自分の容姿が気になる~身体醜形障害の本当の原因と治療

自分の容姿が気になる~身体醜形障害の本当の原因と治療

不安障害

  医師の監修のもと公認心理師が、近年、注目されてきている自分の容姿が過剰に気になる病、身体醜形障害の原因とその治療についてまとめてみました。

 

<作成日2017.2.6/最終更新日2023.2.6>

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この記事の執筆者

みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師)

大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など

シンクタンクの調査研究ディレクターを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら

   

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考に記述しています。

 可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

 

 

もくじ

身体醜形恐怖障害とはなにか?
身体醜形障害の症状と特徴

身体醜形障害の原因
醜形恐怖症状を伴うその他の精神障害

身体醜形障害かどうかを判断するチェックポイント
身体醜形障害の治療

 

身体醜形障害

 

 

 

身体醜形恐怖障害とはなにか?

 身体醜形障害(Body dysmorphic disorder)は、神経症(本格的な精神障害ではない悩み)で、強迫性障害の一種と考えられています。かつては「醜形恐怖症」とも呼ばれていました。醜形恐怖症状自体はさまざまな精神障害に伴って生じます。

 

 病気としての名称がつかないまでも容姿に関連するおとぎ話、物語、神話が存在しています(「みにくいアヒルの子」など)。
 古くはフロイトなど、さまざまな研究者が事例を報告していますが、1886年にイタリアの精神科医の報告によってまとまった一つの症状としてとらえられるようになりました。

 

・定義

 立教大学の鍋田恭考教授は、身体醜形障害とは「客観的にはまったく醜くないにもかかわらず、容姿の全体、あるいは、ある部位を『きわめて異様に醜い』と思い悩むこと」としています。

 

 参考までに、DSM(米国精神医学会の診断マニュアル)では下記のように記されています。

・外見についての想像上の欠陥へのとらわれ。小さい身体的異常が存在する場合、その人の心配は著しく過剰である。
・そのとらわれは、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、またはほかの重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
・そのとらわれは、他の精神疾患ではうまく説明されない。

 

参考)「DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル」(医学書院)

 

・発症の時期

 思春期(15歳~19歳)が発祥のピーク(全体の約6割) です。
 次いで多いのが、20代前半(全体の約2割)となっています。

 

 思春期の特徴は自分自身や環境の急激な変化や、他者の目を意識するようになること、理想と現実のギャップなどですが、同様の状況であれば、思春期ではなくても発症することがあると考えられます。

 

 

・発症の割合

 人口の1~2%程度ではないかと考えられています。
 男女比は6:4程度とされます。

 

 

 

身体醜形障害の症状と特徴

 身体醜形障害には以下のような特徴があります。

 

・実際の容姿には問題がない

 実際の容姿には大きな問題はありません。※もちろん、病気やケガで容姿に損傷があることから起こるケースもありますが、それでも、その程度を越えて自らを醜いとしています。

 

 

・妄想的心性と強迫的心性が混在している状態

 妄想とは訂正不能な確信のことをいいますが、基本的に周囲の説得は効きません。願望がかなわなかったり、期待を裏切られたりしたときに妄想はより強く現れます。強迫とは、不安を打ち消すための動きです。

 

 身体醜形障害では、見たくない現実の容姿が見える不安とその打消しからくる強迫的心性と見たい容姿が見いだせない裏切られた気持ちとしての妄想的心性が混在していると言われます。

 

 さらにその背景には、成長する中で感じる不安や劣等感をそれまで感じていた理想化した自分と現実とのギャップ(容姿)に集約してしまい、強迫的(妄想的に)に思い悩むメカニズムが潜んでいると考えられます。

 

 

・関係念慮、対人恐怖症状は少ない

 身体醜形障害では、関係念慮、対人恐怖症状は比較的少なく、どちらかというと、自ら自己完結的に強迫的に容姿に悩むことが特徴です。対人恐怖症状が強い場合は、身体醜形障害というよりは対人恐怖症であることが考えられます。

 

・容姿にこだわることへの罪悪感

 気にしなくていいとどこかではわかっていても、どうしても気にしてしまっています。
 そのため自分が容姿にこだわることについて、自分勝手だとか、道徳に反するとして罪悪感を持っていることがあります。フィリップス博士は「(身体醜形障害の)二重の呪い」と呼んでいます。
 

