なかなか治らない(難治性、遷延性)長引く悩みの治し方

なかなか治らない(難治性、遷延性)長引く悩みの治し方

うつ・気分障害精神障害全般

 
 前回につづき、医師の監修のもと公認心理師が、悩みがなかなか良くならないときの要因と対応の助けとなるポイント(視点)についてまとめてみました。よろしければご覧ください。

 

<作成日2019.9.25/更新日2024.4.22>

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この記事の執筆者

三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師

大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了

20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。

プロフィールの詳細はこちら

   

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 ・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。

 ・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。

 ・可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

もくじ

具体的にどのようにすれば良いのか?

 

 →なかなか治らない(難治性、遷延性)長引く悩みの要因については、下記をご覧ください。

 ▶「悩みが良くならない治らない、長引く要因~難治性、遷延性について

 

 

具体的にどのようにすれば良いのか?

・医師やカウンセラーと協力して取り組む

 当事者も治療者と一緒に未知の問題に探索しながら協力して取り組んでいるということを理解することが大切です。間違っても、うまくいかないことで相手や周囲、そして自分を責めないようにしましょう。いくつも仮説を立てながら解決に迫っていく必要がある、ということを知ることが大事です。

 

(参考)治療者も一緒に悩むことも共感につながる

 名医で知られる神田橋條治氏も、著書の中で、なかなか良くならないうつの患者に対してなんとかしようと志向して自殺に至ったことがあると述べています。現在では、良くならない場合は共に悩む二人となり、「困ったなあ」という。それが治療同盟(信頼)を強くし、「良くならない状態をわかってもらえている」という共感につながると考えられています。

 

・家系や生育歴などを見直す

 当事者も自分の生育歴、家系、現在の生活習慣やストレスの要因をご自身でもなどを振り返ってみることです。初回の面談ではすべてを思い出すことは難しい場合があります。あとから思い出したり日常生活を送る中で気づいたことを都度伝えて共有することも大切です。

 

・生活習慣を見直す

 診察やカウンセリングの時間は生活全体からは見ればほんのわずかなものです。生活の習慣を見直すことが大切です。睡眠時間、食事、運動、感じているストレスなど見直しましょう。例えば、睡眠時間は入眠のタイミングと時間が大切です。入眠はできれば、成長ホルモンが分泌される22時~2時の間に早めに床に付ければよいです。可能であれば自然と目が覚める時間までしっかりと睡眠をとれればよいです。

 

 食事についても3食偏りなくしっかりととること、カフェインやアルコールを採りすぎないことです。コーヒーやチョコレートなども適度な量にしましょう。服薬している場合はアルコールは控えるのがよいでしょう。
 また、散歩で結構ですから、可能な範囲で毎日運動を行いましょう。気持ちが上向くきっかけになることがあります。

 

 

・自分にあった環境を整える~特に「躁うつ体質」の方は要注意

 人間は誰しも気質や体質というものがあります。自分に合わない環境では生きづらさを感じることは当然です。しかし、努力次第でなんとかなるとして環境との相性を無視して合わない環境に身を置き、生きづらさを抱える人は少なくありません。特に「躁うつ体質」の方は環境調整こそもっとも重要な治療方法になります。

 自分の気質とはなにか?自分にあう環境とはなにか?を振り返ってみて、環境を変えてみるということも必要です。

 ▶「双極性障害(躁鬱病)の治し方~正しく対処するための6つのポイント

 

 

・症状を理解する

 自分が診断されている症状や取り組みについて自分自身も理解していることはとても大切です。理解があるいなかで例えば薬の効果も変わるとの調査結果もあります。読みやすい本で結構ですので何冊か目を通してみることも良いでしょう。

 また、どういった症状が起きるのか、どういった変化が起きるのか?についても理解しておくと、誤解なく治療者ともコミュニケーションを取ることができます。

 

