パーソナリティ障害とはなにか?その原因とメカニズム

パーソナリティ障害とはなにか?その原因とメカニズム

パーソナリティ障害

 

 今回は、医師の監修のもと公認心理師が、パーソナリティ障害についてその特徴や克服するために必要なポイントについてまとめてみました。よろしければご覧ください。

 

関連する記事はこちら

→「パーソナリティ障害の10のタイプと特徴をわかりやすく解説

→「境界性パーソナリティ障害を正しく理解する7つのポイント~原因と治療

→「境界性パーソナリティ障害を克服、対応するための14のポイント

 

 

<作成日2016.6.12/最終更新日2023.2.6>

 ※サイト内のコンテンツのコピー、転載、複製を禁止します。

 

 

 

この記事の執筆者

みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師)

大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など

シンクタンクの調査研究ディレクターなどを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら

   

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考に記述しています。

 可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

 

もくじ

はじめに~パーソナリティ障害を正しく理解する
パーソナリティ障害とは何か?

 

パーソナリティ障害の原因

パーソナリティに共通する特徴

 

パーソナリティ障害の10のタイプ
パーソナリティ障害の主な治療方法

パーソナリティ障害を克服、対応するための7つのポイント

 

 

 

→「パーソナリティ障害の10のタイプと特徴をわかりやすく解説」にすすむ

 

パーソナリティ障害

 

 

はじめに~パーソナリティ障害を正しく理解する

 パーソナリティ障害は、いわゆる精神障害とは趣を異にするものです。パーソナリティ障害はまずそうしたことを理解したうえで用いる必要があります。理解するための前提として大切なことをまとめてみました。

 

・パーソナリティ障害 という概念は、いわゆる精神障害や精神疾患とは異なるカテゴリーに属する

・もともとは精神医学の守備範囲外だった

 心の不調には大きく2系統あるとされます。

  1つ目の系統は、いわゆる精神疾患や精神障害
  2つ目の系統は、パーソナリティのゆがみ

 

 これらはそれぞれ別の系統のものでした。

 精神医学や臨床心理学は、1つ目の系統、つまり精神疾患や精神障害を扱うものとされてきました。
 パーソナリティの特性はあくまで精神障害の背景を深く理解するために参照されてきました。パーソナリティのゆがみをケアすることは、どちらかといえば守備範囲を超えるものと考えられてきました。

 

 次項にも書きますが、うつ病などを医学の対象とすることに異論はありませんが、「パーソナリティ」を何の疑問もなく同じように医学の対象とすることについては、さすがに違和感を感じる人が多いことも事実なのです。

 

 

・暫定的な概念としてのパーソナリティ障害

 「パーソナリティ障害」という概念自体もまだまだ暫定で、はっきりと確立されたものではありません(十分なエビデンス、論文があるのは、反社会性、境界性、失調型の3タイプのみとされます。ジョエル・パリス「境界性パーソナリティ障害の治療」(金剛出版)より)。

 

 あくまで人間が社会で目にする現象に名前を付けているだけです。カテゴリーについてもすべて網羅されているとは言えませんし、今後変わりえます。パーソナリティ障害という概念は、あくまで患者やその関係者が自由に生きることができるようになるための道具であって、固定されたラベルではありません。いわゆるレッテルとして暗に攻撃の道具になったり、悩みを持つ当事者の姿が見えなくなることは本末転倒です。そのことは、肝に銘じておく必要があります。

 

 

・パーソナリティ障害という概念に違和感を感じている臨床家は少なくない

・”パーソナリティ障害”への違和感

 「ボーダーなんて存在しないとおもうけどなあ」

  ※ボーダーとは、境界性パーソナリティ障害や境界例のことを指します。

 これは、学会で東京大学のある先生がシンポジウムでおっしゃった発言です。

 

 川崎医科大の青木省三教授も「私は、パーソナリティ障害という言葉をできる限り用いないようにしている」と著書で記しています(青木省三「大人の発達障害を診るということ」(医学書院))。

