ひきこもり、不登校とは何か~7つの視点から原因を知る

ひきこもり、不登校とは何か~7つの視点から原因を知る

ハラスメント・生きづらさ家族の問題(機能不全家族)

 
 ひきこもり、不登校は、子どもやしつけ、私たちが自然と持つ常識が邪魔をしたり、援助者でもさまざまな立場があり、その原因や、対応策についても情報があふれています。
 できる限り多くの専門書や厚生労働省のガイドラインなどを参考にしながら、ひきこもり、不登校とは何か、どのように対応すればいいのか?について、医師の監修のもと公認心理師がまとめてみました。よろしければ、参考にしてください。

 

<作成日2016.5.6/最終更新日2024.2.7>

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この記事の執筆者

三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師

大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了

20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。

プロフィールの詳細はこちら

   

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 ・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。

 ・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。

 ・可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

もくじ

はじめに~単純ではないが、特殊な現象ではない
ひきこもり、不登校の原因~多要因によって引き起こされる現象
視点1.ひきこもり、不登校の歴史から原因を知る
視点2.ひきこもり、不登校の定義から原因を知る
視点3.ひきこもりと不登校の関係から原因を知る
視点4.ひきこもり、不登校の当事者の意識や特徴から原因を知る
視点5.ひきこもり、不登校の種類から原因を知る
視点6.社会的なひきこもり、不登校の”きっかけ”から原因を知る
視点7.ひきこもり、不登校が長引く要因から原因を知る
視点8.ひきこもり、不登校の二次的症状から原因を知るひきこもり、不登校の二次的症状

 

 →ひきこもり、不登校の解決策については、下記をご覧ください。

 ▶「ひきこもり、不登校からの脱出、解決策~初期、長期など対応23のポイント

 

 

専門家(公認心理師)の解説

 ひきこもり、不登校については様々な要因があります。軽々には申せませんが、トラウマ臨床の観点からは、ひきこもりが長期に及ぶ場合はなんらかの家庭内での機能不全は見られるケースが多い印象があります。そうした場合は本人にケアをするよりも家族に対してカウンセリングを行う中で改善を目指していくことになります。

 短期や一時的な場合は学校でのトラブルやストレスといったことがあります。学校などと連携して適切に対処することで早期に解決することも可能です。

 原因を考える際は、常に「多要因」で成り立っていることを念頭に情報を収集することです。本人に理由を尋ねても言語化しやすいことを挙げるだけで、それが本当の原因であることは少ないです(本人も何が理由かは多くの場合わからない)。そうした情報の収集や整理自体が問題解決を助けてくれます。

 

 

はじめに~単純ではないが、特殊な現象ではない

 まず、ひきこもり、不登校を理解する際に大切なことは、「~~のせいだ」といったような単純なものではありませんが、訳の分からない特殊な現象ではない、ということです。特殊な問題だととらえてしまうと、理解の妨げとなります。

 カウンセリングや対人の関わりにおいて本質的とされることばかりです。ただ、その当たり前のことは常識のメガネをつけたまま見ると見えなくなってしまうものでもあります。いったん、常識を外してとらえて見ることがとても大切です。

 

 

 

ひきこもり、不登校の原因~多要因によって引き起こされる現象

 さまざまなニュアンスはありますが、ひきこもりは単一の原因によって引き起こされる問題ではない、とされます。

 

 また、原因といっても、
「問題が起きる一番最初のきっかけ」を指す場合もありますし、
「現在の問題状況を長引かせている要因」を指す場合もありますし、
「解決のために有効なポイント」を指す場合もあります。
それぞれが異なることもしばしばです。いずれにしても、単一ではありません。

 

 厚生労働省のガイドライン(「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」)でも、下記としています。
「ひきこもりという用語は病名ではなく、あくまで対人関係を含む社会との関係に生じる現象の一つをおおまかにあらわしている言葉です。また、それが生じる原因には『いじめ』『家族関係の問題』『病気』などが挙げられることがありますが、一つの原因でひきこもりが生じるわけでもありません。生物学的要因や心理社会的要因などのさまざまな要因が絡み合って、ひきこもりという現象が生じています。」

 

 多要因によって生じているということは、ひきこもりだけではなく、その他の社会的な問題、心の悩みとされるものについても同様で「生物-心理-社会の分化統合モデル」といったように多要因で問題を捉えることが一般的です。

 

(参考)不登校、ひきこもりは、親のせい?育て方のせい?

