何度も手洗いを繰り返したり、戸締まりの確認を行ったりといった行為で知られる強迫性障害。今回は、医師の監修のもと公認心理師が、強迫性障害の治し方についてまとめてみました。
<作成日2016.2.29/最終更新日2026.9.14>
※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。
![]() |
この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍(累計約4万部)、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
|---|
この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
・最新の診断基準(DSM)などでは偏見や誤解を防ぐために、病名が変更され、特にdisorder「障害」を「~症」と表記するようになっています。ただ、一般にはまだ馴染みがなく旧名称でお調べになられるケースが多いために、便宜的に従来の表記を残しています。
もくじ
・専門家(公認心理師)の解説
・強迫性障害(強迫症)はどう治す?
・強迫性障害(強迫症)の治し方~11のポイント
・ポイント1.認知行動療法、とくに曝露反応妨害法(ERP)が治療の中心となる
・ポイント2.「治したい」という動機づけを大切にする
・ポイント3.取り組めそうな課題から段階的に進める
・ポイント4.「聖域」の境界を徐々にあいまいにする
・ポイント5.必要に応じて「最悪の事態」をイメージする曝露も行う
・ポイント7.生活の枠組みを整え、必要に応じて環境を調整する
・ポイント8.愛着不安やトラウマが背景にある場合は、そのケアも検討する
・ポイント9.できたことに目を向け、焦らず取り組む
・ポイント10.周囲は強迫行為に巻き込まれすぎない
・ポイント11.症状に応じて薬物療法も検討する
→強迫性障害(強迫症)とは何か?については、下記をご覧ください。
▶「強迫性障害(強迫症)とは何か~診断基準とチェック」
強迫症の標準的な治療では、認知行動療法、とくに曝露反応妨害法(ERP)と、SSRIなどの薬物療法が中心となります。治療法は症状の程度、本人の希望、これまでの治療歴などを踏まえて選択します。
「強迫性障害(強迫症)とは何か~診断基準とチェック」でも解説いたしましたように、愛着不安やトラウマの存在も見逃せないため、生育歴などをしっかり聴取することが必要です。クリニックにかかる際は、時間が限られますから、事前にご自身で生育環境などを紙に整理して医師に見せるなどをするのもよいです。薬物療法は、症状を緩和したり、生活を支えるために用いられます。
強迫性障害(強迫症)はどう治す?
強迫症の治療では、認知行動療法、とくに「曝露反応妨害法(ERP)」が重要な心理療法です。不安を引き起こす状況を避け続けるのではなく、無理のない範囲で向き合いながら、確認・洗浄などの強迫行為を行わずに過ごす練習をします。
症状の程度や本人の希望に応じてSSRIなどの薬物療法も用いられます。また、家族が強迫行為に巻き込まれている場合には、その関わり方を調整することも重要です。
強迫性障害(強迫症)の治し方~11のポイント
ポイント1.認知行動療法、とくに曝露反応妨害法(ERP)が治療の中心となる
曝露反応妨害法(ERP)では、強迫観念を引き起こす状況や考えを避け続けるのではなく、無理のない範囲で向き合いながら、確認・洗浄などの強迫行為を行わずに過ごします。
目的は単に不安に「慣れる」ことだけではなく、「不安があっても耐えられる」「強迫行為をしなくても恐れていた結果が必ず起こるわけではない」といった新しい学習を積み重ねることです。
・曝露療法のプロセス
いわゆる暴露療法ですが、強迫性障害を構成する強迫観念と強迫行為の両方にアプローチする方法です。
先行刺激(物、人、状況など)
↓
強迫観念が生じる
↓
不安になる
↓
●不安の中にとどまる(エクスポージャー)
●強迫行為をしない(儀式妨害)
※不潔恐怖・洗浄強迫タイプの場合、儀式妨害のことを「水抜き」と呼ぶことがあります
(×)強迫行為をする
↓
(×)一時的に不安が下がる
↓
(×)強迫行為を繰り返す
※社会生活に支障をきたすようになる。
↓
不安が自然に変化することを経験する
↓
強迫行為をしなくても対処できることを学ぶ
↓
強迫行為への依存が徐々に弱まる
※社会生活への支障もなくなる
というのが主な流れになります。
ポイント2.「治したい」という動機づけを大切にする
強迫性障害は、自分自身が非合理的な観念から自由になり、人生を取り戻したいと思うこと。取り組む決心もとても大事です。動機付けが十分ではない場合、途中で治療が頓挫しやすくなります。ERPには不安を伴うため、本人が治療の意味を理解し、納得して取り組めることが重要です。治療者と相談しながら、本人が目指したい生活や取り戻したい活動を確認することが、治療への動機づけにつながります。
ポイント3.取り組めそうな課題から段階的に進める
どういった状況が不安なのかを書き出して、程度に応じて並べる「不安階層表」を作りましょう。そして、本人と相談しながら、取り組めそうな課題を選び、段階的に実践します。
ポイント4.「聖域」の境界を徐々にあいまいにする
不潔恐怖・洗浄強迫では、「ここだけは絶対に汚してはいけない」という場所や物ができることがあります。本人にとっての“聖域”です。ERPでは、医学的・衛生的に必要な清潔行動は保ちながら、強迫症によって作られた過剰な「清潔/不潔」の境界を少しずつ緩めていきます。世の中は不潔と清潔、完全と不完全など明確に分かれているわけではありません。不潔恐怖以外でも、自分にとって居心地がいい状況や行為をあいまいにしていきます。
