今回は、医師の監修のもと公認心理師が、境界性パーソナリティ障害について、その原因や治療や接し方で大切なポイントについてまとめてみました。よろしければご覧ください。
関連する記事はこちら
→「境界性パーソナリティ障害を正しく理解する7つのポイント~原因と治療」
→「パーソナリティ障害の正しい理解と克服のための7つのポイント」
→「パーソナリティ障害の10のタイプと特徴をわかりやすく解説」
<作成日2019.9.18/更新日2023.2.6>
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この記事の執筆者みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師) 大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など シンクタンクの調査研究ディレクターを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら |
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この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
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管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考に記述しています。
可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
1.境界性パーソナリティ障害は一時的な“状態”であり、治るものである
2.自分の状態を知る
3.症状を外部化する~「ネーミング」と「虫退治」の効用
4.自分は大丈夫だと知る
5.親へのわだかまりや過度の理想化、罪悪感などを解消する
6.世間の常識ではなく、自分のペースが大切
7.良い自分と悪い自分を両方併せ持ったありのままの自分へと成長する
8.他人は自分とは関係なく動いていると知る
9.現在の環境の改善にも注意を払う
10.生活習慣を整える
11.パニック症状や自傷行為などは、専門の対処法を用いる
<家族や知人がパーソナリティ障害の場合>
12.周囲は安定した一貫した関心を向け続ける
13.枠組みをもってかかわる
14.無理に治そうとするより、安全基地になる
・境界性パーソナリティ障害の主な治療方法
→「境界性パーソナリティ障害を正しく理解する7つのポイント~原因と治療」にもどる
1.境界性パーソナリティ障害は一時的な“状態”であり、治るものである
ある研究によれば、境界性パーソナリティ障害の患者は、1年後には約6割が、6年後に診断すると約7割が診断基準を満たさなくなっていることが分かっています。数字を見れば、想像以上に改善は早いといえますし、ほとんどのケースは治っていくものです。
また、「晩熟」現象といいますが、歳とともに成熟していき、症状がなくなっていくことがあります。境界性パーソナリティ障害はちゃんと治るものだということを知ることが大切です。(世の中では、治らないという否定的な見解も多く見聞きしますが、とらわれないことが大切です。)
2.自分の状態を知る
自分がどういった感情や思いにとらわれているのかを客観的に知ることは大変有効です。自分の状態を知るためには2つの面を捉えます。
・自分はどんな感情や思考にとらわれているのか?
・自分はどんな行動をとっているのか?
そのためには、ノートに自分の感情や思考、行動について日記をつけることが有効です。もちろんアプリやパソコンを用いてもでも構いませんが、手を動かすことが感情の発散につながるため、手書きでノートにつづることをおすすめいたします。
1.どのような状況、出来事(きっかけ)があり、
2.どのような感情がわいてきたのか?
3.どのような思考(自動思考)が沸いてきたのか?
4.どのような行動をとった(とろうとした)のか?
5.3,4について、反論や合理的な思考や行動を書きます。
境界性パーソナリティ障害の方は、二文法的思考のような極端な思考を持ちがちです。何ごとも、全体化した、ほどほどの認識を持つことが大切です。
ノートに書くという作業は自傷行為の代替行動としても有効です。
衝動性や否定的な感情を緩和するためにはマインドフルネスを行うことも有効です。
こちらを参考にしてください。
⇒「マインドフルネスとは何か?~本当の定義、やり方、学び方のまとめ」
3.症状を外部化する~「ネーミング」と「虫退治」の効用