 

・1日1時間以上容姿について考えている

 身体醜形障害研究の第一人者のフィリップス博士によれば、身体醜形障害の患者は1日1時間以上考えています。3分の1は8時間以上も容姿について考えていることがわかっています。

 

・病識がある場合とない場合とがある

 上記にも書きましたが、自分が醜いと強く確信している場合もあれば、どこかこの感覚はおかしいという感じを持っている場合があります。自身でもこだわりたくないのに、こだわらされていることを意識していることがあります。
 もともと、強迫性障害自体、病識のあることが特徴であり、その一種と考えられる身体醜形障害も病識がある場合が多いです。

 

・悩みとする部位

 個別の部位を悩みとする場合もありますが、顔や姿全体、そのバランスなどを問題とすることもあります。個別の部位については複数個所に及ぶこともあります。

 

 身体醜形障害の研究の第一人者であるK・A・フィリップスによると、一番多いのは、肌で、ついで髪、鼻、体重などとなっており。鍋田教授の報告では、顔全体が最も多いものとなっています。社会、文化によっても違いがあるようです。

 また、男性性、女性性についての悩み。女性、男性としての魅力が薄い/ない、といったことも悩みとなることがあります。

 

 

・完璧な容姿になりたいのではなく、普通に見られたい

 身体醜形障害は、自身が完璧な容姿ではない、と悩んでいるということではなく、普通と比べても質的に明らかに醜いと考えています。そのため完璧を目指しているのではなく、普通に見られるようになりたいと願っています。

 

・自分自身に対する否定的な感情

 自尊心の低さや、自分への不満、気まずさ、屈辱感、恥ずかしさ、他人が自分を否定的に評価していると考える、自身への否定的な感情を持っていることが多いとされます。特に羞恥心は本質的な心性の一つです。

 

 

・悩みが理解されない孤独感

 身体醜形障害は容姿に問題ないために周囲は「たいしたことがない」「単なる思い込みだ」としてその背後にある気持ちを理解できません。そのため、当事者は「理解されない」「わかってもらえていない」という孤独感を感じています。

 

 

・強迫的な確認行為

 自らが醜くないかを鏡でチェックしたり、他者に確認したりします。気になる部位を変形させたり触ったりということもあります。

 

 
・行動化

 <美容整形への欲求>
  美容整形を求めたり、実際に医師に相談したりということがあります。美容外科に訪れる患者の7%が身体醜形障害の診断基準に当てはまるとされます。

 

 <カムフラージュ>
  外出時に帽子やサングラスをかぶって外出することもあります。

 

 <ひきこもり>
  容姿を意識しすぎるために家にひきこもってしまうことがあります。

 

 

・その他

 身体醜形障害の患者の中には容姿に関連するショックからパニックを起こす人、身体を整えるために抜毛症が見られる人もいます。

 

 

 

 

 

身体醜形障害の原因

 身体醜形障害については原因がすべて解明されているわけではありません。ただ関係する要因についてはいくつかのものが推定されています。

・ボディイメージの障害

 ボディイメージとは、私たちが自分自身の身体に対して感じている感覚や経験、イメージのことを指します。それは、無意識に脳内に形成されている「身体図式」もあれば、生きていく中で形成される「身体イメージ」もあります。

 
 例えば、幻肢といって、事故で足を失った人が、失われたはずの足の感覚を感じたり、といったことは「身体図式」が物理的な状態とはイコールではないことを示しています。

 
 鍋田教授は、身体醜形障害は、無意識的な「身体図式」ではなく、それより意識に近い領域である「身体イメージ」と現実とのギャップによって引き起こされるのではないかとしています。

 

 

・生体的な問題~脳内伝達物質の失調

 近年、SSRIや抗精神病薬などが高い効果を発揮することから身体醜形障害は、セロトニンやドーパミンなど脳内伝達物質の失調が大きな要因の一つと考えられています。思春期が発祥のピークであることから、ホルモンバランスなどの影響も考えられます。心理的なこじれやゆがみよりも、うつ病などと同様に生体的な問題がより影響の強い要因として考えられています。

