パーソナリティ障害の接し方、関わり方~基本原則と10種類別に解説

パーソナリティ障害の接し方、関わり方~基本原則と10種類別に解説

パーソナリティ障害

 

 今回は、医師の監修のもと公認心理師が、パーソナリティ障害の10つに分類されるタイプについて、その特徴や周囲の接し方、関わり方について専門知識や経験を交えてまとめてみました。よろしければご覧ください。

 

<作成日2019.9.18/更新日2024.4.22>

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この記事の執筆者

三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師

大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了

20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。

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この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 ・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。

 ・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。

 ・可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

もくじ

パーソナリティ障害の接し方、関わり方の3つの原則

パーソナリティ障害の種類、タイプ別の接し方、関わり方

 

 →パーソナリティ障害の原因と特徴、接し方、治し方については、下記をご覧ください。

 ▶「パーソナリティ障害とは何か?その原因と特徴を公認心理師が解説

 ▶「パーソナリティ障害の10種類の特徴、症状を公認心理師が解説

 ▶「パーソナリティ障害の治し方~主な治療方法とセルフケアのポイント

 ▶「境界性パーソナリティ障害とは何か?原因と特徴、チェック

 

専門家(公認心理師)の解説

 いわゆるパーソナリティ障害はおよそ10種類が知られています。しかし、日常において問題になるのは、自己愛性パーソナリティ障害、回避性パーソナリティ障害、境界性パーソナリティ障害が主です。反社会的勢力と接する職業、格闘技やスポーツなどでは、反社会性パーソナリティ障害が問題となる場合はあります。

 基本的に「パーソナリティ」とは、それぞれの気質の要素があり発達上の経験を通じて形成されますが、そこに愛着の不安やこじれ、未成熟が重なることで「障害(disorder≒失調)」となると考えられます。※気質は一つではなく多様な要素が集合して成り立ちますし、状況によって現れ方は変わります。そのため、基本的にはどのタイプに対しても、相手を尊重しながら、適切な距離をとり、「なんとかしてあげたい」「治そう」などとは考えないことが大切です。実は「なんとかしてあげたい」という気持ち自体が自らのうちにある自己愛性パーソナリティの要素の発露(「自分であればなんとかできる」)であることがあります。「なんとかしてあげたい」という気持ちが出てきたら、要注意と思う必要があります。

 周囲の方にできることがあるとすれば、環境を整える、環境変化を手助けするといったことまでです。あまりにも「障害(disorder)」の程度が強い場合は、更に距離を取ったり、関係を持たないようにすることも必要になります。例えば、会社であれば雇用しづつけられない、パートナー関係であれば別離を選ぶ、家族であれば関係を持たないようにする、といったようなことです。結局は、その方にとって必要な環境で成熟を待つ、ということになります。距離を取るということは決して冷たいことではありません。距離を取る、ということ自体が、その方を「一人前の人間として尊重している」「あなたは大丈夫」という暗黙のメッセージとなるのです。

 

 

 

パーソナリティ障害の接し方、関わり方の3つの原則

1.本来のあなたは大丈夫(You are OK)と思って見守る。距離をとって一貫した姿勢で接する

 何とかしようと、関わりすぎたりすることはこちらも巻き込まれて結局息切れしてしまいます。パーソナリティ障害の対応は長丁場でもあります。
 自己愛の未熟さからくる要望にすべて答えることはできませんし、本人のそのようなことを望んでいるわけではありません。むしろ、距離を取りながら、浅く長く関わる。あなたは大丈夫、と思いながら、一貫した姿勢で関わることが大切です。自分の子どもに接する場合であれば、実の子供というよりは親戚の子どもを扱うように扱うと、程よくバランスが取れた対応ができるといわれています。相手から暴言を言われても、距離をとって、非難もせず、機嫌も取らないようにしましょう。
  

 

2.無理に相手を変えようとしない

 相手のスタイルを尊重しながら、ニュートラルで安定したかかわりを心掛け、何とかしようと思わず自分自身の人生を充実させることを優先しましょう。縁があれば相手は変わるし、変わらなくても仕方がない、という関わり方が結果的には改善を後押しします。

 

 

3.環境改善をサポートする

 ゆとりは精神障害を改善し、焦りは精神障害を際立たせる、と言われます。パーソナリティ障害も同様で、本人にとって受容的で安心できる環境は、パーソナリティ障害を改善させます。逆境にある場合や、本人に適さない環境にある場合は、環境を変えることをサポートしてあげることは大変有効です。

 

 

 

パーソナリティ障害の種類、タイプ別の接し方、関わり方

 パーソナリティ障害について、その特徴、症状をもとに便宜的に分類したものです。各タイプ別に接し方、関わり方をまとめてみました。

 ※それぞれのタイプはあくまで要素を分かりやすく区切りにしたもので、一つの人間にいくつかの要素が混ざり合うことが通常です。固定したラベルではなく、”要素”として捉えてください。

