何度も手洗いを繰り返したり、戸締まりの確認を行ったりといった行為で知られる強迫性障害。今回は、医師の監修のもと公認心理師が、強迫性障害の治し方についてまとめてみました。
<作成日2016.2.29/最終更新日2024.6.7>
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この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
・偏見や誤解を防ぐために、最新の診断基準(DSM)などでは病名のdisorder「障害」を「症」と表記するようになっています。ただ、一般には情報を調査、検索する際に旧名称(~障害)で検索されるケースのほうが多いために、便宜的に「障害」との表記を残しています。
もくじ
・専門家(公認心理師)の解説
・強迫性障害(強迫症)の治し方~11のポイント
・ポイント1.行動療法(エクスポージャーと儀式妨害)が治療の基本となる
・ポイント2.「治したい」という動機づけが大切
・ポイント3.容易なものから取り組む
・ポイント4.徐々に聖域をあいまいにしていく
・ポイント5.最悪の状況を想像して浸ってみる
・ポイント7.行動の枠組みを構造化する、環境を調整する
・ポイント8.愛着不安、トラウマケアに取り組む
・ポイント9.うまくいったことを褒める
・ポイント10.周囲の人たちのサポート~“外部化“して巻き込まれない
・ポイント11.強迫観念が強い場合などは薬物療法も併用する
→強迫性障害(強迫症)とは何か?については、下記をご覧ください。
▶「強迫性障害(強迫症)とは何か~診断基準とチェック」
強迫性障害(強迫症)は、行動療法を中心に治療が行われます。「強迫性障害(強迫症)とは何か~診断基準とチェック」でも解説いたしましたように、愛着不安やトラウマの存在も見逃せないため、生育歴などをしっかり聴取することが必要です。クリニックにかかる際は、時間が限られますから、事前にご自身で生育環境などを紙に整理して医師に見せるなどをするのもよいです。薬物療法は、症状を緩和したり、生活を支えるために用いられます。
強迫性障害(強迫症)の治し方~11のポイント
ポイント1.行動療法(エクスポージャーと儀式妨害)が治療の基本となる
通常、強迫性障害(強迫症)の中核は行動療法、「エクスポージャーと儀式妨害」(曝露反応妨害法ともいう)となります。エクスポージャーと儀式妨害とは何かというと、強迫観念を引き起こす不安(トリガー)にあえて身を晒してその不安に慣れ、また不安を解消しようとする強迫行為をせずに過ごすことです。
・曝露療法のプロセス
いわゆる暴露療法ですが、強迫性障害を構成する強迫観念と強迫行為の両方にアプローチする方法です。
先行刺激(物、人、状況など)
↓
強迫観念が生じる
↓
不安になる
↓
●不安の中にとどまる(エクスポージャー)
●強迫行為をしない(儀式妨害)
※不潔恐怖・洗浄強迫タイプの場合、儀式妨害のことを「水抜き」と呼ぶことがあります
(×)強迫行為をする
↓
(×)一時的に不安が下がる
↓
(×)強迫行為を繰り返す
※社会生活に支障をきたすようになる。
↓
不安が下がる
↓
次回からも不安が生じなくなる
↓
強迫行為は必要なくなる
※社会生活への支障もなくなる
というのが主な流れになります。
ポイント2.「治したい」という動機づけが大切
強迫性障害は、自分自身が非合理的な観念から自由になり、人生を取り戻したいと思うこと。取り組む決心もとても大事です。動機付けが十分ではない場合、途中で治療が頓挫しやすくなります。
ポイント3.容易なものから取り組む
どういった状況が不安なのかを書き出して、程度に応じて並べる「不安階層表」を作りましょう。そして、不安の程度が少ないものから徐々に取り組むと頓挫せずに効果的です。
ポイント4.徐々に聖域をあいまいにしていく
不潔恐怖などの場合は、自分にとっての聖域がある場合があります。自分の身体であったり、部屋やベッドなどさまざまです。そこに汚れた手で触るなどして、慣れていき、徐々に聖域をあいまいにしていくことが大事です。
世の中は不潔と清潔、完全と不完全など明確に分かれているわけではありません。不潔恐怖以外でも、自分にとって居心地がいい状況や行為をあいまいにしていきます。
ポイント5.最悪の状況を想像して浸ってみる
例えば、確認恐怖などの場合などでは、鍵をかけ忘れて泥棒に入られて大変な被害を被った、あるいは、漏電して家が火事になって近所の人も被害に遭う、など 最悪の状況を想像しましょう。極端なくらい最悪の状況を考えると、身体感覚は変化して不安は収まっていきます。
