今回は、医師の監修のもと公認心理師が、パーソナリティ障害(症)についてその原因と特徴についてまとめてみました。よろしければご覧ください。
<作成日2016.6.12/最終更新日2026.9.20>
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この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍(累計約4万部)、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
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この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・はじめに~パーソナリティ障害(症)を正しく理解する
・パーソナリティ障害(症)とは何か?
・パーソナリティ障害(症)の原因
・パーソナリティ障害を理解する心理学的な特徴
・パーソナリティ障害(症)の10のタイプ(種類)の特徴
→パーソナリティ障害(症)の種類と特徴、接し方、治し方については、下記をご覧ください。
▶「パーソナリティ障害(症)の10種類の特徴、症状を公認心理師が解説」
▶「パーソナリティ障害(症)の治し方~主な治療方法とセルフケアのポイント」
▶「パーソナリティ障害(症)の接し方、関わり方~基本原則と10種類別に解説」
▶「境界性パーソナリティ障害(症)とは何か?原因と特徴、チェック」
臨床では、当センターでは、パーソナリティ障害という見立てをすることはほぼありません。愛着、発達、自己愛、現在の環境などを含めて状態を理解することを重視しています。パーソナリティ障害という言葉、概念自体にはどうしても蔑視的な意味もつきまとうことや、愛着や発達など別の概念のほうが臨床において有用だからです。また、パーソナリティ障害という見立てがケア、治療にもつなげにくいということもあります。パーソナリティ障害は、人間の複雑な状態を理解し、治療や研究に役立てるためにつくられた臨床上の分類概念です。固定された『人格の実体』を表すものではありません。経験を持つ治療者であれば同様の所感を持っているのではないかと思います。
ただ、自己愛の形成のメカニズムといったコフートの知見などは非常に役に立ちます。あるいは、「自己愛的である」とか、あまりにも不安定であるケースの状態像を表現するために「境界性パーソナリティ状態」というようにパーソナリティ障害概念から部分的に特徴や情報を援用するケースはあります。皆様がご自身でパーソナリティ障害という概念を役立てる際も、その成り立ちや意味合いもよく理解したうえで用いる必要があります。
はじめに~パーソナリティ障害(症)を正しく理解する
パーソナリティ障害は、現在のDSM-5-TRやICD-11では精神障害の一群として位置づけられています。一方、うつ病などのように一定期間に症状が現れる病気とは異なり、考え方、感情、対人関係、行動などに長く続くパターンとして現れる点に特徴があります。歴史的には、一般的な精神疾患とは異なる「人格・パーソナリティのあり方」をどう捉えるかという議論が続いてきました。一方、現在も、固定的な病型としてだけでなく、パーソナリティ機能の程度や特性を連続的に捉える方向へ分類は変化しています。
パーソナリティ障害はまずそうしたことを理解したうえで用いる必要があります。理解するための前提として大切なことをまとめてみました。
・歴史的には、パーソナリティをどう医学的に捉えるか議論されてきた
・もともとは精神医学の守備範囲外だった
現在は精神障害として分類されているが、歴史的には、人格や性格のあり方を医学の対象としてどこまで扱うかについて長く議論が続いてきました。
心の不調には大きく2系統あるとされます。
1つ目の系統は、いわゆる精神疾患や精神障害
2つ目の系統は、パーソナリティのゆがみ
これらはそれぞれ別の系統のものでした。
精神医学や臨床心理学は、1つ目の系統、つまり精神疾患や精神障害を扱うものとされてきました。
