「買い物依存症」は一般に使われる呼び方で、現在のDSM-5-TRでは独立した正式診断名ではありません。ICD-11では、強迫的な買い物・ショッピングの問題が「その他の特定される衝動制御症」の一例として位置づけられています。研究上は、行動嗜癖として捉える議論もあります。本記事では、一般に「買い物依存症」と呼ばれる状態について医師の監修のもと公認心理師が、解説します。
<作成日2017.12.30/最終更新日2026.9.28>
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この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍(累計約4万部)、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
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この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・はじめに~買い物依存症を治す(克服する)ために
1.買い物依存症の原因(背景)を知る
2.買い物依存症の心理とメカニズムを知る
3.私たちにとって、「買い物(消費)」とは何か?
4.買い物依存症の症状と特徴を知る
5.買い物依存症を治すために必要なことを知る
→依存症の原因や治し方については、下記をご覧ください。
買い物依存の背景には、強いストレスや感情調整の難しさ、自己評価の傷つき、愛着不安やトラウマなどが深く関わっています。当センターでは、とくに、買い物によってどのような苦痛や不安を和らげようとしているのかを重要な視点として捉えています。依存行動には、つらさや不安、むなしさなどを一時的に和らげる「自己治療」としての側面があります。当センターでは、十分な対処手段や頼れる人が少ない中で、買い物によって苦痛を何とか調整しようとしている状態を「未熟な自己治療」として理解しています。
単なる浪費や使いすぎといったレベルから借金を背負うところまで程度は様々ですが、買い物依存でお悩みの方はとても多くいらっしゃいます。買い物の場合は、単に消費する刺激だけではなく、服や車や宝飾品などは自分のステータスや自己肯定感を補強するという意味があります。買い物依存症を治すためには、原因など適切な知識を知ることもとても大切です。
はじめに~買い物依存症を治す(克服する)ために
買い物依存症を治す、克服するためには、必要な治療を受けるだけではなく、どういった背景から問題が生じているのか?その原因やメカニズムを知る必要があります。
知識があることで無用な自己否定や自尊心の低下を防ぐことができたり、踏みとどまれる機会が増えるなどの効果があります。そのため、この記事では、単に治療法というだけではなく背景などの情報も合わせて提供しています。
1.買い物依存症の原因(背景)を知る
依存症とは、単一の原因で起こるわけではなく、複数の要因が重なって生じます。
その要因として考えられるものをまとめています。
・養育環境の影響~トラウマや愛着障害
買い物依存の背景には、生育環境やこれまでの対人経験が深く関わります。養育者との関係は愛着や自己感覚、感情調整の基盤を形づくります。幼少期に安心できる関係を持ちにくかったり、虐待やネグレクト、慢性的なストレスにさらされたりすると、その影響が自己評価や感情調整、対人関係に残り、買い物によって苦痛を和らげようとする背景になります。当センターでは、こうした愛着の不安定さやトラウマを、買い物依存を理解する重要な視点としています。
トラウマや愛着の問題を抱えていると、自己愛が傷ついた状態となり、常に不安やむなしさを感じます。また対人関係がうまくいかないことが多く、依存症に陥りやすくなります。
→参考となる記事はこちらをご覧ください。
▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因とそのしくみ」
▶「「愛着障害(アタッチメント障害)」とは何か?その特徴と症状」
・過度なストレスや居場所の喪失
職場や家庭での強いストレスや、自分の居場所を失った感覚は、買い物依存を強める重要な背景になります。買い物によってストレスを解消し、自分の居場所を回復しようとするのです。
・性格気質(“意志が弱い”ために依存になるのではない)
買い物依存は単純に「意志が弱い」ことで起こるものではありません。衝動性、ストレスへの対処、感情調整、自己評価、習慣化など複数の要因が関係します。真面目で頑張りすぎる人や、人に頼ることが苦手な人が買い物に頼ってしまうケースもあります。さらに、依存症自体は脳の報酬系の失調によって習慣化されますので、意志の問題に関係なく陥る病気です。
