リストカット、自傷行為の本当の心理、原因・理由とその対応

リストカット、自傷行為の本当の心理、原因・理由とその対応

ハラスメント・生きづらさトラウマ、ストレス関連障害

 

 医師の監修のもと公認心理師が、リストカットなど自傷行為の原因、心理、そして対応についてまとめてみました。

 

<作成日2015.12.10/最終更新日2023.2.6>

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この記事の執筆者

みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師)

大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など

シンクタンクの調査研究ディレクターなどを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら

   

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

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 管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考に記述しています。

 可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

もくじ

リストカットなど自傷行為とは何か?
なぜ、リストカット、自傷行為を行うのか?その原因とメカニズム

リストカット、自傷行為を解決する方法

 

 

 

リストカットなど自傷行為とは何か?

・リストカット、自傷行為の定義

 リストカットなど自傷行為とは、自分に起こるどうしようもない感情を、自分を傷つけることでコントロールしようとすることです。自殺を目的とはしておらず、直接的に自らを傷つけるものを指します(暴飲暴食など長期的に自らを損ねるような行為は狭義の自傷行為には含まれません)。

 

 手首、腕、足など部位はさまざまで、例えば、腕の場合はアームカットとも呼ばれますが、自傷行為を代表する呼び名としてリストカット(リスカ)が知られています。

 

 

・自傷行為の種類

・自傷行為の方法としては、

 ・自らの身体を刃物で切る
 ・自らの身体を殴る
 ・手などをホチキスで傷つける
 ・壁を殴る/物を壊す
 ・タバコを自分に押し当てる
 ・頭を壁にぶつける
 ・皮膚をかきむしる
  など

 

・部位は、

 「手首」「腕」が最も多く
  ついで
 「手のひらや手の甲」「太もも」「すね」「胸」「お腹」
  など

 

・道具は、

 「カッター」「ナイフ」「カミソリ」「針」「筆記用具」「爪」「歯」
  などです。

 ただちに自殺に結びつかないものが多い。

 

 

 

 

なぜ、リストカット、自傷行為を行うのか?その原因とメカニズム

・リストカット、自傷行為は異常な行動ではない

 まず、前提として踏まえておかなければならないことは、リストカットなど自傷行為とは過大なストレスに対する正常な反応の結果として生じているということです。異常心理の結果などではありません。

 私たちも同じようなことは目にしています。

 

・日常的にある自傷行為

 例えば
 プロ野球の中継で、途中降板した投手が、ベンチに帰って激高してグラブを投げつけたり、

 備え付けの扇風機を壊したりする場面をご覧になった方はいらっしゃるのではないでしょうか?
 中には、ベンチを素手で殴って自分の手を負傷した投手もいます。
 気性の激しい監督がベンチを蹴りつけている場面もあります。

 

 また、テニスの試合でうまくいかない場面で、ラケットを破壊してしまう選手がいます。
 
 イライラして、他人に当たる、罵倒する人はあちらこちらにいます。

 これらは異常心理でしょうか?

 対象が、自分に向かうか他者に向かうかの違いでしかありません。
 他者を傷つけるほうがよほど異常で悪質な行為とも言えます。

 

 リストカットまでには至らなくても、自分の頭を殴りつけたり、身体を殴ったりしたことがある人は多いのではないでしょうか?言葉で自分のことを罵倒したり、大声を出して発散したり、ということもあります。

 

 

・リストカットに至るか否かの違いとは?

 リストカットなどの自傷行為に至るか否かの違いは、自らに降りかかっているストレスの過大さと、他に発散する術のありなしという点です。

 

 

・異常心理ではない

 他人やものではなく自分というのは、ある意味それだけ、自制や社会性を有しているとも言えるのです。この点からも異常心理などというのは全く当たらないのです。

 ある調査によると、中高生の1割が自傷を経験しているといわれています。ごく身近なものです。

 

 

・リストカット、自傷行為の効果

 リストカットを行う効果として指摘されているのは、自らを傷つけると鎮痛効果として、脳内でエンドルフィンやエンケルファリンという麻薬性の脳内物質が分泌されることがわかっています。心の痛み、つらい感情を紛らわせるために、自らを傷つけているのでは、と考えられています。※快感を得るといったマゾヒスティックな理由ではありません。

 

 

・自傷をして本人は痛くないのか?