 

 パーソナリティ障害という概念を用いることについては、違和感を感じていたり、慎重な臨床家は少なくありません。違和感を感じることについては、さまざまな理由があるようです。

 代表的なものとして以下のことがあります。

  ・パーソナリティの問題を精神障害などと同列に用いることへの違和感
  ・「パーソナリティ障害」「ボーダー」という言葉が「厄介な患者」から臨床家が身を守るために都合よく用いられているのではないか、という違和感
  ・パーソナリティ障害よりも別の精神障害としてとらえたほうが適切なのではないか、という実感

 など

 

 

・"パーソナリティ障害”のラベルで見えなくなる本当の診断

 パーソナリティ障害とは、もともと精神病とまでは言えないようなグレーな症状、「境界例」とされていたものにパーソナリティという考え方を援用してカテゴリーを与えたものです。
 もともとは、診断に収まりきらない症候群だったものですから、診断の精度や知見が高まれば見え方は変わり、なんらかの精神障害とすることが適切な場合もあります。

 例えば、精神科医の神田橋條治氏は、下記のように述べています。
 「最近のボクは「境界例」というラベルを使わなくなった。これまでの「厄介な人々」を、「発達障害」「軽症の双極性障害」「医原症」あるいはその3つの混合状態と診断するようになった。(中略) これで診療がしやすくなっている。」(神田橋條治「神田橋條治 医学部講義」(創元社)

 パーソナリティ障害は、DSMでも認知、感情性、対人関係機能、衝動の抑制 に症状が現れるものとされていますが、パーソナリティそのものがゆがんでいるというのはあくまで推測です。
 そうした複数にまたがる問題がパーソナリティのゆがみによるものであるということは仮説で、見方を変えれば、結局は従来の精神障害にまつわる症候群であることも考えられるのです。

 

 

・”愛着”、”発達”という視点

 また、愛着障害や、発達障害が最近は注目されていますが、愛着の土台が揺らぐことで、対人関係にさまざまな問題が生じることが考えられています。人間の発達も想像以上に多様であることが分かっています。そうした知見を踏まえれば、パーソナリティ障害は、パーソナリティの問題というより、愛着や発達の問題としてとらえることが適切とも考えられます。

 

 発達障害は、一般社会の基準からみれば奇異なコミュニケーションのスタイルが特徴ですが、人格には何も問題がないとされます。パーソナリティ障害とされる症状で、認知や感情で一般社会の平均とは違う反応があったとしても、それをパーソナリティのゆがみによるものととらえてよいかは疑問が呈されても当然といえます。

 

 ⇒「「愛着障害」とは何か?その特徴と悩み、メカニズム

 ⇒「大人の発達障害の本当の原因と特徴~さまざまな悩みの背景となるもの

 

 

・パーソナリティ障害の概念はうまく用いれば強力な道具になる

 慎重な捉え方をご紹介してきましたが、一方で、その成り立ちを理解したうえで活用するのであれば、パーソナリティ障害は、非常に使える概念でもあります。
 私たちの悩みというのは、教科書的な精神障害のカテゴリーではおさまらないものであることが多いのです。
 パーソナリティ障害という概念があるおかげで、これまで治療の対象とされてこなかった多くの問題が治療の対象となってきました。

 枠組みを与えられることで曖昧模糊としていた問題をとらえやすくなったり、対人関係において他者を理解しやすくなりました。世の中には、さまざまなタイプの人がいますが、パーソナリティの違いを理解していれば、誤解によって傷つくこともなくなります。

 上手に活用すれば、悩みから自由になるための強力な道具となります。
 
 
 具体的にパーソナリティ障害とは何か、を見ていきたいと思います。

 

 

 

 

パーソナリティ障害とは何か?