・気づき、変化を理解する

 変化がどのようにもたらされるのかについて理解することも大切です。変化とはとても微細なものであったり、当たり前のこととして感じられていたりします。変化を感じ取れるほど改善も進みます。逆に、大きな変化しか変化ではないとしたり、完璧主義的になってしまっていると、かえって症状が悪くなる原因ともなります。

 

・生育歴の問題にアプローチする

 近年は、愛着障害やトラウマがその後の人生において心身にさまざまな問題を生じさせることが明らかになっています。そうした場合は当然、愛着やトラウマの問題にアプローチする必要があります。最近は愛着へのアプローチ、トラウマケアなど様々な手法が開発されたり、提供されています。

 

 ▶「「愛着障害」とは何か?その特徴と症状

 ▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状

 

 

 

・「自己の再建」に取り組む

 人間の悩み、症状とは、機械の修理のようにただ直せばよいものというわけではありません。自己の喪失によって症状が生じている場合は、自分が失われた状態のままでは症状は収まりません。さながら、無政府状態の国のようなものです。当然治安も悪くなりさまざまな問題が生じます。人間も同様です。症状は環境から中立な対象物というわけではないのです。例えば、悩みが整理され収められる(統治される)ためにも“主体”が必要になります。当事者が主体となって身体の調子を整え直す必要があるのです。

 自己の再建へのアプローチは症状がある程度収まってからではなくて、最初の段階から必要です。自己の再建を念頭に置いて心理療法などの取り組みを行う場合と、そうではない場合とを比べてみると効果の違いが顕著です。
 例えば、トラウマの専門家であるヴァン・デア・コークは、「回復のための課題は、体と心―すなわち自己―の所有権を取り戻すことだ」(『身体はトラウマを記録する』)としています。ジュディス・ハーマンも『心的外傷と回復』の中で、「回復の基本原則は被害者に力と自己統御(主体性)とを奪回することにある」「その後を生きる者自身が自分の回復の主体であり、判定者でなければならない」「善意にあふれ意図するところもよい救援の試みの多くが挫折するのは有力化という基本原則が見られない場合である」としています。

 
Point

 実際に、私のクライアントで最初は症状のケアを行っていて、それからしばらくセッションをお休みされていた方がいました。当時は、私も自己を再建するということは中心に置いていなかったのです。そのクライアントが数年ぶりにケアの依頼をしてこられた際に、自己の再建を踏まえた形でのトラウマケアを行うと、ケアの効き方が全く異なり驚いたことがあります。人間はやはり自己が土台に来なければならないのだ、自己が主体として再建(有力化)されなければならないのだ、と実感したことを覚えています。もし、すでに自分の悩みに取り組まれていて改善が頭打ちになっているとしたら、「自己(セルフ)の喪失、そしてその再建」という視点が念頭にあるか、を点検してみる必要があります。

 

 

・本人ではなく、家族がカウンセリングを受ける/自助会などに参加する

 とくに子どもの場合などに顕著ですが、機能不全家族に育つと自分がなくなる、自分が失われる、ということが生じます。勉強や仕事ができなくなったり、簡単な約束もまもれないというような状態になることもあります。醜形恐怖や不安障害、学校にいけなくなる、家庭内暴力と行ったことに発展する場合もあります。そんなときにお子さんをカウンセリングしてもほとんど改善が見られません。問題とされるお子さんの家族をカウンセリングすると問題が改善される、解決するということが珍しくありません。

 その際は、カウンセリングもそうですが、自助会に参加するということはとても効果があります。

 また、最近は、家族も含めてグループでのカウンセリングを行う「オープンダイアローグ」と呼ばれる手法が、統合失調症などを中心にとても高い効果を挙げています。

 

 