 自傷行為を経験する多くの人は、
 「切ると気持ちが落ち着く」
 「スーッとする」
 「元気が出る」
 「自分を取り戻すことができる」といいます。

 鎮痛効果もありますが、血を見ることで、解離した意識が現実に戻るといった効果もあります。

 

 また、自傷する瞬間を覚えておらず、気がついたら傷つけていた、といったケースもあります。この場合、解離といいますが、トラウマがひどい場合に意識が解離して無意識に自傷行為を行い、再び意識が戻ってきている状態です。

 

 

・リストカット、自傷行為の理由、原因

 リストカットの原因は、現実的/内面的な環境にあります。

 ・家庭や職場で現実に生じているストレスフル(支配的、否定的)な環境
 ・理不尽な養育(規範、常識)、いじめなど生きてくる中で内面化した環境
 
 などによって普通では対処できないようなストレスがもたらす不快な感情を処理するために、自らを傷つけて心の痛みを和らげているのです。

  
 別の言い方では、心の痛みを体の痛みに置き換えている、心の痛みにふたをしているともいえます。体の痛みにすることで、コントローラブルにできるのです。

 トラウマなどに苛まれている場合は、切ることで、心の痛みを隔壁のように切り分けています。

 
 また、リストカットを行う人は、信頼できる人が周囲にいなかったり、信頼できる人がいても、自尊感情が低く相談できない、あるいは、過去に相談して幻滅したことがある人が多く、人に助けを求めることができなくさせられています。

 本人から見ると人は裏切りますが自傷は裏切らず痛みを収めてくれるために、自傷に頼らざるを得なくなっているのです。

 

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・アピールするために行っているのではない~孤独な対処策

 よく、リストカットなど自傷行為は、他人の気を引くため、かまってほしいために行っている、と誤解されますが、アピールのために行っているのではありません。

 実際は、
 繰り返される自傷の96%は、一人で、誰にも伝えないでおこなわれています。

 
 人にわかってほしいと思っていても、アピールのためではないのです。
 アピールしていると思うような場面は、思わず人に自傷行為がバレてしまった場合などです。
 

 

 

・自傷の部位と背景との関係

 自傷する部位によって、その背景や状況をうかがうことができます。もちろん、タイプに分けることが当てはまらない人がいることは前提です。(内容は、松本 俊彦氏の著書によります)

 

・腕だけ切る人は、深い感情をおさえるためであり、回数も多く、習慣化していることが多いとされます。
 ストレスがたまると離人症、解離を起こすこともあります。自傷の際に何も感じない、覚えていないのはこのタイプが多いとされます。

 

・手首だけの人は、習慣性や回数も少なく、死ぬことを目的に切っている人もいます。

・両方の人は、両方の特徴を持ち、うつ状態が深刻な人が多いとされます。

 

・その他の部位など箇所が多い場合 鎮痛効果が減弱してエスカレートしている可能性が高いとされます。

・極まれにぜい弱な箇所を切っている人もいます。その際は、深刻な精神障害にり患している可能性もあります。

 

・人目につく箇所に傷がある人は、コントロールできなくなってきている可能性もあるため、より深刻です。

・まれに服で隠れる場所にはないが隠れない場所に小さな傷がある場合は、人に気づいてほしいというケースです。

 

・リストカットしている人の6割は、リストカット以外の方法でも自傷しています。
  (例えば、とっさに爪で腕をかいたり、握りこぶしの中で爪を立てる、指をかじるなど)

 

 

・自傷はエスカレートする

 自傷行為は、鎮痛効果が徐々に落ちてきたり、頻繁に行う箇所は皮膚が硬くなってくるため、傷が深くなったり、場所が変わるなどエスカレートしてしまいます。

 

