うつ(鬱)病の治し方~公認心理師が解説する16のポイント

うつ(鬱)病の治し方~公認心理師が解説する16のポイント

うつ・気分障害

 近年、うつ病は、専門家でさえも困るほどに定義や対処に混乱が見られます。そのため、うつ病患者が適切な情報を得ることはなかなか大変です。

 今回、医師の監修のもと公認心理師が、うつ病を克服するために大切なことについて、皆様にわかりやすくまとめてみました。よろしければ参考にしてください。

 

 

<作成日2015.12.23/最終更新日2024.3.14>

 ※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。

 

この記事の執筆者

三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師

大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了

20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。

プロフィールの詳細はこちら

   

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 ・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。

 ・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。

 ・可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

もくじ

1.混乱するうつ病治療について患者側もある程度の知識をそなえておく必要がある
2.適切なうつ病の診断~治療の流れを知る

3.自分がうつ病なのか?をまず自分でもチェックしてみる
4.自分は、どのタイプのうつ状態(うつ病)かを知る

5.うつ病の原因についても大切なことを押さえておく
6.うつ病の治療方法~エビデンスから有酸素運動がもっとも有力な方法

7.うつ病は、どのように治っていくのか?
8.典型的なうつ病(重度のうつ病)にしか、抗うつ剤は効果がない

9.セカンドオピニオンを求めることが必要なケース

10.軽症~中等度の場合は、経過の観察と精神療法(有酸素運動を行いながら)が主となる

11.どの程度のうつ病でも、土台にあるのは、生活習慣の改善
12.具体的な症状や環境から治療方針を相談する

13.新型うつ、現代型うつへの対応方法
14.「休養」とは、ただ休むことではない

15.適切なタイミングと方法で勇気づけ、回復を後押しする

16.うつを治すとは、元に戻ろうとすることではなく新たな自分へ変わろうとすることである

 

 

 →うつ(鬱)病の原因などについては、下記をご覧ください。

 ▶「うつ(鬱)病とは何か~原因を正しく理解する9のポイント

 ▶「双極性障害(躁鬱病)とは何か?実は”体質の問題”という正しい診断と理解

 

 

専門家(公認心理師)の解説

 いわゆるうつ病やうつ状態の治療の第一選択は「有酸素運動」ということについてはかなり堅牢なエビデンスがあります。薬物療法との比較実験でも再発などを含め、圧倒的な差で運動療法に軍配が上がります。これは、薬物療法が基本的には脳にのみ作用するのに対し、運動療法は身体全体を健康な状態に向けて代謝させる作用があるためと考えられます。私も、「下手にカウンセリングを受けるくらいなら運動していたほうがよい」とよくご相談者にお伝えいたします。

 一方、運動療法だけでも解決しないものもあります。それは、一つにはトラウマによって生じるものです。特にハラスメント(心理的な呪縛)が関わるものはトラウマケアなどの取り組みも必要となります。あるいは、人生の方向性や自分を見失った結果によるうつ病も、カウンセリングなどの助けを借りて立場から自分を解放させ、人生の方向転換を柔軟に行っていく必要があります。

 あと、いわゆる更年期、外傷(による炎症に絡むうつ症状)などからくる身体的な要因によるうつ状態についても有酸素運動が有効に働くことが考えられます。

上記を行うためのサポートとして、あるいは重度の場合は自殺のリスクを低減するためなどに抗うつ剤など薬物療法が行われていく、という理解をされるとよいかと思います。

 

 

 

1.混乱するうつ病治療について患者側もある程度の知識をそなえておく必要がある

 日本うつ病学会理事長だった、野村総一郎教授も「皮肉なことにうつ病への関心の高まりと比例して、それが大衆化し、それに応じて誤解も広がり、その弊害も大きくなっているように思える」「うつ病を研究している専門家の間ですら、うつ病概念への安直な理解、もっとはっきり言えば誤解がまん延しつつある」(野村総一郎「うつ病の真実」(日本評論社))と述べていますが、現在の日本のうつ病治療は混乱している部分があります。

 なぜそのような状況になったかというと、うつ病は、1980~90年代に普及したDSM(米国精神医学会の診断マニュアル)の影響や2000年代から製薬会社などがSSRIという抗うつ剤の普及のために行った「うつ病は心の風邪」というキャンペーンなどでうつ病の概念と診断基準が拡大したことにあります。