パーソナリティの特性はあくまで精神障害の背景を深く理解するために参照されてきました。パーソナリティのゆがみをケアすることは、どちらかといえば守備範囲を超えるものと考えられてきました。
次項にも書きますが、うつ病などを医学の対象とすることに異論はありませんが、「パーソナリティ」を何の疑問もなく同じように医学の対象とすることについては、さすがに違和感を感じる人が多いことも事実なのです。
・固定的な「タイプ」だけで捉えない方向へ
従来のタイプ分類には、複数タイプが重なりやすい、境界が明確でないといった課題が指摘されてきました。ICD-11では、固定的なタイプだけでなく、パーソナリティ機能の障害の程度と特性を連続的に捉える方式が採用されています。従来の10類型には、病型間の重なりが大きいことや、一人の人が複数の診断基準を満たしやすいことなどが課題として指摘されてきました。こうした問題を背景に、ICD-11では次元的な分類が採用されています。
パーソナリティ障害という概念は、固定されたラベルではありません。いわゆるレッテルとして暗に攻撃の道具になったり、悩みを持つ当事者の姿が見えなくなることは本末転倒です。そのことは、肝に銘じておく必要があります。
・パーソナリティ障害(症)という概念に違和感を感じている臨床家は少なくない
・”パーソナリティ障害”への違和感
「ボーダーなんて存在しないとおもうけどなあ」
※ボーダーとは、境界性パーソナリティ障害や境界例のことを指します。
これは、学会で東京大学のある先生がシンポジウムでおっしゃった発言です。
川崎医科大の青木省三教授も「私は、パーソナリティ障害という言葉をできる限り用いないようにしている」と著書で記しています(青木省三「大人の発達障害を診るということ」(医学書院))。
パーソナリティ障害という概念を用いることについては、違和感を感じていたり、慎重な臨床家は少なくありません。違和感を感じることについては、さまざまな理由があるようです。
代表的なものとして以下のことがあります。
・パーソナリティの問題を精神障害などと同列に用いることへの違和感
・「パーソナリティ障害」「ボーダー」という言葉が「厄介な患者」から臨床家が身を守るために都合よく用いられているのではないか、という違和感
・パーソナリティ障害よりも別の精神障害としてとらえたほうが適切なのではないか、という実感
など
・似た症状を示す他の状態との鑑別が重要
パーソナリティ障害と似た状態を示す精神疾患や発達特性もあるため、診断では経過や発達歴、他の症状を含めた鑑別が重要です。
パーソナリティ障害とは、もともと精神病とまでは言えないようなグレーな症状、「境界例」とされていたものにパーソナリティという考え方を援用してカテゴリーを与えたものです。
もともとは、診断に収まりきらない症候群だったものですから、診断の精度や知見が高まれば見え方は変わり、なんらかの精神障害とすることが適切な場合もあります。
例えば、精神科医の神田橋條治氏は、下記のように述べています。
「最近のボクは「境界例」というラベルを使わなくなった。これまでの「厄介な人々」を、「発達障害」「軽症の双極性障害」「医原症」あるいはその3つの混合状態と診断するようになった。(中略) これで診療がしやすくなっている。」(神田橋條治「神田橋條治 医学部講義」(創元社))
パーソナリティ障害は、DSMでも認知、感情性、対人関係機能、衝動の抑制 に症状が現れるものとされていますが、パーソナリティそのものがゆがんでいるというのはあくまで推測です。
そうした複数にまたがる問題がパーソナリティのゆがみによるものであるということは仮説で、見方を変えれば、結局は従来の精神障害にまつわる症候群であることも考えられるのです。
・”環境”、”愛着”、”発達(成熟)”という視点
パーソナリティの形成を考えるうえで、「生育環境」「愛着」や「発達」という視点は重要です。幼少期からの対人関係、愛着の不安定さ、虐待やネグレクトなどの逆境体験は、その後の自己感覚、感情調整、他者との関係の築き方に大きな影響を与えます。パーソナリティ障害、とくに境界性パーソナリティ障害などでは、幼少期逆境との関連が多くの研究で示されています。
