うつ病を本当に克服するために知っておくべき16のこと(上)

うつ病を本当に克服するために知っておくべき16のこと(上)

うつ・気分障害

 近年、うつ病は、専門家でさえも困るほどに定義や対処に混乱が見られます。そのため、うつ病患者が適切な情報を得ることはなかなか大変です。

 今回、医師の監修のもと公認心理師が、うつ病を克服するために大切なことについて、皆様にわかりやすくまとめてみました。よろしければ参考にしてください。

 

 ⇒関連する記事はこちらをご覧ください。

 「うつ病の真実~原因、症状を正しく理解するための10のこと」

 「双極性障害(躁うつ病)の理解と克服のために大切な4つのポイント」

 

 

<作成日2015.12.23/最終更新日2023.2.6>

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この記事の執筆者

みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師)

大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など

シンクタンクの調査研究ディレクターなどを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら

   

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考に記述しています。

 可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

 

もくじ

1.混乱するうつ病治療について患者側もある程度の知識をそなえておく必要がある
2.適切なうつ病の診断~治療の流れを知る

3.自分がうつ病なのか?をまず自分でもチェックしてみる
4.自分は、どのタイプのうつ状態(うつ病)かを知る

 

5.うつ病の原因についても大切なことを押さえておく
6.うつ病の治療方法

 

 

(下)に続く

[(下)のもくじ]

 7.うつ病は、どのように治っていくのか?
 8.典型的なうつ病(重度のうつ病)にしか、抗うつ剤は効果がない
 9.セカンドオピニオンを求めることが必要なケース
 10.軽症~中等度の場合は、経過の観察と精神療法が主となる
 11.どの程度のうつ病でも、土台にあるのは、生活習慣の改善
 12.具体的な症状や環境から治療方針を相談する
 13.新型うつ、現代型うつへの対応方法
 14.「休養」とは、ただ休むことではない
 15.適切なタイミングと方法で勇気づけ、回復を後押しする
 16.うつを治すとは、元に戻ろうとすることではなく新たな自分へ変わろうとすることである

 

 

うつ状態のイメージ3

 

 

1.混乱するうつ病治療について患者側もある程度の知識をそなえておく必要がある

 日本うつ病学会理事長だった、野村総一郎教授も
「皮肉なことにうつ病への関心の高まりと比例して、それが大衆化し、それに応じて誤解も広がり、その弊害も大きくなっているように思える」
「うつ病を研究している専門家の間ですら、うつ病概念への安直な理解、もっとはっきり言えば誤解がまん延しつつある」(野村総一郎「うつ病の真実」(日本評論社))
と述べていますが、現在の日本のうつ病治療は混乱している部分があります。

 

 なぜそのような状況になったかというと、うつ病は、1980~90年代に普及したDSM(米国精神医学会の診断マニュアル)の影響や2000年代から製薬会社などがSSRIという抗うつ剤の普及のために行った「うつ病は心の風邪」というキャンペーンなどでうつ病の概念と診断基準が拡大したことにあります。

 簡単に言うと、症状だけを見て「うつ病」と判断されるようになってしまったのです。そのため、従来は単なる「憂うつ」とされたことまで何でもかんでもうつ病となってしまい、専門家でさえもその定義に困る事態に陥ってしまいました。

 

 原因を考慮しない治療はありえませんが、症状だけを見て診断されることが多くなった結果、タイプが異なる抑うつ症状まですべてが同じ「うつ病」とされるようになってしまいました。必要もないケースに抗うつ剤が安易に処方されることもあります。

 

 それぞれの医師やカウンセラーは患者のためを思い、治療に取り組んでいますいますが、うつ病治療を取り巻く環境が適切な対処を妨げているのです。

 

 うつ病を治すためには、適切なケースに適切な治療を行うことが必要です。
患者も混乱に巻き込まれないために、ある程度、うつ病治療の実状を知っておく必要があります。

 

