日本で特に多いとされる「ギャンブル依存症(Gambling addiction)」。近年、依存症、精神障害として治療の対象とされるようになってきました。今回は、医師の監修のもと公認心理師が、「ギャンブル依存症」についてまとめてみました。
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「依存症(アルコール等)とは何か?真の原因と克服に必要な6つのこと」
<作成日2016.4.22/最終更新日2023.2.6>
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この記事の執筆者みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師) 大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など シンクタンクの調査研究ディレクターなどを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら |
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この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
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管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考に記述しています。
可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・日本において特に多い「ギャンブル依存症」
・ギャンブル依存症のメカニズム~薬物と同様の作用
・キャンブル依存症のチェックと診断
・ギャンブル依存症の特徴
・ギャンブル依存症の原因
・ギャンブル依存症を克服するために必要な4つのこと
日本において特に多い「ギャンブル依存症」
近年、「日本にもカジノを」「カジノ特区を」といった主張を耳にします。そうした主張から日本はギャンブル後進国。ギャンブルには厳しいのでは?とのイメージを持つ人もいらっしゃるかもしれません。実際は、全くの逆です。パチンコ店が街中にあり、日常、学校や仕事の途中でも立ち寄れるようになっていることは先進国では異常ともいえます。
実は、韓国や台湾ではパチンコは禁止されパチンコ店は姿を消しました。海外ではカジノも観光地など街中から離れたところにある事も多く、日本のように普段気軽に利用できるわけではありません。日本は極めて特殊な状況です。上限金利の規制で数が少なくなりましたが、かつてはパチンコ店や場外馬券場の近くに消費者金融会社やATMが軒を連ねていたことを考えると、長年恐ろしい状況が続いていました。
日本は、ギャンブル後進国ではなく、ギャンブル依存症対策後進国といえる状況です。
それはギャンブル依存症患者の数に現れています。患者の割合は欧米では人口の1%前後であるのに対して、日本は、4.8%と高い状況です。患者数は536万人とされます。本人が借金で苦しむだけならまだしも、子どもが駐車場や家に置き去りにされるネグレクトなど家族に被害が及び、関わる人たちの人生も狂わせてしまいます。
本来は、国が対策を講じなければならない深刻な問題です。ただ、パチンコ・スロットは、遊技としてとらえられており、また依存症も本人の問題と考えられているため、十分な対策は進んでいません。
ギャンブル依存症のメカニズム~薬物と同様の作用
依存症は、大きく分けて、物質依存(薬物、アルコールなど)とプロセス依存(ギャンブル依存、ゲーム依存、買い物依存症など)に別れます。前者は化学物質が脳に作用して依存を深めていくということはわかりますが、実はプロセス依存も同様の作用があることがわかっています。
人間の脳には報酬系と呼ばれる、将来得られる報酬を見積り、動機付けや行動を制御するメカニズムがあります。
子どものころ、報酬系は非常に短期で、お菓子を食べたい、おもちゃで遊びたい、といった衝動をおさえることはできません。大人になるに連れて、教育や経験によって、報酬系はより長いサイクルへと成熟していきます。長期の報酬を目指して努力を重ねることを覚えていきます。
しかし、依存症になると、物質やプロセス(行為)が強制的にドーパミンを放出するように促し、短期間で報酬(快感)を得ることを可能にします。そうしたことを繰り返すことで、脳のメカニズム自体が書き換わってしまいます。衝動制御ができなくなるため、人格が変わったようにもなります。
依存症の患者が、問題行動を起こすのは、まさに幼児がえりしているような状態になってしまっているわけです。