当センターでも、その人がどのような環境で育ち、どのように自己や他者との関係を築いてきたのかという経過を重視しています。
また、ASDやADHDなどの発達特性でも、対人関係の難しさ、感情調整の困難、こだわり、衝動性などがみられることがあります。そのため、表面的な行動だけを見ると、パーソナリティ障害と発達障害が似て見えることがあります。実際、両者では一部の特徴が重なり、併存する場合もあります。
しかし、「意図的に相手を振り回しているかどうか」だけで両者を区別することはできません。 発達障害では幼少期からみられる社会的コミュニケーションや行動の特徴が重要であり、パーソナリティ障害では、自己像や自己評価、対人関係のあり方、感情や行動の調整などに比較的持続的な困難がみられます。鑑別には、現在の行動だけではなく、幼少期からの発達歴、症状がいつからどのように現れてきたか、どのような場面で困難が生じるかを丁寧にみる必要があります。
愛着の不安定さや対人関係での傷つきは、自己評価の不安定さ、見捨てられ不安、感情調整の難しさ、対人関係の大きな揺れなどの形成に重要な影響を与えます。愛着、発達特性、トラウマ、パーソナリティの問題は実際の臨床では複雑に重なり合いながら現れるため、その人がどのような経過をたどって現在の状態に至ったのかを理解することが重要です。
▶「「愛着障害(アタッチメント障害)」とは何か?その特徴と症状」
▶「大人の発達障害、ASD(アスペルガー症候群)とは何か?公認心理師が詳しく解説」
・パーソナリティ障害(症)の概念はうまく用いれば強力な道具になる
慎重な捉え方をご紹介してきましたが、一方で、その成り立ちを理解したうえで活用するのであれば、パーソナリティ障害は、非常に使える概念でもあります。
私たちの悩みというのは、教科書的な精神障害のカテゴリーではおさまらないものであることが多いのです。
パーソナリティ障害という概念があるおかげで、これまで治療の対象とされてこなかった多くの問題が治療の対象となってきました。
枠組みを与えられることで曖昧模糊としていた問題をとらえやすくなったり、対人関係において他者を理解しやすくなりました。世の中には、さまざまなタイプの人がいますが、パーソナリティの違いを理解していれば、誤解によって傷つくこともなくなります。
上手に活用すれば、悩みから自由になるための強力な道具となります。
具体的にパーソナリティ障害とは何か、を見ていきたいと思います。
パーソナリティ障害(症)とは何か?
・パーソナリティ障害(症)の定義
パーソナリティ障害とは、考え方、感情のあり方、対人関係、行動などに長く続く柔軟性の乏しいパターンがあり、そのために本人が強い苦痛を感じたり、仕事や人間関係などの日常生活に支障が生じている状態です。これは『人格が悪い』『性格が壊れている』という意味ではありません。正常、異常の線引きは明確なものはなく、当人や周囲が不都合を感じているか否かということです。
・現在は「何型か」だけでなく、程度と特性で捉える
ICD-11では、パーソナリティ障害を従来のように「境界性」「自己愛性」などのタイプだけで分けるのではなく、まずパーソナリティ機能の障害がどの程度あるかを、軽度・中等度・重度という重症度で捉えます。 そのうえで、否定的感情、離隔、非社会性、脱抑制、制縛性といった特性がどの程度みられるかを組み合わせて、その人の状態を理解します。
つまり、現在は「この人は○○型の人だ」と固定的に分類するよりも、どの程度生活や対人関係に困難が生じているのか、どのような特性が強く表れているのかを連続的に捉える方向へ変化しています。 この考え方は、パーソナリティ障害を「人格そのものの異常」と見るのではなく、その人に生じている困難や特徴を具体的に理解するうえでも重要です。
・パーソナリティとは
単なる性格というよりは、情緒や行動などその人のふるまい全体を指します。
「人格」という言葉は日本では道徳や良心なども含んだニュアンスとなり、「人格障害」というと人格が破たんした危険な人物との誤解を招きやすいために、最近は人格とパーソナリティとは区別して用いられています。通常は「パーソナリティ障害」と呼ばれます。
