依存症の治し方~6つのポイントと療法

依存症の治し方~6つのポイントと療法

トラウマ、ストレス関連障害依存症家族の問題(機能不全家族)

 医師の監修のもと公認心理師が、依存症の治し方のポイントについてまとめてみました。

 

<作成日2019.9.25/更新日2024.1.19>

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この記事の執筆者

三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師

大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了

20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。

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この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 ・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。

 ・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。

 ・可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

もくじ

依存症の克服に必要な6つのポイント
 1.「底つき」体験
 2.「治る」ではなく「回復」
 3.一人では回復できない
 4.家族も変わる必要がある
 5.見捨てられ不安やトラウマ、ストレスなどを解消する
 6.行動習慣の形成と維持

依存症の克服、治療のための具体的な手段
 ・薬物療法
 ・精神療法
 ・自助グループ

 

 →依存症とは何か?やその他の依存症については、下記をご覧ください。

 ▶「依存症とはなにか?その種類、特徴、メカニズム

 ▶「依存症になりやすい人とはどんな人か?その原因と背景

 ▶「スマホ依存、ネット依存、ゲーム依存症の治し方~8つのポイント

 ▶「恋愛依存症とは?その原因と特徴

 ▶「ギャンブル依存症の治し方~原因など適切な知識を知る

 

専門家(公認心理師)の解説

 依存症(し癖 Addiction)は、性格や意思の強弱は基本的に関係はありません(むしろ、まじめで意志が強いからこそ依存症になるというようなこともいえるのです)。依存症は必ずと言っていいほど、背景に愛着不安やトラウマが存在しています。また、家庭の機能不全、環境が問題ということもとても多いです。背景にあるそうした問題を解決することが必要になります。

 

 

依存症の克服に必要な6つのポイント 

1.「底つき」体験

 依存症とは過剰な自己コントロールによって生じます。自分の苦痛をなんとかしようとしてもがいている状態です。依存症患者を、家族が世話することも、そのもがきに手を貸すことになります(イネーブリング)。

 「自分は依存症ではない」「自分でなんとかできるから」というのは依存症患者の口癖ですが、自己コントロールはことごとく失敗に終わってしまいます。もがいているうちは依存症から脱することはできません。自分だけでは何もできない、自己コントロールでは無理だと気づくことを「底つき」体験と言います。中空でもがいた状態から、地面に着地し、着地したことによって回復していくのです。

 自助グループで有名なAAの12ステップの中でも

  ・私たちはアルコールに対し無力であり、思い通りに生きていけなくなっていたことを認めた。
  ・自分を超えた大きな力が、私たちを健康な心に戻してくれると信じるようになった。
  ・私たちの意志と生き方を、自分なりに理解した神の配慮にゆだねる決心をした。

 とありますが、これは、自分で何とかすることをやめる「底つき」を表現しています。

 

(参考)重篤な状態にならないような最低限のケアは必要

 依存症の方のお世話をすることはイネ―ブリングとなりますが、底をつくことを過剰に求めて、重篤な状態に陥っても放置することは不適切です。さじ加減はとても難しいですが、普段は過剰な心配や世話はせず、でも遠巻きに後遺症や命にかかわる状態にならないようなケアは必要です。

 また、ケースによっては、必ずしも底つき体験を求めずに、関わり方を工夫することで治療につなげたりということもあるようです。下記にもありますが、クラフト「CRAFT(Community Reinforcement and Family Training)」といったメソッドについての書籍やセミナーなどを参考にしてみましょう。

 

 

2.「治る」ではなく「回復」

 基本的には、依存症に陥ると脳の構造が変化するため、依存物質や行為に触れても大丈夫になる、つまり「治る」ことはないとされます。

 例えば、コントロールしながら飲酒をする、ということはできなくなります。
 コントロールしようと思っても、一口飲んでしまうと止まらなくなります。
 断酒の期間が10年でも、一度触れると元に戻ってしまいます。
 依存症の治療では、依存の対象に触れない取り組みを続け、状態を「回復」させることが基本です