 不登校やひきこもりは、「親のせい」「育て方のせい」ということがどうしても気になるところです。昨今は、子どもがかかる病気や問題について親が原因とする説は多くのケースで否定されています。不登校やひきこもりについても、親の関わり方、育て方が直接的な原因とする短絡的なとらえ方は否定されています。

 

 

 

 

視点1.ひきこもり、不登校の歴史から原因を知る

 「ひきこもり」が問題としてとらえられ始めるのは、1990年前後のことです。それ以前は、不登校や、不登校に伴う「閉じこもり」が問題として捉えられていました。歴史や社会的な要因も原因の理解のためには重要です。

 

<1950年代~70年代>

・問題とされなかった時代から、怠け、病気とされるように

 もともと、1950年代までは貧しい家庭も多く、不登校は問題とはされませんでした。しかし、1960年代以降、社会が豊かになり、誰もが学校に通うことが当たり前になると、不登校は怠けか病気と見なされ、治療、矯正の対象とされました。
 病気とされる世間の目を避けるために、当事者は家に閉じこもらざるをえませんでした。 

 

 

<1980年代~90年代>

・不登校をめぐる考えの大転換

 1980年代後半から、当事者やその親からの異議申し立てもあり学校側の問題としての認識、本人の自主性やスタイルの尊重が訴えられ、1990年の文部省の会議において、不登校は特殊な子におこる問題ではなく「どの子にでも起こりうる」として、不登校をめぐる考えは大きく転換されるようになりました。
(実際、調査によって、子どもの属性に特殊な傾向は見られないことが明らかになりました。)
 

 この大転換によって、世間の無理解によって家に閉じこもらざるをえなかった子どもは、「学校の犠牲者」「新しい生き方を模索する子どもたち」として捉え治され、家から出られるようになり、「閉じこもり」の解消に大きく寄与することになりました。

 

・「ひきこもり」の再発見

 1990年前半は表面的には「ひきこもり」は解決したかのように見え、社会の注目を集めることはありませんでした。

 しかし、90年後半に入り「ひきこもり」は再発見されるようになります。その画期は、1997年になります。朝日新聞にて、社会に出たいのに出られない若者についての特集が組まれ、「ひきこもり」の高齢化と長期化といった問題がクローズアップされるようになりました。不登校児が依然として生きづらさを感じ、不登校のその後も社会にできることができず「ひきこもり」を続けていることが明らかになったのです。

 1998年には、精神科医の斎藤環氏によって「社会的ひきこもり」(PHP研究所)が出版され、ひきこもりの定義と、個人の問題ではなくシステムとしての問題把握が提示されました。 

 

 

<2000年代~現代>

・重層的な社会問題として認知

 2000年代に入ると、当事者たちの声や体験談も広く世に紹介されるようになり、問題の多様さや深さが伝わるようになりました。
 
 不登校に付随する現象としてスタートしたひきこもりは、1990年代後半から、問題の多様化にともない不登校という問題から離れて「青少年問題」「家族問題」とされるようになり、2000年に起きた西鉄バス乗っ取り事件などの事件の容疑者たちの背景に「ひきこもり」があると報道されると、「精神病理」の問題としても扱われるようになりました。また、ニートが問題になるようになってからは「就労問題」としても注目され始めました。

 ひきこもりへの認識の変化は、不登校に対する対応にも影響し、不登校は「進路の問題」としても捉えられるようになります。

 不登校とイコールの問題としてスタートしたひきこもりは揺れ動きながら重層的な社会問題として認識され、現在に至っています。

荻野達史ほか「「ひきこもり」の社会学的アプローチ」(ミネルヴァ書房)による)

 

 参考:ひきこもりの人数や男女比

 ひきこもりについてはさまざまなタイプが存在し、調査の際に定義する難しさもあり、完全な統計というものは存在しません。おそらくは100万人程度存在するのではないかと推定されています。

