悩みが良くならない治らない、長引く要因~難治性、遷延性について

悩みが良くならない治らない、長引く要因~難治性、遷延性について

うつ・気分障害精神障害全般

 なかなか良くならない状態が続くと、「自分は治らないのではないか」「もっと努力しなければならない」と考えてしまいがちです。

 しかし、治療やカウンセリングを続けても変化がないときには、同じことをさらに頑張るよりも、いったん問題の見方を変えてみることが大切です。「治らない」のではなく、まだ別の見方が必要なのかもしれない。
本記事では、行き詰まったときに問題を見る位置を変えるためのポイントを紹介します。

 
 今回は、医師の監修のもと公認心理師が、悩みがなかなか良くならないときの要因と対応の助けとなるポイント(視点)についてまとめてみました。よろしければご覧ください。

 

 

<作成日2016.11.27/最終更新日2026.10.18>

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この記事の執筆者

三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師

大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了

20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍(累計約4万部)、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。

プロフィールの詳細はこちら

   

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 ・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。

 ・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。

 ・可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

もくじ

・悩みや症状がなかなか良くならない主な理由

・治りにくい、治らない悩みというものはあるのか?
・悩みが治りにくい要因

 

 →なかなか治らない(難治性、遷延性)長引く悩みの治し方については、下記をご覧ください。

 ▶「なかなか治らない(難治性、遷延性)長引く悩みの治し方」

 

悩みや症状がなかなか良くならない主な理由

 治療やカウンセリングを続けても良くならない場合、それだけで「治らない病気」「自分に問題がある」ということではありません。
長引く背景には、①診断や見立てが十分でない、②治療法・治療期間・目標が合っていない、③トラウマや生育歴などの背景が十分に扱われていない、④本人を取り巻く家族・職場などの環境が問題を維持している、⑤睡眠・生活習慣や身体疾患が影響している、⑥薬の副作用や離脱など医療そのものの影響がある、⑦実際には変化していても本人が変化として認識できていない、といったさまざまな要因があります。

 また、当センターでは、長引く悩みを理解するうえで、症状そのものだけではなく、「自己の喪失」とその再建という視点も重要だと考えています。

 大切なのは、「もっと頑張れば治る」「この治療が効かないなら終わり」と考えることではなく、何が回復を妨げているのかを一度整理し直すことです。

 

 

 

治りにくい、治らない悩みというものはあるのか?

 まず、精神医学や臨床心理学において、心の悩みのすべてが解明されているわけではありません。そのため、実際に取り組んでいて、「治りにくい」症状があることは事実です。これまではそうしたケースについて「難治性」や「治療抵抗性」といった言葉がつけられてきました。

 精神医学自体もまだまだ途上です。それは、心や精神というものが目に見えないことも大きな要因の一つと考えられます。意識が脳や体のどこにあるかさえも現在の科学ではよくわからない状態ですから、“心の果て”を知るまではまだまだ時間がかかりそうです。

 

 精神医学、臨床心理学がこれまで命名してきた病名や症状は、とても粗い網の目のようなものです。実際に悩んでいる当事者からすると、粗すぎてしっくりこないケースも多いでしょう。診断名が付きそこから必勝パターンとされる治療でよくなる良くなる場合もありますが、それからこぼれるものもたくさんあります。明確な診断がつけられないケースもあります。

 

 心というのは、「宇宙」にもたとえられますが、ある意味、医師やカウンセラーも1ケース、1ケースを丹念に探索しながら日々取り組んでいます。

 クライアント側もそのことを知ることは大切です。そうすれば、治療者とクライアントが、“病気”“悩み”に対してともに向き合うことが可能になります。最近は、心理教育を徹底したり、行き詰まりを感じたら治療者も正直にそのことを伝えて共に検討するようなスタイルが取られることも多くなりました。そうした姿勢のほうが、打開策が見つかったり、あきらめからくる自殺を防いだりする実際的な効果があるようです。

 

・「難治性」「治療抵抗性」「遷延性」とは?

