な養育を与えられる環境を作ることが大切です。日本は、母親に過度に育児の負担がかかっていることが指摘されています。子育ては母親(女性)だけの責任ではありません。男性も同じように関わる必要がありますし、社会も支援する必要があります。母親も父親も働きながら十分な愛着形成を行える環境をつくる必要があります。養育者のストレスにも十分配慮した無理のない養育が求められます。
参考)養育者のストレスとバランス
母親ばかりに育児の責任を押し付けられることへのストレスが問題になっています。研究では、母親は父親も育児に参加した場合のほうが、さらに専業主婦よりも仕事を持っているほうが育児に対して肯定的な感情を持つことがわかっています。
専業主婦でずっと子どもと一対一というストレスフルな環境は健全な愛着形成を損なう恐れもあります(愛着理論を盾に母親に1対1の子育てを強いることが逆に愛着を損なうという逆説)。母親だけがずっと子どもと一緒にいるということは現実的ではありません。
父親やその他の家族も分担する。まだまだ整備が不十分ですが、保育など社会の支援も活用するなかで、ストレスを軽減して、家族全体、社会全体で育児に取り組むことが結果としてバランスが取れた安定した愛着形成に役立つと考えられます。
・家族の支援や保育サービスを適切に利用する
女性が社会進出しようとしている現代社会で母親がずっとつきっきりの育児を理想とすることは現実的ではありません。1対1の育児は過度のストレスで養育者を不安定に子育てに否定的な感情を生むことがわかっています。否定的な感情は愛着形成にもマイナスに作用します。必要があれば、保育サービスなどの社会支援を適切に利用しましょう。
参照)子どもについて不安があれば公的機関に相談所しましょう
→「保健所一覧」
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参考
庄司順一、奥山眞紀子、久保田まり「アタッチメント」(明石書房)
久保田まり「アタッチメントの研究」(川島書店)
数井みゆき、遠藤利彦「アタッチメント~生涯にわたる絆」(ミネルヴァ書房)
数井みゆき、遠藤利彦「アタッチメントと臨床領域」(ミネルヴァ書房)
岡田尊司「愛着崩壊」(角川選書)
岡田尊司「愛着障害」(光文社)
岡田尊司「愛着障害の克服」(光文社)
滝川一廣、小林隆児、杉山登志郎、青木省三「そだちの科学 愛着ときずな」
「子育て支援と心理臨床 vol.9 2014 9月 愛着理論と心理臨床」
高橋惠子「人間関係の心理学 愛情ネットワークの生涯発達」(東京大学出版会)