 

 

・養育環境、親子関係

 鍋田教授は、身体醜形障害においては母子密着や依存のような関係は見られず、母子分離はできているが、不安の強い/強迫的に頑張る/抑うつ的な母親が多く、どちらかと言えば、親をバカにしていたり、嫌悪していたりする傾向があると指摘しています。

 

 親を頼ることができないために、自己愛に過剰にしがみついている、ということが考えられます。また、親が自身や子どもの容姿に否定的な場合、「かわいい子」と子どもをほめながらも不機嫌な様子が見られる場合も、子どもの身体イメージに影響するのではないかとしています。

 

 さらに、兄弟間での容姿の優劣(自分はかわいいと育てられた/その逆に兄弟のほうがかわいいと育てられた)も影響することがあります。
 
 つまり、愛着や自己愛の形成に容姿が過剰な意味を持たされてしまい、思春期に入るとファンタジーが現実とのギャップにクローズアップされるということです。成長する中で揶揄されたり、いじめられたり、からかわれたり、比較されたりという体験も影響します。
 

 

・性格気質

 身体醜形障害になりやすい人の性格として、完璧主義、強迫的な傾向、粘り強さ、頑固さ、思い込みの強さが挙げられています。親や家族を振り回すことはありますが、全体的にはおとなしく内向的な部分が強いとされます。

 

・見えすぎる感覚

 身体醜形障害に陥る人は、容姿について全体よりも細部をよりシャープに感じ取る傾向があるようです。

 

・社会、文化的な影響

 テレビ、雑誌、マンガ、アニメなどから影響される美に関する価値観も要因です。
また、他者を意識する文化かどうか、その文化で目立つ特徴なのかどうか、も影響します。
たとえば、海外で生活していた時はなんともなかったのに、日本に帰ってきてから発症する、ということもあります。

 

 

 

醜形恐怖症状を伴うその他の精神障害

 身体醜形恐怖が見られても、うつ病や統合失調症、発達障害などについては身体醜形障害よりもその診断が優先されます。

 

・うつ病

 自らの容姿に悩むが、うつ病の症状が強く、うつ病に付随するものと考えられる。うつ病の人の1割弱に身体醜形障害が見られ、また、身体醜形障害の9割にうつの症状を伴うとされます。

 →「うつ病の真実~原因、症状を正しく理解するための10のこと

 

 参考)「厚生労働省 みんなのメンタルヘルス うつ病」

 

・統合失調症

 訴えが周囲から見て理解できない内容やあいまいな内容であることが多い。

 →「統合失調症の症状や原因、治療のために大切なポイント

 

参考)「厚生労働省 みんなのメンタルヘルス 統合失調症」

 

・対人恐怖症

 身体醜形障害と似た要素がありますが、異なる障害ではないかと考えられています。対人恐怖症は、文字通り、対人場面での不安や恐怖です。関係念慮(他者を意識する)が強いです。身体醜形障害は、自らの容姿が悩みとなっています。他者が関係する場面でのみ容姿を意識する場合は、対人恐怖症と考えられます。

 →「対人恐怖症、社交不安障害とは何か?真の原因、克服、症状とチェック

 

 

・摂食障害(拒食など)

 摂食障害も自らの容姿を意識して食事を制限して容姿を過剰に整えようとします。とても近しい障害です。 ただ、摂食障害とは人の目を意識して、世間の美の基準(痩身をよしとする、など)に自らを合わせようとするのに対して、身体醜形障害では自らの身体イメージの違和感から自らを醜いと感じるようです。また、身体醜形障害では、具体的な部位や顔全体を醜いとするのに対して、摂食障害では太りすぎている身体全体を気にします。

 また、摂食障害は、身体の重さなど身体感覚への嫌悪感を表明しますし、自己感覚(何を感じ、何を不安としているのか)の薄さや、万引きなどの問題行動も見られますが、身体醜形障害にはそれがないとされます。

 →「摂食障害とは何か?拒食、過食の原因と治療に大切な7つのこと

 

参考)「厚生労働省 みんなのメンタルヘルス 摂食障害」

 