 男女比についてですが、一般に男性が圧倒的に多いとされています。ただ、男性はひきこもりとして問題の自己治療に取り組むが、女性はリストカットや摂食障害に現れるのではないか、など発現形態が男女で異なるだけで、社会への適応に問題を抱える割合は男女でそれほど変わりがないのでは、とする説もあります。

⇒「摂食障害とは何か?拒食、過食の原因と治療に大切な7つのこと

⇒「リストカット、自傷行為の本当の心理、原因・理由とその対応

 

 

参考:不登校の人数や男女比

 文部科学省の調査によれば、平成25年度では、小学校で2万4千人(全体の0.36%)、中学校で9万5千人(全体の2.69%)となっています。男女比はほぼ半々です。性別による偏りはないようです。

 (文部科学省 「平成25年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」について」

 

 

 

視点2.ひきこもり、不登校の定義から原因を知る

<ひきこもりの定義>

 ひきこもりに関する議論をリードしてきた斎藤環氏の定義になります。さまざまな場面で参照されるものの一つです。定義とは、複雑な背景の背骨をとらえたもので、定義を知っておくことは個別のケースの原因を知る助けとなります。

 

・精神科医、斎藤環の定義

 「20代後半までに問題化し、6カ月以上、自宅に引きこもって社会参加しない状態が持続しており、他の精神障害がその第一の原因とは考えにくいもの」

 

 

・厚生労働省のガイドラインの定義(「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」

 厚生労働省も専門家会議でガイドラインをまとめ以下の様な定義を行っています。

 「さまざまな要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学,非常勤職を含む就労,家庭外での交遊など)を回避し,原則的には6 カ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念である。なお,ひきこもりは原則として統合失調症の陽性あるいは陰性症状に基づくひきこもり状態とは一線を画した非精神病性の現象とするが,実際には確定診断がなされる前の統合失調症が含まれている可能性は低くないことに留意すべきである。」

 

 

<不登校の定義>

 大きくは以下の二つがあります。

文部科学省の定義不登校の現状の対する認識

 「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるため年間30 日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」

 

厚生労働省のガイドライン(「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」

 「顕在性か潜在性かを問わず、学校に参加することへの恐れ、拒否感、あるいは怒りと、欠席することへの罪悪感を持ち、登校せずに家庭にとどまる生活は総じて葛藤的であるといった状態像を伴う長期欠席」

 

 

 

 

視点3.ひきこもりと不登校の関係から原因を知る

・ひきこもりは不登校に付随する問題としてはじまった

 ひきこもりの歴史の紹介でも書きましたが、もともとは、不登校に付随する問題として始まったものです。すべてではありませんが、ひきこもりが不登校の延長線上に生じているケースが多いことは事実です。ひきこもりやニートとされるケースの6割で不登校の経験があるとする調査結果もあります。また、不登校が、学校という社会活動からの回避と考えられ、それ自体を「ひきこもり」として捉えられることがあります。

 

・不登校だからといってかなずしもひきこもりではない

 一方で、不登校だが、ひきこもりではないケースもあります。家族からのサポートの中で、別の進路に進むということもあります。不登校から始まった問題でも、当事者が高齢化している場合は、もはや問題は「登校」ではなく「就労」となります。

 
 不登校と、ひきこもりは、近接していますが、2つの別々の輪がズレながら重なり合っているイメージだと考えられます。

 

 

 

視点4.ひきこもり、不登校の当事者の意識や特徴から原因を知る

 ひきこもりの当事者、自分の状態をどのようにとらえているのでしょうか?当事者や支援者の証言からは下記のような像が浮かび上がってきます。

<ひきこもり>

・男性が圧倒的に多い
・長男が多い
・中流以上の家庭が多く、特殊な家庭事情は見られない

・社会に出なければ、働かなければという意識は強い
・ひきこもり状態にあることへの負い目
・社会に出たいけど、出ることができない葛藤

・無気力ではなく、意欲は強い(うまく発揮できていないだけ)
・怠けや甘えというより、むしろ自分に厳しい
・我慢強い

・社会にでることについて自信がなく、不安が強い
・不安や自信のなさや焦りの裏返しとして自意識やプライドが高く見えることがある 
・家族に対しては、恨み半分、感謝半分

 