ポイント6.認知だけではなく、行動も変える
強迫観念や強迫行為は本来はとくに理由のないものです。しかし、不安から架空の理由が出来上がってしまうと、行動の言い訳も強固となります。認知療法だけでは根強い強迫観念がもたらす言い訳との泥仕合になってしまったり、習慣の力に負けてしまいがちです。また、依存症(し癖)などもそうですが、認知が変わっても習慣としての行動が残っている場合は行動を継続してしまうことがあります。
そのため、具体的に不安に身を晒したり、行動を止めることで悪循環を断つエクスポージャーと儀式妨害が主要な方法となります。
ポイント7.行動の枠組みを構造化する、環境を調整する
特に発達障害などが背景にある場合は、過剰なこだわりから強迫性障害と同様の症状となることがあります。単なる強迫障害だと思っていると実は発達障害的な要素が背景に存在することがしばしばあります。そうした場合は行動の枠組みを構造化するなどの対処で改善されていきます。
ポイント8.愛着不安、トラウマケアに取り組む
強迫性障害は、愛着不安やトラウマが背景にあることも珍しくありません。そうした場合は、認知行動療法だけでは解消しきれないこともあります。認知行動療法が行き詰まってからではなく、当初より愛着やトラウマにアプローチする方法はとても有効です。
→愛着障害、トラウマについては、下記をご覧ください。
▶「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因」
▶「大人(青年期以降)の愛着障害の治し方~必要な5つのポイント」
ポイント9.うまくいったことを褒める
治療の途中ではうまくいっていることとうまくいかないことが併存します。一歩後退二歩前進というペースで進んでいくものです。うまくいったことに目を向けて自分を褒めてあげてください。焦らず、少しずつ良くすることが大切です。
ポイント10.周囲の人たちのサポート~“外部化“して巻き込まれない
強迫性障害は、本人の意志ではコントロールできない”症状”です。そのため、本人を責めたり説き伏せても逆効果です。本人の行動は、強迫観念によって“させられている”と理解しましょう。強迫観念によって“させられている”という理解を共有すると、問題が本人の外にあるということになり、本人と家族が同じ敵(強迫観念)に対して共同戦線を張る構図になり、効果的です。
本人が、強迫行動への同調を求めてきても応じたりせず、「それは強迫観念によるもの」として強迫行為には協力せず、毅然として対応しましょう。その際も本人に対してではなく、外側から家族を苦しめる強迫観念に対して一緒に対応している、というイメージが大切です。
ポイント11.強迫観念が強い場合などは薬物療法も併用する
薬物療法だけで問題が根本的に解消するわけではありませんが、強迫観念(不安)を軽減させるためには薬物は効果的です。強迫観念が強くて治療に踏み切れない場合やうつ病やPMSなどを併発している場合などに行動療法を併用することで、治療をスムーズに行える効果があります。強迫性障害で用いられるのはSSRIで、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリンなどです。SRIやSNRIが用いられることもあります。(強迫性障害(強迫症)の妄想に対しては向精神薬などは効果がありません。)
ただ、もちろん副作用もありますし、行動療法を併用していない場合は薬を止めると強迫観念が強まり再発してしまうケースが多いとされます。また、全てのケースで効果があるわけではなく、決して万能ではありません。
行動療法を行っていない病院では薬物療法のみをすすめられてしまうことがありますから必ず専門の病院やカウンセリングセンターに相談することが必要です。
→強迫性障害(強迫症)とは何か?については、下記をご覧ください。
▶「強迫性障害(強迫症)とは何か~診断基準とチェック」
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(参考・出典)
田村浩二「実体験に基づく強迫性障害克服の鉄則35」(星和書店)
飯倉康郎「強迫性障害の治療ガイド」(二瓶社)
原井宏明 岡嶋美代「図解 やさしくわかる強迫性障害」(ナツメ社)
原田誠一「強迫性障害のすべてが分かる本」(講談社)
リー・ベアー「強迫性障害からの脱出」(晶文社)
など