強迫性障害(強迫症、OCD)は、自分の意思に反して繰り返し浮かぶ強迫観念と、その不安や苦痛を和らげるために繰り返す強迫行為を主な特徴とする精神疾患です。手洗いや確認だけでなく、頭の中で何度も確認する「メンタルチェッキング」や、誰かに繰り返し保証を求めるなど、さまざまな形があります。ASDなどの神経発達症が併存したり、一部の反復行動が似て見えたりする場合もあります。
今回は、医師の監修のもと公認心理師が、強迫症の原因、症状、診断基準やチェックのポイントについて解説します。
<作成日2016.2.29/最終更新日2026.10.17>
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この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍(累計約4万部)、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
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この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
・最新の診断基準(DSM)などでは偏見や誤解を防ぐために、病名が変更され、特にdisorder「障害」を「~症」と表記するようになっています。ただ、一般にはまだ馴染みがなく旧名称でお調べになられるケースが多いために、便宜的に従来の表記を残しています。
もくじ
・専門家(公認心理師)の解説
・強迫性障害(強迫症 OCD=Obsessive Compulsive Disorder)とは何か?
・強迫性障害(強迫症)の原因
・強迫性障害(強迫症)の診断とチェック~6つの視点から
→強迫性障害(強迫症)の治し方については、下記をご覧ください。
▶「強迫性障害(強迫症)の治し方~11のポイント」
強迫症の成り立ちは一つの原因だけでは説明できず、遺伝的な要因、脳内の神経回路や情報処理の特徴、気質、学習、生活環境やストレスなど、複数の要因が関係すると考えられています。そのうえで、臨床では、生育歴や対人関係、安心安全感の有無なども重要な手がかりになります。
強迫性障害(強迫症)は、生物としての警戒行動が過剰に現れるなど気質、体質も関係しますが、臨床においては環境の影響も見逃すことができません。安心安全感の欠如(愛着不安)や、トラウマ、慢性的なハラスメントなどを背景に、「こうでなければならない」という厳格なルールを過剰に内面化し、それが強迫観念や強迫行為の背景・維持要因となっているケースもあります。病院などでは、一人ひとりに時間も取れないために生育歴の聴取が十分にされないまま症状だけで診断されるケースもあり見逃されてしまいがちです。強迫性障害において発達過程におけるストレスや機能不全家庭の存在などの影響はとても重要なポイントになります。
強迫性障害(強迫症 OCD=Obsessive Compulsive Disorder)とは何か?
概要
強迫性障害(強迫症、OCD)とは、自分の意思に反して繰り返し浮かぶ思考・イメージ・衝動などの「強迫観念」と、その不安や苦痛を和らげるために繰り返す「強迫行為」を主な特徴とする精神疾患です。
DSM-5-TRでは、強迫症は不安症群とは別に「強迫症および関連症群」に分類されています。強迫行為によって一時的に不安が軽くなっても、再び不安が生じて同じ行為を繰り返すという悪循環が起こり、仕事・学業・家庭生活などに大きな支障が生じることがあります。
かつては「強迫神経症」と呼ばれていました。
・強迫性障害(強迫症)の有名人
元イングランド代表のサッカー選手、デイビット・ベッカム
アメリカの大富豪、ハワード・ヒューズ
作家の泉鏡花
など
・データで見る「強迫性障害」
DSM-5-TRでは、米国における強迫症の12カ月有病率は1.2%とされています。これは、1年間におよそ80人に1人が強迫症に該当する割合です。また、カナダ、ドイツ、台湾、韓国、ニュージーランドなど、米国以外の国や地域でも、12カ月有病率は1.1~1.8%と報告されています。世界的に見ると、おおむね100人に1~2人程度に生じる病気と考えられます。