・パーソナリティとは

 単なる性格というよりは、情緒や行動などその人のふるまい全体を指します。

 

 「人格」という言葉は日本では道徳や良心なども含んだニュアンスとなり、「人格障害」というと人格が破たんした危険な人物との誤解を招きやすいために、最近は人格とパーソナリティとは区別して用いられています。通常は「パーソナリティ障害」と呼ばれます。

 

 

・パーソナリティ障害の定義

 性格の著しい偏りによって、周囲を苦しめたり、本人も苦しんでいる状態です。
 (DSMでは、「著しく偏った、内的体験および行動の持続的様式」とされています。)
  
 正常、異常の線引きは明確なものはなく、当人や周囲が不都合を感じているか否かということです。

 

 

・パーソナリティ障害とは人格の障害ではない

 パーソナリティ障害とは、「パーソナリティ」と名前が付くために大変に紛らわしいのですが、社会的に「パーソナリティ」とみなされる要素が失調している状態であり、人格そのものが損なわれているわけではありません。

 感情、対人関係、社会行動などのパターンに偏りが生じて、社会生活に支障が出ている状態です。人格そのものの問題ではなく一時的に表れる症状にすぎませんから、状況やライフサイクルに応じて変化しますし、治療可能なものです。

 

参考)「厚生労働省 みんなのメンタルヘルス パーソナリティ障害」

 

 

 

 

パーソナリティ障害の原因

 パーソナリティ障害の原因は、一つではなく、気質、環境などさまざまなものが影響して形成されると考えられています。

 

・生まれ持っての気質(性格気質、発達障害)

 遺伝を背景とした気質がベースとなると考えられています。
 ただ、うつ病などの精神障害などと比べて突出して遺伝の影響が強いとは言えません。

 

 

・養育環境

 自己愛の病と言われるように、養育環境、生まれるまでに経験した人間関係が影響します。
 養育環境というのは、すなわち親のせいということではありません。

 大切なポイントは、親も家庭という環境に巻き込まれる1プレーヤーであるということです。親も否応なく巻き込まれていたという認識が大切です。また、家庭だけではなく学校、地域なども含めた環境が影響を及ぼします。解決に際しては、親に責任を取らせようとしてもうまくいくことはありません。

 養育環境への葛藤がある場合は、トラウマケアなどを通じて解消していくことが大切です。

 

 

・現在の環境(不遇な状況、急激な変化)

 過去の状況だけではなく、現在がストレスフルな環境であったり、急激な変化に見舞われている場合も、パーソナリティ障害を発症する要因です。

 

 

・時代背景

 時代背景もパーソナリティ障害の要因です。家族の形態や、社会の風潮も影響します。例えば、自分を表現することが当たり前になると演技性パーソナリティ障害は目立たなくなったり、社会全体での共通する活動(政治や戦争)が後退すると自己愛性パーソナリティ障害が増えるといったことです。 

 

 

 

 

パーソナリティ障害の形成メカニズム

 パーソナリティ障害とは、人格や性格の問題ではなく、自己愛の問題としてとらえるととらえやすくなります。私たちは、自分を大切にする心性をもっています。それが自己愛というもので、自己愛によってアイデンティティが形成され社会適応をはたしていきます。

 

・自己愛の形成

 人間は、主として母親との以心伝心のかかわりの中で愛着が形成されます。最近の研究では愛着が形成されるのは、生後半年から1歳半頃だとされます。その時のかかわりが不適切な場合は、愛着障害に陥ると考えられています。バリントなどが「基底欠損」と呼んだものとほぼ同じ状態です。

 1歳半から3歳ごろになると、それまでの母子一体となっている状態から母子が分離していく状態になります。その期間のことを、分離‐個体化期と呼びます。

 

 

対象恒常性の獲得

 分離―個体化期で重要なことの一つは、「対象恒常性の獲得」です。自己愛の発達の過程では、愛着の対象が安定していることが重要とされます。一貫したものとして対象が安定していると「対象恒常性」が身につきます。つまり、目の前にいるお母さんが自分の欲求を満たしてくれる時は「良い母親」、満たしてくれない時は「悪い母親」と別のものとして認識されるのではなく、状態は変わっても同じ一人の母親であるとして認識することです。