 簡単に言うと、症状だけを見て「うつ病」と判断されるようになってしまったのです。そのため、従来は単なる「憂うつ」とされたことまで何でもかんでもうつ病となってしまい、専門家でさえもその定義に困る事態に陥ってしまいました。

 原因を考慮しない治療はありえませんが、症状だけを見て診断されることが多くなった結果、タイプが異なる抑うつ症状まですべてが同じ「うつ病」とされるようになってしまいました。必要もないケースに抗うつ剤が安易に処方されることもあります。

 それぞれの医師やカウンセラーは患者のためを思い、治療に取り組んでいますいますが、うつ病治療を取り巻く環境が適切な対処を妨げているのです。

 

 うつ病を治すためには、適切なケースに適切な治療を行うことが必要です。患者も混乱に巻き込まれないために、ある程度、うつ病治療の実状を知っておく必要があります。

 

参考)「国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」 うつ病」

 

 

2.適切なうつ病の診断~治療の流れを知る

 いろいろな考え、取り組み方がありますが、うつ病治療は、適切なものの一つには下記のような流れがあります。

 1.まず、自分がうつ病かどうか、うつ病であればその程度、タイプを確認してみる。
 2.うつ病の疑いがあれば、地元の病院で診察を受ける。
 3.軽度の場合は、運動療法を、そして専門のカウンセラーや医師から心理療法(認知行動療法など)、生活改善の指導を受ける。
 4.中等度以上の場合は、医師から薬物療法と生活改善の指導を受ける。※回復期には運動療法を行います。
  ※副作用の説明をしっかり受け、処方については必要最低限の容量であることが望ましい。

 
 実際、イギリスでは、うつ病の治療は、認知行動療法を中心に、上記のような進め方が国家レベルでおこなわれています。

 

 

 

3.自分がうつ病なのか?をまず自分でもチェックしてみる

 まずは、自分がうつ病に該当するのか自ら確認してみることが必要です。下記の症状に当てはまり、特に重度であれば内因性うつ病を疑い、軽度であれば神経症性うつ病あるいは、うつ病ではない可能性を疑うということです。

 

【症状】
 
 下記の症状がある

  ・ほとんど毎日、一日中、何をしても楽しくない、喜びを感じない
  ・ほとんど毎日、一日中、抑うつ気分(絶望感、空虚感)に陥っている

 下記のうち、5つ以上が該当する。 

  ・食欲がない、または食欲が強くなりすぎる
  ・体重が著しく減った。あるいは増加した
  ・眠れない、または眠りすぎる
  ・疲れる、あるいは気力がない
  ・周囲の人も気づくほど、イライラしたり、動作がにぶい
  ・自分は存在価値のない人間、悪い人間だと思う
  ・なかなか考えがまとまらず、集中力や決断力が低下する
  ・繰り返し自殺を考える

 

【継続期間】
 
 下記に当てはまる。
  ・2週間連続でほとんど毎日、一日中続いている
 
 もし以下の場合なら典型的なうつ病ではない可能性があります。
  ・月経の前に始まり、月経後1週間で収まる
  ・産後4週間以内に始まった

 

【程度】

  軽度:仕事や日常生活への支障が少ない

  中等度:本来の能力は発揮できないが、日常生活や仕事はなんとか送ることができる

  重度:仕事、日常生活に著しく支障をきたしている

 

 

 

4.自分は、どのタイプのうつ状態(うつ病)かを知る

 うつ病の原因はタイプによって異なります。自分がどのタイプのうつ病なのかを明らかにすることは適切な治療の近道です。

 会社に行けない、日常生活に支障があるといった重度の場合は迷わず内因性を疑い、病院で相談してください。軽症の場合は、基本的には神経症性うつ病を疑い、まずは休養と運動療法(有酸素運動)、場合によっては心理療法を選択してください。

 

 日本うつ病学会のうつ病治療のガイドラインでも「近年わが国ではうつ病患者が急増しているとされるが、その多くは軽症うつ病、もしくはうつ病と診断される基準以下の抑うつ状態の患者であると推測されている」と述べられているように、うつ病と診断されても、実際はそうではないケースが非常に多いです。

参考)「日本うつ病学会治療ガイドライン」

 

 タイプは通常は、大きく分けて2つです。

 

内因性うつ病

 内因性とは、他の病気や環境、心理的なことが原因ではなく、遺伝的な体質などによって生じるものです。基本的には、思い当たる理由なく生じるのがうつ病ということです。いわゆるうつ病とは内因性うつ病のことを指します。拡大されたうつ病の概念と区別するために、「中核的うつ病」「典型的なうつ病」といった表現をされる場合もあります。