自分が抱える思考や感情のパターンを「~~病」といったように「ネーミング」を行うことはとても有効です。例えば、ちょっとしたことで、「自分は誰からも愛されていない」と落ち込みやすいのであれば、そうした状態を「どうせ誰も愛してくれない病」とネーミングするのです。ネーミングすると、あいまいな問題がパッケージ化されるとともに、症状と自分とがイコールではなくなり、外部に置いて対象化することができます。
別の例では、感情的になりやすい状態にある人が、これまでだったら巻き込まれるように感情的になり、本人も周囲も手に負えなくなるところを、その状態をネーミングがすることで「私はいま、〝感情的になっている病”なの」というように症状を自分と切り離し、周囲も一緒に対象化することができます。本人も自分の症状と人格と同一視されることがなく、傷つくことがありません。
これを専門用語では「外部化(外在化)」といい、カウンセリングでは問題解決の必須プロセスの一つとされるものです。
同じような方法に「虫退治」というものがあります。これはブリーフセラピーにおいて用いられる方法です。龍谷大学の東豊先生によって考案された方法です。
例えば、境界性パーソナリティ障害のパートナーがいらっしゃった場合に、感情的になりやすい状態を「イライラ虫が付いた」と命名します。家族も本人も、「イライラ虫がどこかに行くといいね~」と一緒に毎晩祈ります。イライラしても「イライラ虫がついているみたいだね~」と話題にします。「イライラ虫よどこかに行ってしまえ」と本人もイメージします。そうすることで、「本人が感情的になっている」ではなく、「イライラ虫が家族についている」というように、問題と責任が本人の外に出て、家族も一緒に同じ対象に向かって取り組むことができるようになります。本人も自分の存在を守ろうとして抵抗したり、問題状況が維持され続けるという悪循環に陥ることもありません。
非常に短期間に問題が解決する方法として知られています。
4.自分は大丈夫だと知る
境界性パーソナリティ障害の根底には、自分は生きる価値がない、自分はおかしい、という強い自己否定や罪悪感があります。そのため、自分の欠点を直そう、という方法で取り組んでしまうと「自分は価値がない」という前提を強めることになり、症状が遷延化してしまう恐れがあります。問題行動を逐一治すことよりも、自分は大丈夫だと思うことが何よりも大切です。
逆説的に見えますが、このことは大変重要なポイントです。すべては成長する過程で背負わされた環境からの影響のせいで、自分は何も悪くないと肯定的に考えることができます(これも外部化です)。
5.親へのわだかまりや過度の理想化、罪悪感などを解消する
境界性パーソナリティ障害の特徴の一つともいえるのが、親へのこだわり、わだかまりです。親からされた理不尽な言動やについての強いわだかまりを持つタイプもいれば、つらい体験を見ないために、親を実際以上に理想的な存在としてとらえてしまっている人もいます。親への罪悪感を抱えて献身的に親に尽くそうとする人もいます。
特に怒りなどの否定的な感情は一度発散させる必要があります。
発散させずに認知療法や許しといった取り組みを行おうとしてもなかなかうまくいきません。親へのわだかまりや否定的な記憶はトラウマケアなどによって解消できます。
そのうえで、否定的な体験からも学ぶことはなかったかと考えたり、相手も等身大の人間として未熟ゆえに起きたことだ、として親への評価を見直していきます。
6.世間の常識ではなく、自分のペースが大切
パーソナリティ障害の方は、わがままどころか、世間の常識や規範といったものを強く意識しています。例えば、世の中の人は働いているのに自分は働いていない、ということが気になることがあるかもしれません。友達は子どもがいるのに私には子どもはおらず悩みで苦しんでいる、というようなことが気になっているかもしれません。
しかし、他人は他人、自分は自分です。周囲や世間の常識は関係ありません。大切なのは自分の人生であり、自分のペースです。同じように横並びで進級する子どもと違って、大人になると自分に必要なタイミングでさまざまなイベントがやってくるものです。若くして亡くなる人もいれば、100歳まで生きる人もいます。働くタイミングもさまざまです。誰かと競争をしているわけではなく、自分だけのレールの上を走っているような状態です。
世間の常識はいったんわきに置いて自分のペースを取り戻すことも、境界性パーソナリティ障害の克服では大切なことです。
7.良い自分と悪い自分を両方併せ持ったありのままの自分へと成長する
境界性パーソナリティ障害を克服するとは、悪い自分だけを取り除いて良い状態になることではありません。境界性パーソナリティ障害とは、強い自己否定によって不安をコントロールできないでいる状態です。二分法的認知に代表されるように、自分の悪い部分のみを除こうとすることは解決を遠ざけてしまう結果になります。
