対人恐怖症、社交不安障害(社交不安症)とは何か?原因とメカニズム

対人恐怖症、社交不安障害(社交不安症)とは何か?原因とメカニズム

不安障害

 人前で強く緊張する、他人からどう見られているかが気になる、恥をかくことが怖い――こうした対人場面での強い不安が続き、生活に支障が出る場合には、社交不安症(社交不安障害)が関係していることがあります。本記事では、日本で古くから論じられてきた「対人恐怖症」との違いも含め、その原因やメカニズムを解説します。。

 ※現在の正式名称は「社交不安症(Social Anxiety Disorder)」です。本記事では、一般に広く使われている「社交不安障害」という名称も併記します。

 

<作成日2016.2.14/最終更新日2026.9.13>

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この記事の執筆者

三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師

大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了

20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍(累計約4万部)、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。

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この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 ・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。

 ・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。

 ・可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

もくじ

専門家(公認心理師)の解説

対人恐怖症、社交不安障害とは何か?

対人恐怖症、社交不安障害の原因とメカニズム

 

 →対人恐怖症、社交不安の原因やチェックについては、下記をご覧ください。

 ▶「対人恐怖症、社交不安障害(社交不安症)の治し方

 ▶「対人恐怖症、社交不安障害のチェックと診断~3つの視点から
 

 

専門家(公認心理師)の解説

 社交不安症の成り立ちには、気質や遺伝的要因、過去の対人経験、認知の偏り、回避行動など複数の要因が関係すると考えられています。

 当センターの臨床では、その背景として愛着不安やトラウマ、慢性的な対人ストレスが関係していないかも重視しています。人との関係の中で安心感を得にくい状態が続くと、他者の評価や反応に対して過敏になりやすいからです。

 

 

対人恐怖症、社交不安障害とは何か?

 社交不安症とは、人から注目されたり評価されたりする可能性のある場面で、強い不安や恐怖を感じ、その状況を避けたり、強い苦痛を感じながら耐えたりする状態です。本人は、恥をかく、否定的に評価される、相手を不快にさせるなどの結果を強く恐れます。

 一方、「対人恐怖症」は日本で古くから用いられてきた概念で、社交不安症と重なる部分は大きいものの、相手に不快感を与えることへの恐れなど、より他者志向的な特徴を含む場合があります。

・定義

 対人関係、社交の場面における過度な恐れ、不安を示す状態を言います。

 当初、社会恐怖、社会不安障害と呼ばれていましたが、現在は「社交不安症(Social anxiety disorder)」という呼び方になっています。DSM(米国精神医学会の診断マニュアル 「DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル」(医学書院))が登場したことで、対人恐怖症という日本独自の概念は、社交不安障害(SAD)という概念で説明されるようになりました。
 

 ただし、対人恐怖症と社交不安障害とは大きく重なりますが、完全に同じ概念ではありません。社交不安症では、人から否定的に評価されることへの恐れが中心になります。一方、日本で論じられてきた対人恐怖症では、自分が恥をかくことだけでなく、「自分の視線やにおい、態度などによって相手を不快にさせるのではないか」という他者志向的な恐れが前面に出る場合があります。

 正式な診断名ではなくても「対人恐怖症」という概念も治療や自己理解には有効です。 

 

日本文化との関係が指摘されてきた「対人恐怖」

 対人恐怖は、日本の精神医学で古くから詳細に記述されてきた概念です。かつては日本特有の「文化結合症候群」と捉えられることもありましたが(精神科医の土居健郎も、『甘えの構造』のなかで「対人恐怖という言葉はもともと、先にあげた森田(正馬)の衣鉢を継ぐ精神医学者が使い出したものと思われる」としています)、現在では類似した症状が他の文化圏にもみられることが知られています。ただし、恥や他者への配慮を重視する文化的背景によって、症状の現れ方が影響を受ける可能性はあります。

 

 

