「なかなか寝つけない」「夜中に目が覚める」といった症状は、さまざまな要因によって引き起こされます。精神障害に付随する症状としてもしばしば生じることがあります。単に眠れないといった場合でも対応方法はそれぞれ異なります。医師の監修のもと公認心理師が、心の健康に影響する睡眠障害、不眠症の治し方についてまとめてみました。
<作成日2016.5.31/最終更新日2024.5.28>
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この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・不眠症・睡眠障害を治すための13のポイント
→不眠症・睡眠障害の原因と診断については、下記をご覧ください。
▶「不眠症・睡眠障害の原因と診断~6つの視点からチェックする」
悩みや生きづらさの解決する上で、睡眠をしっかり取ること、睡眠の改善はとても大切です。カウンセリングを受ける以上に重要です。決して道徳的な助言でもなく、睡眠がしっかり取れていなければ改善もおぼつきません。単に、睡眠の重要性を軽視しているためや、生活習慣の乱れによる場合は、睡眠をしっかりお取りするように促します。
一方で、トラウマなどの影響から睡眠自体がどうしてもうまく取れないケースもあります。不眠は簡単な問題ではなく、トラウマが十分に解消しなければ実現されません。そうした場合は、睡眠の改善はそこそこに、トラウマのケアを優先することになります。
不眠症、睡眠障害を治すための13のポイント
精神障害による睡眠障害の場合は、精神障害の治療を行う中で睡眠障害を治療する、ということが基本になります。しかし、精神生理性不眠症などに適応される解決の方法は、精神障害のケースでも有効です。
1.睡眠のメカニズムを理解する
睡眠がどのようなメカニズムで生じているのかを知ることが大切です。新書など簡単な本を一冊読むことがおすすめです。メカニズムが分かれば、適切な形に習慣を調整することが可能になります。
・睡眠のメカニズムの基本
睡眠とは、体内時計のリズム×起床からの時間(睡眠負債)によって決まることが分かっています。例えば、睡眠のメカニズムに反して夕食後に昼寝をしているようであれば、眠ることができないのは当然のことです。うまく寝ることができても、寝つきが悪くなったり、予定外の時間で目覚めたり、といったことが起きます。
現代人は、社会活動が24時間化する中で本来の生体的なリズムとは異なるスタイルの生活を強いられたり、パソコンやスマホ、テレビ、電灯など夜間でも昼間のような光を浴びて生活しています。現代の生活は、生体的なリズムがとても乱れやすい状況にあります。意識でこの時間に眠りたいと思っていても、生体のリズムと食い違えば〝睡眠障害”を引き起こします。
・体内時計のリズム
体内時計は、長期、中期、短期の3つのリズムでバランスがとられています。3つのリズムとは下記のものです。
・概日リズム
24時間+α の周期で回る体内時計であり、夜になると眠くなるもの。
・概半日リズム
半日周期で回る体内時計であり、昼過ぎと夜中過ぎに眠くなるもの。
・超日リズム
90分おきに眠気がやってくるもの。入眠の際に、眠気が強い時とそうではないときがあるのはこのためです。
・睡眠負債
睡眠負債とは睡眠を誘発する睡眠物質が溜まった状態です。起きている間に徐々に蓄積されていきます。いわゆる寝だめが有効ではないのは、睡眠負債に貯金がという機能がないからです。最後に起床してからの時間から長くなると、それだけ睡眠物質が蓄積されて、眠りやすくなります。
・レム睡眠とノンレム睡眠
睡眠中は、レム睡眠とノンレム睡眠とが60~90分ごとに交代しながら睡眠が続きます。
特に深い睡眠を徐波睡眠といいます。ノンレム睡眠に始まり、レムとノンレムを交互に繰り返しながら、徐々に睡眠は浅くなっていきます。レム睡眠では交感神経と副交感神経が交互に活発に活動し、脳は活発に活動する一方で、体は完全に弛緩しています。一方、ノンレム睡眠では副交感神経が優位になり、脳は休息している一方で、少ないですが寝返りを打つなどの体の活動は生じています。それぞれの機能は完全には明らかにされていませんが、健康の維持や長期記憶の形成に作用していると考えられています。
(参考)睡眠物質とは何か?