むしろ自分を全体として受け止めてもらったり、自分で自分を受け止められるようになることが大切です。境界性パーソナリティ障害を克服するとは、良い自分も悪い自分も合わせた「本来の自分、ありのままの自分」へと成長することです。
8.他人は自分とは関係なく動いていると知る
他人は自分の思うようには動いてはくれません。機嫌が良い時もあれば、気分が乗らないときもあります。体調が良い時もあれば、疲れているときもあります。それらは、自分とは関係ないところで起きていることです。しかし、境界性パーソナリティ障害になると、すべてを自分に原因帰属させて考えてしまいます。「私のこと嫌っているのかな」と捉えたり、自分に結びつけて考えたりします。他人は、自分とは関係なく動いているものです。不機嫌さは単に寝不足なだけかもしれません。
他人は思い通りになりませんし、自分とはほとんど関係しないものだと知ることはとても大切です。
9.現在の環境の改善にも注意を払う
本人の問題にばかり目が奪われがちですが、最も大切なのは現在の環境です。人間は想像以上に環境の影響を強く受けていて、環境にあらがうことはとても難しいものです。
現在の環境がストレスフルなものではないか、トラウマを再現するような環境ではないか、ということにも目を向けて、もし、環境がふさわしくないのであれば、環境を変えてみることも大切です。
10.生活習慣を整える
健康な人でも、睡眠不足になれば気分は落ち込みます。ストレスがたまりすぎても同様です。境界性パーソナリティ障害は、単なるメンタルの問題によってではなく、睡眠時間が少ない、栄養の偏り、運動不足といった生活習慣の乱れが後押しすることがあります。
生活習慣を整えることは薬物療法やカウンセリングを受けること以上に効果があります。生活習慣についても、自分で日記に記録をつけ、コンディションとの関係を客観的に知ると改善にとても役に立ちます。
11.パニック症状や自傷行為などは、専門の対処法を用いる
境界性パーソナリティ障害では、身体症状や自傷行為が見られることがあります。パニック症状や自傷行為、依存症については、専門の対処法があります。
こちらを参考にしてください。
⇒「パニック障害とは何か?その症状のチェックと本当の原因」
⇒「依存症(アルコール等)とは何か?真の原因と克服に必要な6つのこと」
⇒「リストカット、自傷行為の本当の心理、原因・理由とその対応」
<家族や知人がパーソナリティ障害の場合>
12.周囲は安定した一貫した関心を向け続ける
周囲が当人にかかわるにあたって大切なのは4つキーワードです。
「安定」、「一貫性」、「ニュートラル」、「愛情よりも”関心”」
境界性パーソナリティ障害への対応では、できる限りの愛情を注ぎ続けなければいけない、本人もそれを望んでいると思ってしまいます。しかし、それは現実には不可能なことです。常に愛情を注ごうとすると、対応する側も息切れしてしまいます。当人も表面では愛情を求めていながら、その渇望に苦しんでもいます。
例えば、アルコール依存では、本人はアルコールを強く求めていますが、本当にお酒が好きだから求めるわけではありません。飲酒の渇望は偽の願望といえます。願望通りにアルコールを与えられることは苦しいことでもあるのです。
境界性パーソナリティ障害における愛情への渇望も見捨てられ不安によって喚起されたある意味、偽の欲求であり、本当は当人もそのようなことは求めていないのかもしれません(表面的には、愛情を強く求めていますが)。
飲酒 ⇒激しい自己嫌悪⇒嫌悪を和らげるための飲酒
という悪循環のように、境界性パーソナリティ障害においても、
愛への渇望 ⇒ それが満たされない失望 ⇒ さらに愛を渇望する
という悪循環があるようです。
周囲が「何とかしてあげたい」と思う気持ちも、実は境界性パーソナリティ障害に触発された症状であり、何とかしようとすることは、逆に問題を促進してしまいます。何とかしてあげたいと思う気持ちがあるときは、少し立ち止まって距離をとることが必要です。
大切なことは、愛情の程度は低くてもよいから安定していることです。「愛情」というとどうしても力みや過剰な要求を誘発します。「愛情」よりは、「関心」をもって見守るということが大切です。そして、できるだけ一貫していること、関係性がニュートラルであることです。これまでの関係性からの先入観で接することなく、ありのままの姿を受け止めるようにします。
自然の事物がそうであるように、求めても強くは働きかけては来ないが、いつも同じように佇んでいるという一貫した状態が一番良いのです。
13.枠組みをもってかかわる