・対人恐怖症、社会不安障害の割合や時期

 DSM-5-TRでは、米国における成人の社交不安症の12カ月有病率は約7%とされています。これは、1年間におよそ14人に1人が該当する割合です。子どもや青年でもほぼ同程度ですが、高齢になるにつれて割合は低下し、高齢者では約2~5%とされています。DSM-5-TRでは、欧州における12カ月有病率は約2.3%、韓国では約0.4%とされ、国や文化、調査方法によって大きな差があることも示されています。
 日本では、2002~2006年に実施されたWHO世界精神保健日本調査で、社交不安症の12カ月有病率は0.8%と報告されています。これは、1年間におよそ125人に1人に相当します。日本不安症学会と日本神経精神薬理学会が2021年に公表した「社交不安症の診療ガイドライン」でも、この0.8%という数値が紹介されています。発症のピークは14歳と、自我が芽生える思春期に多く発症するとされます。(出典:山田和夫『やさしくわかる社会不安障害』(ナツメ社))

 

 

 

・対人恐怖症、社交不安症の現れ方

 以前は「全般型」「非全般型」などに分けることがありましたが、現在のDSM-5-TRでは、恐怖が人前で話す・演奏するなどのパフォーマンス場面に限られる場合に「パフォーマンス限定型」と指定します。

 一方、会話、食事、初対面、人前での行動など幅広い社交場面に不安が及ぶ人もいます。

 

 

 

対人恐怖症、社交不安障害の原因とメカニズム

・前提となる愛着形成やトラウマの存在

 社交不安症の成り立ちには、気質や遺伝的要因、過去の対人経験、認知の偏り、回避行動など複数の要因が関係すると考えられています。

 当センターの臨床では、その背景として愛着不安やトラウマ、慢性的な対人ストレスが関係していないかも重視しています。人との関係の中で安心感を得にくい状態が続くと、他者の評価や反応に対して過敏になりやすいからです。

 愛着とは、不安やストレスを感じたときに、特定の他者との関係を通して安心感を回復しようとする仕組みです。幼少期の養育者との関係を通して発達しますが、その後の対人経験によっても変化していきます。幼少期の慢性的なストレスや不適切な養育環境は、感情調整やストレス反応、対人認知などの発達に影響することがあります。

 養育者との関係が不安定だったり、安心して頼る経験が乏しかったりすると、愛着不安が強まり、対人関係で相手の反応を過度に気にするようになる場合があります。

 

→関連する記事はこちらをご覧ください。

 ▶「「愛着障害(アタッチメント障害)」とは何か?その特徴と症状」

 ▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因とそのしくみ」

 

 

・きっかけとしての成長過程での経験

 発達を理解する一つの見方として、児童期から青年期にかけて、人間関係のルールが大きく変化します。幼い時期には身体能力や単純な力関係が目立ちやすい一方、青年期になると協調性、会話、暗黙のルールなどがより重要になります。

 私たちは、発達の過程でさまざまな変化を経験します。特に青年期などで人間関係の在り方が急速に変化する中では大きな戸惑いを経験します。

 児童期が「身体性に基づくタテ関係」を特徴とされます(単純に力がつよい子や運動のできる子が強い立場になる、といったこと)。一方、青年期は「協調性に基づくヨコ関係」が特徴です。いかに相手のことを思いやり、協調できるかが集団での力関係を決定していく時期です。わずか数年の間にルールが変わるわけですから、誰でも戸惑い、少なからず対人関係に恐れを感じるようになります。

 

 恐れを感じることは決して悪いことばかりではありません。適切な恐れは「相手への敬意」の土台(人間性への畏れ)となり、健全な関係を育んでいきます。問題になるのは、その恐れが過度になり、回避や生活上の支障につながる場合です。

 