日本では、強迫性障害だけを対象にした新しい全国規模の疫学調査が十分に行われておらず、国内の正確な有病率は明らかになっていません。 厚生労働省が公開している「強迫性障害(強迫症)の認知行動療法マニュアル」では、調査によって幅はあるものの、生涯のうちに100人に1~4人、すなわち1~4%程度が経験すると説明されています
要因(原因)
強迫症の原因は一つには特定されていません。現在は、遺伝的な要因や脳内の神経回路・情報処理の特徴、気質、学習、生活環境やストレスなど、複数の要因が相互に関係して発症・維持すると考えられています。
・脳内ネットワークや神経伝達系の特徴
強迫症では、眼窩前頭皮質、線条体、視床などを含む脳内ネットワークや神経伝達系の働きとの関連が研究されています。ただし、「セロトニンが不足しているから起こる」といった単純な仕組みで説明できるものではありません。
・ASDなどの神経発達症との関連
ASDなどの神経発達症が強迫症に併存したり、こだわりや反復行動などが強迫症状と似て見えたりすることがあります。
ASDの反復行動と強迫症の強迫行為は背景や目的が異なることも多いため、幼少期からの発達歴、行動の意味、不安との関係などを含めて評価することが重要です。
・心理社会的な要因
人間には自己防衛システムが備わっています。まだ生じていないさまざまなことに心配をすることで病気や事故を防ぐことができます。昔は具体的な危険が身近にありましたが、現代では明らかな危険は少ない状況です。そのため、自己防衛システムの働きが過剰すぎて、目に見えないささいな危険にそなえてしまい、それが強迫観念の元になるということが仮説として考えられています。症状に注意を向ける時間が増えることで強迫観念が目立ちやすくなる人もいます。
・見逃せない愛着不安、トラウマ(ストレス、ハラスメント)の影響による強迫行動
愛着不安や幼少期のトラウマ、慢性的な対人ストレスは、強迫症状と関連する重要な心理社会的背景です。とくに愛着不安と強迫症状との関連はメタ解析でも確認されており、小児期の虐待・ネグレクトなどのトラウマについても、強迫症状の重症度との関連が多くの研究で報告されています。
臨床では、「自分は間違ってはいけない」「こうでなければならない」といった厳格なルールを過度に内面化し、それが確認や儀式的な行動につながっていることがあります。
また、過去の恐怖やフラッシュバック、不安を打ち消そうとして、いわば「まじない」のように強迫行為を繰り返すケースもあります。
→愛着障害、トラウマ、ハラスメントについては、下記をご覧ください。
▶「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因」
▶「「愛着障害(アタッチメント障害)」とは何か?その特徴と症状」
▶「ハラスメント(モラハラ)とは何か?~原因と特徴」
参考)強迫性障害(強迫症)になりやすい性格はあるのか?
性格については、強迫性障害になりやすい性格(完璧主義)があるとする立場と、性格による影響はないという立場とがあります。
強迫性障害(強迫症)の診断とチェック~6つの視点から
強迫障害(強迫症)の簡単なチェックの方法ですが、以下は診断・自己理解の参考となる特徴です。当てはまる項目があるだけで強迫症と診断されるわけではなく、実際の診断は症状の内容、程度、持続性、生活への影響、他の疾患との違いなどを含めて専門家が総合的に行います。
単に症状からだけではなく、メカニズムやタイプ、関連する病気など、さまざまな視点で捉えると立体的な自己理解につながります。強迫症には一般にはあまり知られていない症状も多く、メンタルチェッキング、懺悔強迫、強迫性緩慢など、外からは分かりにくい強迫行為もあります。
視点1.診断基準
下記のような特徴にあてはまる場合、強迫性障害(強迫症)と考えられます。
1.強迫観念、強迫行為、または両方が見られる
強迫観念:繰り返される持続的な思考、衝動、イメージによる強い不安や苦痛 とそれらを中和しようとする試み
強迫行為:繰り返しの行動(例:手を洗う、順番に並べる、確認する)と、心の中の行為(例:祈る、数える)であり、強迫観念に対応して、または厳密に適応しなくてはならない決まりに従ってそれらの行為に駆り立てられている。それらの行為は、不安や苦痛を避ける/緩和させるため、または恐ろしい出来事や状況を避けることを目的としている。しかし、それらの行為は中和したり予防したりしようとしていることとは現実的な意味でのつながりを持たず、明らかに過剰である。