 

 パーソナリティ障害の10のタイプ(種類)の特徴について詳しくお知りになりたい方はこちらをご覧ください。

 ▶「パーソナリティ障害の10種類の特徴、症状を公認心理師が解説

 

 

 

シゾイド(スキゾイド)パーソナリティ障害(統合失調症質パーソナリティ障害)

 世間の価値観から超然としているタイプです。世の中の名声やお金に興味がなく、感情の起伏、喜怒哀楽に乏しく、人とのかかわりを避け、一人でいることを好みます。

 

・このタイプへの周囲の接し方のポイント

 当人のスタイルを尊重し、世間の価値観を押し付けず、親密さを求めず、適度な距離をもって接することです。内面に土足で入り込むようなことは禁物です。プライベートな質問も好まれません。そっけない反応をされてもそれが本人のスタイルだと認めて、無理に社交性を求めないことです。そっけいのは、相手を無下にしているからではありません。

 

 

 

統合失調型パーソナリティ障害(スキゾタイパル・パーソナリティ障害)

 常識を超越した感性、直観力、関係念慮、奇妙な知覚や体験、風変わりな容姿、奇異な考えと話し方、孤独を好む、などが特徴です。

 

・このタイプへの周囲の接し方のポイント

 当人のペースを尊重し、ユニークな強みが発揮できるようにすることが大切です。現実とそごが出るような部分は、折り合えるように調整することです。
  
 被害妄想から他人を信頼できないことが多いので、十分に信頼関係を作ることが必要です。無理をしている場合は、何がストレスの原因かを明らかにして、ストレスを除いていくことが大切です。周囲は、当人の世界に踏み込みすぎたり、否定や批判したりしないことです。 

 

 

 

猜疑性/妄想性パーソナリティ障害

 さい疑心、警戒心が強く、親しい人も信じることができない、過度の秘密主義、傷つけられたことを根に持つ、などを特徴とします。

 

・このタイプへの周囲の接し方のポイント

 踏み込むとさい疑心に取りつかれて、逆恨みで無用な攻撃を加えられる恐れもあるため、適切な距離を取り、あっさりとした関係を心掛け、深くかかわらないようにしましょう。関わりが必要な場合は、相手を警戒させないように、自らについては普段以上に誠実に、わかりやすく、オープンにして付き合うことが大切です。
 妄想には迎合する必要はありませんが、否定や批判をしたりせずに、別の見方を提示したり、相手に不安を理解し、緊張を下げるようにすることが大切です。

 

 

境界性パーソナリティ障害

 境界性パーソナリティ障害は強烈な「見捨てられる不安」が特徴です。「自分は価値がなく、捨てられる」という不安が根底にあり、気分や相手への評価が両極端に揺れ動きます。

 

・このタイプへの周囲の接し方のポイント

 当人の期待にこたえようとすると無制限に要求はエスカレートして、結局破綻してしまいます。ニュートラルで、落ち着いていつも冷静に安定して対応すること、一貫性がとても大切です。境界性パーソナリティ障害はあいまいな生き方が特徴ですから、一貫しているものは安心感を与えます。

 相手が要求してきても、できないことはできないと落ち着いて伝えられれば、相手は傷つけられたとは感じません。自分には価値がない、と思っていることが多いですから、良い点を見つけて伝えてあげることも大切です。

 

関連する記事はこちら

 ▶「境界性パーソナリティ障害とは何か?原因と特徴、チェック

 ▶境界性パーソナリティ障害の治し方、接し方のポイント

 

 

自己愛性パーソナリティ障害

 自己愛性パーソナリティ障害は、過剰な自信、万能感、誇大な願望を特徴とする「自己誇大感」、尊大な態度、自分には特別な配慮があって当然という気持ち、他人への関心が薄く、共感、同情、思いやりの欠如を特徴とする症状です。

 

・このタイプへの周囲の接し方のポイント

 過大な自信や態度を修正しようとはせずに、まずはその人の自己像を映し返すことが大切です。直面化を急がせすぎてはいけません。欠点やミスなどを指摘することは逆効果です。

 

 自己愛を尊重し、当人と信頼関係を得られれば、適切なサイズに自己像を徐々に修正していくこともできます。等身大の自分で大丈夫ですと、というメッセージを伝えながら、誇大な自己と非力な自分のギャップに少しずつ気づかせて、現実的なサイズに着地させていくことが必要です。

 当人からの過度な要求は、自己愛を尊重しながら丁重にお断りすることが大切です。 

 

 自己愛性パーソナリティ障害の方は他人に称賛されたりといった経験はありますが、本当に共感したり、されたりした経験は少なく、実際は孤独です。そのため、治療者もできる限り共感をすることが、当人が共感能力を発達させることにつながります。  

 

 

 