 内因性うつ病は、うつ病になった直接的な原因はわからず(了解不能/断絶)、しいて言えば、「脳(あるいは身体)のくたびれ」で起きると考えられています。脳の神経伝達物質や神経栄養因子など生化学反応の不調や、副腎や甲状腺のホルモンの乱れなどが考えられます。抗うつ剤などが効果を発揮するのは、内因性うつ病になります。 

 

・内因性うつ病の中核的な症状

 うつ病の症状は、さまざまな症状が見られます。その中でも中核的とされる症状は下記のようなものです。

 

【身体症状】

 睡眠障害:寝つきが悪く、眠りが浅く、いつもより2~3時間早く目覚めて眠れなくなることがある。

 ⇒「心の健康に影響する不眠症・睡眠障害~原因とチェック、克服のための10のポイント
 食欲の変化:食べたい気持ちがわかない。食べてもうれしくない。味がわからない。多くの場合で体重が減る。
 体の怠さ:全身が重く、けだるい
 その他:頭が重い、痛い。息苦しい。口が乾く。はき気がする。便秘。性欲の減退。寝汗、など

 

【精神症状】

 関心・興味の減衰:以前であれば興味があったことに関心が向かなくなる。
 意欲・気力の減退:何をするのもおっくうになる。
 知的活動能力の減退:当たり前にできていたことができなくなる。頭に入らなくなる。
 その他:無力感。劣等感。自責感。罪責感。焦燥感。不安。自分や他者への怒り。悲哀感。寂ばく感、など

 

【日内変動】

 日内変動とは、朝起きた時が最も状態が悪く、昼ごろには何度かましになり、夕方には落ち着いている。
 夜になるに連れて元気が出てきて、意欲も感じられるようになるが、眠りが浅く、また朝になって悪くなる、
 といったパターンが代表的とされます。

 日内変動は、神経症性のうつ病には基本的には見られない症状とされます。          

 

神経症性うつ病(抑うつ神経症、反応性うつ病、抑うつ反応)

 心理的な要因、環境的な要因、などで生じるものです。神経症性うつ病の原因は、過大なストレスや心理的な問題と考えられます。この場合は、原因は、ストレスや環境、あるいは、内面にある問題(トラウマなど)が原因です。抗うつ剤はほとんど効果がなく、休息や心理療法が効果を発揮するのが、神経症性うつ病となります。

 かつてであれば、「ノイローゼ」とか、「神経衰弱」といわれていた、病気の手前の不調状態、もこれに当たります。

 ▶「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの原因と克服

 ▶「適応障害とは何か?~その原因を理解する

 ▶「「愛着障害」とは何か?その特徴と悩み、メカニズム

その他

 脳卒中など、脳の病気といった直接的な脳の疾患によるもの(身体因)があります。また、糖尿病、がん、心筋梗塞などが抑うつ症状を招くことがあります。

 

 

 
Point

実際には、内因性とされるうつ病でもよくよく見てみると「人生の方向性や自分を見失った結果によるうつ病」ととらえられるケースは多くあります。区分けは難しいのですが、ただし、上記の区別に意味がないか?といえばそうではなく、区分けを知っておくことはうつ病の理解の助けになります。

 

 

 

 

5.うつ病の原因についても大切なことを押さえておく

  うつ病の原因は一様ではありません。タイプごとに原因も異なります。うつの原因についても、踏まえておくべきいくつかのポイントがあります。

 下記に記事をまとめていますので、そちらをご覧ください。

 ▶「うつ病とは何か~原因を正しく理解する9のポイント

 

 

 

6.うつ病の治療方法~エビデンスから有酸素運動がもっとも有力な方法

 うつ病にはさまざまな治療方法があります。大きくは「運動療法」「薬物療法」「精神療法(心理療法)」が3本柱で、その土台に「休養」「生活習慣の改善」があります。

 
Point

 エビデンスからは、有酸素運動がもっとも有力な方法であり、薬物療法はそれを支えるためのものとして考えられます。重度の場合は薬物療法などで支えながら、回復してきたら有酸素運動などを行っていって回復の起動に乗せていく、生活習慣を整えていく、ということが主要な回復プロセスとして考えられます。

 

運動療法(有酸素運動)

 有酸素運動などを行い、脳機能を改善させるものです。ニューロンの新生が盛んになり、シナプス可塑性も改善されます。神経伝達物質のシステムも変化します。実は統計上、あらゆる療法の中で最も効果が高い方法は運動療法です。副作用もなく、再発もわずかとされます。 

