医師の監修のもと公認心理師が、依存症になりやすい人とはどんな人か?その原因と背景についてまとめてみました。
<作成日2019.9.25/更新日2024.6.2>
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この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・依存症になりやすい人はどんな人か?~心理的、環境的要因
・依存症になりやすい人はどんな人か?~体質や気質
・依存症になりやすい人はどんな人か?~家族や社会的要因
→依存症とは何か?やその他の依存症については、下記をご覧ください。
▶「スマホ依存、ネット依存、ゲーム依存症の治し方~8つのポイント」
依存症でよくみられる誤解は、だらしない性格のせい、というものです。しかし、依存症は性格や意思といったことは関係ありません。私たちは誰もが依存症に陥ってしまう可能性を秘めています。どういった環境におかれれば依存症に陥ってしまうのか?個人の中に要因はあるのか?など疑問に思われるところです。他の精神障害もそうですが、依存症においても体質的な要因、心理的な要因、社会的な要因という多元的な要因が背景にあります。わかりやすくするために、「心理的、環境的要因」「体質や気質」「家族や社会的要因」と3つに分けてまとめてみました。
依存症になりやすい人はどんな人か?~心理的、環境的要因
依存症の背景には、必ずといってよいほど、愛着不安やトラウマの影響が存在します。現時点でのストレスや孤独もそうしたものに含まれます。他の精神障害の影響もその奥には愛着やトラウマ、環境の影響が考えられます。
ストレスや孤独
過大なストレスや居場所のなさ、その人では背負いきれない過大なストレスの存在が背景にはあります。どういった問題がストレスになるかについては体質や環境によっても影響を受けます。アルコール依存症の自助グループ(AA)では再飲酒をしないために避けるべき感情としてH=Hungry(飢え)、A=Angry(怒り)、L=Lonely(孤独)、T=Tired(疲労)をあげていますが、このことからもストレスや孤独の影響が強いことがうかがえます。
トラウマや愛着障害
幼いころの虐待やネグレクト、不適切な育児も依存症の要因です。「関係性のストレス」といいますが、客観的には虐待とはいえないようなささいなことでもトラウマになりえると考えられています。ラットの実験では、一定時間、母親から離された赤ちゃんラットは成人すると、アルコールなどの物質をより求めるようになることがわかっています。人間でも同様に、依存物質(行為)への依存のしやすさ(物質依存は4倍のリスクがある)やぜい弱性が高まるとされます。
愛着対象との関係がうまく行かずに、その後の人間関係などに支障をきたすことを愛着障害といいますが、依存症と愛着障害との関係も指摘されています。特に、アダルトチルドレンと呼ばれるように、依存症の親のもとで育った子どもは自らも依存症になりやすいことが知られています。
⇒参考となる記事はこちら
▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状」
▶「「愛着障害(アタッチメント障害)」とは何か?その特徴と症状」
他の精神障害の影響
うつ病、双極性障害、統合失調症、ADHDなどはアルコールやニコチンなどの物質依存のリスクが高まるとされます。統合失調症では、ヘビースモーカーが多いことやアルコールが幻覚や怒りをおさえてくれることから依存傾向の方が多いとされます。
依存症になりやすい人はどんな人か?~体質や気質
依存症に関する研究では、同じ依存物質を摂取しても依存しやすい人としにくい人がいることがわかっています。アルコールを飲む人はたくさんいますが、必ずしも依存症に陥るわけではないことが一つの例です。
遺伝的背景
依存症には、遺伝的背景があるのと考えられています。遺伝とは体質のことで、環境との相関で遺伝的要素は活性化するかどうかが決まるとされます。依存症に陥る要因の3分の1程度は、遺伝的背景によって説明できると言われています。
性格気質
衝動性が高い、感情的に怒りやすいなどの性格気質がある場合は、依存症になりやすいことがわかっています。一方、イメージに反して依存症に陥る人たちは意志が強く、頑張るタイプの人たちが多いとも言われます。本当に不真面目であれば、自分の苦しみを自分でなんとかしようとしないのですが、真面目でセルフコントロール過剰な人が、頑張ってなんとかしようとして解決手段として依存を用いている、ということがあります。
失感情言語化症(感情調整障害)などによるセルフケアの欠如
自分の感情に気づいたり、内省したり、言葉にしたりすることに困難のある人格特性をアレキシサイミアといいます。自分の感情に気づかないので適切なセルフケアができず、フラストレーションを貯めこみ、心身症になりやすいとされます。依存症においても同様で、フラストレーションを抱え込み、それを解消するためにアルコールなどを必要とするのでは、と考えられています。
依存症になりやすい人はどんな人か?~家族や社会的要因
私たちは社会的動物と言われるように環境に強く影響を受けて存在しています。イスラム圏ではアルコール依存症になることはとても難しいことですし、日本のようにコンビニで手軽にお酒を変えるような社会では他国の数倍の依存症患者がいることが知られています。また、家族関係の病として知られるように依存症は家族の影響がとても強くあります。
家族の問題としての依存(関係のし癖)
・共依存
依存症は個人の問題だけではなく”家族の病”とされます。多くの場合、家族を巻き込んで症状を形成しているからです。その際に登場するのは、「共依存」という概念です。「共依存」とは、もともとは、アルコール依存症を持つ妻と夫との関係を指す言葉でした。アルコール依存で何もできなくなった夫を支えることで、何もできない状態が継続し、依存症に手を貸している状態。夫はアルコールで万能感を得ていますが、妻は夫の世話である種の万能感を得ている、という境界不明瞭でいびつな関係です。