・PTSD

 いじめやレイプに伴い、自らの容姿が気になることがあります。フィリップス博士の調査によるとPTSDと診断された女性のうち2割に身体醜形障害が見られたとしています。トラウマ体験は身体醜形障害の背景の一つであると指摘しています。

 →「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの原因と克服

 

参考)「厚生労働省 みんなのメンタルヘルス PTSD」

 

・ひきこもり

 身体醜形障害があるために、ひきこもることがあり。ひきこもりのなかの一部には身体醜形障害が見られることがあります。

 →「ひきこもり、不登校の本当の原因と脱出のために重要なポイント

 

・体感異常症

 「身体のある部位が大きくなる」「顔がどんどん変わっていく」といったように、体感の異常を訴えるものです。身体醜形障害とは異なります。

 

 

 

 

 

身体醜形障害かどうかを判断するチェックポイント

 身体醜形障害かどうかについては下記のポイントでチェックできます。

 

・自分の容姿を100点満点で採点してみる

 鍋田教授によると、
 「50点を平均、100点を超美人、ハンサムとして、自分は何点ですか?」と尋ねて、0点やマイナス点や「点数が付けられないくらい(醜い)」というような回答をする場合は、身体醜形恐怖といっても差し支えないようです。
 ※「20,30点くらい」という答えは普通に容姿に悩む程度で、身体醜形恐怖ではありません。

・「異様な醜さ」「質的な醜さ」を訴える

 もう一つの視点として、量的にどの程度、ということではなく「異様な醜さ」「質的な醜さ」を訴えることがあります。
 

 

 

 

身体醜形障害の治療

・説得や反論には効果がない~背後にある不安に寄り添う

 「あなたは醜くない」「気にしないでも大丈夫」といった説得や反論は効果がなく、「私の悩みをわかってくれない」として、より執着や妄想を強めてしまいます。根底には自己への不安がありますから、じっくり話を聞き、その不安に寄り添うようにすることがまず大切です。「醜くないか?」と尋ねられても、周囲の人は「容姿について悩んでつらいのはわかるが、私には醜くは見えない」と答えるようにしましょう。

 

  
・美容整形も効果がない。基本的に禁忌

 「美容整形をしたい」と訴えるケースもありますが、行ってみてもほとんど満足することはありません。実際に行った人の4分の3は不満を訴えます。満足しているケースでも完全にすっきりと解決ということではありません。基本的に禁忌ですが、頭ごなしに「しても意味がない」といっても受け付けられません。

 

 

・心理教育を行う

 心理教育とは、病気の症状や原因などについて客観的な知識を伝えることです。妄想的な確信を抱いている人でもどこかではそうではないのでは?と感じている自分がいたり、揺らぎもあります。客観的に知識を伝えること、知ることは長い目で見た時に有効です。

 

・薬物療法(SSRIなど)が効果がある

 身体醜形障害には、SSRI(フルボキサミン)と呼ばれる抗うつ剤やリスぺドンなどの抗精神病薬がよく効くことがわかっています。早いケースでしたら1~2カ月で症状の改善が見られます。薬が奏功すると「自分はなぜ、あのように思い込んでいたのか?」というように大きく意識が変わることも珍しくありません。身体醜形障害の第一人者であるフィリップス博士の報告では、3分の1が非常によく効く、3分の1がよく効く、ということで全体の7割にSSRIが効果が見られるとしています。

 

 

・心理療法を行う

 治療には、薬物療法だけではなく、心理療法も併用されます。とくに認知行動療法は実績があり、強迫症状の緩和に効果があります。フィリップス博士も、薬物療法と認知行動療法の併用が治療の中心であると述べています。

 

 

 

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(参考)

 キャサリン・A・フィリップス「歪んだ鏡 身体醜形障害の治療」(金剛出版)
 鍋田恭孝「身体醜形障害 なぜ美醜にとらわれてしまうのか」(講談社)
 鍋田恭孝「対人恐怖・醜形恐怖 -「他者を恐れ・自らを嫌悪する病い」の心理と病理-」(金剛出版)
 大村美菜子「青年期女子における醜形恐怖心性とその関連要因」(風間書房)
 町沢静夫「醜形恐怖 人はなぜ「見た目」にこだわるのか」(知恵の森文庫)

 など