 有酸素運動といってもハードな運動は必要ありません。週に2,3日30分程度ウォーキングを行うだけで大丈夫です。外に出ることが難しい場合は、ヨガ、ピラティスなども効果的です。最近であればYoutubeなどの動画を見ながら簡単に自分でヨガを行うことができます。

 

(参考)運動療法の高い効果

 ある研究者が156名のうつ病患者に協力いただき、運動療法は週三回(準備運動10分、ウォーキングなどを30分、クールダウン5分)行い、10カ月後比較を行いました。その結果、薬物療法では回復が約55%、一部回復が10%弱、再発が40%弱。併用では回復が約60%強、一部回復が10%弱、再発が30%弱。運動療法では回復が約90%弱、一部回復が5%弱、再発が10%弱という結果でした。

 実は薬物療法は、思っている以上に効果が低いことは調査・研究で知られています。認知心理学者の村上宣寛教授は、世の中で当たり前と知られている心理学の知識を上げながら「・うつ病の治療には薬物療法が効果的である」ということについて、「まさかこんな事は信じていないでしょうね」と述べている。

 

 

薬物療法

 脳内の生化学的な不調がうつ病のメカニズムと考えられることから、その不調を改善する目的で行われます。 中等度以上のうつ病(主として内因性)に対しては治療の柱です。抗うつ剤が処方されます。現在は、三環系、四環系と呼ばれる従来の薬に比べて副作用が少ないとされるSSRI(フルボキサミン、パロキセチン、エスシタロプラム、セルトラリンなど)、あるいは、意欲の低下が見られる人にはSNRI(ミルナシプラン、デュロキセチンなど)が用いられます。また、症状に合わせて抗不安薬、睡眠薬なども処方されます。

 

参考)「SSRI 日経メディカル」

 

 

精神療法(心理療法)

 うつ病の背景となる性格、心理傾向や、環境要因への対応改善、再発予防のために行われるのが精神療法です。心理学習、症状の把握、認知の修正などによる社会への適応、抵抗力を身に着けていきます。うつ病全般で柱となる療法です。重度のうつ病では回復期に行うことが一般的です。

 手法としては、認知行動療法や対人関係療法、トラウマ治療(ソマティック・エクスペリエンシング・アプローチ、ハコミセラピー、トラウマ解放エクササイズ、ブレインジム、TFT、フラワーエッセンス、その他トラウマケア、など)、森田療法、家族療法などがあります。

 

▶「マインドフルネスとは何か?~本当の定義、やり方、学び方のまとめ

▶「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの原因と克服

 
Point

 生育歴などを見ながら判断していきますが、子ども自体に家庭や学校でストレスを負ってきた、あるいは会社でのモラハラ、パワハラなどでうつ状態が続く場合は、トラウマケアなどを行って回復を図っていきます。

 

その他

上記以外には、「電気けいれん療法」「磁気刺激療法」「光療法」「断眠療法」などさまざまな方法があります。

 

 

 

 

7.うつ病は、どのように治っていくのか?

 典型的なうつ病とはそもそも、特別な理由なく症状が出て、症状の反復がありながら、次第に自然に回復していくものです。進行性の病気ではなく、症状が一定期間現れる病気であるとされます。

 自然に治るものなのですが、その間の苦しみは想像を絶するものがあります。人によって、数カ月から数年かかることがあります。また自殺のリスクもあります。そのため、薬物や、精神療法の助けを借りて、苦しみを緩和して、回復を助けていきます。

 

 

 

8.典型的なうつ病(重度のうつ病)にしか、抗うつ剤は効果がない

 実は昔から日本の臨床現場では常識として、内因性うつ病には抗うつ剤は効果を発揮するが、神経症性うつ病や軽症うつにはほとんど効果がないということはわかっていました。 神経症性うつ病は、休息と生活習慣の改善、精神療法がおこなわれるものでした。

 しかし、2000年代以降に、SSRIという従来と比較すると副作用が軽減された抗うつ剤が普及すると、うつ病といえばまずは処方されるものとなり近年問題となっています。実際に、さまざまな調査でも明らかになっていますが、抗うつ剤は、うつ病と診断される患者の約2割程度にしか効果がありません。

 たとえば、米国の食品検査局(FDA)のデータにもとづいて2008年に公表された論文よると、抗うつ剤(SSRI)とプラセボ(偽薬)とを比較すると、軽症、中等度の患者では、有意差がなく、最重症でのみ優位差があったということです。