 「治療抵抗性」「難治性」とは、一般に、標準的とされる治療を行っても十分な改善がみられない状態を指します。ただし、この言葉を「この人の病気は治療に抵抗している」「もう治りにくい病気なのだ」とだけ受け取る必要はありません。そもそも現在の診断や見立てが合っているのか、治療の対象を間違えていないか、まだ見落としている背景がないかという問いも必要です。

 「治療抵抗性」と呼ばれていた状態が、別の見方を導入した途端に動き始めることもあります。

 

 

 

悩みが治りにくい要因

 治りにくい原因がはっきりとわかればその時点で半分解決しているとも言えますから、何が原因かは完全にはわかりません。ただ、これまでの経験の蓄積から、いくつかの要因が指摘されています。まとめてみました。

・見立ての違い~仮説の検証に時間が必要なケース

 なかなか良くならないときに、まず考えたいのが**「現在の見立てで本当に合っているのか?」**ということです。

 例えば、うつ病として治療していたけれど実は双極性障害だった、性格の問題だと思っていたけれど発達障害・発達特性が関係していた、単に怒りっぽくなったと思っていたけれど認知症など身体・脳の問題が背景にあった、ということがあります。

 医学的な診断と、実際の支援で用いる「見立て」は完全に同じものではありません。診断名が同じでも、何が現在の問題を維持しているのかによって、取り組むポイントは変わります。

 カウンセリングでは、症状だけを見るのではなく、生育歴、発達、家族関係、現在の環境、身体状態などから複数の仮説を立てます。一つの見立てで動かなければ、別の見方から捉え直します。

 治療が動かないときには、「自分が治らない」のではなく、「今の見立てでは動かない」のかもしれません。

 

 例えば、これまで「性格の問題」「境界例」「パーソナリティの問題」「治療に抵抗するケース」として理解されてきた人の中に、発達障害・発達特性という視点が十分に入っていなかったケースがあります。発達という視点を入れると、それまで「なぜこの人はできないのだろう」「なぜ治療が通じないのだろう」と見えていたことが、認知の仕方、感覚の特性、こだわり、切り替えの難しさ、環境とのミスマッチなどから理解できるようになります。

 すると、本人を変えようとする治療から、本人の特性に合わせて環境や支援の方法を変える方向へと発想が変わります。それによって、それまで動かなかったケースが大きく改善することもあります。

 また、「発達障害」という診断に至らなくても、発達の凸凹という視点は有用です。負けず嫌い、頑固さ、強いこだわり、独特な感覚なども、その人の発達特性として捉え直すことで、困難への対処法が見えてくることがあります。

 
 このように見立てはとても大切ですが、見立ては症状だけをチェックリストでチェックすればわかるものではありません。生まれてからどのように過ごしたのか?現在の状況はどうか?性格の傾向。家族との関係。家系での病歴などを聞いて仮説を立てていきます。臨床心理学では通常、心理、社会、生物の3つの観点から見立てていきます。うまくいかない場合は、そのうちの何かの情報が欠けていたり、見立てがあるものだけに偏っていることも多いようです。

 科学では仮説をいくつも立てて試行錯誤を繰り返すように、カウンセリングでもいくつもの見立て(仮説)が立てられ検証していきます。そのため、単純に「成功か、失敗か」ということではなく、見立てが外れて、ある可能性が除外されることで解決に近づいていきます。

 

・発達障害という見立ては解決の役に立つ!?

 近年、“発達(障害)”という視点を導入することで、これまでは対応が難しいケース、非定型的なケース、境界例、パーソナリティ障害、例えば統合失調症と診断していたものの多くが「実は“発達障害”なのでは」と言われるようになってきました。これまでは定型発達の人を基準に考えていたために、それにあてはまらないものは「境界例」「非定型」、理解できない人たちは「パーソナリティ障害」とされ、発達(障害)による特徴を見逃してきたのではないか、という提起がなされるようになりました。 実際に、発達という視点を持って取り組むと、それまで動かなかったケースが大きく改善することも珍しくありません。