演技性パーソナリティ障害

 派手なパフォーマンスや外見で人の興味を引き付けようとします。場合によっては中身のない話やウソをついたりということもいといません 対人関係を過度に親密なものと考えます。相手に合わせよう、流行に乗ろうという気持ちが強く自分の感覚が希薄です。そのため、暗示にかかりやすい傾向があります。

 

・このタイプへの周囲の接し方のポイント

 相手の派手な態度を批判したり、修正しようとすることは逆効果となります。安定した関わりを持ちながら、内面を評価してあげて、少しずつ内面も磨かれるようにしてあげることがポイントです。

 

 

 

反社会性パーソナリティ障害

 ルールを無視したり、危険を冒すことを好む傾向があります。人の痛みに鈍感です。倫理観、責任感がなく、無鉄砲で、命知らずです。戦いの中では、豪胆で勇敢で活躍しますが、平和な世の中ではアウトローとみなされます。

 

・このタイプへの周囲の接し方のポイント

 相手が魅力的で言葉たくみなケースが多いのですが、基本的にはあまり関わらないほうが無難です。反社会的な人と心を通じ合うことにたけた人が関わるといったことが必要です。

 関わらざるを得ない環境でも、できるかぎりニュートラルで、相手に合わせすぎない。無理な要求ははっきりと断るようにしましょう。距離を置いて温かく見守ることが大切です。否定的な対応に敏感なために、そうした態度はとらないようにしましょう。

 

 
Point

 身近な方が反社会性パーソナリティ障害で、犯罪などに手を染めるといったような場合は、更生を支援するようなNPOなどの専門機関に相談することも有効です。

 

 

回避性パーソナリティ障害

 責任やプレッシャーがかかる状況を避けようとします。自己評価が低く、自信がなく、失敗を恐れて、人から嫌われるからと人との関わりを持とうとしません。

 

・このタイプへの周囲の接し方のポイント

 プレッシャーがない中で、小さな成功体験を積み重ねていくことが大切です。他人に依存する傾向もあるため、サポートはあくまで示唆にとどめ、先回りしないことが大切です。主体性を尊重し、自分の力で成功体験を重ねていくことが必要です。プレッシャーをかけるのではなく、褒めて伸ばしていくことが重要です。義務や責任を説くことは逆効果です。

 回避の症状がまだ小さい場合は、ストレス源から離れて休んで気力を回復させることです。

 

 

 

依存性パーソナリティ障害

 自己決定が苦手で、他者の支えがなければならないという思いにとらわれています。常に相手を優先してしまいます。嫌でも断ることができず、貢いだり、身をおとしめたり、理不尽な要求にこたえようとしてしまいます。

 

・このタイプへの周囲の接し方のポイント

 相手を尊重してあげて、小さな決断から少しずつ行えるように促してあげることがポイントです。
 当人の代理人になったり、代わりに意思決定をするようなことは行うべきではありません。

 

 

 

強迫性パーソナリティ障害

 規律や道徳や義務感、責任、良心に過度に忠実で、完璧主義で融通が利かないことが特徴です。

 

・このタイプへの周囲の接し方のポイント

 当人の価値観を尊重して、礼儀正しく接することです。 
 価値観が対立することがありますから、互いの領分を分けることがポイントです。 

 

 

 

 →パーソナリティ障害の原因と特徴、接し方、治し方については、下記をご覧ください。

 ▶「パーソナリティ障害とは何か?その原因と特徴を公認心理師が解説

 ▶「パーソナリティ障害の10種類の特徴、症状を公認心理師が解説

 ▶「パーソナリティ障害の治し方~主な治療方法とセルフケアのポイント

 ▶「境界性パーソナリティ障害とは何か?原因と特徴、チェック

 

 

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(参考)

青木省三「精神科治療の進め方」(日本評論社)
青木省三「大人の発達障害を診るということ」(医学書院)
林直樹 編「こころの科学vol.185 パーソナリティ障害の現実」(日本評論社)
林直樹 編「こころの科学vol.154 境界性パーソナリティ障害」(日本評論社)
林直樹「パーソナリティ障害」(新興医学出版社)
市橋秀夫「パーソナリティ障害のことがよくわかる本」(講談社)
磯部潮「人格障害かもしれない」(光文社)
岡田尊司「ササっとわかるパーソナリティ障害」(講談社)
岡田尊司「パーソナリティ障害」(PHP)
岡田尊司「ササっとわかる「境界性パーソナリティ障害」」(講談社)
牛島定信「やさしくわかるパーソナリティ障害」(ナツメ社)
高岡健「人格障害のカルテ 理論編」(批評社)
高岡健「人格障害論の虚像」(雲母書房)
大泉実成「人格障害をめぐる冒険」(草思社)
笠原嘉「精神病」(岩波書店)

ジョエル・パリス「境界性パーソナリティ障害の治療」(金剛出版)

神田橋條治「神田橋條治 医学部講義」(創元社)

など