生体内に備わっている物質のうちに、睡眠に強く関与している物質を睡眠物質と呼びます。
免疫・炎症関連物質であるプロスタグランディン、サイトカインやプロラクチン、神経ペプチド、ウリジン、ヌクレオシド、グルタチオン、などが知られています。
実際の生活で覚えておくべきは、最後に寝て起きた時間が次に寝る時間に影響する、ということです。特に午後の後半に昼寝、あるいは会社から帰ってから一度寝て起きる、といったことをしていては不眠になるのも当然です。あとは、よく知られるように90分周期で眠気がやってくると行ったことを知っていると、眠れなくても焦らず、次の眠気に向けて待つといったことも可能になります。
2.自分の不眠の原因を知る
不眠の原因はさまざまです。単なる生活リズムの乱れや一過性のものから、精神障害などの要因など。
下記の記事も参考にしていただき、自分の不眠がどういった原因から来ているのか?を確認してみることが大切です。詳しくは医師やカウンセラーに相談してみることも場合によっては必要です。
▶「不眠症・睡眠障害の原因と診断~6つの視点からチェックする」
3.睡眠、不眠へのとらわれを和らげる
睡眠を過大視するのではなく、眠たくないなら眠る必要がない、というくらいに睡眠を軽く捉えて、明かりは暗くして、音楽や読書など静かな活動をして過ごすことが大切です。
また、必要な睡眠時間も人によって異なります。必ずしも7時間である必要はありません。起床時間や睡眠時間にこだわる必要はありません。一時的に睡眠時間が少なくても、人間にはそれに耐える力が備わっています。
4.自分の睡眠の実態を知る
自分の睡眠の実態がどのようになっているかは、わかっているようでわかっていないことが多いです。人間は印象的なことは記憶していますが、それ以外のことは忘れてしまいます。客観的なデータを並べてみることで実態が明らかになります。
睡眠日誌、睡眠表を作成してみることで自分の睡眠の実態がどのようになっているのかがわかります。思っているよりもリズムが乱れていたり、不必要なタイミングでカフェインを摂取したり、刺激的な環境に身を置いていたりします。実態が分かると適切な入眠のタイミングがわかり、改善につながります。
従来は紙に書いてという形で睡眠の記録をしていましたが、最近だと、睡眠を記録できるスマートウォッチを数千円で入手できます。眠れていないと思っても、案外眠れていたり、反対にそうではなかったり、自分の睡眠の実態を簡単に把握することができます。
5.生活習慣を見直す
生活習慣を見直すというと説教臭くて、それよりも意識や薬の力で治したいと思うかもしれませんが、人間は生体リズムや環境の力には抗うことはできません。不眠の多くは背景に生活習慣の乱れが潜んでいます。また、20代では大丈夫だったことも、30代、40代では当然ながら生体リズムも変化して適切ではないことも多いです。人生の変化に合わせた変化も必要です。
睡眠は入眠起床時間だけではなく、起床したら日の光を浴びることや、特に午後から夕方には適度な運動を行うことも大切です。また、睡眠の数時間前にはカフェイン、アルコールなどは採らない。入浴も早めに済ませて、パソコンやスマホなども控える、といったようにして、睡眠を妨げる環境要因を取り除いていきます。
カフェインについては、自分自身で思っている以上に過敏な場合もあります。午後以降にカフェインを摂取しただけで眠れなく人もいます。アルコールも深い睡眠を妨げ、中途覚醒を起こしやすく、耐性によって徐々に酒量が増えてしまうことになります。
さらに、昼寝をしていたりしないかどうか?23時ごろに自然な眠気を感じているのに、あえて夜更かしして0時以降に寝ているといった場合は明らかに睡眠のリズムを逃しています。
また、休日だからといって、夜更かししたり、寝だめをすることも不眠を招く要因です。
睡眠のリズムが適切かどうかを見直すことが大切です。
6.朝食にタンパク質をしっかりと摂る
近年は時間栄養学の研究の成果で朝にトリプトファンを含むタンパク質をしっかり摂り日中に日光を浴びることで、夜に睡眠物質であるメラトニンが増大することがわかっています(出典:柴田重信『時間栄養学入門』講談社ブルーバックス)。寝付きが悪い場合は、朝食で乳製品、大豆製品、たとえばヨーグルトや納豆、バナナなどをしっかりと摂るとよいようです。比較的早く効果を感じることができます。
朝タンパク質をしっかりと摂ると睡眠がてきめんに改善されます。かなり効果的ですので、ぜひ、お試しください。私も自分で試して効果を実感しました。
7.昼寝は午後3時前まで、20~30分程度とする