 家を買う時も、専門家である業者に任せずに、買う側もある程度の知識を得るように、
 患者側もある程度の知識を持ったうえで、専門家である医師やカウンセラーと一緒に取り組むことがとても大事です。

 

 そのためには、原因について、適切な知識を持ち、専門家に対しても質問をしながら自分がどのタイプのうつ病で、何が原因と考えられるのかを見極めていきましょう。

 

参考)「厚生労働省 みんなのメンタルヘルス うつ病」

 

 

2.適切なうつ病の診断~治療の流れを知る

 いろいろな考え、取り組み方がありますが、うつ病治療は、適切なものの一つには下記のような流れがあります。

 1.まず、自分がうつ病かどうか、うつ病であればその程度、タイプを確認してみる。
 2.うつ病の疑いがあれば、地元の病院で診察を受ける。
 3.軽度の場合は、専門のカウンセラーや医師から心理療法(認知行動療法など)、生活改善の指導を受ける。
 4.中等度以上の場合は、医師から薬物療法と生活改善の指導を受ける。
  ※副作用の説明をしっかり受け、処方については必要最低限の容量であることが望ましい。

 
 実際、イギリスでは、うつ病の治療は、認知行動療法を中心に、上記のような進め方が国家レベルでおこなわれています。

 

 

 

3.自分がうつ病なのか?をまず自分でもチェックしてみる

 まずは、自分がうつ病に該当するのか自ら確認してみることが必要です。

 下記の症状に当てはまり、特に重度であれば内因性うつ病を疑い、軽度であれば神経症性うつ病あるいは、うつ病ではない可能性を疑うということです。

 

【症状】
 
 下記の症状がある

  ・ほとんど毎日、一日中、何をしても楽しくない、喜びを感じない
  ・ほとんど毎日、一日中、抑うつ気分(絶望感、空虚感)に陥っている

 下記のうち、5つ以上が該当する。 

  ・食欲がない、または食欲が強くなりすぎる
  ・体重が著しく減った。あるいは増加した
  ・眠れない、または眠りすぎる
  ・疲れる、あるいは気力がない
  ・周囲の人も気づくほど、イライラしたり、動作がにぶい
  ・自分は存在価値のない人間、悪い人間だと思う
  ・なかなか考えがまとまらず、集中力や決断力が低下する
  ・繰り返し自殺を考える

 

【継続期間】
 
 下記に当てはまる。
  ・2週間連続でほとんど毎日、一日中続いている
 
 もし以下の場合なら典型的なうつ病ではない可能性があります。
  ・月経の前に始まり、月経後1週間で収まる
  ・産後4週間以内に始まった

 

【程度】

  軽度:仕事や日常生活への支障が少ない

  中等度:本来の能力は発揮できないが、日常生活や仕事はなんとか送ることができる

  重度:仕事、日常生活に著しく支障をきたしている

 

 

 

4.自分は、どのタイプのうつ状態(うつ病)かを知る

 うつ病の原因はタイプによって異なります。
 自分がどのタイプのうつ病なのかを明らかにすることは適切な治療の近道です。

 会社に行けない、日常生活に支障があるといった重度の場合は迷わず内因性を疑い、病院で相談してください。
 軽症の場合は、基本的には神経症性うつ病を疑い、まずは休養と心理療法を選択してください。

 

 日本うつ病学会のうつ病治療のガイドラインでも
 「近年わが国ではうつ病患者が急増しているとされるが、その多くは軽症うつ病、もしくはうつ病と診断される基準以下の抑うつ状態の患者であると推測されている」
 と述べられているように、うつ病と診断されても、実際はそうではないケースが非常に多い。

参考)「日本うつ病学会治療ガイドライン」

 

 タイプは通常は、大きく分けて2つです。

 

内因性うつ病

 内因性とは、他の病気や環境、心理的なことが原因ではなく、遺伝的な体質などによって生じるものです。

 基本的には、思い当たる理由なく生じるのがうつ病ということです。いわゆるうつ病とは内因性うつ病のことを指します。拡大されたうつ病の概念と区別するために、「中核的うつ病」「典型的なうつ病」といった表現をされる場合もあります。