・パーソナリティ障害(症)とは”状態像”である
パーソナリティ障害とは、「パーソナリティ」と名前が付くために大変に紛らわしいのですが、社会的に「パーソナリティ」とみなされる要素が失調している状態であり、人格そのものが損なわれているわけではありません。
感情、対人関係、社会行動などのパターンに偏りが生じて、社会生活に支障が出ている状態です。人格そのものが損なわれているわけではなく、感情、対人関係、社会行動などに比較的長く続くパターンとして現れます。一方、その程度や表れ方は環境やライフステージ、治療によって変化し得ます。
・データで見る「パーソナリティ障害(症)」
DSM-5-TRでは、米国を含む複数の国の疫学研究をまとめると、何らかのパーソナリティ症の有病率の中央値は10.5%とされています。これは、およそ10人に1人が、いずれかのパーソナリティ症に該当する割合です。
病型を三つの群に分けると、猜疑性やシゾイドなどのA群は3.6%、ボーダーラインや反社会性などのB群は4.5%、回避性や依存性などのC群は2.8%でした。ただし、複数の病型を併せもつ人がいるため、これらの数字を単純に合計することはできません。また、有病率は国や民族、診断方法によって異なるとされています。
日本では、一般人口を対象に、診断面接によってパーソナリティ障害全体の有病率を調べた新しい全国規模の疫学調査は確認されておらず、正確な割合は明らかになっていません。
パーソナリティ障害(症)の原因
パーソナリティの形成には、生まれ持った気質や遺伝的特徴に加えて、幼少期からの養育環境、愛着、虐待・ネグレクトなどの逆境体験、対人関係、社会環境などが影響します。とくに、幼少期の逆境体験やマルトリートメントとパーソナリティ障害との関連は、多くの研究で示されています。
・遺伝的、気質的要因
パーソナリティの形成には、遺伝的な特徴や生まれ持った気質が関係します。ただし、それだけでパーソナリティ障害が決まるわけではなく、生育環境や対人経験、社会環境など複数の要因が相互に関係すると考えられています。
・養育環境
幼少期の養育環境や対人経験は、パーソナリティの形成に大きな影響を与えます。とくに、虐待、ネグレクト、心理的虐待、情緒的な無応答、家庭内の慢性的な葛藤などのマルトリートメントや逆境体験と、その後のパーソナリティ障害との関連は多くの研究で示されています。
子どもは、養育者との関係を通して、安心感、自己評価、感情の調整、他者への信頼、対人関係のあり方などを形成していきます。安心できない関係や慢性的な傷つきを経験すると、その影響が成人後の自己感覚や対人関係にも及ぶことがあります。
こうした成育歴にまつわる傷つきや葛藤が現在も影響している場合には、その影響を理解し、トラウマケアなどを通じて整理していくことが大切です。
・現在の環境(不遇な状況、急激な変化)
過去の状況だけではなく、強いストレスや環境の急激な変化によって、それまで目立たなかったパーソナリティ上の困難が顕在化したり、症状が強まったりすることがあります。
・時代背景
時代背景もパーソナリティ障害の要因です。社会や文化によって、どのようなパーソナリティ特性が問題として目立つかは変わります。当センターでは、パーソナリティ障害を個人だけの問題ではなく、社会や文化との関係から見ることも重要だと考えています。
パーソナリティ障害(症)の形成メカニズム
パーソナリティ障害を理解する心理学的モデルとして、自己愛や対象関係の発達から捉える精神分析・対象関係論があります。ここでは、コフート、マーラー、クライン、バリントなどの理論をもとに、自己感覚や対人関係がどのように形成されていくのかを見ていきます。
・自己愛の形成
幼少期には、養育者との安定した関係を通して、安心感や自己感覚の基盤が形成されていきます。幼少期には、養育者との安定した関係を通して、安心感や自己感覚の基盤が形成されていきます。養育者との関係の安定性は、その後の愛着、自己感覚、感情調整、対人関係の形成に大きな影響を与えます。精神分析家バリントは、早期の対人関係に由来する根本的な欠落感を『基底欠損』という概念で捉えました。これは現在の医学的診断名ではなく、愛着障害と同じ概念でもありませんが、当センターでは慢性的な不全感を理解する一つの臨床的枠組みとして参考にしています。