 

 

3.一人では回復できない

 依存症の回復には、専門家の助けだけではなく、自助グループの役割も欠かせません。依存症とは、一人で頑張って苦痛をコントロールするために依存に陥っています。自助グループでの関わりを通じて、自分を客観視し、多くの人に適切に依存していくことで、アルコールや行為への依存から回復していきます

 

 

4.家族も変わる必要がある

 依存症は家族を巻き込んだ関係性の病でもあります。患者本人を悪者にして、医者や自助グループに任せておけばOKということにはなりません。依存症によって家族の役割が崩れてしまっていたり、共依存、イネーブリングが生まれています。そうした家族の状態も回復しなければなりません。

 そのためには家族も自助グループへの参加、専門家や書籍から正しい知識を得るなどして、精神の安定を取り戻し、依存症への関わり方を変えていく必要があります。 
 家族があれこれ手を回して依存症の患者の世話をしていたことをやめた途端に、依存症が回復に向かう、ということも珍しくありません。

 また、依存症の当人が自助グループなどに参加したがらない場合も、家族が通い続けることで変化していくケースもあります。

 

 (参考)あなたは大丈夫というメッセージを伝える~「CRAFT」なども参考にする。

 依存症については「病気である」という自覚を持たせることは大事です。一方で、依存症は見捨てられ不安、居場所がないといった自己愛の傷を癒すための未熟な自己治療でもあります。「おまえは病気だ」と家族が言い募っては、余計に居場所がなくなってしまいます。そのため、症状と人格を分けることが大切です。

 つまり、「今の症状は個人の嗜好ではなく、病気だ」ということを言う一方で、「症状は病気だけど、あなた(の人格)は本当は大丈夫」「本当は、あなたはちゃんと今の状態がおかしいということがわかっているのでしょ?」というメッセージを言葉や言外に伝えることが大切です。

 二重の見当識といいますが、表面的には病識がない場合でも、内心では「今のままではまずい」と感じているものです。ただ、病人扱いされて人格を否定されたり、戻る場所がない状態では依存するモノや行為を手放すことができないでいるのです。だから、病気であることを否定するのです。

 近年は、クラフト「CRAFT(Community Reinforcement and Family Training)」という依存症患者について家族の適切な関わり方のメソッドが日本にも紹介されるようになりました。海外では約7割ケースで治療につながるなど成果が出ているそうです。書籍が出版されていたり、セミナーが開催されたりもしています。ぜひ参考になさってください。

吉田精次「アルコール・薬物・ギャンブルで悩む家族のための7つの対処法―CRAFT(クラフト) 」(アスクヒューマンケア)

 

 

5.見捨てられ不安やトラウマ、ストレスなどを解消する

 依存症の根底にあるのは、見捨てられ不安やトラウマ、過大なストレスなどです。そうしたことを放置したままだと、再発を繰り返すことになります。ストレスが大きいのであれば環境を変えることや考え方(認知)を変える取り組みをしましょう。見捨てられ不安やトラウマの解消にはカウンセラーなど専門家のサポートを受ける必要があります

 

 

6.行動習慣の形成と維持

 依存症は頭のなかだけで起きているわけではなく、行動習慣が伴っています。そのため、認知を変えるだけではなく、新しい行動習慣も形成していく必要があります。習慣形成には、状況-行動-結果が 正の方向につながり、強化されることが求めらます。 
 強化のために大切なのは、スモールステップで自発性やペースを尊重し、行動したら即座に周囲からのフィードバックを受けることが大切です。例えば、お酒を買う代わりにお菓子を買う、そうした行動をサポートする人間が称賛する、あるいは小さな報酬を与える、といったものです。

 依存症は報酬系の回路が短期化されてしまっていますから、行動習慣では徐々に長期なものへと伸ばしていきます。

 