 

 

・「全体対象関係」と「部分対象関係

 その対象を「一貫した一人の存在」として理解できることを、クラインは「全体対象関係」と呼びました。愛着の対象が情緒的で不安定であったり、愛情の満たされ方や母子の分離が不適切だと、対象のある一面を別々のものとして認識する「部分対象関係」のままにとどまってしまいます。

 

 対象恒常性が身につくと、場面が違っても対象のいろいろな面を統合してバランスをもって認識できるようになります(全体対象関係)。一方、部分対象関係の場合、自分にとって都合のよい時は「良い人」「味方」、そうではければ「悪い人」「敵」というような二分法的で、極端な認識となります。

 

 境界性パーソナリティ障害などでみられる、極端に自己や他者の評価が揺れ動くのはこうしたメカニズムによると考えられます。

 

 

・「誇大化した自己」「親のイマーゴ(理想像)

 分離―個体化期でもう一つ大切なのは、自己愛の中間段階である「誇大化した自己」「親のイマーゴ(理想像)」が適度に満たされることです。この時期の子どもは、誇大化した自己のイメージと万能感、親については全能の理想的な存在と感じている段階です。

 

 

・自己や理想像が等身大のサイズに

 子どもは絶えず自己顕示と親からの承認を必要とします。承認欲求や理想像としての役割が適切に満たされると、次の段階では、自分は万能ではないと知りながらも自尊心をもって自分を大切にできたり、親も等身大の人間なのだと知ることで、他者への共感や思いやりの気持ちを獲得していきます。

 親からの承認や理想像としての役割が不十分だと、「誇大化した自己」「親のイマーゴ」の未熟な段階でとどまり続けます。自己愛性パーソナリティ障害などで、他者からの称賛が得られないと怒りを感じたり、ひどく落ち込んだりすることはこうしたことから説明できると考えられています。

 

 

・未熟な自己愛が問題を生む

 パーソナリティ障害は、このように自己愛が未熟な段階にとどまることで生じる障害(失調)とされます。パーソナリティ障害でみられる数々のアンバランスさや問題行動は未熟な自己愛からくる生きづらさを補い、社会に適応するための代替の方略と言えます。

 

 

 

 

パーソナリティ障害に共通する特徴

 パーソナリティ障害は、さまざまなタイプがありますが、共通する特徴があります。
 それは下記のようなことです。

 

・退行

 幼い心の状態のままでとどまっていて、認知、感情、対人関係、衝動性などにおいて、著しい偏り(未熟さ)が見られる。

 

 

・部分対象関係

 その人全体で評価するのではなく、その場その場、部分部分でしか評価しない傾向が強くあります。そのため、いつも極端に評価が揺れ動きます。他者だけではなく、自分に対しても評価が極端になります。スプリット(分裂)と言いますが、「全か無か」「敵か味方か」「称賛か、批判か」といった極端な捉え方が特徴です。

 全体を見ていれば良いところもあれば悪いところもある、といったほどほどの評価ができるが、それができません。赤ん坊のころに、「お乳が出るときは、良い乳房」「お乳が出ないときは、悪い乳房」といったように、継続した同じものと見ずに目の前の部分対象で評価していた段階を引きずっているとされます。

 

 

・妄想・分裂ポジション

 パーソナリティ障害状態の方は、部分対象関係の段階を引きずっているために、他者や自分の評価が極端に振れやすく、傷つきやすく、被害妄想的になりがちです。 

 

 

・躁的防衛

 パーソナリティ障害状態の方は、自信と劣等感、強い自己否定感が同居してかろうじてバランスをとっている状態です。
 そのため、ちょっとしたことがあるとすぐに落ち込んでしまいます。そうした状態に陥ることを避けるために、相手を責めたり、見下したり、支配したり、尊大になったりします。いわゆる躁的防衛と呼ばれるものです。躁的防衛で自らを守っていますが、躁的防衛が崩れると極端に落ち込むようになります。
  