1歳半から3歳ごろになると、それまでの母子一体となっている状態から母子が分離していく状態になります。その期間のことを、分離‐個体化期と呼びます。
・対象恒常性の獲得
精神分析・対象関係論では、分離―個体化期で重要なことの一つは「対象恒常性の獲得」と考えます。自己愛の発達の過程では、愛着の対象が安定していることが重要とされます。一貫したものとして対象が安定していると「対象恒常性」が身につきます。つまり、目の前にいるお母さんが自分の欲求を満たしてくれる時は「良い母親」、満たしてくれない時は「悪い母親」と別のものとして認識されるのではなく、状態は変わっても同じ一人の母親であるとして認識することです。
・「全体対象関係」と「部分対象関係」
その対象を「一貫した一人の存在」として理解できることを、クラインは「全体対象関係」と呼びました。愛着の対象が情緒的で不安定であったり、愛情の満たされ方や母子の分離が不適切だと、対象のある一面を別々のものとして認識する「部分対象関係」のままにとどまってしまいます。
対象恒常性が身につくと、場面が違っても対象のいろいろな面を統合してバランスをもって認識できるようになります(全体対象関係)。一方、部分対象関係の場合、自分にとって都合のよい時は「良い人」「味方」、そうではければ「悪い人」「敵」というような二分法的で、極端な認識となります。
境界性パーソナリティ障害でみられる自己・他者評価の大きな揺れを理解する際、対象関係論ではこうしたメカニズムから説明することがあります。
・「誇大化した自己」「親のイマーゴ(理想像)」
分離―個体化期でもう一つ大切なのは、自己愛の中間段階である「誇大化した自己」「親のイマーゴ(理想像)」が適度に満たされることです。この時期の子どもは、誇大化した自己のイメージと万能感、親については全能の理想的な存在と感じている段階です。
・自己や理想像が等身大のサイズに
子どもは絶えず自己顕示と親からの承認を必要とします。承認欲求や理想像としての役割が適切に満たされると、次の段階では、自分は万能ではないと知りながらも自尊心をもって自分を大切にできたり、親も等身大の人間なのだと知ることで、他者への共感や思いやりの気持ちを獲得していきます。
親からの承認や理想像としての役割が不十分だと、「誇大化した自己」「親のイマーゴ」の未熟な段階でとどまり続けます。自己愛性パーソナリティ障害などで、他者からの称賛が得られないと怒りを感じたり、ひどく落ち込んだりすることはこうしたことから説明できると考えられています。
・自己愛の発達という視点
精神力動的な立場では、パーソナリティ障害の一部を、自己愛や自己感覚の発達の問題から理解する考え方があります。パーソナリティ障害でみられる数々のアンバランスさや問題行動は未熟な自己愛からくる生きづらさを補い、社会に適応するための代替の方略と言えます。
当センターでも、自己評価の不安定さや他者からの評価への過敏さなどを理解する際に、この視点を参考にしています。
パーソナリティ障害を理解する心理学的な特徴
以下は精神分析・対象関係論などで、パーソナリティの不安定さを理解するために用いられてきた概念です。人によって当てはまる程度や組み合わせは異なります。
・退行
強いストレスや不安のもとで、より原始的・単純化された対処の仕方が表れやすくなることを、精神分析では『退行』と呼びます。
・部分対象関係
その人全体で評価するのではなく、その場その場、部分部分でしか評価しない傾向が強くあります。そのため、いつも極端に評価が揺れ動きます。他者だけではなく、自分に対しても評価が極端になります。スプリット(分裂)と言いますが、「全か無か」「敵か味方か」「称賛か、批判か」といった極端な捉え方が特徴です。
全体を見ていれば良いところもあれば悪いところもある、といったほどほどの評価ができるが、それができません。赤ん坊のころに、「お乳が出るときは、良い乳房」「お乳が出ないときは、悪い乳房」といったように、継続した同じものと見ずに目の前の部分対象で評価していた段階を引きずっているとされます。