 誰しもが何らかの発達の凸凹を抱えています。負けず嫌いな人、頑固な人、ちょっと独特な雰囲気のある人、全ての人は凸凹しています。治らない“障害”というよりは、気質や環境による“成熟の遅れ”という観点でとらえられています。そのため、成熟を妨げる要因を取り除き、環境を整えることで特徴が目立たなくなり、その人なりに発達をはたすことができるようになると考えられています。
▶「大人の発達障害、ASD(アスペルガー症候群)とは何か?公認心理師が詳しく解説」

 

 

・トラウマ、愛着など生育歴の問題にアプローチできておらず、対症療法となっている

 目の前の不安、抑うつ、対人関係の問題などに対処しても、あるところから変化が止まってしまうことがあります。

 そのようなときには、その症状を生み出している背景に、トラウマや愛着、生育歴の問題が残っていないかを確認する必要があります。

 例えば、対人不安に対して考え方や行動を変えようとしても、過去の人間関係の中で「人は危険だ」「自分は否定される」という感覚が身体レベルで残っていれば、何度も同じ状態へ戻ってしまうことがあります。

 薬を飲んでも、カウンセリングを受けても、なぜか一定のところから先へ進まない。そのようなときには、「現在の症状」ではなく、それが生まれた背景へ視点を移すことが突破口になることがあります。

 

 ▶「「愛着障害(アタッチメント障害)」とは何か?その特徴と症状」

 ▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因とそのしくみ」

 

 

・「躁うつ体質」を見逃しているケース

 医師の神田橋條治氏が臨床の中で見出した知見に「躁うつ体質」という問題があります。躁うつ体質というのは文字通りある種の人たちが持つ気質、体質のことです。のびのびした、バラエティに富む人生を欲し、調子に波があり、窮屈な環境では調子を崩しやすく、人との関係の中で生きる、という特徴があります。さらに、内省が不得手で、カウンセリングなどを受けると反対に調子を崩すという傾向があります。躁うつ体質の方が調子を崩した状態を「双極性障害(躁鬱病)」と呼びます。薬などで波を調整しながら、環境も自身に合ったのびのびとしたものへと調整していく必要があります。

 躁うつ体質はその事自体を知っている治療者が少なく、また診断も難しいことから、うつ病や他の病気と勘違いされて薬を投与され更に悪化したり。カウンセリングを受けて調子を崩したりということが起きがちです。

 ▶「双極性障害(躁鬱病)とは何か?実は”体質の問題”という正しい診断と理解」

 

 

・「自己の喪失」という視点の欠如

 長引く心の悩みで顕著な特徴は何か?というと、「自己の喪失」という問題です。

 自分が失われる原因はいくつかあります。愛着不安やトラウマによって自我の形成がうまくいかなくなる。機能不全家族の影響で自分がよくわからなくなる。また、脳や自律神経の失調、社会の中での位置と役割、人間関係がうまくいかないことなどから自分がわからなくなっていってしまうのです(近年問題のヤングケアラーの当事者もしばしば口にする表現は「自分がなくなる」ということは印象的です)。

 例えば、心療内科やカウンセリングでは訴えの症状をターゲットにケアが行われます。しかし、ある程度までで限界が来ます。治療者はさらに一生懸命に取り組みますが、手応えとしてもまさに“収穫逓減”という感じでブレークスルーする兆しがなくなります。なぜ変化の兆しがなくなるかというと、様々な症状とは自己を喪失した結果、内的、外的な秩序を回復できないために生じているといっても過言ではありません。そのため症状の改善は自己(セルフ)の再建へのアプローチがなければ進まないのです。改善が行き詰まるケースの多くで、「自己の喪失」という視点が欠如したまま取り組まれていることがあります。

 
Point

 実際に、私のクライアントで最初は症状のケアを行っていて、それからしばらくセッションをお休みされていた方がいました。当時は、私も自己を再建するということは中心に置いていなかったのです。そのクライアントが数年ぶりにケアの依頼をしてこられた際に、自己の再建を踏まえた形でのトラウマケアを行うと、ケアの効き方が全く異なり驚いたことがあります。人間はやはり自己が土台に来なければならないのだ、自己が主体として再建(有力化)されなければならないのだ、と実感したことを覚えています。もし、すでに自分の悩みに取り組まれていて改善が頭打ちになっているとしたら、「自己(セルフ)の喪失、そしてその再建」という視点が念頭にあるか、を点検してみる必要があります。