 ひきこもりは「ぜいたく病だ」「甘えている」といった誤解がありますが、本人もその状態が良いと考えていることはなく、むしろ負い目と葛藤を感じながら、抜けだそうともがいているがどうすることもできない状態であることがわかります。

 

 

<不登校>

 不登校については、例えば、性別も男女半々であるなど、ひきこもりとは異なる点があります。

 支援者などもなんらかの不安や、葛藤を抱えている事が多いと考えられます。わけもわからない無気力状態というように見えても、背後には何らかの不安、自己重要感の低下、学校などの環境への不適応があります。

 

 

 

視点5.ひきこもり、不登校の種類から原因を知る

<ひきこもりの種類>

さまざまな分類がありますが、大きくは下記の3つに分類されます。

・社会的ひきこもり

 いわゆる「ひきこもり」とは、社会的ひきこもりを指します。つまり、精神障害が第一原因ではないものということです。学校での環境、学業での問題、家族の問題などさまざまなものがからみ合って生じます。二次的に精神障害を引き起こしたり、人よりも成熟が遅れるために発達障害様の状態に陥ることもあります。

 

 

・精神障害を背景としたひきこもり

 統合失調症や、強迫性障害、パニック障害など、さまざまな精神的な問題からひきこもりという状況を二次的に起こしてしまうものです。ただ、長期化すると、何が第一原因かはわからなくなってしまうことがあります。

 

⇒「統合失調症の症状や原因、治療のために大切なポイント

⇒「強迫性障害を克服するために知っておきたい9つのこと~原因、症状、チェック

⇒「パニック障害とは何か?その本当の原因と克服に必要な5つのこと

⇒「摂食障害とは何か?拒食、過食の原因と治療に大切な7つのこと

 

参考)「国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」 統合失調症」

 

 

・発達障害を背景にしたひきこもり

 自閉症、アスペルガー障害、ADHD、学習障害などが原因となって、ひきこもりを二次的に起こしてしまっているものです。発達障害の概念は最近拡大していますので、社会的ひきこもりとされるタイプでも、専門家が見るとじつは発達障害として捉えたほうが解決しやすい、ということはあります。ひきこもりの8割になんらかの発達障害が見られるとする調査結果もあります。

⇒「大人の発達障害の本当の原因と特徴~さまざまな悩みの背景となるもの

 

参考)「国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」 発達障害」

 

 

<不登校の種類>

 不登校について、明確な分類というものはありません。文科省による分類がありますが、内容は、不登校のきっかけによる分類となっています。

 基本は、発達障害や精神疾患によるものを除けば、タイプ分けというよりは、起きている症状やきっかけから様子を捉えることで十分でしょう。

 分類とは、あくまで解決しやすくするために便宜的に行うものです。

 

 

 

視点6.社会的なひきこもり、不登校の”きっかけ”から原因を知る

・学校、職場でのトラブル

 具体的には、教室、部活、職場などのいじめや体罰、ハラスメント、あるいは、学業、仕事について行けないなどのトラブルがきっかけになるもの

 

・学校、職場の雰囲気に合わない

 明確なトラブルはないが、学校や職場の環境に適応できないことがきっかけになるもの

 

・心理的なきっかけが原因

 特に理由はないが、無気力など、職場や学校にいけなくなるもの。かつては、スチューデント・アパシー、モラトリアム といった概念で捉えられていたものです。思春期はアイデンティティの確立期で敏感で不安定なもので、明確な理由がなく、本人にとってもなぜだかよくわからないことも多いです。

 

・その他

 文科省の分類では、遊び・非行によるものがありますが、上記3つの結果として生じるものでもありますし、ここではその他としています。

 

参考:近年話題となる「ヤングケアラー」という視点

 近年、ヤングケアラーが問題となっています。若年や成人してからも介護など家族の問題に関わらされることで自分の本来の仕事や学業に十分に取り組めない、というケースはあります。時間的なものだけではなく、精神的にも罪悪感や偽の責任意識から社会に出ることができなくなるということもあります。下記の書籍は大変参考になります。

 村上靖彦「「ヤングケアラー」とは誰か 家族を“気づかう”子どもたちの孤立」朝日新聞出版

 山中 浩之, 川内 潤「親不孝介護 距離を取るからうまくいく」日経BP

 

 

 