・妄想・分裂ポジション
対象関係論では、不安が強いときに相手を『敵か味方か』と極端に捉えたり、被害的に解釈したりする状態を『妄想・分裂ポジション』という概念で説明することがあります。
・躁的防衛
精神力動的には、強い劣等感や自己否定から自分を守るために、誇大的になったり、相手を低く評価したりする反応を『躁的防衛』として理解することがあります。自信と劣等感、強い自己否定感が同居してかろうじてバランスをとっている状態です。そのため、ちょっとしたことがあるとすぐに落ち込んでしまいます。そうした状態に陥ることを避けるために、相手を責めたり、見下したり、支配したり、尊大になったりします。いわゆる躁的防衛と呼ばれるものです。躁的防衛で自らを守っていますが、躁的防衛が崩れると極端に落ち込むようになります。
・境界性パーソナリティ構造という考え方
これはすべてのパーソナリティ障害に共通するものではなく、主に精神力動的理論で用いられる概念です
パーソナリティ障害状態の方は、自他の境界があいまいなために、自分の立場と相手の立場をしばしば混同します。相手が自分の思い通りになると考えたり、自分と同じように自分のことを考えているように感じてしまいます。
境界性人格構造という名称は、自他の境界が失われた統合失調症性人格構造と自他の別はある神経症性人格構造との境界(中間)という意味です。
・自己愛障害
コフートなどの自己心理学では、一部のパーソナリティ上の困難を、安定した自己評価や自己愛の形成という観点から理解します。自己評価が不安定な場合、他者からの称賛に強く依存したり、逆に強い自己否定に傾いたりすることがあります。
上記のメカニズムで書きましたが、精神科医のコフートによると自己愛は、万能感を抱いている「誇大自己」の段階と、親を神のように理想化して、自己と一体化する「理想化された親のイマーゴ」の段階を経て、成熟した自己を育んでいきます。
しかし、パーソナリティ障害の場合は、自己愛が適切に満たされず、自己の発達がうまく行かないまま成長するため、自己愛が歪になってしまっています。そのため、過度に自信家になり、ごう慢になったり、逆に自己否定的になったりします。
パーソナリティ障害(症)の10タイプ(種類)と特徴
パーソナリティ障害(症)の10のタイプ(種類)についてお知りになりたい方はこちらをご覧ください。
▶「パーソナリティ障害(症)の10種類の特徴、症状を公認心理師が解説」
→パーソナリティ障害の種類と特徴、接し方、治し方については、下記をご覧ください。
▶「パーソナリティ障害(症)の10種類の特徴、症状を公認心理師が解説」
▶「パーソナリティ障害(症)の治し方~主な治療方法とセルフケアのポイント」
▶「パーソナリティ障害(症)の接し方、関わり方~基本原則と10種類別に解説」
▶「境界性パーソナリティ障害(症)とは何か?原因と特徴、チェック」
※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。
(参考・出典)
青木省三「精神科治療の進め方」(日本評論社)
青木省三「大人の発達障害を診るということ」(医学書院)
林直樹 編「こころの科学vol.185 パーソナリティ障害の現実」(日本評論社)
林直樹 編「こころの科学vol.154 境界性パーソナリティ障害」(日本評論社)
林直樹「パーソナリティ障害」(新興医学出版社)
市橋秀夫「パーソナリティ障害のことがよくわかる本」(講談社)
磯部潮「人格障害かもしれない」(光文社)
岡田尊司「ササっとわかるパーソナリティ障害」(講談社)
岡田尊司「パーソナリティ障害」(PHP)
岡田尊司「ササっとわかる「境界性パーソナリティ障害」」(講談社)
牛島定信「やさしくわかるパーソナリティ障害」(ナツメ社)
高岡健「人格障害のカルテ 理論編」(批評社)
高岡健「人格障害論の虚像」(雲母書房)
大泉実成「人格障害をめぐる冒険」(草思社)
笠原嘉「精神病」(岩波書店)
ジョエル・パリス「境界性パーソナリティ障害の治療」(金剛出版)
など
