・イライラ、怒り、不安、疑りに巻き込まれない

 なかなか良くならないとき、家族や知人や医師などの専門家へのイライラ、怒り、不安を抱いてぬぐえなくなることがあります。例えば、医師やカウンセラーがちょっと目をそらしたり、いつもと同じ行動をしなかった(診察に遅れてきた。時間が短かった、長かった)、少し元気がないといっただけで自分を嫌っている、バカにしているという疑う気持ちを感じてしまうこともあります。

 

 これらは、実は悩みが生み出す症状(境界性パーソナリティ状態)であり、本来の自分の感情ではありません。そのため、少なくとも知識のレベルでは本来の自分のものではないと知り、巻き込まれないようにすることが大切です。巻き込まれてしまうと、本来サポートしてくれるはずの人との関係を悪くして、さらに問題を長引かせてしまう、ということが起こりますので注意しましょう。

 

 

・環境を見直す

 現在の環境が安心安全なものであるかどうかはとても重要です。暴言やネガティブな発言をするような関係者が周囲にいないか。治療についてあまり協力的ではない、といったことはないか。仕事や生活のストレスが過度なものになっていないか。自分が我慢していないか、など点検してみましょう。そのうえで関係者にも理解を促したり、もし必要があれば環境を変えることも検討しましょう。

 

 

・運動する

 運動療法とは、有酸素運動などを行い、脳や身体の機能を改善、回復させるものです。さまざまな精神障害の改善にも高い効果があることがわかっています。
 運動の効果として明らかになっているのは、まず脳内のニューロンの新生が活発になり認知機能が改善することです。ラットの実験では、ニューロンの新生は3、4倍になることがわかっています。次にシナプスの可塑性や伝達効率が上がるなど、脳内伝達物質の循環も活性化されます。また、運動を通じて自分の身体感覚が戻り、自律神経系、免疫系、内分泌系といった身体の機能が回復すると考えられています。
(例えば、うつ病の治療でも、統計上あらゆる療法の中で最も効果が高い方法は運動療法です。副作用もなく、再発もわずかとされます。) 

 有酸素運動といってもハードな運動は必要ありません。週に2,3日30分程度ウォーキングを行うだけで大丈夫です。日中外に出ることが難しい場合は、夜中に歩く、屋内でのヨガ、ピラティスなども効果的です。最近であればYoutubeなどの動画を見ながら簡単に自分でヨガを行うことができます。

 
 
Point

 有酸素運動は、決して気休めや道徳的な助言ではありません。非常に高い効果が見込めますので、すべての方に必ず取組んでいただきたいセルフケアの方法の1つです。

 参考:ジョン J. レイティ「脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方」(NHK出版) など

 

・所要時間を捉えなおす

 実は必要な時間の捉え方が現実とあっていない可能性もあります。平均〇年というデータがあっても、あなたは違うかもしれませんし、だから悪いというわけではありません。平均とは真ん中のことで、半数の方はそれ以上かかるものです。当事者が過度に焦りすぎていることもあります。頭の中で時間のメモリをリセットしてみることが必要です。

 

 

・腰を据えて取り組む

 よくあるのが、一度だけカウンセリングや治療を受けて、その結果のみで効果を判断してしまうということです。薬物療法や心理療法でも、効果が出るのは3カ月から半年かかります。腰を据えて取り組む必要があります。次々と渡り歩くことで本格的な変化を逃してしまっていないかもあらためて見直してみましょう。
 

・解決行動をやめてみる~違うことをしてみる、底をつく

 ブリーフセラピーでは、円環的因果論と言いますが、解決行動が問題を生み出し続ける、という悪循環が指摘されます。
 「do something different」といい、うまくいっていないなら違うことをしてみることも大切です。
 「違うこと」とは、やみくもに異なる医師やセラピーを受けろ、ということではありません。ここでいう違うこととは習慣や行動パターンを変えてみる、ということです。

 特に、周囲や自分自身が自らを“問題児”扱い、“病気”扱いしていないかについてもチェックしてみることです。
 もしそうなら、周囲はその意識を変えてみる必要があります。また、当事者であれば、働きかけたり、環境を変えることです。