 

 

・「治らない」のではなく、まだ必要な時間が経っていない

 当事者や治療者が当初考えていたよりも、症状が重くてより時間がかかるという場合もあります。ある病が平均で何カ月で良くなるという情報を知っていた場合に、その時期になっても良くならないと「解決していない」と考えてしまうことがあります。しかし、平均というのは簡単言えば半数以上は平均よりも時間がかかることを意味しています。平均とはあくまで参考値であり、各ケースごとにさまざまな偏りがあることは当然です。

 

 実際に、平均よりも時間がかかっていても粘り強く取り組むことで解決できるケースは多いです。例えば、難治性うつで5年たっても良くならないケースでも、その後の5年間で粘り強い取り組みで約4割が回復していることがわかっています。統合失調症でさえ、晩年軽快といい、時間とともに良くなることが知られています。

 
Point

 必要な時間についての認識のズレというのは結構大きいです。多くのクライアントは見切りが早すぎる、というふうに感じます。自分の悩みは重いと感じているにも関わらず、数回のセッションで治るもの、と考えているようなケースがあったり、時間がかかるなら良くならないのだろうと捉えてしまったり。先に予算ありきでまだよくなるにも関わらず早々に打ち切ってしまったりするなどで、自ら機会を失っているようなケースはよくあります。

 

 

・解決方法の理解のズレ~「魔法の杖」を探し続けていないか

 魔法の杖を求めて、次々と治療者や方法を変えるドクターショッピングのような状態になっている状態です。

「もっと自分に合う治療法があるはずだ」「次の先生なら一度で治してくれるかもしれない」と、十分に取り組む前に治療者や療法を次々と変える状態になることがあります。

 治療法の選択はもちろん重要です。しかし、どの治療にも一定の試行錯誤と時間が必要です。

 「もっと良い方法」を探すことそのものが、今取り組んでいる方法から十分な効果を得られない原因になっていないか、一度振り返ってみる必要があります。

 

・心理療法の技法の違いが及ぼす解決への影響

 ラムバートという研究者によると、治療の効果は全体を100とすると、治療外変化(自然治癒力)は40% 共通要因(治療者との信頼)が30% 個別の技法が15% 期待が15% としています。この調査結果については根拠に疑問も示されていますが、うつ病のメタ分析でも、心理療法の共通要因は4割強、個別の治療法は6割弱となっており、うつ病においては個別の治療法の選択が6割近くと上回りますが、共通要因も見逃せない影響があることがわかります。

参考・出典)→丹野義彦など「臨床心理学」(有斐閣)

 

 

・「症状=悪いもの」と決めつけていないか

 人間によって病とは本来の姿にバランスを回復しようとする取り組みであり、症状は実は治療のプロセスという側面があります。例えば、発熱という症状は、それ自体も症状として解熱剤でおさえることもできますが、発熱は体内のウイルスを除く働きであるとすれば、発熱は治療のプロセスと考えられ、軽々しく取り除くことは良くないとも言えます。

 

 うつ病を例に挙げると、うつ病は人生の方向転換を促すプロセスという捉え方もあります。それまでは脳を酷使して生きてきた状況からの転換を促している、ということです。そう考えれば、うつ病が遷延化している場合、もしかしたら、人生の方向転換に取り組まないまま、症状だけを薬などでおさえにかかってしまっていることに起因するかもしれません。具体的に言えば、生活習慣(睡眠や食事など)がそのままである、仕事での働き方がそのままである、人生に対する価値観がそのままである、といったことです。

 
Point

 症状と自分の性格、資質との区別ができないということもよくあります。もっと言えば、「治る部分」と「治らない部分」とを勘違いしているようなケースです。多くは症状として治るにも関わらず、「これは自分の性格だからしようがない」として諦めてしまうようなケースです。これも機会を失い、もったいない結果となっていることがあります。

