ここ数十年で注目され始めた「恋愛依存症」。近年、依存症、精神障害として治療の対象とされるようになってきました。今回は、 医師の監修のもと公認心理師が、「恋愛依存症」についてまとめてみました。
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<作成日2017.4.14/最終更新日2023.2.6>
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この記事の執筆者みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師) 大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など シンクタンクの調査研究ディレクターを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら |
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この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
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管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考に記述しています。
可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・共依存と回避依存が生み出す恋愛依存のサイクル
・依存と普通の恋愛の違い
・恋愛依存症を解決するために必要な6つのこと
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共依存と回避依存が生み出す恋愛依存のサイクル
恋愛依存のサイクルとしては以下のようなものがあります。
共依存と回避依存が歯車のようにかみ合い、生み出します。
1.共依存者が回避依存者にひきつけられる、あるいは回避依存者がひきつける。
回避依存者も、共依存者の弱さに惹かれる。
2.ハネムーン期です。理想の人に出会えたとして、強い幸せや高揚感を感じる。
自己愛の傷つきが癒されたと感じます。
共依存者は相手を慕うことで、回避依存者も慕われることで高揚感を感じる。
3.徐々に、不都合なことが起き始める。
共依存者は回避依存者からの素っ気ない態度、精神的な支配、暴言暴力、金銭での要求などに振り回されます。回避依存者も共依存者の要求にうまく応えることができなくなり、次第に恐れを感じて、回避や支配の側面がより強くなります。
4.共依存者は相手に見捨てられそうな現実を否認する。
相手は本当は自分を愛してくれているというファンタジーによって見捨てられそうな現実からくる不安をごまかそうとします。あるいは周囲からのアドバイスも否定します。
回避依存者は束縛を感じて、関係を捨てようとします。
5.共依存者は相手から見捨てられたという事実を認めざるを得なくなり、禁断症状が生じます。
6.共依存者は相手を取り戻す、あるいは仕返しをする、という妄想を抱くようになります。そして実行に移します。
執拗にメールしたり、相手を誘惑したり、自殺をほのめかしたり、といったことです。ストーカーまがいの行動をとる場合もあります。回避依存者はより関係からの束縛を感じてそこから逃れようとします。
7.運よく関係が戻ると、相互の依存症はより強化されます。あるいは別のパートナーを見つけてまた依存を始めます。
依存と普通の恋愛の違い
例えば、薬物依存と違い、恋愛という行為そのものは社会的に違法ではありません。そのため、どこまでは普通の恋愛でどこまでが依存なのか、という疑問がわいてきます。恋愛ですから思いが強い分には良いじゃないか?本人の勝手ではないか?という反論も予想されます。
しかし、いくつかの点で見分けることができます。
1.本人や周囲の日常生活に支障が出ている
その恋愛行動によって本人や周囲の日常生活に支障が出ているというのが依存症かどうかを見抜くポイントです。
相手のことを考えて仕事が手につかない、深夜まで相手の世話に振り回されている、といった場合はまさにそうです。普通の方でも人を好きになり恋愛に浮かされているといった場合は急性中毒と言えます。
2.限られた関係
人はみな依存しながら人生を生きています。その点でいえばすべてが依存で成り立っています。しかし、“依存症(病的な依存)”とは、特定の限られた人やモノに頼ってしまうことを指します。例えばアルコールがないと生きられない、薬物がないと生きられない。ギャンブルを奪われたら生き甲斐がなくなる、といった場合がそうです。
