解離症群では、自分が自分ではないように感じる離人感、周囲が現実ではないように感じる現実感の消失、記憶の空白、同一性の不連続など、さまざまな症状がみられます。解離性同一症では、複数のパーソナリティ状態が交代して現れることがあります。かつてはヒステリーとして一般の人でも知られる精神障害ですが、奥が深く、診断や治療も難しい症状です。専門で扱う病院も多くはありません。実は、特殊な症状ではなく、軽度の解離は私たちも人生の中で経験する身近なものでもあります。今回は医師の監修のもと公認心理師が、解離性障害(解離症群)、解離性同一性障害とは?その原因についてまとめてみました。
<作成日2016.3.10/最終更新日2026.9.13>
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この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍(累計約4万部)、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
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この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
1.解離性障害(解離症群)とは
解離性同一性障害(解離性同一症、かつては多重人格障害)とは
2.解離性障害(解離症群)の原因
→解離性障害(解離症群)の症状とチェックやその治し方については、下記をご覧ください。
▶「解離性障害(解離症群)、解離性同一性障害の症状とチェック」
▶「解離性障害(解離症群)、解離性同一性障害の治し方~9つのポイント」
解離とは、トラウマ臨床においてよく見られる症状です。いわゆる解離性障害とまではいかなくても、自分の感情がよくわからない、自分が自分であるとの感覚が薄いなどといった問題は決して珍しくありません。当事者も自覚できていなかったり、言語化できない場合もあります。解離性同一性障害(いわゆる多重人格)も決して稀ではありません。最初から、多重人格という現れ方は見せなくても、カウンセリングが進む中で明らかになる場合もあります。重いトラウマや慢性的なストレスとの関連が多く報告されています。
解離性障害(解離症群)とは
解離性障害(解離症群)とは、通常は一つにまとまっている記憶、意識、感覚、感情、自己感覚、身体の動きなどの働きが、一時的または持続的に分断されたり、不連続になったりする状態を指します。代表的なものとして、重要な記憶が抜け落ちる「解離性健忘」、自分や周囲が現実ではないように感じる「離人感・現実感消失症」、同一性の不連続と記憶の空白がみられる「解離性同一症(解離性同一性障害)」などがあります。
かつては「ヒステリー」と呼ばれ、解離症状と転換症状(身体に不調をきたす症状)が現れるものと考えられていました。
「解離性障害」として認識されるようになったのは、DSM(米国精神医学会の診断マニュアル)が刊行された1980年代以降と実は比較的最近のことです。そのため、解離性障害についてはくわしい臨床家が少なく、その存在が意識されないまま他の障害として診断されることも多いとされます。
本人が意図的に症状をコントロールしているように見られることから詐病や虚偽性障害と診断されたりすることも少し前までは多かったようです。
・解離性同一性障害(解離性同一症、かつては多重人格障害)とは
解離性同一性障害(解離性同一症)では、2つ以上の異なるパーソナリティ状態がみられ、自己感覚や「自分が自分の意思で行動している」という主体性の感覚に大きな不連続が生じます。また、日常の出来事や重要な個人的情報、トラウマ体験などについて、通常のもの忘れでは説明できない記憶の空白がみられます。
パーソナリティ状態の現れ方や数には大きな個人差があります。明確に人格が交代するように見える人もいれば、本人には「自分の中に別の考えや感情が入り込んでくる」「自分がしたことを覚えていない」といった形で体験される人もいます。
解離性同一症の有病率や現れ方には、調査方法や文化によって差が報告されています。ただし、特定の国だけにみられる疾患ではなく、DSM-5-TRやICD-11でも正式な解離症として位置づけられています。
・解離性障害の発症頻度
DSM-5-TRでは、「解離症群」全体を一つにまとめた有病率は示されておらず、病型ごとに数値が報告されています。米国では、解離性同一症の成人における12カ月有病率は約1.5%、解離性健忘は約1.8%とされています。いずれも、1年間におよそ60~70人に1人に相当します。ただし、同じ人が複数の解離症状をもつこともあるため、これらの割合を単純に合計することはできません。また、DSM-5-TRでは、離人感・現実感消失症の正確な12カ月有病率は明らかになっていません。一時的な離人感や現実感の喪失は、成人の約半数が生涯に少なくとも一度経験するとされますが、病気として診断基準を満たす人はそれより大幅に少なく、英国では1カ月有病率が約1~2%と報告されています。
日本では、厚生労働省による解離性障害単独の全国有病率調査は公表されておらず、正確な割合は明らかになっていません。精神科に訪れる患者の1割未満ではないかとされています(柴山雅俊「解離性障害」(筑摩書房))。
解離性障害(解離症群)の原因
解離の詳細についてはまだまだわからないことも多く、研究の途上です。
現在までにわかっていることを簡単に整理してみました。
1.トラウマや強いストレスとの関連
解離症状は、虐待、ネグレクト、いじめなどのトラウマ体験や、強いストレスとの関連が多く報告されています。耐え難い体験から心理的に距離を取るための防御的・適応的な反応として解離を理解する考え方もあります。