 

 

依存症の克服、治療のための具体的な手段

<薬物療法>

 依存症は、有効な薬物療法がないとされます。脳の報酬系の異常によって生じているためです。
 
 ただ、アルコール依存とニコチン依存については、抗酒剤など、依存対象物の摂取を阻害する薬があります(アゴニスト療法)。補助的ですが、治療にはなくてはならないものです。

 

・アルコール依存症

 抗酒薬が知られています。アセトアルデヒドの分解を阻害して、大量のお酒を飲めなくするものです。体質的にお酒が飲めない状態を作りだして、飲酒の量を抑制していきます。飲酒欲求抑制剤、アカンプロサール(商品名:レグテクト)が日本でも最近、承認されました。これは、脳内のバランスを整えて、飲酒の欲求をおさえるものです。ただ、断酒していないと効果がないとされます。

 

・ニコチン依存症

 禁煙補助薬、ニコチンガムやニコパッチなどが知られています。タバコが吸いたくなったら、禁煙補助薬を使用すると、ニコチン受容体に作用して、ニコチン摂取の願望をおさえるものです。

 

・その他の依存症

 渇望抑制薬については開発が進んでいるとされます。
 (ドーパミンとノルアドレナリンをおさえるブプロピオンや、クロニジンなど)
  

 

<精神療法>

・認知行動療法

 認知行動療法とは、アーロン・ベックらによって開発された手法で、さまざまな精神障害の治療に用いられています。保険も適用される、医学的根拠もある、現代の精神療法の中心的な手法です。認知行動療法は、非合理的な認知(考え方、感じ方)をより適切なものへと修正させていくものです。欲求への対処、やめることについて、断る技術、リスクの予測などさまざまな問題を扱います。

 例えば、ギャンブル依存であれば「次で取り返せる」→「勝つことも負けることもあるから、今日はこれでやめよう」といったようにリスクの捉え方を修正していくようなことをしていきます。

 個人で行うだけでは難しいため、カウンセラーや同じ悩みを持つ者同士のグループで行うことがあります。

 

・マインドフルネス

 東洋の瞑想法を源流としており、アメリカで現代的な方法としてまとめられ、日本にも逆輸入されてきています。大企業でもパフォーマンスを上げる方法として取り入れられたり、うつ病治療などでも効果があるとされています。近年、エビデンスが上がってきている方法です。

 依存症についても、欲求などをについて感じることで欲求の背後にある思考や考え方、感覚を知り、欲求が自分本来のものではない、との気づきが生まれます。
 
 例えば食欲についても、本当に食べたくないものを無性に食べたくなることはあります。本当に食べたいのかを吟味すると、その欲求は偽物だと知り、消えていく、ということが起こります。マインドフルネスは、本当の自分の感覚に気づく事ができるようになっていきます。

 ⇒関連する記事はこちら
 ▶「マインドフルネスとは何か?~本当の定義、やり方、学び方のまとめ

 

・トラウマケア

 依存症の根本には、「居場所のなさ」や不安、またアダルトチルドレン などが指摘されています。
 原因は過去に遡るわけですが、過去のわだかまり(外傷記憶)などを解消する上ではトラウマケア(ソマティック・エクスペリエンシング・アプローチ、ハコミセラピー、トラウマ解放エクササイズ、ブレインジム、TFT、フラワーエッセンス、FAP療法、など)。も非常に効果的です。見捨てられる不安など、根底にある恐怖、不安を解消できます。

 ⇒関連する記事はこちら

 ▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状

 

・その他

 解決に向けての動悸を高める自己面接法 や メンタルコントラスティング法、コーピングスキルトレーニング 

 

 

<自助グループ>

 依存症治療では、自助グループは欠かすことができません。大きな助けとなります。

・自助グループの歴史

 さまざまな依存症の自助グループのひな形となっているのは、アルコール依存症の自助グループ、AA(アルクホリック・アノニマス)です。1935年にアメリカで、アルコール依存症にかかったビル・ウィルソンとボブ・スミスによって立ち上げられたものです。