 また、ささいな出来事でも癖のように行うようになってしまいます。エスカレートしてくるとコントロールできなくなる恐れもあります。

 自傷行為をしても、現実そのものは改善されないので、ますます状況に追い込まれることも多く、それもエスカレートの原因です。

 

 短期的には、ストレスから逃れるためのやむを得ない対処ですが、中長期では、場合によっては深く傷つけてしまうなど命にかかわる恐れもあることでもあります。

 

(参考)自傷行為と自殺との違い

 自傷行為と自殺の違いは目的の違いです。自殺が苦しみの解決策として、死を求めて行っているのに対して、自傷行為は、自らを取り戻すことを目的として行っています。直接的に死につながらないと知ったうえで行っていることが多いのです。(エスカレートして結果的に死を招く場合はあります)

 自傷行為を行う人の長期的な自殺リスクは、そうでない人の10年以内の自殺既遂で400~700倍におよぶともされます。なぜなら、それだけ困難な状況にあることと身体を傷つけることへの抵抗感が少なく自殺へのハードルが低くなるためです。長期的には自殺に結びついてしまうおそれがあります。

 

 

 

リストカット、自傷行為を解決する方法

 基本的に、自傷行為自体は異常ではありません。無理にやめなくても構いません。
 なぜなら、無理にやめても根本原因となる環境がそのままであれば、その人を守るものがなくなってしまうからです。
 

 中長期で見た時には、エスカレートの危険もあるため、自傷行為そのものを止めるというよりも居ても立ってもいられない感情を生む根本原因である環境を変えていくことが必要です。

 

 

 

 

・中長期での取り組み~本質的な改善にむけて

●現在の環境を変える

 現在起きている環境が原因の場合は、その環境から離れることがまず大切です。
 特に、自分を支配したり、否定したりする人間関係や環境からは離れることを考えましょう。
 見捨てられる不安もあるかと思いますが、離れることで新しい心地の良い関係が始まります。

 

 家庭で毎日のように罵倒するような親と同居したり、職場でパワハラを受けている、といった方はとても多いのです。その場合は、家から出る、異動、転職するということを試みることです。

 

 もちろん、簡単ではないでしょう。ただ、理不尽な環境を生んでいるのが人間である場合、相手は待っていても容易には変わりません。自分から環境を選択して、自分にとって心地の良い居場所を見つける取り組みを始めてください。

 

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●内面化された環境を変える

 内面化された環境とは、周囲から教えられた常識や規範、あるいは記憶のことです。

 支配的、否定的な理不尽な環境では、本人をおとしめるような常識を強制されていることがあります。いじめを受けた人が「気持ち悪い」と言われ続ければ、本人の内面では常に「自分は気持ち悪い」という言葉がこだまして苦しめ続けます。理不尽な出来事の記憶は断片化して意識化に残り、現在進行形で再上演され本人を苦しめ続けます。

 処理されずに意識下に残った記憶のことをトラウマと言います。
 トラウマがあると、自分や他人を信頼できなくなり、過剰適応や脳の過活動などさまざまな問題を引き起こしてしまいます。まさに、自傷行為の根本要因とも言えるものです(自分や他人を信頼できない状態を「愛着障害」とも言います。)

 
 トラウマ、愛着障害を解消には、専門の治療(ソマティック・エクスペリエンシング・アプローチ、ハコミセラピー、トラウマ解放エクササイズ、ブレインジム、TFT、フラワーエッセンス、その他トラウマケアなど)を受ける必要があります。特に解離がある場合は治療は必須です。

 

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 トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの原因と克服

 「愛着障害」とは何か?その特徴と悩み、メカニズム

 

(参考)関連する精神障害

 自傷行為を行う人は、うつ病と関係していることも多いとされます。
 その場合は、うつ治療もあわせて行う必要があります。

 また、摂食障害とも関連性が高く、自傷を中止すると摂食障害が生じるといったことも多い。

⇒「うつ病の真実~原因、症状を正しく理解するための10のこと

⇒「摂食障害とは何か?拒食、過食の原因と治療に大切な7つのこと

 