2.強迫観念や強迫行為によって多くの時間を費やしている(目安として1日1時間以上)、または強い苦痛が生じ、仕事・学業・家庭生活・人間関係などに明らかな支障が出ている。
3.薬物や身体疾患の影響によるものではなく、また他の精神疾患によってより適切に説明されるものではない。
出典:米国精神医学会 DSM-5-TR(医学書院) をもとに作成
視点2.症状の種類
・不潔恐怖・洗浄強迫
自分の手や身体が汚染されているという感覚に支配されて、しつこく手や体を洗う洗浄行為を続ける症状です。トリガーとして、自分の体から出る汚れやドアノブ、つり革、受話器、机、椅子、コップなどの汚れがあります。日本人に多い症状です。
サブタイプとして、相手を汚染してしまうという加害恐怖や、縁起の悪いイメージを洗浄で落とそうとする縁起恐怖、自分の精液が汚物として感じられたり、相手を妊娠させると恐れる精液恐怖とがあります。
・強迫性障害と潔癖症との違い
「潔癖症」は医学的な診断名ではなく、清潔さへの強いこだわりを日常的に表す言葉です。本人がその価値観に納得しており生活に大きな支障がない場合もあります。一方、強迫症では、本人自身が望んでいない不安や強迫観念に突き動かされ、洗浄や確認をやめたくてもやめられず、時間や生活が大きく奪われることがあります。
・加害恐怖・確認強迫
鍵のかけ忘れ、ガスコンロの消し忘れなど、何度確認しても安心できず、確認行為を繰り返す症状です。自分の過失によって周囲を被害を与えることを恐れることを加害恐怖といいます。これも日本人に多い症状です。
サブタイプとして、ミスによって周囲からの評価が下がることを恐れるランキング恐怖、汚名恐怖があります。
・縁起恐怖
縁起の悪い考えが浮かんできてそれを振り払うための儀式、強迫行為を繰り返すことをいいます。縁起の悪い数字や名前、イメージなどがトリガーになります。
サブタイプとして、神への冒涜を恐れる涜神恐怖、宗教強迫などがあります。イスラム圏などで多いとされます。神からの罰ということで他のタイプに比べて恐怖心が強いことが特徴です。
・強迫性緩慢
行動する前にあらゆることを確認したり、後悔を恐れて行動に移せない症状です。傍から見ると行動が緩慢になるために強迫性緩慢と呼ばれます。順序立てた確認行為を行うことで不安を解消しようとします。頭のなかで行う確認行為のことをメンタルチェッキングといいます。比較的珍しいタイプの強迫性障害です。
・不完全恐怖
ものの並びが順番通りになっていないことが気になったり、不完全を許せない完璧主義となる症状です。書棚の漫画が1巻から順に並んでいないと気になってしまったり、仕事も完璧でないと許せなかったり、自分の発言を何度も確認するようなケースがあります。
サブタイプとして、情報を調べているうちに次々と疑問が湧いて止まらなくなるQ&A強迫があります。
・疫病恐怖・洗浄強迫
重い感染症などにかかることを過度に恐れて、血液や息、唾液などを過度に恐れ、強迫的に洗浄行為を行う症状です。心気症との違いは、心気症が漠然と病気になることを恐れるのに対して、疫病恐怖の場合は対象がニュースなどで知られる重い感染症であることです。
サブタイプとして、自分が被害を受けることを恐れる被害恐怖、相手に被害を与えることを恐れる加害恐怖があります。
・不道徳恐怖・懺悔強迫
自分の意思に反して、「人を傷つけてしまうのではないか」「不道徳なことをしてしまうのではないか」といった侵入的な考え、イメージ、衝動などが繰り返し浮かび、強い不安や罪悪感を感じる症状です。
こうした考えが浮かぶことと、実際にその行動を望んでいることは同じではありません。
不安を打ち消すために、家族などへ何度も告白・懺悔し、「そんなことはしない」「大丈夫」と保証を求めることがあります。しかし、保証によって一時的に安心しても、再び不安が生じるため、保証を求めること自体が強迫行為となって悪循環を維持する場合があります。
サブタイプとして、雑念恐怖、性的不道徳恐怖などがあります。
・強迫性パーソナリティ障害と強迫性障害の違い
強迫性パーソナリティ障害とは、道徳や決まりに従うことへのこだわり、完璧主義、厳格で融通が利かない、お金にケチ、周囲への強要などから人間関係などに支障をきたす状態のことです。