 

 内因性うつ病は、うつ病になった直接的な原因はわからず(了解不能/断絶)、しいて言えば、「脳(あるいは身体)のくたびれ」で起きると考えられています。
 脳の神経伝達物質や神経栄養因子など生化学反応の不調や、副腎や甲状腺のホルモンの乱れなどが考えられます。
        
 抗うつ剤などが効果を発揮するのは、内因性うつ病になります。 

 

 

・内因性うつ病の中核的な症状

 うつ病の症状は、さまざまな症状が見られます。その中でも中核的とされる症状は下記のようなものです。

 

【身体症状】

 睡眠障害:寝つきが悪く、眠りが浅く、いつもより2~3時間早く目覚めて眠れなくなることがある。

 ⇒「心の健康に影響する不眠症・睡眠障害~原因とチェック、克服のための10のポイント
 食欲の変化:食べたい気持ちがわかない。食べてもうれしくない。味がわからない。多くの場合で体重が減る。
 体の怠さ:全身が重く、けだるい
 その他:頭が重い、痛い。息苦しい。口が乾く。はき気がする。便秘。性欲の減退。寝汗、など

 

【精神症状】

 関心・興味の減衰:以前であれば興味があったことに関心が向かなくなる。
 意欲・気力の減退:何をするのもおっくうになる。
 知的活動能力の減退:当たり前にできていたことができなくなる。頭に入らなくなる。
 その他:無力感。劣等感。自責感。罪責感。焦燥感。不安。自分や他者への怒り。悲哀感。寂ばく感、など

 

【日内変動】

 日内変動とは、朝起きた時が最も状態が悪く、昼ごろには何度かましになり、夕方には落ち着いている。
 夜になるに連れて元気が出てきて、意欲も感じられるようになるが、眠りが浅く、また朝になって悪くなる、
 といったパターンが代表的とされます。

 日内変動は、神経症性のうつ病には基本的には見られない症状とされます。          

 

神経症性うつ病(抑うつ神経症、反応性うつ病、抑うつ反応)

 心理的な要因、環境的な要因、などで生じるものです。神経症性うつ病の原因は、過大なストレスや心理的な問題と考えられます。この場合は、原因は、ストレスや環境、あるいは、内面にある問題(トラウマなど)が原因です。抗うつ剤はほとんど効果がなく、休息や心理療法が効果を発揮するのが、神経症性うつ病となります。

 

 かつてであれば、「ノイローゼ」とか、「神経衰弱」といわれていた、病気の手前の不調状態、もこれに当たります。

その他

 脳卒中など、脳の病気といった直接的な脳の疾患によるもの(身体因)があります。また、糖尿病、がん、心筋梗塞などが抑うつ症状を招くことがあります。

 

 

 

5.うつ病の原因についても大切なことを押さえておく

  うつ病の原因は一様ではありません。タイプごとに原因も異なります。うつの原因についても、踏まえておくべきいくつかのポイントがあります。

 下記に記事をまとめていますので、そちらをご覧ください。

 「うつ病の真実~原因、症状を正しく理解するための10のこと」

 

 

 

6.うつ病の治療方法

 うつ病にはさまざまな治療方法があります。大きくは「薬物療法」「精神療法(心理療法)」「運動療法」が3本柱で、その土台に「休養」「生活習慣の改善」があります。
 

薬物療法

 脳内の生化学的な不調がうつ病のメカニズムと考えられることから、その不調を改善する目的で行われます。

 中等度以上のうつ病(主として内因性)に対しては治療の柱です。

 

 抗うつ剤が処方されます。現在は、三環系、四環系と呼ばれる従来の薬に比べて副作用が少ないとされるSSRI(フルボキサミン、パロキセチン、エスシタロプラム、セルトラリンなど)、あるいは、意欲の低下が見られる人にはSNRI(ミルナシプラン、デュロキセチンなど)が用いられます。