 

 さらに、依存症の当事者や家族は、むやみな関与や解決行動をやめることが大切です。「底をつく」といいますが、いったん底をついてみることで、本当の意味で「自分は大丈夫だ」「自分にはいろいろなつながりがある。孤独ではない。」と感じることができます。

 

・周りに合わせすぎず、“自分らしく”生きる

 同じ日本人同士でも人はそれぞれ異なります。あたかも異文化のようです。ある種の人たちはとても繊細だし、とても傷つきやすいものです。特に才能のある人はそうです。普通の人たちとはある意味感性が異なるのに、無理に合わせようと治そう治そうとすること自体が悩みを続けさせることにもなります。例えば双極性障害の方は適度に気分屋として生きると安定するとされます。

 自分の才能や感性に合う人だけを求めてつながり、それ以外の人は敬意を払ってそのままにしておく。無理をしない。無理に合わせようとしなくてもいいのです。普通の人のようになろうと自分を“治そう”とする行為を止めてみることです。治すものなどはもともとないということはしばしばあります。

 

 

・今ここを楽しむ

 「解決しなければ安寧はない」「悩みが解決した後でなければ人生は楽しめない。自分らしく生きられない」というような考えにとらわれていることも解決を遅らせる要因になります。その思いが悩みへの執着を逆に高めて大きくしてしまいます。

 人生において不調や悩みがなくなることのほうが少なく、悩みを起点に考えることは不自由なことです。今を否定して、未来を理想化したり、過去を懐かしむことは大変もったいないことです。なぜなら、現実に存在する人生とは紙芝居のように“今ここ”の連続体だからです。解決途上の“今ここ”でも人生を楽しむことが大切です。望む解決とは未来の先にあるのではなく、逆説的に“今ここ”にあるものです。

 

・人生の方向を見直してみる

 うつ病治療の専門家である野村総一郎教授はユウウツという感情について「新たな生き方を導き」「争いを避け」「周囲の援助を引き起こす」ために進化した感情としています。

 「ユウウツが本当に消えるのは、その人が長く追求してきた目的を完全にあきらめ、自分のエネルギーを別の方向に向けるようになった時である」という海外の研究者の言葉を引用しながら、新たな生き方を導く生物学的なメッセージではないか、としています。

 つまり、表面的には症状と見られているものも、人生の中で重要な意味があることがあります。悩みを治そう治そうとしてうまくいかない場合、人生の方向を見直してみることは有効であるかもしれません。
 

 

・薬について相談する

 長期間、抗うつ剤や抗不安薬などを服用している場合に、なかなか良くならない状態である時、本当に必要なのか?を医師とともに吟味することも有効かもしれません。特に抗不安薬は通常は期間を区切り、長期の服用は避けるべきとされていますが、漫然と処方されているケースもあります。薬が不安定な状態を作り出していることもあります。不安があればセカンドオピニオンを求めることもできます。

 

 

 →なかなか治らない(難治性、遷延性)長引く悩みの要因については、下記をご覧ください。

 ▶「悩みが良くならない治らない、長引く要因~難治性、遷延性について

 

 

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(参考)

「こころの科学 (2014年11月号) 178号 治療のゆきづまり」(日本評論社)
青木省三、村上伸治「大人の発達障害を診るということ」(医学書院)

神田橋條治「神田橋條治医学部講義」(創元社)

神庭重信、黒木俊秀「現代うつ病の臨床」(創元社)
樋口 輝彦「難治性うつ病の臨床 -感情障害全般の治療から難治性への対処まで-(新精神科選書 3)」(診療新社)
野村 総一郎/編著「エビデンスに基づく難治性うつ病の治療」(新興医学出版社)
松下 正明/総編集「専門医のための精神科臨床リュミエール 15 難治性精神障害へのストラテジー」(中山書店)

など