 

・境界性人格構造

 パーソナリティ障害状態の方は、自他の境界があいまいなために、自分の立場と相手の立場をしばしば混同します。相手が自分の思い通りになると考えたり、自分と同じように自分のことを考えているように感じてしまいます。

 境界性人格構造という名称は、自他の境界が失われた統合失調症性人格構造と自他の別はある神経症性人格構造との境界(中間)という意味です。

 

 

・自己愛障害

 上記のメカニズムで書きましたが、精神科医のコフートによると自己愛は、万能感を抱いている「誇大自己」の段階と、親を神のように理想化して、自己と一体化する「理想化された親のイマーゴ」の段階を経て、成熟した自己を育んでいきます。

 しかし、パーソナリティ障害の場合は、自己愛が適切に満たされず、自己の発達がうまく行かないまま成長するため、自己愛が歪になってしまっています。そのため、過度に自信家になり、ごう慢になったり、逆に自己否定的になったりします。

 

 

 

 

パーソナリティ障害の10のタイプ

  パーソナリティ障害の10のタイプについてお知りになりたい方はこちらをご覧ください。

 →「パーソナリティ障害の10のタイプと特徴をわかりやすく解説

 

 

 

 

 

 

パーソナリティ障害の主な治療方法

 パーソナリティ障害の治療はまだ確立されたものはありません。特効薬や即効的な方法があるわけではなく、患者の状態を見ながら、薬物療法や精神療法を組み合わせて行われています。対応できるカウンセラーや医療機関はまだまだ限られています。

 

・薬物療法

 パーソナリティ障害に伴う不安や衝動性などについては、依存性の少ない非定型抗精神病薬や気分安定化薬などで落ち着かせていきます。
 根本的なものを治療する薬はないので、症状を緩和して、治療をしやすくするために用いられます。 

 

 

・精神療法

 不安定な自己愛などの根本的な部分の改善には、精神療法と組み合わせていく必要があります。
 支持的カウンセリング、認知行動療法、マインドフルネス、対人関係療法、トラウマ療法などがあります。

 認知行動療法を用いて、ほどほどの考え方や、見捨てられることはない、ということを知っていくと徐々に安定したかかわりを持つことができるようになります。
 弁証法的行動療法は、境界性パーソナリティ障害に効果があるとされます。
 同じ症状の人がグループワークを行うことも効果があります。

 

 ⇒「マインドフルネスとは何か?~本当の定義、やり方、学び方のまとめ

 ⇒トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの原因と克服

 

 

 

 

パーソナリティ障害を克服、対応するための7つのポイント

 1.パーソナリティは“状態”であり、治りうるものである

 パーソナリティ障害における、パーソナリティとは、人格ではなく“状態”を指しています。
 そのため適切な治療や時間の経過によって変わっていきます。

 ある研究によれば、境界性パーソナリティ障害の患者は、1年度には約6割が、6年後に診断すると約7割が診断基準を満たさなくなっていることが分かっています。他のパーソナリティ障害についても同様に時間が経過した後に診断すると、多くのケースで診断を満たさなくなっているとされます。  

 

 

2.パーソナリティ障害は、年齢とともに落ち着いてくる傾向にあります

 パーソナリティ障害はある種の発達の問題ともされるように、歳とともに成熟していきます。 
 歳とともに成熟することを「晩熟」現象といいます。

 

 晩熟が起きやすいパーソナリティ障害のタイプとして
   反社会性、境界性、演技性、依存性、自己愛性 があり、

 

 晩熟が起きにくいタイプとしては、
   強迫性、妄想性、シゾイド、失調型、回避性 があげられています。

 

→「パーソナリティ障害の10のタイプと特徴をわかりやすく解説

 

 

3.パーソナリティ障害は環境によって改善される

 ゆとりは精神障害を改善し、焦りは精神障害を際立たせる、と言われます。
 パーソナリティ障害も同様で、本人にとって受容的で安心できる環境は、パーソナリティ障害を改善させます。良いパートナーに恵まれることも影響が大きい。
 逆境にある場合や、本人に適さない環境にある場合は、環境を変えることは大変有効です。