一方、解離の成り立ちはまだ十分には解明されておらず、記憶、注意、自己感覚、感情調整などの認知機能や神経ネットワークとの関係も研究されています。そのため、「心の問題か脳の問題か」という二者択一ではなく、生物・心理・社会的な複数の要因から理解するのが適切です。
空想傾向や被暗示性などの認知特性と解離との関連も研究されていますが、それだけで解離症の発症を説明できるわけではありません。
臨床的には、トラウマや強いストレスに加えて、本人の認知・感情調整の特徴、周囲から十分な支援を得られなかったことなどが複雑に重なることで、解離症状が生じたり持続したりすると考えられます。
・神経ネットワークモデル
解離という現象についての神経学的なモデルとして有力とされているのは「神経ネットワークモデル」です。神経ネットワークモデルとは、人間の脳を巨大で複雑なネットワークの活動と捉え、複数の個別モジュールが活動を営んでいるとするものです。解離を、通常は統合されている記憶・感情・自己状態などのネットワーク間の連携が一時的に弱まった状態として理解するモデルもあります。解離性同一症では、こうした自己状態の分離がより明確に体験されると考える臨床モデルがあります。
・理不尽な出来事があると心を飛ばす
解離のある人には、親から怒られたりした際に心を飛ばしてやり過ごす経験のある方がいます。心を飛ばすことで、理不尽なことから逃れようとしているのです。
2.さまざまな外傷体験と環境要因
本記事内での「外傷」とは、身体的な傷ではなく心的外傷のことです。
解離性障害の患者の多くは家庭に問題を抱えています。客観的に見て明らかに問題を抱えている家庭もあれば、傍からは問題がなくても本人は強く傷を負うような関係が影響している場合もあります。
→参考となる記事はこちらをご覧ください。をご覧ください。
▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因とそのしくみ」
<家庭内外傷>
・虐待
・性的外傷体験
解離性同一性障害を引き起こしやすい経験の一つです。米国で多く日本では比較的少ない傾向にあるとされます。特に、性的な体験では、「他の人に言ってはいけない」というダブルバインドを受けることが多く、そのことが深刻な解離症状につながると考えられています。
・親の不仲、離婚
家庭内の強い葛藤や不安定さは、子どもの慢性的なストレスや不安を高め、解離症状や自傷などさまざまな心理的問題と関連することがあります。
・居場所がない
<家庭外外傷>
・いじめ
・性的外傷体験
・交通事故などのPTSD
交通事故など生命の危険を感じる体験の後に、PTSDや離人感、現実感消失などの解離症状がみられることがあります。
<その他>
・「関係性のストレス」
外傷経験は、明確な虐待だけでなく、慢性的な否定、過干渉、予測できない関わりなど、関係性の中で持続するストレスと解離症状との関連を重視する臨床的な見方もあります。本記事では、こうしたものを「関係性のストレス」と呼んでいます。外傷経験が解離性障害、愛着障害などさまざまな障害を生むことはわかっています。しかし、明らかな出来事が見られないことも多く、過誤記憶や医原病といった批判もなされてきました。最近では、客観的には見極められないものの、親子の関係性の中で生まれるストレスが解離性障害の原因となりうると考えられています。そのことを「関係性のストレス」と呼びます。
例えば、母親の過干渉などは「関係性のストレス」の要因となりえます。一見すると順調に見える親子関係でもそこに外傷が生じることは十分にありえます(母親に甘えようとした時に拒絶された、自分を否定されることを言われた、など)。
・陽性外傷と陰性外傷
岡野憲一郎教授による陽性外傷、陰性外傷という分類もあります。
<陽性外傷>とは、虐待や事故など過剰な刺激にさらされること
<陰性外傷>とは、本来与えられるべき養育の欠如など、刺激の過小さによるもの
・愛着と解離性障害
幼少期に養育者との安定した関係を築きにくかった場合、不安定な愛着や強い愛着不安を抱えることがあります。こうした愛着の不安定さと解離症状との関連も研究されています。なお、医学的な診断名としての「反応性アタッチメント症」などとは区別が必要です。
3.解離の起こりやすさに関係する要因
解離の起こりやすさには個人差があり、空想への没入のしやすさ、感情調整の難しさ、睡眠の問題、強い対人感受性などとの関連が研究されています。ただし、特定の性格の人だけが解離症になるわけではありません。
また、解離症は女性で診断されることが多いという臨床報告がありますが、性差には受診行動や診断のされ方なども影響する可能性があり、「女性に特有の病気」というわけではありません。
→解離性障害の症状とチェックやその治し方については、下記をご覧ください。
▶「解離性障害(解離症群)、解離性同一性障害の症状とチェック」
▶「解離性障害(解離症群)、解離性同一性障害の治し方~9つのポイント」
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(参考・出典)
細澤仁「実践入門 解離の心理療法」(岩崎学術出版社)
柴山雅俊「解離性障害」(筑摩書房)
柴山雅俊「解離性障害のことがよく分かる本」(講談社)
岡野憲一郎「多重人格者」(講談社)
岡野憲一郎「解離性障害」(岩崎学術出版社)
岡野憲一郎「続 解離性障害」(岩崎学術出版社)
岡野憲一郎「新外傷性精神障害」(岩崎学術出版社)
F・パトナム他「多重人格障害-その精神生理学的研究」(春秋社)
F・パトナム「多重人格障害―その診断と治療」(岩崎学術出版社)
みきいちたろう『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』(ディスカヴァー携書)
など
