 

 

 

・未熟な自己治療としての症状、問題行動~他のリスクを軽減するために生じている場合

 依存、過食、自傷的な行動など、一見すると本人を苦しめているだけに見える行動も、別の苦痛を何とか和らげるための「自己治療」として働いていることがあります。

 例えば、孤独感、自己否定、強い緊張、居場所のなさを一時的に和らげるために、その行動が必要になっている場合です。

 この場合、問題行動だけを力ずくで取り除こうとすると、かえって不安定になったり、別の問題に置き換わったりすることがあります。

 「どうやってやめさせるか」ではなく、「この行動は何を和らげているのか」と見方を変える必要があります。

 当事者の生育歴などを丁寧にヒアリングして、根本にある要因や、現在の人間関係の行き詰まりなどを解消する必要があります。

 

 

・変化しているのに「何も変わっていない」と感じていないか

 完璧主義や強迫傾向が強い人では、「完全に不安がなくなった」「全く症状がなくなった」という状態だけを回復と考えやすく、小さな変化を見落とすことがあります。

 また、発達特性によって、過去から現在までの変化を連続して捉えることが苦手な人では、「今つらい=何も良くなっていない」と感じやすくなることがあります。

 しかし、実際には「眠れる日が増えた」「人の言葉を引きずる時間が短くなった」「仕事を休む回数が減った」といった変化が起きているかもしれません。

 大きな変化は、小さな変化の積み重ねです。

 また、本質的な変化ほど「本来の自分に戻った」ように自然に感じられるため、自分では変化に気づきにくいこともあります。

 

 “変化”というものへの認識の偏りも問題になります。「変化とは、大きなもの。革新的なもの」という捉え方をしている場合も、かえって変化を妨げてしまいます。「変化とは怖いもの」ということも同様です。小さな変化でも変化としてとらえること、そうした積み重ねが本格的な変化を生んでいくことになります。

 また、変化は変化した直後は顕著に感じますが、時間とともに薄れていく傾向があります。また、本質的な変化ほど、本来の自分に戻る、という形をとるために、自分にとっては自然でありわからないこともあります。こうしたことも理解がないと「変化がない」ととらえてしまうことがあります。

 

・本人を治そうとしているが、変えるべきなのは環境かもしれない

 本人が懸命に変わろうとしていても、家族や職場が否定、支配、罪悪感の刷り込みなどを繰り返していれば、変化は定着しません。

 特に子どもの問題では、「問題のある子どもをカウンセリングする」という発想そのものを変える必要があるケースがあります。

 子どもが不安定になる背景に、家族関係、親子の距離、過干渉、夫婦関係、家庭の緊張などがある場合、本人だけをカウンセリングしても変化が起こりにくくなります。

 その場合には、家族側への働きかけを行うことで、それまで動かなかった子どもの状態が大きく動くことがあります。

 「誰が問題なのか」ではなく、「どの関係や環境が問題を維持しているのか」を見ることが必要です。

 

 依存症などは「家族関係の病」とも呼ばれますが、そのほかの悩みでも家族や職場、友人関係が機能不全な場合に生じることがあります。機能不全とは例えば、過度な完璧主義、強迫的な傾向、本音を言えない、支配的な関係といったことです。人間は環境に強く影響を受ける存在です。少しずつ起こる変化に対しても「まだまだ全然よくなっていない」とフィードバックしていれば、本人も変化を感じることはできません。

 
Point

 とくに子どもの場合などに顕著ですが、機能不全家族に育つと自分がなくなる、自分が失われる、ということが生じます。勉強や仕事ができなくなったり、簡単な約束もまもれないというような状態になることもあります。醜形恐怖や不安障害、学校にいけなくなる、家庭内暴力と行ったことに発展する場合もあります。そんなときにお子さんをカウンセリングしてもほとんど改善が見られません。問題とされるお子さんの家族をカウンセリングすると問題が改善される、解決するということが珍しくありません。

 

 

 