視点7.ひきこもり、不登校が長引く要因から原因を知る

・ひきこもり、不登校の悪循環を生む「ひきこもりシステム」

 精神科医の斎藤環氏がまとめた考えですが、ひきこもりとは「ひきこもりシステム」と呼ばれる、不健全な状態によって支えられています(斎藤環「社会的ひきこもり」(PHP研究所))。

 通常、私たちは社会、家庭、個人が健全に接点を持ち、それぞれの領域を守りながら関わっているものです。しかし、社会、家庭、個人がうまくコミュニケーションを取れなくなると、それぞれが持つ私たちを助けるはずの力が“ストレス”となり悪循環を引き起こします。その悪循環を「ひきこもりシステム」と斎藤氏は呼んでいます。

 

 例えば、このようなことです。

 社会とは、私たちが自己実現をはたしていくための活動の場であるわけですが、ひきこもりになるとその社会で期待されている在り方、「働かなければならない」といった規範がストレスとなってのしかかります。そのストレスを避けるために個人や家族も社会との接点を持たなくなります。また、家族からも「いつまでそんなことをしているんだ」としてお説教や激励という形でストレスを掛けられることで家族と個人との接点もこじれてきます。そうして本人にはさまざまなストレスがのしかかり悪循環となり、ひきこもりが遷延化してしまうことになるのです。

 このような意味では、ひきこもりは、個人と家族、社会が関わるシステムの問題といえるのです。

 

 

・世間の常識へのとらわれ

 「学校に行かなければいけない」「仕事に行かなければいけない」「普通に生きることができない人は落伍者だ」といった世間の常識へのとらわれ、ということがあります。これは、本人にもありますし、親や先生、支援者にもあります。私たちに強く内面化されています。

 

 親は「良い親でなければならない」というプレッシャーを感じていることがありますから、「不登校やひきこもりは自分の責任」として、その焦りがさらに子どもに向かうということも起こります。
 こうした囚われがあると、本当に解決すべき問題に焦点が当たらずに、「学校に行く=行かない」といった本質的ではないことが問題となり、長引く要因です。

 

・サポートすべき環境(家庭)が機能していない

 子どものひきこもりの場合は発達途上のため、周囲の大人がサポートをして、解決へと導いていく必要があります。しかし、そのサポートが適切に機能していない場合、問題はこじれます。

 

 多くの場合、親が考えるサポートとは、しっせきや激励に終止します。その前提には、「厳しくしなければ、子どもは甘えるものだ、怠けるものだ」といった考えも根強くあるのかもしれません。はじめは見守っていたのに、「いいかげんにしろ!」「いつまで甘えているんだ」といって、しっせきやプレッシャーを与えてしまうこともあります。

 

 家庭の機能というものはさまざまなものがありますが、一番大きな機能は「安全基地」である、ということです。安全基地とは、ただ「存在」を受け止めてくれるところということです。現実には家庭がそのようになっておらず、世間をそのまま持ち込んで、批判ばかりが行われていることも珍しくありません。

 

 家族の機能のもう一つは、「社会で生きていくための導きや支えの提供」です。家族は社会へのつながりをつくり、支えとなるものです。しかし、それらが機能せず問題解決能力を失ってしまうと子どもははしごを外されたようになり、家から出たくても足場がないために出ることができなくなってしまいます。外側からはしっかりしているように見えても、問題解決能力のない(失っている)家族というのは珍しくありません。

 

 ひきこもりとは、このままではつぶれてしまうかもしれないストレスに対して、ひきこもりという手段で避難しているということです。そのため、ひきこもりのサポートとは、学校や職場に戻るにせよ、ただ「元に戻る」という選択肢はなく、同じ問題を受けないような工夫を一緒に考える、あるいは環境が適さない場合は、別の進路に変更することに取り組むことなのです。

 

 しかし、多くの場合、避難先の家庭が安全基地ではなくなり、子どもは家庭から自分の部屋へと、もう一段階ひきこもるようになります。長引くひきこもりというのは、社会からのひきこもり、“安全基地”ではない家庭からのひきこもり と、二重にひきこもりが発生しています。
 対応のまずさが重なると親子の関係がこじれてしまい、二者関係で身動きが取れなくなり、機能不全に陥ってしまいます。