 また、症状に合わせて抗不安薬、睡眠薬なども処方されます。

 

参考)「SSRI 日経メディカル」

 

 

精神療法(心理療法)

 うつ病の背景となる性格、心理傾向や、環境要因への対応改善、再発予防のために行われるのが精神療法です。心理学習、症状の把握、認知の修正などによる社会への適応、抵抗力を身に着けていきます。

 

 うつ病全般で柱となる療法です。重度のうつ病では回復期に行うことが一般的です。

 手法としては、認知行動療法や対人関係療法、トラウマ治療(ソマティック・エクスペリエンシング・アプローチ、ハコミセラピー、トラウマ解放エクササイズ、ブレインジム、TFT、フラワーエッセンス、その他トラウマケア、など)、森田療法、家族療法などがあります。

 

⇒「マインドフルネスとは何か?~本当の定義、やり方、学び方のまとめ

⇒「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの原因と克服

 

運動療法

 有酸素運動などを行い、脳機能を改善させるものです。ニューロンの新生が盛んになり、シナプス可塑性も改善されます。神経伝達物質のシステムも変化します。

 実は統計上、あらゆる療法の中で最も効果が高い方法は運動療法です。副作用もなく、再発もわずかとされます。 

 

(参考)薬物療法と運動療法と併用との効果の比較

 ある研究者が156名のうつ病患者に協力いただき、運動療法は週三回(準備運動10分、ウォーキングなどを30分、クールダウン5分)行い、10カ月後比較を行いました。その結果、薬物療法では回復が約55%、一部回復が10%弱、再発が40%弱。併用では回復が約60%強、一部回復が10%弱、再発が30%弱。運動療法では回復が約90%弱、一部回復が5%弱、再発が10%弱という結果でした。

 

 実は薬物療法は、思っている以上に効果が低いことは調査・研究で知られています。認知心理学者の村上宣寛教授は、世の中で当たり前と知られている心理学の知識を上げながら「・うつ病の治療には薬物療法が効果的である」ということについて、「まさかこんな事は信じていないでしょうね」と述べている。

 

その他

上記以外には、「電気けいれん療法」「磁気刺激療法」「光療法」「断眠療法」などさまざまな方法があります。

 

 

 

(下)に続く:典型的なうつ病にしか抗うつ剤は効果がない、など

 

 

 

 ⇒関連する記事はこちらをご覧ください。

 「うつ病の真実~原因、症状を正しく理解するための10のこと」

 「双極性障害(躁うつ病)の理解と克服のために大切な4つのポイント」

 

 
 
 
 

 

 

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参考

山下格「精神医学ハンドブック」(日本評論社)
笠原嘉「うつ病臨床のエッセンス」(みすず書房)
宮岡等「うつ病医療の危機」(日本評論社)
野村総一郎「うつ病の真実」(日本評論社)
神庭重信ほか「現代うつ病の臨床」(創元社)
岡田尊司「うつと気分障害」(幻冬舎)
井原裕「うつの8割に薬は無意味」(朝日選書)
井原裕「生活習慣病としてのうつ病」(弘文堂)
井原裕「激励禁忌神話の終焉」(日本評論社)
大野裕「うつを治す」(PHP新書)
野村総一郎「やさしくわかるうつ病の症状と治療」(ナツメ社)
野村総一郎「ウルトラ図解 うつ病」(法研)
廣瀬久益「完全復職率9割の医師が教える うつが治る食べ方、考え方、すごし方」(CCCメディアハウス)
玉村勇喜「うつ病を心理カウンセリングで治す本」(ほおずき書籍)

池谷敏郎「体内の「炎症」をおさえると、病気にならない!」(三笠書房)

エドワード ブルモア「「うつ」は炎症で起きる」(草思社)

ジョン J. レイティ「脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方」(NHK出版)

など