依存症はまさに「脳の病気」とも言えます。脳のメカニズムが書き換わってしまうと、もはや本人の意志ではコントロールは不可能です。
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「依存症(アルコール等)とは何か?真の原因と克服に必要な6つのこと」
ギャンブル依存症のチェックと診断
ギャンブル依存症かどうかについては下記の項目によって簡易にチェックできます。
下記のうち、5項目が当てはまると「ギャンブル依存症」と診断されます。(「DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル」より)
1.いつも頭のなかでギャンブルのことばかり考えている。
2.興奮を求めてギャンブルに使う金額が次第に増えている。
3.ギャンブルをやめようとしてもやめられない。
4.ギャンブルをやめているとイライラして落ち着かない。
5.嫌な感情や問題から逃れようとしてギャンブルをする。
6.ギャンブルで負けたあと、負けを取り返そうとしてギャンブルをする。
7.ギャンブルの問題を隠そうとして、家族や治療者やその他の人々にウソをつく。
8.ギャンブルの元手を得るために、文書偽造、詐欺、盗み、横領、着服などの不正行為をする。
9.ギャンブルのために、人間関係や仕事、学業などがそこなわれている。
10.ギャンブルで作った借金を他人に肩代わりしてもらっている。
ギャンブル依存症の特徴
基本的には、依存症に共通する特徴がありますが、ギャンブル依存症については下記のような特徴があります。
・進行性で自然治癒がない恐ろしい病気
長年、ギャンブル依存症に関わる帚木蓬生医師は、ギャンブル依存症について「悪性腫瘍よりもタチが悪く、治療しない限り進行し、自然治癒もないのが病的ギャンブリングです。」と述べています。
こうした特徴は、アルコール依存や薬物依存なども同様です。ほどほどの付き合い方ということは存在せず、破滅するまで進行していく病気です。
・2大症状
・借金
ギャンブル依存症の悪影響で一番問題となるのは“お金”です。ギャンブル依存症の人は自分のお金がなくなってもやめることができずに、借金に手を出すようになります。リスク認知が大きくゆがんでいますから、次は取り返せる、という意識はより強くなります。また、借金がある場合や、リスクの大きな賭けに意欲を燃やす傾向もあるため、損害はさらに膨らみます。
・ウソ
ギャンブル依存症だけに限りませんが、自分の依存行為を達成するために、どんなウソでもつくようになってしまいます。本来ならばそんな人ではないのに、性格が変わったようにウソをつくようになります。本人の性格のせいというよりは、依存症によって衝動性をおさえられなくなっていることなどによります。
家族や周囲の人も振り回され、結果として信頼を損ない、依存症患者はさらに孤独を深めていきます。
・その他の症状
その他、依存症に見られる症状が生じます。
・否認(病識の欠如)
依存症には病識がない事が多く、自分は依存症ではないと否認しようとします。
・行動障害(犯罪)
ウソもその一つに入りますが、衝動性をおさえられなくなっているため、犯罪を犯したりするようにもなります。止める家族に暴力を振るったり、金欲しさに泥棒や殺人。日本で多いのは育児放棄です。家や車に放置して、子どもが衰弱して亡くなったり、と言ったケースです。
・症状の多様さや波
依存症は、典型的なものばかりではなく、症状に波があったり、多様であったりします。あるときはピタリと止めたり、といったことはよく見られます。典型的なイメージばかりで症状を捉えていると、依存症であることを見過ごしてしまう恐れがあります。
・併存する病気
・精神疾患との併存
ギャンブル依存症には、4分の1のケースで精神疾患を併存しているとされます。一番多いものはうつ病です。ギャンブルで借金地獄となって家族にも見放された結果と言ったケースや、うつ傾向がある方が自己治療として興奮を起こさせる依存症に頼るといったケースがあります。
双極性障害など、うつ病以外の精神疾患も併存しているケースも珍しくありません。発達障害なども背景に存在することがあります。
⇒「うつ病の真実~原因、症状を正しく理解するための10のこと」
⇒「双極性障害(躁うつ病)の治療と理解のために大切な4つのポイント」
⇒「大人の発達障害の本当の原因と特徴~さまざまな悩みの背景となるもの」
・他の依存症との併存(クロスアディクション)
アルコール依存症などの他の依存症との併存も多く見られます。飲んだくれでギャンブルにのめり込んで、といったケースです。
依存症は、その根本の要因は同じですから、依存の対象が変わるだけといったことも多い。複数の依存症にかかったり、移行したりすることをクロスアディクションと言います。
ギャンブル依存症の原因
くわしくは「依存症(アルコール等)とは何か?真の原因と克服に必要な6つのこと」 を参照ください。
