実は、珍しい症状ではない「声が聞こえる」(幻聴)という悩みについて医師の監修のもと公認心理師が、その原因や意味、メカニズムについてまとめてみました。よろしければご覧ください。
<作成日2016.10.15/最終更新日2026.10.17>
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この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍(累計約4万部)、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
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この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・専門家(公認心理師)の解説
・頭の中で声が聞こえるのは幻聴ですか?
・“声”が聞こえる人は実はとても多い
・人間とは多声的な存在
・幻聴とは何か?
→幻聴の適切な消し方(対処法)については、下記をご覧ください。
▶「幻聴(声が聞こえる)とは何か?その対処法、適切な”消し方”」
「声が聞こえる」という体験は、統合失調症だけにみられるものではありません。幻聴にはさまざまな成り立ちがありますが、慢性的なストレスや孤立、不眠、トラウマは重要な背景です。特に、虐待やネグレクトなどの幼少期逆境は、精神病性体験や精神病の重要なリスク因子であることが、多くの研究で示されています。また、トラウマ歴と幻聴の重症度との関連も報告されています。
当センターでは、声を単に「消すべき症状」として見るだけではなく、どのような状況で生じるのか、声の内容が過去の体験や対人関係とどのようにつながっているのかを理解することも重視しています。
また、人間の思考や内言を「多声的なもの」と捉え、幻聴をその制御や自己帰属のあり方から理解しようとする考え方もあります。本記事では、こうした臨床・心理学・哲学的な見方も含めて、幻聴の意味やメカニズムを考えます。
頭の中で声が聞こえるのは幻聴ですか?
頭の中で誰かの声が聞こえる体験は、幻聴(幻声)の一つとしてみられることがあります。ただし、頭の中の言葉や内言、過去の記憶が浮かぶ体験などとの境界は人によってさまざまです。また、声が聞こえるからといって、それだけで統合失調症と決まるわけではありません。
不眠や強いストレス、トラウマ、気分障害、統合失調症などさまざまな背景があり得るため、声が強く続く、生活に支障がある、現実との区別が難しい場合には医療機関で相談することが大切です。
以下にくわしく見てまいります。
“声”が聞こえる人は実はとても多い
ここからは、幻聴を理解するための一つの見方として、人間の意識や思考を「多声的」と捉える議論を紹介します。これは現在の医学的な幻聴の定義そのものではなく、幻聴という体験の意味を考えるための理解モデルです。
「幻聴(Auditory hallucination)」と言ってしまうと統合失調症などの一級症状として特殊なイメージがありますが、声が聞こえる人はとても多いです。さまざまな調査でも、「声が聞こえますか?」と聞くと、3~6%の方で「経験がある」と回答します。そのうち、統合失調症に該当する人は1割強程度とされるため、声が聞こえるというのはごく普通にある経験と言えます(出典:日本臨床心理学会「幻聴の世界 ヒアリング・ヴォイシズ」(中央法規出版))。
カウンセリングに訪れるクライアント様にも、よくよく話を聞いてみると「声が聞こえる」と訴える方は多いです(もちろん、統合失調症ではありません)。その聞こえ方はさまざまです。本当にそこにいる人間の声のように聞こえるというよりは、過去に聞いた人の声が繰り返されたり、内言のようなものが多いようです。
「声が聞こえる」ことを特殊なケース、あるいは気のせいだとして扱うと、その方の苦しみは見えてこなくなります。
関連する記事はこちらをご覧ください。
人間とは多声的な存在
ここからは、幻聴を理解するための一つの見方として、人間の意識や思考を「多声的」と捉える議論を紹介します。これは現在の医学的な幻聴の定義そのものではなく、幻聴という体験の意味を考えるための理解モデルです。
「声が聞こえる」ということは人間にとってはどんな意味があるのでしょうか?考古学者ジュリアン・ジェインズによれば、かつての古代の人間は「二分心」といって無意識に聞こえる神の声に従って生きていた、とされます。ソクラテスも”声”に従っていたとされます。日本でも、声は「空耳」「腹内人声」などと呼ばれていました。次第に”声”は一部の人しか聞こえなくなり、そうした人たちは巫女や預言者のような扱いをされ、現代にいたると統合失調症と呼ばれるようになりました。統合失調症患者も近代以前は、一定の敬意を払われて社会に居場所があったようです(出典:「神々の沈黙: 意識の誕生と文明の興亡」(NHK出版))。
ギブソンなど生態学的哲学を研究している河野 哲也氏によると、人間の意識というのは個としてあらかじめ存在しているのではなくて、環境を知覚することではじめて存在するものです(環境に拡がっている)。頭で考える思考も、他人の動作や声に共鳴する中で生まれるものであり、本来の人間は多声的な存在である、としています。自分の考えも他者の声への自動的な共鳴の中にいて、多声性を制御することで自己の一貫性を保っています(出典:「〈心〉はからだの外にある: 「エコロジカルな私」の哲学」(NHK出版))。
つまり、もともと頭の中ではさまざまな声が渦巻いていてそれを脳の力でおさえて自分の考えとしているのではないか、というのです。
それを証明するように、睡眠不足や過度のストレスなどコンディションが悪くなると(①不安、②孤立、③過労、④不眠などの条件がそろうと)、普通の人でも幻覚が見える場合があります。遭難経験などでよく伝えられるエピソードです。統合失調症のように精神疾患から内的なコンディションが悪くなっても多声性を制御できなくなることがわかります。
瞑想などある種の修練や催眠療法などの手法によっても、消去している声を聴くことができるというのもこうしたメカニズムに故なのかもしれません。
「声が聞こえる」というのは誰にでも今まさに起きていることであり、普通の人はそれらをあえてノイズとしてキャンセルしていると考えるとわかりやすいです。

幻聴とは何か?
