依存症(し癖 Addiction)は、精神障害の一つですが、だらしない性格のせい、といった誤解が多い症状です。
実際は、その要因はとても複雑で奥深いものです。当人だけではなく家族も巻き込んだ症状とされます。
アルコール依存症が典型ですが、ネット依存症など、時代の流れや社会状況によってさまざまな形の依存が存在します。医師の監修のもと公認心理師が、依存症についてまとめてみました。
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<作成日2016.3.30/最終更新日2023.2.6>
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この記事の執筆者みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師) 大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など シンクタンクの調査研究ディレクターなどを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら |
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この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
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管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考に記述しています。
可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・依存症(し癖)は、個人のだらしなさか?病気か?
・さまざまなタイプの依存症(し癖)
・ギャンブル依存症(Gambling addiction)
・過食(Bulimia)
・ドメスティックバイオレンス(DV)
・インターネット・ゲーム依存(Internet/Game addiction)
(2/3)につづく
[(2/3)のもくじ]
・なぜ、依存症は生まれるのか?~依存症の原因と背景
・依存症のメカニズム
依存症(し癖)は、個人のだらしなさか?病気か?
・個人の性格が原因ではなく、あくまで病気である
芸能人などで薬物で捕まったりといったニュースを目にすることがあります。その時の論調としては「道を踏み外した」「ファンを裏切った」「心が弱い」といったものです。一般の感覚としては、薬物に手を出すのはその人の責任、問題である、ということです。
しかし、実は、薬物に手を出すのは個人の性格が原因ではなく、「薬物依存症」という病気によるものです。
・ストレスや悩み、体質が原因
依存症になるのは、その人では抱えきれないストレスや悩み、体質などを背景としています。
どうしようもない心の痛み、不安、生きづらさを癒やすためのやむを得ない手段として物質や行為に依存しているのです。もしそうでなければ、早々に自殺していたかもしれません。依存物によって自殺を免れているとも言えるのです。(事実、清原和博容疑者は、テレビ番組などでストレスから自殺願望をほのめかしていました)
・人間は環境にはあらがえない
近年、心理学や脳科学などでは、人間には主体的な自由意志は存在せず、さまざまな環境からの刺激や影響を受動的に受けて行動している存在であると考えられるようになってきています。自由意志はあくまで後づけの解釈であり、自ら決めているという信念を持っているだけ、ということです。
人間は、生まれることを自分で選択できませんし、養育環境も選べません。幼少時のストレスが、成人時の行動に大きく影響することがラットの実験などで明らかになっていますが、自分で選択できない要因によって私たちは行動が制限されているのです。
・「未熟な自己治療」としての依存症
依存症とは、そうした環境によって否応なく降りかかってくるストレスやトラウマ、個人の責任というある種のドグマによってどうしようもなくなった人にとっての「未熟な自己治療」であるということです。その未熟な自己治療の副作用として脳のメカニズムが書き換わりコントロールを喪失してしまう病気、精神障害なのです。
依存症に関する言葉の整理
依存症には、さまざまな類似の用語が使われています。まずは、それらについて整理してみました。
・依存
「依存」とは、何かを頼る状態を指します。人や環境など誰でも何かに依存します。依存それ自体は悪くありません。依存には、「精神依存」と「身体依存」があります。「精神依存」とは、依存の対象を欲しておさえきれなくなることです。一方、「身体依存」とは、依存の対象を断つことで身体的な不調をきたし、その不調をおさえるためにまた依存してしまうことを指します。
・依存症
「依存症」とは、依存の結果、生活(本人や周囲の)に支障が生じている状態を指します。
・中毒
「中毒」とは、医学用語で、化学物質によって身体に生じる問題を指します。一回の使用で身体に不調が生じることを「急性中毒」といいます。長期間の使用で不調をきたすことを「慢性中毒」といいます。 医学的には、「急性中毒」のみを指して「中毒」とされます。かつては、「依存症」のことを「(アルコール)中毒」と呼んでいましたが、1977年頃から「(アルコール)依存症」という名称が用いられるようになりました。
・し癖
「し癖」とは、昔は依存症を指す言葉として用いられていましたが、近年は、「依存症」あるいは「アディクション」という言葉が用いられています。特定のモノや習慣を特に好む傾向や執着を指します。
上記のようにそれぞれ区別されますが、一般的には「アルコール中毒」「セックス中毒」、「恋愛依存」など区別なく用いられています。
・「乱用・中毒・依存」の関係
「乱用・中毒・依存」の関係については、下記のように整理されています(和田清「薬物乱用・依存の現状と鍵概念」による)。