 ⇒「<家族>とは何か?家族の機能と機能不全

 

 

・ひきこもりという状態や失われた時間への負い目

 ひきこもりは、ひきこもりのきっかけとなった問題もストレスですが、「ひきこもり」という状態自体が負い目となって苦しめます。特に、ひきこもりの当事者は、普通であることを過度に意識したり、働かなければならない、という常識を強く内面化していますから、余計に負い目を感じてしまっています。さらに、ひきこもりが長期化した場合、失われたと感じられる時間への負い目も生まれます。

 それらがさらに問題をこじれさせることになります。

 

 

・できなくなった行動の過大視

 普通にできているときはなんでもないことでも、できなくなると途端に難しいことのように感じられます。「通学」「就職」といったことも、できてしまえばなんともないことですが、できなくなるとできている人が偉く思えたり、できない自分がダメな人間に思えたりします。

 また、あらためてそれらの行動に取り組むことへの恐れや不安も過剰に感じられるようになり、解決を難しくします。

 

 

 

 

視点8.ひきこもり、不登校の二次的症状から原因を知る

 二次的に生じる精神障害状態がひきこもりのさらなる長期化を生む場合があります。
 

・対人恐怖 

 いじめなどでひきこもりになった場合などに生じます。いじめなどがない場合でも、家にいることで対人関係に不安を感じるようになります。

 

・強迫性障害

 強迫症状が見られることが多く、完璧に整理しないと気がすまない、清潔にしていないと気がすまない、といった本人の強迫観念や行為に家族も巻き込まれることがあります。

 ⇒「強迫性障害を克服するために知っておきたい9つのこと~原因、症状、チェック

 

参考)「国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」 強迫性障害」

 

 

・不眠、昼夜逆転

 生活が不規則になることで自律神経のリズムが乱れて、昼夜逆転したり、不眠が生じることがあります。

 

・退行

 家族に依存した生活をする中で、「幼児がえり」が見られるようになります。年齢よりも幼い行動や考えが見られます。

 

・家庭内暴力

 本人が焦りや不安を暴力という形で家族にぶつける場合があります。

  ⇒「家庭内暴力(子が親や家族に暴力)とは何か?本当の原因と対策」 

 

・被害関係念慮

 近所の人が自分のことを悪く言っている、といった被害妄想です。

 

・うつ状態

 気分の不安や落ち込みが見られることもあります。うつ病とは異なり、移ろいやすいことがあります。

 

・希死念慮、自殺企図

 死ぬことを考えたり、自殺を試みたりといったことも生じます。

 など

 

 

 →ひきこもり、不登校の解決策については、下記をご覧ください。

 ▶「ひきこもり、不登校からの脱出、解決策~初期、長期など対応23のポイント

 

 

 ※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。

(参考)

厚生労働省「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」
荻野達史ほか「「ひきこもり」の社会学的アプローチ」(ミネルヴァ書房)
井出草平「ひきこもりの社会学」(社会思想社)
田中俊英「「ひきこもり」から家族を考える」(岩波書店)
池上正樹「大人のひきこもり」(講談社)
宮淑子「ひきこもり500人のドアを開けた!」(角川書店)
斎藤環「ひきこもりはなぜ「治る」のか?」(筑摩書房)
斎藤環「「ひきこもり」救出マニュアル」(PHP研究所)
斎藤環「「ひきこもり」救出マニュアル実践編」(筑摩書房)
斎藤環「社会的ひきこもり」(PHP研究所)

磯部潮「不登校を乗り越える」(PHP研究所)

丸山康彦「不登校・ひきこもりが終わるとき」(ライフサポート社)
小林高子「不登校になったら最初に読む本」(クロスメディアマーケティング)
菜花俊「不登校から抜け出すたった一つの方法」(青春出版社)
森田直樹「不登校は1日3分の働きかけで99%解決する」(リーブル出版)

境 泉洋, 野中 俊介「CRAFT ひきこもりの家族支援ワークブック―若者がやる気になるために家族ができること」(金剛出版)

村上靖彦「「ヤングケアラー」とは誰か 家族を“気づかう”子どもたちの孤立」朝日新聞出版

山中 浩之, 川内 潤「親不孝介護 距離を取るからうまくいく」日経BP

など