 180カ国以上の国や地域で10万以上のグループが存在するとされます。日本でも、600以上のグループがあり、5700人近いメンバーが利用しているとされます。原則的に入会手続きや会費もなく、匿名(アノニマス)で参加することができます。

 

・さまざまな自助グループ

 AAをひな形として、薬物依存症では、NA(ナルコティクス・アノニマス)ダルク、ギャンプル依存症については、GA(ギャンブラーズ・アノニマス)、摂食障害にはOA(オーバーイーターズアノニマス)があります。また、日本発祥の自助グループとしては、断酒会があります。1887年にできた「京都反省会」から始まるものです。AAの考え方も取り入れられています。

 

・自助グループで行われていること

 自助グループでは、特別な治療を行うわけではありません。参加者が自分の体験談を話して、周囲はそれをただ聞き流すだけです。本人だけではなく、家族も参加することがあります。同じ悩みを持つ人と接したり、自分の体験を聞いてもらうことは、孤独で自分だけではどうしようもなく、物質や行為に依存してきたものが、多くの仲間や自然な治癒力といった妥当なものへの依存へと変化していく、という効果があると考えられています。

 自助グループは、医療機関である程度の治療が進んでから関わるほうが望ましいとされます。

 まずは、専門の病院に相談をしましょう。内科など一般の病院では医師が依存症にくわしくない場合がほとんどのため、かならず専門の病院(精神科)を尋ねるようにすることが大切です。

 余談ですが、内科でアルコール性肝障害や肝硬変として治療を受けている方の一定数はすでに依存症を発症していますが、通常は内科医師がアルコール依存症を診断することはありません。残念ながら内科で診療をうけながらも依存症を指摘されないことが、アルコールを飲み続ける「いいわけ」になっているケースも多く存在しています。

 

参考)「AA(アルクホリック・アノニマス)」

   →「全国断酒連盟」

   →「DA JAPAN 公式サイト」

   →「GA(ギャンブラーズ・アノニマス)」

   →「OA(オーバーイーターズアノニマス)」

   →「ダルク」

   →「NA(ナルコティクス・アノニマス)」

 

 

 →依存症とは何か?やその他の依存症については、下記をご覧ください。

 ▶「依存症とはなにか?その種類、特徴、メカニズム

 ▶「依存症になりやすい人とはどんな人か?その原因と背景

 ▶「スマホ依存、ネット依存、ゲーム依存症の治し方~8つのポイント

 ▶「恋愛依存症とは?その原因と特徴

 ▶「ギャンブル依存症の治し方~原因など適切な知識を知る

 

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(参考)

エドワード・J・カンツィアン、マーク・J・アルバニーズ「人はなぜ依存症になるのか」
クレイグ・ナッケン「やめられない心」(講談社)
M・クーハー「溺れる脳」(東京化学同人)
渡辺登「依存症のすべてがわかる本」(講談社)
岡本卓、和田秀樹「依存症の科学」(化学同人)
廣中直行「依存症のすべて」(講談社)
信田さよ子「依存症」(文春新書)
斎藤学「し癖行動と家族」(有斐閣)
斎藤学「アルコール依存症に関する12章」(有斐閣)

日本摂食障害学会「摂食障害治療ガイドライン」(医学書院)

「季刊ビィ」2015年9月号(アスク・ヒューマン・ケア)

中込和幸「難治性精神障害へのストラテジー」(中山書店)

ロバート・メイヤーズ「CRAFT依存症者家族のための対応ハンドブック」(金剛出版)

松本俊彦「薬物依存症」(ちくま新書)

吉田精次「アルコール・薬物・ギャンブルで悩む家族のための7つの対処法―CRAFT(クラフト) 」(アスクヒューマンケア)

など