 成人となっても成長、発達は完成ではありません。日常生活や会社の中でも日々、結婚、出産、子育て、異動や昇進、転職など人間関係は移り変わっていきます。実は、人間の発達は想像以上に非定型で凸凹していることがわかってきていますから、出会う人の感覚や常識は一様ではありません。大人の間でもいじめやモラハラは存在します。その中で自分の常識が通じないストレスや、理不尽な目にあうことも対人恐怖症、社交不安障害のきっかけとなります。

 

→関連する記事はこちらをご覧ください。

 ▶「ハラスメント(モラハラ)とは何か?~原因と特徴」

 

 

・脳の警戒システムと自律神経の反応

 社交不安症では、人から評価される可能性のある場面を「脅威」として強く感じ、身体の警戒反応が過剰に起こることがあります。心拍が速くなる、汗をかく、顔が赤くなる、震える、息苦しくなるなどの身体症状がみられます。

 こうした反応には、扁桃体を含む脳内の脅威処理ネットワークや、自律神経系などが関係すると考えられています。ただし、単一の神経伝達物質や一つの脳部位だけで説明できるものではありません。

 

・背景にある気質、体質

 社交不安症には、不安を感じやすい気質や行動抑制傾向などが関係することが知られており、遺伝的要因も一定程度関与すると考えられています。神経伝達物質の働きと性格傾向の関係を指摘したクロニンジャーや、セロトニントランスポーター遺伝子の違いが不安の感じやすさに影響していると指摘したレッシュの研究があります。ただし、遺伝だけで発症が決まるわけではなく、対人経験や環境との相互作用が重要です。

 

 

・「否定的な予測」と「回避」の悪循環

 社交不安症では、「失敗したらどうしよう」「変な人だと思われる」「相手を不快にさせる」といった否定的な予測が強まり、その不安を避けるために人前を避けたり、目を合わせない、話さないなどの行動を取ることがあります。

 その場では不安が下がるため回避は有効に感じられますが、「実際には大丈夫だった」という経験を得る機会が減り、不安が維持されやすくなります。また、社交場面の前に何度も失敗を想像する「予期不安」や、終わった後に「あの言い方はまずかった」と繰り返し振り返る「事後反芻」も、不安を維持する要因になります。

 

 不安というのは、適切に認識されると脳が自然と修復していく機能があります。しかし、多くの場合、不安を回避してしまい、修復の機会を逃してしまいます。そして、誤った認知によって、不安のセンサーの作動は強化されてしまい、増大していきます。

 

 例えば、言い間違えて人から笑われたことを過剰に意識してしまい、人前で話すことを避ける。頭のなかでは、自分は人からバカにされていると誤って想像してしまう。そうするとちょっとした失敗の兆候も真実ととらえて、さらにセンサーは敏感になっていく。そして、また失敗する、笑われる、を繰り返していき、恐怖症が誕生する、といったことです。

 

 

・“不安“から“恐怖”へ

 不安は、これから悪いことが起こるかもしれないという予測に伴う感情で、恐怖は目の前の脅威に対するより即時的な反応と整理されることがあります。社交不安症では、社交場面を繰り返し脅威として予測することで、強い恐怖反応へつながることがあります。

 

 

 →対人恐怖症、社交不安の原因やチェックについては、下記をご覧ください。

 ▶「対人恐怖症、社交不安障害(社交不安症)の治し方

 ▶「対人恐怖症、社交不安障害のチェックと診断~3つの視点から

 

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(参考・出典)

笠原敏彦「対人恐怖と社会不安障害」(金剛出版)
貝谷久宣「社会不安障害のすべてがわかる本」(講談社)
水島広子「正しく知る不安障害」(技術評論社)
クレア・ウィークス「不安のメカニズム」(筑摩書房)
クリフトフ・アンドレ、パトリック・レジュロン「他人がこわい」(紀伊國屋書店)
大野裕「不安症を治す」(幻冬舎)

山田和夫「やさしくわかる社交不安障害」(ナツメ社)

米国精神医学会 DSM-5-TR(医学書院)

土居健郎『甘えの構造』(弘文堂)

など