・幻聴の定義
幻聴の定義はさまざまなものがありますが、簡単に言うと下記のようなものです。
「対象なく音を知覚すること。最も多いのは人の声」
幻聴の中でも、特に誰かが話しているように聞こえるものを「幻声」といいます。幻聴、幻声が聞こえるからと言って、たちまち精神疾患、精神障害というわけではありません。
・幻聴の正体とは?
幻聴の成り立ちについては、現在も複数の仮説があります。自分の内的な言葉(内語)を外からの声のように体験するという認知モデルや、過去に他者から言われた言葉・記憶・トラウマ体験が声の内容に影響するという見方などがあります。
上記で人間とは本来多声的といいましたが、過去に自分に対して批判された言葉であったり、自分の考え(内語)であったりします。オランダの精神科医であるマリウス・ロウムは、幻聴はトラウマ体験に根差しているとしています(出典:日本臨床心理学会「幻聴の世界 ヒアリング・ヴォイシズ」(中央法規出版))。
“自分の考え”と書いていますが、人間は環境の影響を蓄積して存在していますから、自分の考えと他者の考えとに明確な区別はありません。
例えば、読者の皆様が自分の考えと思っていることのほとんどが、実はこれまでの教育や書籍、テレビ、人などから見聞きした情報や考えで構成されています。全くのオリジナルな考えというものはありません。
関連する記事はこちらをご覧ください。
→「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因とそのしくみ」
トラウマ体験は、幻聴・幻声の重要な背景の一つです。過去に浴びせられた言葉などが、言語・音声的なフラッシュバックのように現れることもあります。その場合には、幻聴だけを問題にするのではなく、トラウマや愛着不安、解離などを含めた背景へのケアが重要です。
・声の聞こえ方
人の声
単語
短いフレーズ
ひとまとまりの会話
知っている人の声/知らない人の声
他の音(TVや車の音など)と一緒になって聞こえる など
雑音
音楽
など
・聞こえる場所
外から聞こえる
体の中(のど、首、胸、お腹など、)から聞こえる
耳元から聞こえる
頭の中で聞こえる
目の前にいる人から(実際には話はしていない)
返事をすると声が返ってくる
特定の場所に行くと聞こえる(トイレや部屋など)
など
・内容
・否定的なもの
非難するような内容
強迫するような内容
攻撃的な内容
命令するような内容
・肯定的なもの
人が対話しているような内容
励ますような内容
統合失調症などの臨床群では、非難・命令など否定的な内容の声が多くみられる一方、一般人口の幻聴様体験では肯定的・中立的な内容もみられます。
・幻聴が生じる条件
幻聴が生じる条件として下記の4点が指摘されています。
①不安、②孤立、③過労、④不眠
遭難時などはまさに4条件が重なるため幻覚、幻聴が生じます。統合失調症などの精神疾患、精神障害によっても同じことが生じます。統合失調症などの精神疾患では、遺伝的・神経発達的な要因に加えて、ストレスや社会的孤立など複数の要因が関係すると考えられています。虐待・ネグレクト、慢性的な家庭内ストレスなどの幼少期逆境は、その後の精神病性体験や精神病の重要なリスク因子であることが、多くの研究で示されています。こうした逆境は、慢性的な不安や孤立、睡眠障害などとも結びつきます。ストレスや社会的孤立などは、上記の条件(不安や孤立、その結果としての疲労や不眠)に関連することがわかります。
私たちは社会的に孤立すると、内的な対話が増えたり、幼い頃であればぬいぐるみと会話したり、ということがありますが、人によっては、声が孤立や逆境の中で何らかの心理的な役割を持っているようにみえる場合もあります。つまり、幻聴というものがたちまち取り除くべき悪いものではありません。
・脳から見た幻聴
脳から見た幻聴もまだまだ研究の途上です。幻聴にかかわる脳の領域としては、前頭葉と側頭葉があります。特に側頭葉の左上側頭回との関連はさまざまな実験に共通して指摘されています。左上側頭回は感覚性言語にかかわる領域です。また、内語を自分のものと判断する機能(左中側頭回)が低下して、他者からのものと誤解してしまうことが原因と示唆する実験結果もあります(出典:石垣琢麿「幻聴と妄想の認知臨床心理学 精神疾患への症状別アプローチ」(東京大学出版会))。
→幻聴の適切な消し方(対処法)については、下記をご覧ください。
▶「幻聴(声が聞こえる)とは何か?その対処法、適切な”消し方”」
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(参考・出典)
黒川昭登他「幻聴・不安の心理治療 人間的理解の必要性」(朱鷺書房)
石垣琢麿「幻聴と妄想の認知臨床心理学 精神疾患への症状別アプローチ」(東京大学出版会)
日本臨床心理学会「幻聴の世界 ヒアリング・ヴォイシズ」(中央法規出版)
ポール・チャドウィック「妄想・幻声・パラノイアへの認知行動療法」(星和書店)
原田誠一「正体不明の声ハンドブック」
「〈心〉はからだの外にある: 「エコロジカルな私」の哲学」(NHK出版)
ジュリアン・ジェインズ「神々の沈黙: 意識の誕生と文明の興亡」(NHK出版)
など
