・短期での取り組み~自傷行為をコントロールするために

・自傷に関する記録をつける

 どういった時に自傷行為を行うのか?
 どういった感情なのか?
 そのきっかけとなっている出来事は何か?
 自傷までの時間、回数などを記録してください。

 また、自傷しなかった時があればそれも記録してください。

 以上のようにすることで、自傷のきっかけとなる出来事に遭遇する前に回避できます。

 

 

・日記をつける

 自傷行為をしたくなったら、その状況、感情を記録する。
 かなりすっきりします。

 

 

・認知行動療法を行う

 ストレスに対する考え方や反応を適切にしていくことに役立ちます。
 方法を解説した書籍が販売されていますので、お求めになって、取り組んでみてください。

 

 

・リストカットする箇所を、アルコールで拭く

 精神科医の神田橋條治氏によると、腕など普段リストカットする箇所を、焼酎など度数が高いアルコールで拭くのも効果的だとされます。

 

 

・スナッピング(輪ゴムを弾く)

 輪ゴムを腕に向かって弾く痛みで自傷行為の代わりとなります。

 

 

・香水やアロマオイルなどを嗅ぐ

 嗅覚を刺激することで、感情をそらす効果があります。

 

 

・氷を握りしめる

 

・腕を水性の用具などで赤く塗りつぶす

 
・大声で叫ぶ

 カラオケボックスなどで大声で叫ぶことで感情をそらすことができます。

 

 

・楽器を弾いたり、ゲームをしたりする

 

・運動をする

 運動はあらゆる心理的な悩みにおすすめとなる方法です。
 単なる気晴らしではなく、ホルモンのバランスを整える効果もあります。

 

 

・マインドフルネスなどの瞑想を行う

 精神を落ち着けるだけではなく、自ら状態を客観的に捉えることにもつながります。また、意識が嫌なことに向かいにくくもなります。

 

 ⇒関連する記事はこちら

  マインドフルネスとは何か?~本当の定義、やり方、学び方のまとめ

 

 

・薬物療法

 自傷行為そのものを治す薬は存在しません。
 ただ、どうしようもない感情を和らげる効果があります。
 感情の程度がひどい場合は、病院などで相談しましょう。

 

 

・アルコールを控える

 アルコールを摂取した状態は、自傷行為がエスカレートすることが多いため、アルコールは避ける、控えるようにしてください。 

 

 

 

 

・周囲の人はどのように対処、サポートすればいいのか?

 自傷行為には下記のような態度が求められます。

 冷静で穏やかな態度をもって、自傷に至る自傷への理解、理解をする。
 自傷行為を告白、相談してくれた場合は、その行為をねぎらってあげてください。

 

 一方、不適切な対応としては、
 ・驚いたり、言葉を失う
 ・気味悪そうな、けげんそうな表情
 ・しっせき、非難、停止の約束
 ・同情、優しく対応
 ・見て見ぬふり
 などが挙げられます。

 

 本人は、やりたくてやっているわけではなく、どうしようもなく追い込まれているのです。本人に責任を帰すようなしっせきや非難はもってのほかで、本人が異常であるかのような反応も不適切なのです。

 

 本人をとりまく環境がいかにひどいものか?ひどかったのか?について理解してあげてください。自傷行為をすぐに止めさせようとしないでください。
 大元の問題が解決するまで、自傷行為はその人にとって必要なことなのです。その上で、エスカレートした場合の心配を伝えてください。それ以上の専門的な対処は必要ありません。

 

 必要であれば、カウンセラーや、地域の保健所や、精神保健福祉センターに相談してみることです。

(参考)

 「全国 精神保健センター 一覧

 「全国 保健所 一覧

 

 

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(参考)

林直樹「リストカット・自傷行為のことがよく分かる本」(講談社)
松本俊彦「自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント」(講談社)

井原裕「激励禁忌神話の終焉」(日本評論社)

神田橋條治、白柳直子「神田橋條治の精神科診察室」(IAP出版)

 など