・イネーブリング
依存症とはその人個人で成立しているわけではなく、手を貸す家族関係によって維持されているという考え方です。依存症に手を貸すことを「イネーブリング」、手を貸す人を「イネーブラー」といいます。手を貸すというのは、アルコール依存症の人がおこした不始末の尻拭いをしたりすることはもちろん、お酒を隠したり、非難したり、といったことも、歪な共依存を生み、依存に手を貸していることになります。
・役割の逆転
ある家族が依存症になると、その患者を中心に家族全体が動くことになります。そうすると、家族本来の役割や関係性、世代境界が崩壊してしまうのです。例えば、親が依存症に陥り、衝動をおさえられずに問題を起こすと、代わりに子どもが親の役割を担って家族の世話や相談に乗るなど役割の逆転が起こります。
・秘密と制約
アルコール依存症では、親の暴言、暴力の脅威に子どもがさらされます。夫婦でのいさかいを日々見せられるようになります。飲んだくれた親が四六時中家にいることで、ずっと気兼ねしたまま生活し、子どもはそのことを秘密にするようになります。友達を家に呼ぶこともできなくなります。子どもは人間関係に制約を受けて成長することになります。
・世代連鎖
依存症の家庭では、本来親や家庭から与えられるはずの必要なものを与えられずに子どもは成長していくことになり、その悪影響は後々に現れることがあります。過剰適応や、子ども自身が成人後に依存症に陥るといったことです(世代連鎖)。家族に依存症がいると、その子も依存症になりやすいことが知られています。アルコール依存症の親を持つ子を「アダルトチルドレン(Adult Children of Alcohlics)」と呼ばれます。かつて一世を風靡した概念です。
薬物依存でも自分だけで使うことは少なく、人間関係の依存が同時に存在するケースが多いとされます。
参考)→「機能不全家族とはなにか?家族の悩みの原因と特徴」
仕事の陰画(社会のパラレルワールド)としての依存症
社会薬理学者マリー・ジャホダによって提唱された仮説で、「依存症は、仕事の陰画である(社会のパラレルワールド)」とするものです。
依存症には、「毎日のスケジュールがある」「他人との接触がある」「何かを集める」「活動的になる」「社会的地位ができる」という社会活動を構成する要素がそろっています。そのため依存症は第二の人生、パラレルワールドとして、生きがいとなり、のめり込みやすい、とする考え方です。
例えば、ギャンブルはまさにそうで、仕事のように毎日パチコン通って、客や店員などと接触があり、玉を集め、勤勉に足繁く通い、お店や仲間の中では知られる存在となります。ギャンブルでは「意思決定に参加できる」「勝利の喜びがある」など仕事の醍醐味が詰まっています。
依存物質(行為)へのアクセシビリティ
依存物質(行為)が簡単に手に入るかどうかは依存症への陥りやすさに影響します。例えば、日本では他の先進国と比べてギャンブル依存症が多く、薬物依存症が少ないことはそれらへのアクセスの容易さを反映していると考えられます。当たり前ともいえますが、依存物質や行為が手に入らなければ依存には陥りません。
近代に特有の病としての依存
依存症の遠因として、近代、現代社会の構造があります。
<日常と非日常の曖昧さ>
かつては、日常と非日常は明確に分かれていました。お酒や幻覚を生む薬物を用いるのは年に数回ある特別な祝祭の時だけでした。ギャンブルも「運」という神にしか操れないものに触れることができる非日常のものでした。多くの社会で賭博は違法とされてきました。酩酊や幻覚を生む物質は稀少で手にはらなかったこともあります。しかし、近代に入り祝祭空間を失い、日常と非日常が曖昧になり、アルコールは大量生産されるようになり、冷蔵庫などが普及してお酒が常に家にあるものとなりました。また、射幸心をあおる娯楽は大衆化し、快楽を生む刺激が身近となりました。
<個人に振りかかる過大な責任>
農業など共同体全体で行っていた労働も、資本主義が広まり、工場労働や賃金労働など個人として関わり、個人として責任を求められるようになります。人間とは環境や関係性によって成り立つ存在で、身に起こる多くのことは個人ではどうしようもないものです。しかし、近代に入り、個人の責任が強調されることによって、個人ではどうしようもないことまで個人の責任の範疇として捉えられるようになります。事実、アルコール依存に陥る人は、真面目で勤勉な人が多いとされています。個人に振りかかる過大なストレスを紛らわせて近代的個人として生きるために、アルコールなどへの依存が必要になる、ということも考えられます。
→依存症とは何か?やその他の依存症については、下記をご覧ください。
▶「スマホ依存、ネット依存、ゲーム依存症の治し方~8つのポイント」
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(参考・出典)
エドワード・J・カンツィアン、マーク・J・アルバニーズ「人はなぜ依存症になるのか」
クレイグ・ナッケン「やめられない心」(講談社)
M・クーハー「溺れる脳」(東京化学同人)
渡辺登「依存症のすべてがわかる本」(講談社)
岡本卓、和田秀樹「依存症の科学」(化学同人)
廣中直行「依存症のすべて」(講談社)
信田さよ子「依存症」(文春新書)
斎藤学「し癖行動と家族」(有斐閣)
斎藤学「アルコール依存症に関する12章」(有斐閣)
ロバート・メイヤーズ「CRAFT依存症者家族のための対応ハンドブック」(金剛出版)
吉田精次「アルコール・薬物・ギャンブルで悩む家族のための7つの対処法―CRAFT(クラフト) 」(アスクヒューマンケア)
など