「なかなか寝つけない」「夜中に目が覚める」といった症状は、さまざまな要因によって引き起こされます。精神障害に付随する症状としてもしばしば生じることがあります。単に眠れないといった場合でも対応方法はそれぞれ異なります。
今回は、医師の監修のもと公認心理師が、心の健康に影響する睡眠障害、不眠症についてまとめてみました。
<作成日2016.5.31/最終更新日2023.2.6>
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この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
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この記事の執筆者みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師) 大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など シンクタンクの調査研究ディレクターなどを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら |
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<記事執筆ポリシー>
管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考に記述しています。
可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・私たちはなぜ眠るのか?~睡眠の目的
・睡眠の機能
・睡眠のメカニズム
・ライフサイクルと睡眠の傾向
・睡眠障害とは何か?
(下)につづく
[(下)のもくじ]
・睡眠障害と心の健康の関連とチェック
<一過性不眠>
<短期不眠>
<長期不眠(慢性不眠)>
<過眠症>
・睡眠障害を克服する10のポイント
私たちはなぜ眠るのか?~睡眠の目的
睡眠の機能
睡眠とは、これまでは活動性が低下した消極的な状態だととらえられてきました。しかし、最近の研究では、睡眠をつかさどる脳の機能があることが分かり、積極的な活動として睡眠が捉えなおされています。
睡眠には2つの機能があるとされます。
1つは、地球の自転に合わせて、活動に適さないときは休み、エネルギーを蓄える。
2つは、脳を休ませて、神経伝達物質のバランスを整え、心身のダメージを修復する。
このように睡眠とは、心身を休めて、コンディションを整える役割があります。
不眠が続くと、コンディションが乱れ、うつ病などの精神障害の発症を誘発したり、逆に精神障害の症状として睡眠に問題が現れたりします。精神障害とまでは言えない「悩み」についても、十分な睡眠をとると、悩みの記憶やそれにまつわる感情が処理されて、悩みの解消を促進します。
睡眠は心の病を予防したり、病からの回復を促進するためにも非常に重要なものです。
睡眠のメカニズム
睡眠とは、体内時計のリズム×起床からの時間(睡眠負債)によって決まることが分かっています。例えば、睡眠のメカニズムに反して夕食後に昼寝をしているようであれば、眠ることができないのは当然のことです。うまく寝ることができても、寝つきが悪くなったり、予定外の時間で目覚めたり、といったことが起きます。
現代人は、社会活動が24時間化する中で本来の生体的なリズムとは異なるスタイルの生活を強いられたり、パソコンやスマホ、テレビ、電灯など夜間でも昼間のような光を浴びて生活しています。現代の生活は、生体的なリズムがとても乱れやすい状況にあります。意識でこの時間に眠りたいと思っていても、生体のリズムと食い違えば〝睡眠障害”を引き起こします。
・体内時計のリズム
体内時計は、長期、中期、短期の3つのリズムでバランスがとられています。
3つのリズムとは下記のものです。
・概日リズム
24時間+α の周期で回る体内時計であり、夜になると眠くなるもの。
・概半日リズム
半日周期で回る体内時計であり、昼過ぎと夜中過ぎに眠くなるもの。
・超日リズム
90分おきに眠気がやってくるもの。
入眠の際に、眠気が強い時とそうではないときがあるのはこのためです。
・睡眠負債
睡眠負債とは睡眠を誘発する睡眠物質が溜まった状態です。起きている間に徐々に蓄積されていきます。いわゆる寝だめが有効ではないのは、睡眠負債に貯金がという機能がないからです。最後に起床してからの時間から長くなると、それだけ睡眠物質が蓄積されて、眠りやすくなります。
・レム睡眠とノンレム睡眠
睡眠中は、レム睡眠とノンレム睡眠とが60~90分ごとに交代しながら睡眠が続きます。
特に深い睡眠を徐波睡眠といいます。ノンレム睡眠に始まり、レムとノンレムを交互に繰り返しながら、徐々に睡眠は浅くなっていきます。レム睡眠では交感神経と副交感神経が交互に活発に活動し、脳は活発に活動する一方で、体は完全に弛緩しています。
一方、ノンレム睡眠では副交感神経が優位になり、脳は休息している一方で、少ないですが寝返りを打つなどの体の活動は生じています。
それぞれの機能は完全には明らかにされていませんが、健康の維持や長期記憶の形成に作用していると考えられています。
(参考)睡眠物質とは何か?
