慢性腰痛の治し方を公認心理師が解説~脳や心理へのアプローチ

慢性腰痛の治し方を公認心理師が解説~脳や心理へのアプローチ

身体に現れる不調

 近年、大きく変わり始めて腰痛への治療。かつては「脊椎の障害」として診断されていたものが、エビデンスに基づく医学の進展も背景に、心理、社会的な要因が大きく影響する症状として捉えなおされています。前回につづき、医師の監修のもと公認心理師が、専門書をもとに腰痛についてまとめてみました。

 

<作成日2019.9.25/更新日2024.3.15>

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この記事の執筆者

三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師

大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了

20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。

プロフィールの詳細はこちら

   

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 ・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。

 ・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。

 ・可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

もくじ

慢性腰痛を克服するために必要なこと

 1.腰痛に関する心理教育
 2.腰痛に対する認知(考え方、捉え方)を変える~必要であればトラウマケアを行う
 3.運動する

 

 

 →腰痛とは何か?その原因については、下記をご覧ください。

 ▶「慢性腰痛の原因を公認心理師が解説~実は脳や心理が原因?

 

 

専門家(公認心理師)の解説

 トラウマ臨床の現場では、慢性的な腰痛など身体的な痛みについてトラウマケアなどを行うことで顕著な改善が見られるケースが少なくありません。あと、サーノ教授の『腰痛は<怒り>である』といった本を紹介した方の半分くらいの方が、本を読んだだけで身体のしびれや痛みが取れると言ったご報告をいただいたりという経験があります。なかなか良くならないケースでは、心理的なアプローチを行ってみることが必要です。

 

 

慢性腰痛を克服するために必要なこと~脳の機能のリハビリテーションを行う

 慢性腰痛は、現在のところ、痛みをおさえる脳の機能の失調という説が有力視されています。オーストラリアやイギリス、カナダなどでも成果を上げて注目されていますが、近年、原因不明の腰痛に対して最も効果を上げて注目されている方法は、心理療法(認知行動療法)による治療です。“心理”療法と言いますが、心というよりも“脳のリハビリテーション”ととらえたほうが適切です。

 

腰痛に対する心理療法の内容は、以下の3点です。

 1.腰痛に関する心理教育

 2.腰痛に対する認知(考え方、捉え方)を変える

 3.運動する

になります。

さらに、具体的に見ていきます。 

 

1.腰痛に関する心理教育

 腰痛がどのようなメカニズムになっているのか、怖れる必要がない、といったことについて、映像を見たり、書籍を読んだりするものです。単に知識、情報を得るということが目的ではなく、それ自体が症状を改善する効果があります。
 
 NHKスペシャル取材班「脳で治す腰痛 DVDブック」が最もよくまとまっています。DVDで映像を見ることもできます。
 心理的・社会的要因を指摘した先駆けであるサーノ教授の「腰痛は<怒り>である 普及版」(春秋社)も読むだけで改善したというクライアント様は実際に何人もいらっしゃいます。
 
よろしければ、ぜひ一度ご覧ください。 

 

2.腰痛に対する認知(考え方、捉え方)を変える~必要であればトラウマケアを行う

 認知行動療法とは、症状に対する認知(考え方、捉え方)を変えるものです。腰痛は怖い、治らない、と思っていてはずっとその痛みに振り回されてしまうことになります。できるだけ、客観的に自分の考えを知り、その考えが有益なものかどうかを振り返っていきます。必要があればより効果的な考え方に変えていきます。 大切なのは、治そうとしない。無理をしない、頑張りすぎない。無理にポジティブにしようとしない。ということです。客観的に状態をとらえることができれば、心身も自然と元に戻ろうとする動きが起きていきます。

 認知行動療法のためには、ストレスや痛みについての日記を記していきます。出来事、考え方(認知)、行動や感情 といったことを記します。できるだけありのままに記すことが大切です。そして、後で振り返って、それらが有益なものかを見直していきます。 見直しのポイントは自分の本音や感情を抑圧している部分がないかどうか?周囲との衝突を恐れて自分のニーズを回避していないか?ということです。
 
 慢性腰痛の方に共通するのは、痛みを過度に恐れたり、日常でもストレスを我慢しすぎたり、柔軟性を欠いた考え方をしていることです。そうした考えの傾向を見直して、より効果的で合理的で柔軟な考え方へと修正を行っています。 

 

 マインドフルネスなども認知の修正やストレスを解消することに効果的です。認知を変えることで徐々に脳の機能が回復していきます。ご自身で取り組んでみてもうまくいかない場合は腰痛の認知行動療法についてくわしい病院や、カウンセラーにサポートしてもらってください。

 

 
Point

 特に、長引く場合は、ハラスメントの影響や幼少期からのトラウマ、愛着不安が考えられます。その場合は、カウンセリングやトラウマケアを行うことも有効です。

 

3.運動する

 背中を反らすなどの運動や、ストレッチを無理なく行うことで、腰痛への恐怖を身体レベルからも除いていきます。
 背中を反らす運動を2週間行うだけで、6割程度の人が改善したという報告があります。
 運動についてもNHKスペシャル取材班「脳で治す腰痛 DVDブック」が参考になります。
 
 また、運動は、背中を反らす、といったことだけではなく、ウォーキング、水泳、スポーツなど、体を動かすことであれば効果があります。どの運動が腰痛に最適なのかはまだ研究段階で分かっていません。そのため、無理なく自分でつづけられるものを選ぶことが大切です。

 

 

 

 →腰痛とは何か?その原因については、下記をご覧ください。

 ▶「慢性腰痛の原因を公認心理師が解説~実は脳や心理が原因?

 

 

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(参考)

 日本整形外科学会「腰痛診療ガイドライン2012」(南江堂)
 菊地臣一「腰痛 :第2版」(医学書院)
 NHKスペシャル取材班「脳で治す腰痛 DVDブック」
 ジョン E.サーノ「心はなぜ腰痛を選ぶのか―サーノ博士の心身症治療プログラム」(春秋社)
 長谷川淳史「腰痛ガイドブック -根拠に基づく治療戦略」(春秋社)
 長谷川淳史「腰痛は<怒り>である 普及版」(春秋社)
 菊地臣一「腰痛 -なぜ治らないあなたの痛み-(別冊NHKきょうの健康)」
 菊地臣一「長引く腰痛は“脳の錯覚”だった -名医が教える最新の腰痛改善・克服法」(朝日新聞社)

 など