基本的に全く別の障害です。両者の併発も1割にも満たないとされます。
視点3.強迫性障害(強迫症)のメカニズム
普通の人にも、不安や心配、嫌な考えが浮かぶことはあります。強迫症では、そうした考えを「危険なもの」「絶対に打ち消さなければならないもの」と強く評価し、不安を下げるために確認、洗浄、儀式、頭の中での確認などを繰り返します。
強迫行為をすると一時的に不安が軽くなるため、「この行為をしたから危険を避けられた」と学習されます。その結果、次に同じ不安が生じたときにも強迫行為を繰り返しやすくなります。
このように、不安を下げる行動によって、その行動がかえって強化されることを心理学では「負の強化」と呼びます。これが強迫症の悪循環を維持する重要なメカニズムの一つです。
トリガー(物、人、状況など)
↓
強迫観念が生じる
↓
不安になる
↓
強迫行為をする
↓
一時的に不安が下がる
↓
強迫行為を繰り返す※社会生活に支障をきたすようになる
視点4.巻き込み型と自己完結型
家族が不安を和らげるために何度も保証したり、洗浄や確認に協力したりすると、その場では本人の不安が下がります。しかし長期的には、強迫行為が維持・強化される場合があります。こうした家族の巻き込まれは「family accommodation」と呼ばれ、治療では本人だけでなく家族への心理教育も重要になります。
視点5.強迫観念への「病識」の程度
強迫症では、「こんな心配は現実的ではない」「やりすぎている」と自覚できる人が多い一方、その自覚の程度には個人差があります。DSM-5-TRでは、病識の程度を「十分またはおおむね十分」「不十分」「欠如/妄想的な確信を伴う」に分けて評価します。
したがって、自分の考えを不合理だと思えないからといって、ただちに強迫症ではないとは判断できません。統合失調症などとの鑑別では、強迫観念だけでなく、妄想や幻覚など他の症状と全体の経過を確認します。
・器質性脳機能障害
これらの病気でも、強迫観念や強迫行為が生じることがあります。もしこれらが原因である場合は強迫性障害とは診断されません。強迫性障害の場合は自らの強迫観念が合理的ではないという自覚がありますが、これらの病気では妄想を確信していて自覚がない場合が多いとされます。
視点6.強迫症と関連の深い病気
DSM-5-TRでは、強迫症と共通する特徴を持つ病気の一部が「強迫症および関連症群」として同じカテゴリーに分類されています。一方、歴史的には、依存症や摂食障害なども含めて広く「強迫スペクトラム」と捉える考え方も提唱されてきました。両者は同じ分類ではないため、区別して理解する必要があります。
・身体醜形性障害
・ためこみ症
所有物を捨てたり手放したりすることが持続的に難しく、その結果、生活空間が物であふれて本来の用途で使えなくなるなど、生活に支障が生じる状態です。以前は強迫症の一症状として扱われることもありましたが、現在のDSM-5-TRでは独立した診断です。
・抜毛症
・皮膚むしり症
・関連が研究されている、または症状が似て見えることがある病気
これらはDSM-5-TRで「強迫症および関連症群」に分類されているわけではありませんが、反復行動や衝動性、併存のしやすさなどの点から比較されることがあります。
・摂食障害
→「国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」 摂食障害」
・チック障害
・トゥレット障害
・窃盗癖
・依存症全般
→「国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」 依存症」
・買い物依存
・ギャンブル依存
・セックス依存
→強迫性障害(強迫症)の治し方については、下記をご覧ください。
▶「強迫性障害(強迫症)の治し方~11のポイント」
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(参考・出典)
田村浩二「実体験に基づく強迫性障害克服の鉄則35」(星和書店)
飯倉康郎「強迫性障害の治療ガイド」(二瓶社)
原井宏明 岡嶋美代「図解 やさしくわかる強迫性障害」(ナツメ社)
原田誠一「強迫性障害のすべてが分かる本」(講談社)
リー・ベアー「強迫性障害からの脱出」(晶文社)
など
