・消費社会の影響
社会的環境も影響を及ぼします。現代では消費を誘う広告や、カードなど支払より先に欲望を満たす手段も多く、買い物依存症を生みやすい土壌があります。クレジットカード、オンラインショッピング、SNS広告、後払い決済など、購入を容易にする社会環境は、問題行動を増幅させる要因となり得ます。
・データから見る「買い物依存症」
2016年に公表された国際的なメタ分析では、米国を含む複数の国の代表的な成人調査を統合した強迫的購買の有病率は4.9%でした。これは、およそ20人に1人に相当します。日本では、厚生労働省、国立精神・神経医療研究センター、大学などによる、一般人口を対象とした買い物依存単独の全国有病率調査は確認されておらず、正確な割合は明らかになっていません。
2.買い物依存症の心理とメカニズムを知る
・脳の報酬系の失調
買い物依存症とは、依存症の一種です。買い物依存は、行動への依存という観点から「プロセス依存」「行動嗜癖」として説明されることがあります。プロセス依存とは、特定の行動を行うことで脳内で快感をもたらし、生きづらさやストレスなどの苦痛を緩和することです。
買い物依存では、買い物に伴う報酬や期待、衝動の抑制、感情調整などに関わる心理・神経学的な仕組みが関係すると考えられています。
私たちは、子どもの頃は我慢ができず、目の前のお菓子と少し先のご褒美をてんびんにかけても、我慢ができません。わかっていても目の前のお菓子をとることも多いのです。
これは脳がまだ成熟しておらず、報酬系が短期のサイクルで回っているために起きる行動です。子どもから大人になるにつれて、長期の成果を得るまで我慢をしながら行動をすることを身に着けていきます。
依存症はこれらを逆に回してしまいます。買い物からの快感といった強い刺激が短期で与えられることで、長期の報酬を我慢するということが利かなくなり、徐々にサイクルが短くなり、依存状態へと陥ってしまうのです。
・未熟な自己治療~乏しいネットワークの結果としての買い物依存
依存症には、自らが抱える苦痛を目の前にあるつたない手段で解消しようという「未熟な自己治療」という側面があります(「自己治療仮説」)。
人間は強いストレスを被った際、本来はうまくストレスをそらしたり、緩やかに他者に頼りながら解消していきます。しかし、依存症に陥る人は、ネットワークが乏しく、頼る先が自分や目の前の「買い物」しかありません。
緩やかにいろいろなものに頼ってして、場合によっては環境を変えてという普通のスタイルをとることができず、一人で何とかしようと工夫(治療)する果てに、にっちもさっちもいかなくなる、というのが買い物依存症という症状なのです。
・ストレス解消の手段としての消費
自分へのご褒美という口実で、高価な品物にお金を使ってストレスを発散する、という行為をよく耳にします。ストレスの高い職についている人に多く見られます。お酒で発散するといったことと同様に、適度であれば問題とはなりません。
単なる一時的なストレス買いと、問題となる買い物行動を区別する際には、買い物をコントロールできるか、経済・仕事・人間関係に支障が出ているか、問題が生じても繰り返してしまうか、といった点が重要です。依存症の場合は、常に漠然とした苦痛があるために、買い物依存はなくならず、経済的に困窮するまで続きます。
3.私たちにとって、「買い物(消費)」とは何か?を知る
普段、私たちは、スーパーやコンビニ、インターネットなどで買い物をしています。
生活必需品もあれば、おしゃれ、ぜいたく品、スポーツ、旅行などレジャーまで「買い物(消費)」の内容、手段、目的は本当に多様なものです。
・「買い物(消費)」とは自己表現
「買い物(消費)」については、経済学、経営学から社会学、心理学までさまざまな視点での研究があります。消費とは、単に、モノとお金を交換して物質的な不足を満たすことではありません。私たちにとって消費とは、自己の顕示・自己表現であり、身体の拡張や変化であり、それ自体快楽でもあります。
生活必需品であっても、例えばお米でも、よいブランドのものを買うと心地よかったり、社会的なステータスを感じます。逆に、あまりにも安いと貧しさから少し胸が痛むこともあるかもしれません。単におなかが膨れれば良いというものではありません。
洋服などは典型的ですが、おしゃれな服を買うと、途端に自分が何か別のものになったような大きくなったような感覚を感じることがあります。洋服自体が身体が拡張した存在のように感じられます。自分自身の価値そのものが高まったように感じるのです。
・心の悩みは「買い物(消費)」に現れやすい
このように、買い物(消費)とは私たちの自己そのものに密接にかかわる行為です。そのため、消費が自己表現やステータスと強く結びつく社会では、買い物が自己評価を補う手段になりやすい側面があります。当センターでは、こうした社会的背景も買い物依存を理解する一つの視点と考えています。