 
 2010年に公表された別の論文でも同様の結果で、プラセボに対する抗うつ剤の効果は「皆無か微小」しかない、との論文が発表されました。調査では、内因性かどうかという区別があるかはわかりませんが、いわゆる中核的なうつ病の割合と重なるのではないかと考えられます。

 日本うつ病学会のうつ病治療のガイドラインでも下記のように述べられています。
 
 「近年わが国ではうつ病患者が急増しているとされるが、その多くは軽症うつ病、もしくはうつ病と診断される基準以下の抑うつ状態の患者であると推測されている」
 「各国のガイドラインやアルゴリズムを俯瞰(ふかん)すると、軽症に対して抗うつ剤を第一選択とせず心理療法やその他の治療方法と優先するものが少なくない」
 「軽症うつ病において、プラセボに対する抗うつ剤の優位性には疑問符がつくことが示されている」

 ただし、処方された薬については自分で中断したり、減薬したりせず服用しましょう。疑問があれば医師に相談するか、セカンドオピニオンを求めましょう。

 

参考)「日本うつ病学会治療ガイドライン」

 

 

 

9.セカンドオピニオンを求めることが必要なケース

 薬物療法も、最初から合う薬を探すのは難しく、通常いくつか薬を試して適合するものを探していきます。さらに、抗うつ剤は、効果が出るまでは2週間程度タイムラグがあることが知られています。一つの薬で6~8週間試してダメなら薬を変えて様子を見ていくことになります。

 基本的に、同じ役割の薬は同時に1種類のみが望ましいとされます。同時に複数の薬を出すと適合や副作用の影響がわからなくなってしまうからです。

 
 同時に3種類以上出る場合は医師の見立てが明確ではない恐れがあります。また、薬は合うかどうかが大事で種類が多ければ効くというものではありません。改善しないと訴えた場合に漫然と処方が増えるようでしたら、セカンドオピニオンを求めましょう

 

 セカンドオピニオンを求めることが適切なのは下記のような場合です。
 (精神科医の井原裕教授の書籍より)

 ・初診で3種類以上だす。
 ・処方した薬の説明をしない。
 ・副作用の説明がない
 ・不調を伝えるたびに薬が増える※1。

 ・治療に関して疑問を伝えると機嫌が悪くなる
 ・薬だけで、助言、指導、提案をしない。
 ・症状ばかりを訪ねて生活を知ろうとしない※2。

 

 ※1.SSRIなど抗うつ剤については、効果が出ない場合は効果が出る最大量まで増やしていくのが通常です。そのために、改善しない場合に処方する量が増えることはおかしなことではありません。

 ※2.日本の病院では、一人の患者に長時間対応することはできません。
  そのため診療時間が短いからという理由だけで医師への不信を抱くことは適切ではありません。

 

 

 

10.軽症~中等度の場合は、経過の観察と精神療法(有酸素運動も)が主となる

 前項で紹介した日本うつ病学会のガイドラインでも、軽症うつ病については、「初診時には、薬物療法は開始せず、傾聴、共感など受容的精神療法と心理教育を開始し、治療経過の中で病態理解を深め」とあるように、軽症うつ病については、経過の観察と精神療法が主となります(有酸素運動を行うことももちろん必要です)。軽症の場合は、うつ病ではない可能性も高いとされます。

参考)「日本うつ病学会治療ガイドライン」

 

 

 

11.どの程度のうつ病でも、土台にあるのは、生活習慣の改善

 うつ病の治療では、薬物療法や心理療法、そして休養ばかりが過度に注目されますが、どのタイプ、どの程度のうつ病でも土台として求められるのは、生活習慣、生活リズムの改善になります。多くの場合、睡眠時間が足りていなかったり、不規則であったりします。飲酒なども悪く影響します。

 薬物療法を行うのであれば、禁酒は必須です。また、睡眠時間も一日7時間は確保できるようにすることが必要です。入眠困難、早朝覚醒なども、睡眠リズムの乱れでおきていることが多いと言われています。

 

 

 

12.具体的な症状や環境から治療方針を相談する

 本記事でも説明させていただいておりますように、一概に「うつ病」といっても、症状の重さや内容によって対応の方法が異なります。また、仕事や家庭などの環境も人それぞれ違います。明らかに重度であれば迷うことなく休養と治療に専念することが必要ですが、グレーゾーンのうつ状態であれば、可能な範囲で日常生活を続けながら、生活改善と精神療法などの治療を受けることが適切と考えられます。 