恋愛も同様です。その人がいなくなったら生きられない、その人しかない、と依存する先が限られる場合も依存症と考えられます。
確かに、失恋や離別はショックです。しかし、それらは一時的なもので通常は友人や家族などたくさんの方に頼りながら、慰めてもらい、苦しいけれども別れた相手がすべてではないという健全な感覚を持つことができます。しかし、依存症の場合は、その人がいなくなったら自分は終わりだ、という極端な感覚にさいなまれています。恋愛ならそのくらいのことはよくある、と思われる方もいるかもしれませんが、実はその状態とは急性の中毒とも言えるもので、一時的な依存症ととらえることが適切です。つまり、だれでも依存症になりえるということを示しています。ただ、慢性化するほど自己愛の痛みを抱えているかどうか、ということがいわゆる恋愛依存症に陥るかどうかの分かれ道です。
3.過剰さ
度を過ぎたかかわりではないかどうか、ということも見抜くポイントです。あまりにも相手に尽くしすぎている、ひどい相手にもかかわらず我慢している、と言った場合は、依存症である可能性が高い。
4.人格の変化や問題行動
人格の変化は依存症の特徴の一つです。日常ではおとなしい人が恋愛になると過剰に活動的になったり、攻撃的になったり、社会的な問題行動を起こしたり、ウソをついたりと言った場合も依存症であると言えます。
恋愛のこじれで会社の金を横領して、逆上して傷害事件になる、というような事件が過去にありましたが、まさにそうしたことを指します。私たちが耳にする恋愛のこじれで警察沙汰にというのは、問題行動を起こしている点で立派な依存症と言えます。
5.自己愛の傷つき
自己愛が傷ついている人の持つ独特の雰囲気、弱さや敏感さ、過剰さを感じる場合も依存症を疑うことができます。
6.偽の欲求、偽の好意
アルコール依存症の人が、お酒が好きだからお酒を飲んでいるわけではないのと同様に、恋愛依存やセックス依存の方も、本当は恋愛やセックスが好きなのではなくて、そうせざるを得ない痛みを抱えているということです。
対象となる人のことも本当は好きではない、ということです。依存症のメカニズムで好きだと思わされている。意識のレベルで区別をすることは難しいのですが、周囲も本人も知識としてそのことを知るだけでも、直感的に依存かそうではないかを見分けるきっかけになります。
以上見てきたように、実は私たちも恋愛依存を経験していることはあります。ただ、急性中毒で済んでいるだけです。ですから、よくあること、自分も同様のことを経験したから依存症ではない、として軽く扱うのは間違いです。
(参考)恋愛依存は多様性がある
依存症の解決を遅らせる要因の一つとして、ケースの多様性や断続性です。
そのため、この程度なら依存症ではないと構えていると、実は取り返しがつかなくなることがあります。例えば、ずっと依存症なのではなく、時期によって違う、ある時パタッとなくなってまた再開する。程度が軽く見える、といったことです。私たちがイメージする依存症と実態とはかなり異なると思ったほうが良いと言えます。
恋愛依存症を解決するために必要な6つのこと
1.自分の状況を知る
まず、大切なのは自分がどのような状態にあるのかを知ることです。
「恋愛依存」という状態にあることを知れればいいですが依存であることを認めることが難しいことも多い。その場合は、自分がどんな恋愛のパターンに陥っているのか?いつもどんな相手に惹かれる傾向にあるのか、を知るだけでもよいです。
2.問題は、恋愛ではなく「依存」「自己愛」の問題である
“恋愛”依存ということで、恋愛のカウンセラーや相談所、友人に相談したくなるかも知れません。しかし、問題は「恋愛」ではなく「依存」そして、その背景にある「自己愛(の傷つき)」にあります。また、過去の家族との関係、満たされなかった愛情にあります。
ギャンブル依存の人が、ギャンブルの専門家ではなく依存の専門家に相談するように、恋愛依存は相談する相手も、恋愛の専門家ではなく、「依存」や「自己愛(愛着障害、トラウマ、家族問題)」の専門家のほうがより適切です。
3.健全な関係とは何かを学ぶ。~愛ではなく信頼を求める
恋愛は誰でもするのだから今の自分の状態も過剰であるが異常ではない、と考えてしまうかもしれません。また、いつも自動的に依存に陥ってしまうために、健全な関係とはどういったものかがわからないケースも多い。
簡単に言えば、長期的に見て私たちが求める健全な関係とは、燃えるような愛ではなく、穏やかな信頼です。燃えるような愛は脳内ホルモンの性質からも脱感作が起こって終息し、必ず破たんしてしまう運命にあります。一方、信頼というのは穏やかにずっと続き、しかも互いの行動の積み重ねで成熟していきます。もし、「永遠の愛」というものがあるとしたら、それは穏やかな信頼にこそあります。