昼寝をする際は、夜の寝つきが悪くなるため、午後3時までに行い、深い睡眠は避け、20~30分程度とすることが大切です。
8.環境を調整する
電灯の明るさ、カーテン、寝具、寝間着など睡眠にとって適切かどうかを見直すことも重要です。日中カーテンを閉め切って、日に当たらないような状態も睡眠のリズムを妨げることになります。習慣は”場”にも紐づけられます。寝室は眠ること以外には使用しないようにしましょう。
特に若年の場合は、環境の影響を軽視する傾向があります。しかし、寝る前にスマホを見ている、あるいは部屋の照明が明るいままで、いきなり寝るということは実は身体にとってはかなり不自然なことです。徐々に輝度を下げる、あえて暗くする、スマホを見る時間を減らす、など飛行機がゆっくりと着陸するかのように睡眠に導ける環境を作ることが必要です。
9.習慣を作る
入眠へのルーチンを決めることで、条件反射的に睡眠へとスムーズに移行することができます。入眠前の行動は、リラックスができる活動をいくつか決めておくとよいでしょう。
10.あえて、早く起きて睡眠時間を短くしてみる
睡眠時間のリズムを整える際に、入眠時間を意識して変えることはなかなか難しいものです。かえって寝つきが悪くなることもあります。その場合は、起きる時間をあえて早くしてみましょう。起床時間をコントローすることは比較的容易です。
あえて早めに起きて睡眠時間を短くすると眠気が強くなるため、次の入眠の際に入眠しやすくなり、不眠症の改善につながります。
11.眠れないときは、あえて眠らずに過ごすことも有効
眠れないときは無理せず、一度リセットして、読書などをしながらのんびり過ごすことも大切です。また、眠らずに目を閉じて横になっているだけで、脳や身体は休息モードに入って回復することが分かっています。
視覚情報が遮断される効果などから、目を閉じているだけでも脳はある程度の休息を取ることができます(身体も横になることで休息になります)。目を閉じているだけでも休息になっているということを知っていると、眠れない焦りから解放される効果があります。
12.睡眠薬の力を借りる
睡眠薬があるということで睡眠へのプレッシャーも軽くなり、睡眠が改善することがあります。お守り代わりにうまく使うことは有効です。依存性の高いものは避けるようにしましょう。ただ、生活習慣はめちゃくちゃなままに睡眠薬で簡単に睡眠をとるということは心身に負担をかけ続けることを容認することになりよいことではありません。あくまで、環境調整などを行う中で活用することが大切です。
一方、うつ病などの精神障害、精神疾患などで眠れない場合は、睡眠薬の力を借りてしっかりと睡眠をとり脳内物質やホルモンのバランスを整えることが必要です。睡眠薬を服用することに抵抗のある方もいらっしゃいますが、不眠が続く場合は睡眠のメリットを享受するために睡眠薬の服用も検討するべきです。
13.必要な場合は医療機関などに相談する
漫然と睡眠薬を続けるということを避けるためにも、できれば専門の睡眠外来を受診したほうが良いでしょう。概日リズム障害やむずむず脚症候群、特にナルコレプシーが疑われる場合は専門の医師にかかることが必要です。睡眠時無呼吸症候群などはいびき外来などが専門となります。
トラウマの影響による不眠でよくあるのは、単純に寝付けないというケースもありますが、寝る時間なのに、何故かもったいない気がして寝たくない、どうしても起きていたくなる。自分を痛めつけるために寝たくない、といったようなケース。なぜか、生活習慣を整えることができないという場合は、ある種の依存症(嗜癖)のような状態です。こうした場合は、自力では難しいので、トラウマや愛着の問題を疑い、カウンセラーなどに相談することが必要です。
→不眠症・睡眠障害の原因と診断については、下記をご覧ください。
▶「不眠症・睡眠障害の原因と診断~6つの視点からチェックする」
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(参考・出典)
内村直尚「プライマリ・ケア医のための睡眠障害」(南山堂)
睡眠障害の診断・診断ガイドライン研究会編「睡眠障害の対応と治療ガイドライン」(株式会社じほう)
主婦の友社編「不眠症・睡眠障害みるみるよくなる100のコツ」
櫻井武「睡眠障害の謎を解く」(講談社)
岡田尊司「人はなぜ眠れないのか」(幻冬舎)
菅原洋平「あなたの人生を変える睡眠の法則」(自由国民社)
丹野義彦編「臨床心理学」(有斐閣)
山下格「精神医学ハンドブック」(日本評論社)
など