4.買い物依存症の症状と特徴を知る
・繰り返される買い物による借金
買い物をして一時的に楽になっても、いずれ再び不快感が襲ってくるために、さらに対処行動としての買い物が繰り返されます。そして、自分の経済的な限界を超えて買い物を行ってしまい、カード、キャッシングなどで借金を抱えてしまいます。
・否認(病識の欠如)
依存症の特徴として、問題の程度を小さく見積もったり、買い物の理由を正当化したりすることがあります。背景には羞恥や自己評価の低下への恐れが関係する場合もあります。
・症状の多様さと症状の波
依存症は典型的な症状ばかりではなく、ケースによってその在り方はさまざまです。
ある時はぴたりとやめたり、症状に波があったり、といったこともあります。
典型的な症状ではないから大丈夫と思っていたら、実は依存症だったという場合もあり、注意が必要です。
・他の依存症との併存(クロスアディクション)
依存症では、他の依存症との併存もしばしば見られます。複数の依存行動が併存したり、ある依存行動が減った後に別の行動が問題になることがあります。背景には、共通するストレス対処や感情調整の困難などが関係している場合があります。複数の依存症にかかったり、移行したりすることをクロスアディクションと言います。
5.買い物依存症を治す(克服する)ために必要なことを知る
・自分が買い物依存であり意志の力では解決できない、という自覚を持つ
まずは、自分の状態が「買い物依存」という病気であり、意志の力では解決できないことを自覚することが必要です。自覚をする上で大切なことは、自分が悪いと思ったり、ダメな人間だとして反省したりしない、ということです。そうした行動はさらに悪化させてしまいます。「意志が弱いから」「人間としてダメだから」と自分を責めるのではなく、コントロールが難しくなっている状態として理解することが大切です。そのうえで、借金や生活上の問題への具体的な対応は一つずつ進めていきます。
・イネーブリングに注意する
家族や周囲の人が、心配したり、世話を焼くことで、かえって依存症が継続することを「イネーブリング」といいます。周囲が「援助」することによって、本来は持続不可能な間違った対処行動を結果的に「持続可能」な状態にしてしまい、より悪い状態を招いてしまうことをイネーブリングと呼びます。家族が借金を繰り返し肩代わりするなど、結果的に問題行動を続けやすくしてしまう援助には注意が必要です。一方で、本人を突き放したり「底つき」を待ったりすることが必要という意味ではありません。生活の安全を守りながら、専門機関への相談や金銭管理など、回復につながる支援を行うことが重要です。
・愛着不安、トラウマをケアする
依存症の原因において、大きな部分を占めるものが、愛着やトラウマの問題です。
これまでの養育環境において傷ついてきた自己愛を癒す必要から依存状態に陥ってしまっています。買い物依存の治療では、認知行動療法(CBT)が比較的よく研究されています。買い物のきっかけとなる状況や感情を整理し、衝動への対処、金銭管理、代替行動などを身につけていきます。背景にトラウマや愛着の問題があるときは、買い物行動そのものへの対処とあわせて、それらの問題にも取り組むことが重要です。
→参考となる記事はこちらをご覧ください。
▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因とそのしくみ」
▶「「愛着障害(アタッチメント障害)」とは何か?その特徴と症状」
・自助グループに参加する
買い物依存についてもDAと呼ばれる自助グループが存在します。
自助グループでは、基本的には当事者たちが言いっぱなし、聞きっぱなしで自分の体験を話すことが行われます。
→依存症の原因や治し方については、下記をご覧ください。
(参考・出典)
菅原道仁「そのお金のムダづかい、やめられます 脳のしくみを知るだけで、浪費は“自然と”消えていく」(文響社)
エドワード・J・カンツィアン、マーク・J・アルバニーズ「人はなぜ依存症になるのか」
クレイグ・ナッケン「やめられない心」(講談社)
M・クーハー「溺れる脳」(東京化学同人)
渡辺登「依存症のすべてがわかる本」(講談社)
岡本卓、和田秀樹「依存症の科学」(化学同人)
廣中直行「依存症のすべて」(講談社)
信田さよ子「依存症」(文春新書)
斎藤学「し癖行動と家族」(有斐閣)
「DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル」(医学書院)
など
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