・居場所や絆の喪失(「社会のパラレルワールド」としてのギャンブル)
背景には、現実での居場所のなさや家族の絆の消失があることが多い。スポーツを引退して熱中するものが欲しくて、仕事でうまくいかなくなってギャンブルにのめり込んで、ということもありますが、家庭に戻る場所があれば簡単に依存症にはなりません。
現実に居場所がないために、「社会のパラレルワールド」としてのギャンブルにのめり込むということがあります。
・幼いころの養育環境~トラウマや愛着障害、アダルトチルドレン
依存症は「家族の病」とされます。依存症は世代間で連鎖することが多いとされます。居場所のなさとも関連しますが、幼いころに不適切な養育があったり、親が依存症である場合などは、子どもが大きくなってから依存症に陥ることが多いとされます。
⇒関連する記事はこちら
「「愛着障害」とは何か?その特徴と悩み、メカニズム」
・性格気質(“意志が弱い”ために依存になるのではない)
依存症の人は、真面目で、おとなしく、対人関係が苦手で、自尊心が低く、完璧主義傾向があり、負けず嫌いな人が多いとされます。依存症は意志が弱いからなる、という偏見がありますが、実際はそうではありません。
依存症自体は脳のメカニズムによって習慣化されますので、意志の問題に関係なく陥ってしまいます。
・ギャンブルへの接触
若いころにギャンブルに触れる機会が多かったり、先輩などからの手ほどきがあるなど、ギャンブルへの接触機会が多いことは依存症の背景の一つとなります。
女性の場合は、男性に比べて依存症に陥る年齢は高い傾向があります。
ギャンブル依存症を克服するために必要な4つのこと
依存症は共通することが多く、ギャンブル依存症への対応でも基本的な事柄は、アルコール依存症など他の依存症と変わりません。
くわしくはこちらを参照ください。⇒「依存症(アルコール等)とは何か?真の原因と克服に必要な6つのこと」
1.自分は依存症であり、意志の力では解決できないという自覚を持つ
依存症で大切なことは、自分が依存症である、という自覚を持つということです。
そして、意志の力では解決できないという諦め、「底つき体験」を経験するということです。
本人が気づくのはよほど痛い目を見ないとなかなか難しく、多くは家族が仲介する形で、専門家からの心理教育によって粘り強く行われることが多い。
2.イネーブリングに注意する
特に、家族が、ギャンブル依存症患者をしっせきしたり、止めさせようとしながら、結果的に依存症を支えてしまっていることを「イネーブリング」といいます。
借金の肩代わりをしたり、といった行為はやめましょう。不始末は本人に解決させることで、病識を持たせ、解決へと足をすすめるきっかけになります。
3.トラウマや愛着障害を改善する
居場所のなさが、現在にではなく、過去に原因がある場合も多い。
そうすると、現在目の前にある問題を解決するだけでは難しいことがあります。
トラウマ治療や愛着障害のケアを受けることは依存症の原因を解決する助けとなります。
4.自助グループに参加する
ギャンブル依存症には、薬で治るということはありません。少しずつ失われた社会とのつながりを取り戻していく必要があります。一番の方法は、自助グループに参加することです。
GA(ギャンブラーズ・アノニマス)というグループがあります。これは、AA(アルクホリック・アノニマス)をモデルに作られたギャンブル依存症患者のための自助グループです。依存症患者同士が、自身の体験を話し、それを聞きます。基本的に批判されることも、上から助言されることもありません。同じ悩みを持つさまざまな人の話しを聞いたり、自分の話をすることで、自分を客観視できたり、社会の中での人のつながりを取り戻すことができます。
ギャマノンという家族向けの団体も存在します。ギャンブル依存症の患者がいることで傷ついた家族同士が参加して健康な生き方を回復していきます。
お住いの地域の近くにグループがないかは、インターネットなどで検索してご確認ください。
⇒関連する記事はこちら
「依存症(アルコール等)とは何か?真の原因と克服に必要な6つのこと」
参考)→「ギャンブラーズ・アノニマス」
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(参考)
帚木蓬生「やめられない ギャンブル依存症からの生還」(集英社)
エドワード・J・カンツィアン、マーク・J・アルバニーズ「人はなぜ依存症になるのか」(星和書店)
クレイグ・ナッケン「やめられない心」(講談社)
M・クーハー「溺れる脳」(東京化学同人)
渡辺登「依存症のすべてがわかる本」(講談社)
岡本卓、和田秀樹「依存症の科学」(化学同人)
廣中直行「依存症のすべて」(講談社)
信田さよ子「依存症」(文春新書)
斎藤学「し癖行動と家族」(有斐閣)
など