渇望 ⇒ 乱用 ⇒ 急性中毒
⇒ 繰り返し ⇒ 依存 ⇒ 慢性中毒
⇒ 渇望 ⇒ 乱用
渇望が乱用を生み、その繰り返しが、依存を生むことが分かります。
依存が正しい依存、例えば、家族や友人、専門家への適切な依存である場合は良いのですが、適切に依存することができない場合、「依存症」となってしまいます。
さまざまなタイプの依存症(し癖)
基本的に、依存症の研究や治療は、アルコール依存症をひな形として発展してきました。さまざまなタイプの依存症がありますが、そのメカニズムは同様だとされます。依存症は、日本全体で2000万人存在するとされている。うつ病よりも多い心の病気です。
<主として物質への依存>
・アルコール依存症(Alcoholism)
依存症の代名詞とも言えるものです。古くからありますが、昔は王様や貴族など普段お酒が手に入る裕福な人しか陥る可能性はありませんでした。
しかし、近代に入り、アルコールが大量生産されると庶民の間でも依存症が生じるようになりました。
日本では、アルコール依存症患者の数は230万人とされます。ただ、かつてのような重篤なケースは減ってきているようです。
いわゆる麻薬などの薬物依存は誰でも恐ろしさがわかりますが、アルコール依存症も死に至る重篤な病です。アルコール依存症患者の平均寿命は52歳とされ、放置すると最後は事故や内臓疾患、がんなどで死亡します。
・薬物依存症(Drug addiction)
薬物とは、覚せい剤、大麻、シンナー、睡眠薬等を指します。
他の先進国と比べると日本では薬物が手に入りにくいため、患者数は少ないです。
ただ、著名人の逮捕事件や、中高生が大麻を入手しているというニュースもあり、日本でも薬物依存のリスクは見過ごすことはできません。
<行為、プロセスへの依存>
・ギャンブル依存症(Gambling addiction)
文字通り、ギャンブルへの衝動をコントロールできなくなる症状です。患者の割合は欧米では人口の1%前後であるのに対して、日本は、4.8%と高い状況です。患者数は536万人とされます。
韓国や台湾などパチンコを全面的に規制している国もあることに対して、日本では容認していることについて、認識が甘いと指摘されています。競馬などよりもパチンコ・スロットなどのほうが依存の危険性が高いとされます。(視覚、聴覚の刺激や、街なかにありいつでも行えるといったことが原因とされます)
ギャンブル依存の人は、そうでない人よりもアルコール依存になる危険は4~20倍高く、ギャンブル依存症でうつ病を併発する人は全体の3~8割。不安障害は3~4割とされます。生涯自殺企図率は、40.5%とアルコール依存症の30.6%よりも高い割合です。
また、ADHD、自己愛性人格障害。反社会性人格障害、境界性人格障害、行動障害などとも関連性が見られるとされます。ギャンブル依存症も非常に危険な依存症です。
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「ギャンブル依存症の本当の原因と治療のために必要な4つのポイント」
・過食(Bulimia)
過剰な量を摂取することや、食べ吐きを繰り返す行為を指します。男性よりも女性にり患者が多い依存症です。※摂食障害そのものは依存症ではありません。
⇒参考となる記事はこちら
「摂食障害とは何か?拒食、過食の原因と治療に大切な7つのこと」
・ドメスティックバイオレンス(DV)
ドメスティックバイオレンスも依存症の一種です。
暴力を振るうことでしか自分の気持を表現できないということです。
まさに癖のように、本人も止められなくなってしまいます。
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「DV(ドメスティックバイオレンス)とは何か?本当の原因と対策」
・インターネット・ゲーム依存(Internet/Game addiction)
近年問題となってきている依存症です。
インターネットやゲームスマホへの依存によって、日常生活に支障をきたしている状態です。ネット依存は、家庭に居場所がなく、親子の関係が良くないと強まります。現在はまだ正式な病名ではありませんが、今後、病名としてDSMなどに掲載される可能性があります。韓国などでは小中学生の5%にその危険性があると指摘されています。
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「ネット、ゲーム依存症の本当の原因と治し方の8つのポイント」
・その他の依存症
その他の依存症としては下記のようなものがあります。
・セックス依存症
・恋愛依存症
・ニコチン依存症
・仕事依存症
・窃盗癖
・放火癖
・抜毛癖
・爪噛み
・買い物依存症
・世話型依存症
・虐待
・カルト宗教
・自傷、リストカット
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「リストカット、自傷行為の本当の心理、原因・理由とその対応」
(2/3)につづく:依存症の原因とメカニズム
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(参考)
エドワード・J・カンツィアン、マーク・J・アルバニーズ「人はなぜ依存症になるのか」
クレイグ・ナッケン「やめられない心」(講談社)
M・クーハー「溺れる脳」(東京化学同人)
渡辺登「依存症のすべてがわかる本」(講談社)
岡本卓、和田秀樹「依存症の科学」(化学同人)
廣中直行「依存症のすべて」(講談社)
信田さよ子「依存症」(文春新書)
斎藤学「し癖行動と家族」(有斐閣)
斎藤学「アルコール依存症に関する12章」(有斐閣)
ロバート・メイヤーズ「CRAFT依存症者家族のための対応ハンドブック」(金剛出版)
吉田精次「アルコール・薬物・ギャンブルで悩む家族のための7つの対処法―CRAFT(クラフト) 」(アスクヒューマンケア)
など