 具体的な症状から治療方針や職場への伝え方など、医師と相談して決めていくことが必要です。

 

 

 

13.新型うつ、現代型うつへの対応方法

 昨今話題の「新型うつ病(軽症も含む)」についてですが、新型うつについての診断は慎重に行うことが必要です。他の要因で症状が出ているおそれがあるにも関わらず、「うつ病」と診断されるとかえって症状を悪化させてしまうケースがあります。

 また、新型うつの場合は休養が改善のためになるとは限らないとされています。多少つらくても、生活リズムを整えながら、働き続けることが大切です。 
 周囲も、本人の病気を理解しつつ、本人は責めず、どっしりと構えて、本人の認識を徐々にポジティブなものへと変容させていくことが適切です。

 

 

 

14.「休養」とは、ただ休むことではない

 正しく伝わっていないうつ病に関する情報の一つが「休養」についてです。

 「休養」というと、ただ何もせず休むことであると思われています。もちろん、急性期、治療導入の最初の1カ月は心身を休めることが必要です。

 しかし、回復期に入ったら、生活リズム特に睡眠リズムを整えることが重要です。おっくうでも、床に伏せず、散歩(有酸素運動)をしたり、日を浴びたりするなど生活リズムを整えることが求められます。(タイミングや方法は個々のケースによります。)

 ワークスタイル、ライフスタイルと新たなものへと変えて、社会へ復帰していくためのリハビリ期間がほんとうの意味での「うつ病治療の休養」になります。 

 

 

 

15.適切なタイミングと方法で勇気づけ、回復を後押しする

 海外のうつ病治療のガイドラインでは、適切なタイミングで励ますことが示されています。特に回復期などは適切なタイミングで勇気づけて、回復を後押しすることは大切とされます。その際に必要なのは、うつ病は本人のせいではない、ということを前提とすることです。新しい人生の生き方に進むために必要なことが生じているだけととらえて周囲も寄り添う事が必要です。

 (「がんばれ」といった本人にさらなる行動を求めたり、責任を感じさせるような不適切な声掛けは回復期でも避ける必要があります。)

 

 

 

16.うつを治すとは、元に戻ろうとすることではなく新たな自分へ変わろうとすることである

 前回の記事で、「ユウウツが本当に消えるのは、その人が長く追求してきた目的を完全にあきらめ、自分のエネルギーを別の方向に向けるようになった時である」(野村総一郎「うつ病の真実」(日本評論社))ということばを紹介しましたが、うつ病は再発率の高い病です。単に症状を消すことだけを考えるような治療を行うと、再発しやすいと言われます。もし、うつ病のメカニズムが新しい生き方へと切り替えるためにあるのであれば、単に症状が消えただけの回復は目的が達せられたとはいえません。

 一方、生活習慣を改善し、新しい(本来の)スタイルや考え方を身につけるとうつ病の目的は達成されて、再発防止につながると考えられます。

 

 

 

 →うつ病の原因などについては、下記をご覧ください。

 ▶「うつ病(鬱)とは何か~原因を正しく理解する9のポイント

 ▶「双極性障害(躁鬱病)とは何か?実は”体質の問題”という正しい診断と理解

 

 ※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。

参考

山下格「精神医学ハンドブック」(日本評論社)
笠原嘉「うつ病臨床のエッセンス」(みすず書房)
宮岡等「うつ病医療の危機」(日本評論社)
野村総一郎「うつ病の真実」(日本評論社)
神庭重信ほか「現代うつ病の臨床」(創元社)
岡田尊司「うつと気分障害」(幻冬舎)
井原裕「うつの8割に薬は無意味」(朝日選書)
井原裕「生活習慣病としてのうつ病」(弘文堂)
井原裕「激励禁忌神話の終焉」(日本評論社)
大野裕「うつを治す」(PHP新書)
野村総一郎「やさしくわかるうつ病の症状と治療」(ナツメ社)
野村総一郎「ウルトラ図解 うつ病」(法研)
廣瀬久益「完全復職率9割の医師が教える うつが治る食べ方、考え方、すごし方」(CCCメディアハウス)
玉村勇喜「うつ病を心理カウンセリングで治す本」(ほおずき書籍)

池谷敏郎「体内の「炎症」をおさえると、病気にならない!」(三笠書房)

エドワード ブルモア「「うつ」は炎症で起きる」(草思社)

ジョン J. レイティ「脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方」(NHK出版)

など