ポイント5.必要に応じて「最悪の事態」をイメージする曝露も行う
確認強迫などでは、「鍵をかけ忘れて泥棒に入られたらどうしよう」「火事を起こして他人に被害を与えたらどうしよう」など、現実にはすぐ確認できない最悪の事態への恐れが強迫観念になっていることがあります。
このような場合には、治療者と相談しながら、恐れている場面やストーリーを意図的にイメージし、その不安を打ち消す確認や保証を求める行為を行わずに過ごす「イメージ曝露」を用いることがあります。
目的は、最悪の出来事を想像すれば必ず不安が消えるということではなく、不確実さが残っていても強迫行為をせずに過ごせるようになることです。
ポイント6.認知だけでなく、行動の悪循環も変える
強迫観念では、現実の危険以上に「もし~だったら」と不確実性や責任を大きく捉えてしまうことがあります。しかし、不安から架空の理由が出来上がってしまうと、行動の言い訳も強固となります。考えの内容だけを延々と検討すると、かえって強迫観念との議論に巻き込まれてしまう場合があります。また、依存症(し癖)などもそうですが、認知が変わっても習慣としての行動が残っている場合は行動を継続してしまうことがあります。
そのため、具体的に不安に身を晒したり、行動を止めることで悪循環を断つエクスポージャーと儀式妨害が主要な方法となります。
ポイント7.生活の枠組みを整え、必要に応じて環境を調整する
強迫症では、生活リズムや行動の枠組みを整え、強迫行為が入り込みにくい生活環境を作ることも役立ちます。
また、ASDなどの神経発達症が併存している場合には、こだわりや反復行動と強迫行為を区別しながら、その人に合った分かりやすい生活構造や環境調整を行うことが有効な場合があります。
ポイント8.愛着不安やトラウマが背景にある場合は、そのケアも検討する
強迫症の背景に、愛着不安、トラウマ、慢性的な対人ストレスなどが関係しているケースもあります。過去の体験が強迫観念の内容や過度な責任感、厳格なルールの形成に影響している場合には、それらへの心理的な支援が役立つことがあります。
ただし、すべての強迫症にトラウマケアが必要というわけではありません。強迫症そのものへの認知行動療法(ERP)を基本としながら、必要に応じて背景にある問題も並行して扱います。
→愛着障害、トラウマについては、下記をご覧ください。
▶「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因」
▶「大人(青年期以降)の愛着障害の治し方~必要な5つのポイント」
ポイント9.できたことに目を向け、焦らず取り組む
強迫症の治療は一直線に良くなるとは限りません。治療の途中ではうまくいっていることとうまくいかないことが併存します。一歩後退二歩前進というペースで進んでいくものです。うまくいったことに目を向けて自分を褒めてあげてください。焦らず、少しずつ良くすることが大切です。
ポイント10.周囲は強迫行為に巻き込まれすぎない
強迫性障害は、本人の意志ではコントロールできない”症状”です。そのため、本人を責めたり説き伏せても逆効果です。本人の行動は、強迫観念によって“させられている”と理解しましょう。強迫観念によって“させられている”という理解を共有すると、問題が本人の外にあるということになり、本人と家族が同じ敵(強迫観念)に対して共同戦線を張る構図になり、効果的です。
本人が、強迫行動への同調を求めてきても応じたりせず、「それは強迫観念によるもの」として強迫行為には協力せず、毅然として対応しましょう。その際も本人に対してではなく、外側から家族を苦しめる強迫観念に対して一緒に対応している、というイメージが大切です。
家族が何度も保証したり、洗浄・確認などに協力したりすると、その場では本人の不安が軽くなりますが、長期的には強迫症状を維持することがあります。
そのため、本人を責めるのではなく、治療者とも相談しながら、家族が強迫行為に協力する程度を少しずつ減らしていくことが大切です。急にすべての協力を打ち切るのではなく、本人と方針を共有しながら進めます。
ポイント11.症状に応じて薬物療法も検討する
強迫症では、認知行動療法(ERP)と並んで、SSRIなどの薬物療法も重要な治療選択肢です。症状の程度、本人の希望、これまでの治療歴、副作用などを踏まえて、医師と相談して治療法を選びます。
薬物療法ではSSRIが中心となります。十分な効果が得られない場合には、服薬量や服薬期間を確認したうえで、別のSSRIやクロミプラミンへの変更、認知行動療法との併用などが検討されます。
治療抵抗性の場合には、専門医による評価のもとで、SSRIなどに他の薬を追加する治療が検討されることもあります。
薬物療法だけでなく、ERPを含む認知行動療法を利用することも重要です。薬の開始・増減・中止は自己判断で行わず、主治医と相談してください。
→強迫性障害(強迫症)とは何か?については、下記をご覧ください。
▶「強迫性障害(強迫症)とは何か~診断基準とチェック」
※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。
(参考・出典)
田村浩二「実体験に基づく強迫性障害克服の鉄則35」(星和書店)
飯倉康郎「強迫性障害の治療ガイド」(二瓶社)
原井宏明 岡嶋美代「図解 やさしくわかる強迫性障害」(ナツメ社)
原田誠一「強迫性障害のすべてが分かる本」(講談社)
リー・ベアー「強迫性障害からの脱出」(晶文社)
など
