・「治そう」としていることが、かえって問題を長引かせていないか

 家族や周囲が本人を「問題児」「病人」「困った人」として扱い続けると、本人もその役割から抜け出しにくくなります。

 また、心配するあまり、説得する、監視する、叱る、先回りして助ける、といったことを繰り返すことで、かえって本人の問題行動や無力感が強くなることがあります。

 ブリーフセラピーでは、これを「解決努力が問題を維持している」という視点から捉えます。

 問題を解決するためにずっと続けてきたことこそ、いったんやめてみる必要があるかもしれません。

 

・治療以前に、生活の土台が崩れていないか

 睡眠、食事、運動、仕事など生活習慣を適切にすることはとても大切です。睡眠不足、昼夜逆転、過度な飲酒、ほとんど身体を動かさない生活などが続いていると、カウンセリングや薬だけで安定させることが難しくなります。特に、睡眠は気分、集中力、感情調整に大きく関わります。

 何年も治療しているのに生活リズムは何年も同じ、という場合には、治療法だけではなく生活そのものを見直す必要があります。

 

 

・「心の問題」だと思っていたら、身体の問題だった

 心の不調に見えても、身体状態が強く影響している場合があります。

例えば、甲状腺機能の異常、貧血、睡眠時無呼吸症候群、ホルモン変化、PMS・PMDD、更年期、慢性的な痛み、薬の副作用などです。高齢者では、認知症や脳血管障害などが、気分や性格の変化として現れることもあります。

 カウンセリングを続けても説明しにくい倦怠感、眠気、動悸、体重変化、認知機能の変化などがある場合には、「心理的な問題」と決めつけず身体面も調べることが重要です。

 ▶「境界例、難治性うつ病、人格障害などの意外な原因~甲状腺、副腎疲労など」
 

 

・治療そのものが、回復を妨げていないか~医原病

 「薬は治すためのもの」と考えますが、場合によっては治療そのものが現在の不調の一部を作っていることがあります。これを医原病といいます。

 例えば、向精神薬の副作用、複数の薬の相互作用、長期服用に伴う問題などによって、眠気、認知機能の低下、感情の変化、身体的不調などが生じる場合があります。

 薬剤の影響が疑われる場合には、現在の薬が本当に必要なのか、量や種類が適切なのかを処方医と見直すことが必要です。薬剤性の症状であれば、薬を適切に調整することが解決の重要なポイントになります。

 ただし、向精神薬には急な減量・中止で離脱症状が生じるものがあります。自己判断で中止せず、必ず医師と相談しながら調整してください。

 

 

・まとめ~カウンセリングなどを受けても良くならないとき

 悩みがなかなか良くならないとき、「自分は治らない」と結論づける必要はありません。

 見立てが違うのかもしれない。発達障害やトラウマという視点が抜けているのかもしれない。症状に別の役割があるのかもしれない。家族や環境が問題を維持しているのかもしれない。治そうとしていること自体が悪循環になっているのかもしれない。身体や薬の影響かもしれない。そして、「自己の喪失」という視点が抜けているのかもしれません。

 行き詰まったときに必要なのは、同じ方法をもっと強く繰り返すことではなく、問題を見る位置を変えてみることです。

 

 

 →なかなか治らない(難治性、遷延性)長引く悩みの治し方については、下記をご覧ください。

 ▶「なかなか治らない(難治性、遷延性)長引く悩みの治し方」

 

 

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(参考・出典)

「こころの科学 (2014年11月号) 178号 治療のゆきづまり」(日本評論社)
青木省三、村上伸治「大人の発達障害を診るということ」(医学書院)

神田橋條治「神田橋條治医学部講義」(創元社)

神庭重信、黒木俊秀「現代うつ病の臨床」(創元社)
樋口 輝彦「難治性うつ病の臨床 -感情障害全般の治療から難治性への対処まで-(新精神科選書 3)」(診療新社)
野村 総一郎/編著「エビデンスに基づく難治性うつ病の治療」(新興医学出版社)
松下 正明/総編集「専門医のための精神科臨床リュミエール 15 難治性精神障害へのストラテジー」(中山書店)

など