境界性パーソナリティ障害の場合は、枠組みをもってかかわることが重要です。枠組みとは、普段のルールや克服に向けて取り組む内容を決めることです。例えば、メールをもらってもすぐに返せないのであれば、そのことも取り決めておく、といったことです。対応できる時間や範囲もあらかじめ確認しておくことで、無理をしすぎず、また、勘違いから感情的になることを防ぐことができます。自殺企図や体調が悪化するなどした場合は入院することもあるということも本人と話し合っておきます。
また、境界性パーソナリティ障害の場合、カウンセリングなどのサポートを受ける際も、枠組みのない取り組みは苦手です。漠然と内省を促すカウンセリングは混乱してしまいます。治療者は、枠組みを明確にして関わることが必要です。
枠組みがあること自体が境界性パーソナリティ障害の方にとっては安心材料となります。
14.無理に治そうとするより、安全基地になる
パーソナリティ障害を「治す」というのは、その人の欠点や症状を治すことではありません。自分は大丈夫だ、という安心感、信頼感を取り戻すことです。パーソナリティ障害だけではありませんが、「治す=当人に問題がある」というメッセージにもなります。境界性パーソナリティ障害とは「自分は、治さなければいけない欠点のある人間だ」と思わされている状態といえます。対応の基本は「あなたは大丈夫」という信頼、安心です。
無理に治そうとするのではなく、「あなたは大丈夫」という態度で見守り、安全基地となってあげることです。そのうえで、本人を苦しめる感情や行動がぬぐいがたい場合は、心理療法、薬物療法など専門家の助けを借ります。
境界性パーソナリティ障害の主な治療方法
パーソナリティ障害の治療は特効薬や即効的な方法があるわけではなく、患者の状態を見ながら、薬物療法や精神療法を組み合わせて行われています。対応できる医師やカウンセラーはまだまだ限られています。
・対応する医療機関
対応する相談機関としては、精神科やメンタルクリニック、専門のカウンセリングルームなどが窓口となります。ただ、パーソナリティ障害を専門にしているところは少なく、事前に調べて経験・実績のある医師やカウンセラーを選ぶことが大切です。期待して受診しても素っ気ない対応だったり、「治らない」といわれて落胆したり、ということがしばしば起きます。地域の精神保健福祉センターに相談することも適切な相談機関を探す上では助けになります。
・薬物療法
パーソナリティ障害に伴う不安や衝動性などについては、依存性の少ない非定型抗精神病薬(オランザピン、クエチアピンなど)や気分安定化薬などで落ち着かせていきます。薬はパーソナリティ障害そのものを治療するというより、症状を緩和して、改善への取り組みをしやすくするために用いられます。
・精神療法
不安定な自己愛などの根本的な部分の改善には、精神療法と組み合わせていく必要があります。支持的カウンセリング、認知行動療法、マインドフルネス、対人関係療法、トラウマケア、弁証法的行動療法(特に、境界性パーソナリティ障害に特に効果があるとされている方法です)などがあります。トラウマを除き、ほどほどの考え方や、見捨てられることはない、というような合理的な認識を身に着けるようになると徐々に症状が軽くなっていきます。
同じ症状の人がグループワークを行うことも効果があります。
⇒「マインドフルネスとは何か?~本当の定義、やり方、学び方のまとめ」
⇒「“FAP療法”とは何か?トラウマや難しい悩みを解決するための療法」
→「境界性パーソナリティ障害を正しく理解する7つのポイント~原因と治療」にもどる
関連する記事はこちら
→「パーソナリティ障害の正しい理解と克服のための7つのポイント」
→「パーソナリティ障害の10のタイプと特徴をわかりやすく解説」
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参考
林直樹 編「こころの科学vol.185 パーソナリティ障害の現実」(日本評論社)
林直樹 編「こころの科学vol.154 境界性パーソナリティ障害」(日本評論社)
林直樹「パーソナリティ障害」(新興医学出版社)
林直樹「よくわかる境界性パーソナリティ障害」(主婦の友社)
ジョエル・パリス「境界性パーソナリティ障害の治療」(金剛出版)
市橋秀夫「パーソナリティ障害のことがよくわかる本」(講談社)
市橋秀夫「境界性パーソナリティ障害は治せる!」(大和出版)
岡田尊司「境界性パーソナリティ障害」(幻冬舎)
岡田尊司「パーソナリティ障害」(PHP)
岡田尊司「ササっとわかる「境界性パーソナリティ障害」」(講談社)
岡田尊司「絆の病」(ポプラ社)
牛島定信「やさしくわかるパーソナリティ障害」(ナツメ社)
青木省三「大人の発達障害を診るということ」(医学書院)
神田橋條治「神田橋條治 医学部講義」(創元社)
など