 

 

4.パーソナリティ障害は大器晩成。長所を伸ばして短所は成熟させる

 人間は、平均から外れる部分がなければ社会で大成しないとも言えます。
 パーソナリティ障害は、才能や強いエネルギーの源でもあります。
 未熟な部分も歳とともに発達していきます。パーソナリティ障害は、大器晩成とも言えます。長所は尊重して伸ばして、短所は成熟を見守ることが大切です。

 

 

<家族や知人がパーソナリティ障害である場合>

5.本来のあなたは大丈夫(You are OK)と思って見守る。距離をとって一貫した姿勢で接する

 何とかしようと、関わりすぎたりすることはこちらも巻き込まれて結局息切れしてしまいます。パーソナリティ障害のケアは長丁場でもあります。
 自己愛の未熟さからくる要望にすべて答えることはできませんし、本人のそのようなことを望んでいるわけではありません。むしろ、距離を取りながら、浅く長く関わる。あなたは大丈夫、と思いながら、一貫した姿勢で関わることが大切です。実の子供というよりは親戚の子どもを扱うように扱うと、程よくバランスが取れた対応ができるといわれています。相手から暴言を言われても、距離をとって、非難もせず、機嫌も取らないようにしましょう。
  

 

6.無理に変えようとしない

 相手のスタイルを尊重しながら、ニュートラルで安定したかかわりを心掛け、自分自身の人生を充実させることを優先しましょう。
 縁があれば相手は変わるし、変わらなくても仕方がない、という関わり方が結果的には改善を後押しし、大切です。

 

7.犯人探しをしない。必要なのは自らを自らで引き受け、成熟すること

 「育て直しが必要」といったことをいう方もいますが、現実にはなかなか難しい。育て直しにこだわるあまり、応えてくれない親を恨んだり、誰かに親の役割を要求してかえってこじれることがしばしばあります。他人は自らの期待通りには動いてくれず、失望を繰り返すことになります。  
 逆に、自分を自分で引き受ける気持ちを持ち、自らの自己愛を成熟させることで大きく改善していきます。 

 どうしても過去のことで苦しくなる場合は、トラウマケアなどを受けるなどして、解消しましょう。
 

 

 

→「パーソナリティ障害の10のタイプと特徴をわかりやすく解説」にすすむ

 

 

関連する記事はこちら

→「境界性パーソナリティ障害を正しく理解する7つのポイント~原因と治療

→「境界性パーソナリティ障害を克服、対応するための14のポイント

 

 

 
 
 
 

 

 

 ※サイト内のコンテンツのコピー、転載、複製を禁止します。

(参考)

青木省三「精神科治療の進め方」(日本評論社)
青木省三「大人の発達障害を診るということ」(医学書院)
林直樹 編「こころの科学vol.185 パーソナリティ障害の現実」(日本評論社)
林直樹 編「こころの科学vol.154 境界性パーソナリティ障害」(日本評論社)
林直樹「パーソナリティ障害」(新興医学出版社)
市橋秀夫「パーソナリティ障害のことがよくわかる本」(講談社)
磯部潮「人格障害かもしれない」(光文社)
岡田尊司「ササっとわかるパーソナリティ障害」(講談社)
岡田尊司「パーソナリティ障害」(PHP)
岡田尊司「ササっとわかる「境界性パーソナリティ障害」」(講談社)
牛島定信「やさしくわかるパーソナリティ障害」(ナツメ社)
高岡健「人格障害のカルテ 理論編」(批評社)
高岡健「人格障害論の虚像」(雲母書房)
大泉実成「人格障害をめぐる冒険」(草思社)
笠原嘉「精神病」(岩波書店)

ジョエル・パリス「境界性パーソナリティ障害の治療」(金剛出版)

神田橋條治「神田橋條治 医学部講義」(創元社)

など