恋愛ということを基準に人間関係を捉えるのではなく、信頼を基準に捉えていくことが大切です。それが健全な関係の基盤となります。
さらに、相手と自分とは違う価値観で違う人間であることを前提にして相手を理解、尊重することも大切です。同じように考え感じることは求めない。自分と同じ価値観を強要して破たんするカップル、夫婦はたくさんいます。
健全な関係とは適度な距離感と、相手のことはすべては理解できないという正しいわきまえの上に、相手の価値観の尊重、敬意、信頼を重ねていくことで成立するものです。
4.多くの人やモノとの関係を築く。大切にする
なかなか容易なことではありませんが、多くの人に依存することは依存症からの解決を助けます。もし、できるなら、多くの人と関係を築くことを意識することです。そしてたくさんの人に頼ることです。
もちろん、自己愛の傷つきを持つ人であれば、人間関係にも問題を抱えている人も多い。その場合は、自分があくせく努力することをやめてみることです。自分が抱えている問題は自分にはどうしようもないもので、何か自分を超えたものや多くの人に助けてもらうしかない、ということを知ることです。そのことを徹底したものを「底つき体験」といいます。
5.表面的な衝動(偽の欲求)ではなく、本心に意識を向ける
既に書きましたが、恋愛依存症の方は、本当に恋愛が好きというわけでも、対象となる人が好きなわけでもありません。本音では好きではないことを知っていたりします。しかし、どうしようもない衝動に突き動かされて、好きだと思わされている状態です。私たちは、錯覚された欲望に動かされることはあります。本当は食べたくないはずのものを夜中に食べて後悔したり、ということは誰にでもある経験です。自分の本心はそこにはないことを知り、表面的な衝動は偽物であることを理解することです。何度も失敗をして傷つきますが、それだけでも依存症から抜け出すきっかけになります。
6.自己愛を癒す、トラウマを解消する
依存症の問題は現在にももちろんですが、その9割は過去にあります。過去に傷ついた自己愛、愛着やトラウマに起因します。
心理学者ジョン・グレイも「私たちが異性関係の中で経験するさまざまな説明のつかない精神的混乱は、その原因の90パーセントは実を言えば自分の過去に原因がある」としています。不適切な養育環境。例えば支配的な親や、あまり構ってくれない親。夫婦げんかが絶えない状況であった、といったことはわかりやすいのですが、それほどの状況とは思えなくてもトラウマとなり、依存症を引き起こすことはよくあります。
どのようなアプローチをするにしても、自己愛、トラウマの問題を解消することは必須となります。
ただ、親との関係を見直して、良くしよう、解決しようとする必要はありません。なぜなら、他人を変えることはなかなか容易ではないからです。ひょっとしたら変わらないかもしれません。そのような難しい取り組みをする必要はありません。
むしろ必要なのは、親への執着を断つことです。親とは仲が悪くても、本当の意味での反抗期を経験しておらず自立していないことがあります。親から自立することは誰でも行っていることで冷たいことでもおかしなことでもありません。大切なのはあなたの中にあるトラウマを癒すことです。そのためには、むしろ親とは距離を取ることが必要です。トラウマを解決するためには、専門のトラウマケアを受けることをおすすめします。
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「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの原因と克服」
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(参考)
ハワード・M.ハルパーン「ラブ・アディクションと回復のレッスン 心の中の「愛への依存」を癒す」(学陽書房)
ピア・メロディ「恋愛依存症の心理分析 なぜ、つらい恋にのめり込むのか」(大和書房)
ヘレン・E・フィッシャー「愛はなぜ終わるのか 結婚・不倫・離婚の自然史」(草思社)
ラリー・ヤング「性と愛の脳科学 新たな愛の物語」(中央公論新社)
斎藤 学「アダルト・チルドレンと家族 心のなかの子どもを癒す」(学陽書房)
小谷野 敦「日本恋愛思想史 - 記紀万葉から現代まで」 (中公新書)
小谷野 敦「恋愛の超克」(角川書店)
エドワード・J・カンツィアン、マーク・J・アルバニーズ「人はなぜ依存症になるのか」(星和書店)
クレイグ・ナッケン「やめられない心」(講談社)
M・クーハー「溺れる脳」(東京化学同人)
渡辺登「依存症のすべてがわかる本」(講談社)
岡本卓、和田秀樹「依存症の科学」(化学同人)
廣中直行「依存症のすべて」(講談社)
信田さよ子「依存症」(文春新書)
斎藤学「し癖行動と家族」(有斐閣)
など