生体内に備わっている物質のうちに、睡眠に強く関与している物質を睡眠物質と呼びます。
免疫・炎症関連物質であるプロスタグランディン、サイトカインやプロラクチン、神経ペプチド、ウリジン、ヌクレオシド、グルタチオン、などが知られています。
ライフサイクルと睡眠の傾向
・子ども時代
子どもの不眠も実は多く見られます。睡眠相の後退で夜型になるためや、概日リズム障害によるものが多いとされます。朝起きれなくなったり、日中の集中力の低下につながります。活動量が高まり、衝動的、多動的な状態が見られることもあります。
幼児のころは12~14時間、小学校でも11時間、思春期で8時間程度は睡眠を必要とします。
睡眠に関連する症状として、夜驚症や睡眠時遊行症(夢遊病)などが見られることがあります。 多くの場合、成長とともに自然と収まっていきます。
・成人時代
概半日リズムの影響で夕方まではぼんやりしていても、8,9時以降になると活動的になることがあります。そのため、夜型になりがちで、日中の眠気、集中力の低下につながり、不眠の原因です。通常成人は7~8時間は睡眠を必要とします。
短時間の睡眠で熟睡できるショートスリーパーの人もいるため、睡眠時間は人によって異なります。また、朝型か夜型かは幼いころからその傾向が決まっているとされます。
・高齢者時代
概半日リズムの働きが弱まり、これまでは活動的になっていた夜中の時間帯がなくなることで睡眠相が早くなります。さらに、睡眠を維持する機能が低下するために、朝早く目が覚めるようになります。実は必要な睡眠時間は若いころとそれほど変わらないことがわかっています。高齢者になると睡眠薬の副作用の影響も強くなるため、できるかぎり生活習慣を整えて睡眠障害を予防、解決することが必要です。
睡眠障害とは何か?
睡眠障害とは、睡眠にまつわる悩みのことで、大きくは不眠症、過眠症、概日リズム障害などに分かれます。不眠症は、入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害などいくつかの症状があります。
日本人の場合、2割が不眠に悩んでいるとされますから、とても大きな問題です。適切な睡眠時間は人によっても異なります。そのため、睡眠障害かどうかは本人が問題とするかどうかにもよります。
睡眠障害の症状
「眠れない」と一言にいっても、さまざまな症状が見られます。症状ごとに対策は異なりますので、自分がどの症状なのかを知ることが大切です。
・寝つきが悪い(入眠障害)
実験によると自然状態では、入眠に2時間はかかるのが普通とされます。そのためすぐに眠れないからと言って不眠だとは限りません。30分~1時間以上寝付けずに本人が苦痛を感じている場合は、睡眠障害が疑われます。
・夜中に目覚める(中途覚醒)
夜中に目が覚めること自体は人間の正常なメカニズムとする実験結果もあり、必ずしも悪いものではありません。また、加齢によっても中途覚醒の回数は自然に増加するため、年齢や状況によって判断が必要です。若い人で2回以上目が覚める場合は睡眠障害が疑われます。強いストレスが続いている場合も眠りが浅くなり、目が覚めることが増えます。
・夜中に目が覚めた後に眠ることができない(早朝覚醒)
起床予定の時間の2時間以上前に目が覚めるような場合は睡眠障害が疑われます。これも加齢によって症状が増えるものです。睡眠相の前進による場合、うつ病などでノンレム睡眠が短くなる場合、躁状態や、イベントなどを控えて気分が高揚しているときなども早く目覚めることがあります。
・朝起きることができない
若者にも多く見られますが、睡眠リズムの乱れなど睡眠障害が疑われます。
・良く寝てるのにすっきりしない/日中の眠気が強い/居眠り(熟眠障害)
十分な時間眠っているにもかかわらず、睡眠不足を訴える場合に睡眠障害が考えられます。ストレスや精神疾患などで眠りが浅い状態が続いたり、呼吸関連睡眠障害なども疑われます。客観的には寝ていても本人が気がつかない逆説性睡眠障害もあり得ます。
睡眠障害、不眠の悪影響
睡眠障害、特に不眠になると心身に以下のような悪影響を及ぼすとされます。
・神経伝達物質の不足
私たちは、セロトニンを初めとする神経伝達物質によって、脳内の活動が保たれています。しかし、不眠が続くことで、神経伝達物質が枯渇してしまい、感情をコントロールできなくなるなど感情や思考が正常に機能しなくなります。神経伝達物質の不足はうつ状態など精神的に不安定な状態を誘発します。
・脳や身体のダメージの蓄積
不眠が続くことで、疲労をおさえるためにストレスホルモンが分泌され続け、成長ホルモンが抑制されます。
脳に蓄積されたダメージが細胞新生によって修復されずに、脳の萎縮、骨や筋肉の成長の阻害などが見られるようになります。脳の中でも特に理性をつかさどるとされる前頭前野、記憶に関連する海馬、気分のコントロールを行う前部帯状回の機能低下が見られるようになります。
人間の場合は、不眠の実験を行っても死ぬことはなく、どうしても必要になれば立ったままでも睡眠状態に入ります。しかし、動物の場合は、不眠状態に置き続けると死に至ることが分かっており、不眠はさまざまな悪影響を及ぼすことが考えられます。
(下)につづく:睡眠障害のチェックと克服の10のポイント
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(参考)
内村直尚「プライマリ・ケア医のための睡眠障害」(南山堂)
睡眠障害の診断・診断ガイドライン研究会編「睡眠障害の対応と治療ガイドライン」(株式会社じほう)
主婦の友社編「不眠症・睡眠障害みるみるよくなる100のコツ」
櫻井武「睡眠障害の謎を解く」(講談社)
岡田尊司「人はなぜ眠れないのか」(幻冬舎)
菅原洋平「あなたの人生を変える睡眠の法則」(自由国民社)
丹野義彦編「臨床心理学」(有斐閣)
山下格「精神医学ハンドブック」(日本評論社)
など