近年、有名人でも闘病経験を告白するようになり知られるようになりましたパニック障害(パニック症)。実は広く認知されるようになったのは最近のことです。克服するためには適切な知識が必要です。今回は、医師の監修のもと公認心理師が、パニック障害(パニック症)についてまとめてみました。
<作成日2016.2.19/最終更新日2026.9.5>
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この記事の執筆者みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師) 大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など シンクタンクの調査研究ディレクターなどを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら |
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この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
・最新の診断基準(DSM)などでは偏見や誤解を防ぐために、病名が変更され、特にdisorder「障害」を「~症」と表記するようになっています。ただ、一般にはまだ馴染みがなく旧名称でお調べになられるケースが多いために、便宜的に従来の表記を残しています。
もくじ
・専門家(公認心理師)の解説
・パニック障害(パニック症)とは何か?
・理解されにくいパニック障害(Panic disorder)
・パニック障害のチェック~その多彩な症状
→パニック障害(パニック症)の原因と治し方については、下記をご覧ください。
▶「パニック症(パニック障害)の原因とは何か~内因説と「トラウマ・葛藤によるパニック」」
パニック症では、動悸、息苦しさ、めまい、吐き気など強い身体症状が突然現れるため、「心臓や脳の病気ではないか」と不安になることがあります。まずは身体疾患など他の原因がないかを確認することが大切です。身体的な原因が認められず、予期しないパニック発作を繰り返し、その後も発作への強い不安や回避が続く場合には、パニック症が疑われます。
また、実際の臨床では、慢性的なストレスやトラウマ、フラッシュバックなどが不安やパニック発作の背景に関係しているケースもあります。こうした場合には、パニック症そのものへの治療と、背景にあるストレスやトラウマへの支援を分けて考えることが重要です。特に当センターでも、トラウマ由来の葛藤やフラッシュバックによってパニックが生じているケースがとても多いです。パニック障害に詳しい心療内科などで鑑別してもらい、カウンセラーとも連携して治療に取り組むことが大切です。
パニック障害(パニック症)とは何か?
パニック症(パニック障害)は、予期しないパニック発作を繰り返し、その後も「また発作が起きるのではないか」という強い不安や、発作を避けるための行動の変化が続く精神疾患です。パニック発作では、動悸、息苦しさ、発汗、震え、めまいなどの身体症状とともに、「死ぬのではないか」「自分をコントロールできなくなるのではないか」という強い恐怖が急激に生じます。
単なる恐怖症との違い~内因性の恐怖あるいは、葛藤によるパニック(トラウマ因)
パニック障害が単なる恐怖症と異なる点は、単なる恐怖症はある対象への恐怖、状況への恐怖という「外側への恐怖」であるのに対して、パニック障害は「自分自身の内側からくるものへの恐怖」であるという点です。
パニック障害は、基本的には突然ひとりでに湧いてくる恐怖です。単なる恐怖症は自分が立つこの世界が「まともである」という確信の中で、恐怖となる対象物がある、という感覚ですが、パニック障害の場合は、よって立つ世界や自分そのものがめまいなどで揺れて感じたり、身体が言うことを効かなくなるなど、主観的世界全体が恐怖となる感覚です。
そのため、通常の恐怖症とは異なる難しさがあります。
別の記事でも書きましたが、パニック発作の背景には、生物学的・神経生理学的な要因だけでなく、ストレスや心理的要因が関係する場合もあります。また、PTSDなど他の精神疾患に伴ってパニック発作が生じることもあります。当センターでは、とくにトラウマや慢性的ストレスとの関係が疑われるケースに多くご対応います。
→パニック障害の原因については、下記をご覧ください。
▶「パニック症(パニック障害)の原因とは何か~内因説と「トラウマ・葛藤によるパニック」」
・データで見る「パニック障害」
DSM-5-TRでは、米国および欧州諸国の青年・成人におけるパニック症の12カ月有病率は約2~3%とされています。これは、1年間におよそ33~50人に1人が該当する割合です。生涯有病率は約3.5%で、一生のうちに約29人に1人が経験する計算になります。一方、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの国々では、12カ月有病率はおおむね0.1~0.8%と、欧米より低く報告されています。発症年齢の中央値は米国で20~24歳であり、女性は男性のおよそ2倍生じやすいとされています。なお、パニック発作そのものはパニック症よりも多く、DSM-5-TRでは、米国とスペインの成人における12カ月有病率は9.5~11.2%とされています。つまり、約9~11人に1人が1年間にパニック発作を経験する可能性があります。ただし、パニック発作を経験した人すべてがパニック症に該当するわけではありません。
日本では、日本不安症学会と日本神経精神薬理学会が2025年に公表した「パニック症診療ガイドライン」で、国内の12カ月有病率は0.5%とされています。これは、1年間におよそ200人に1人がパニック症に該当する割合です。
理解されにくいパニック障害(パニック症 Panic disorder)
パニック障害(パニック症 Panic disorder)とは、突然、めまいやはき気、過呼吸や激しい動悸などが生じる症状です。古くからある病気で、かつては「不安神経症」などと呼ばれていました。「パニック障害」との呼び名が使われたのは1980年のことです。
現在においても、一般社会や医療現場などでも理解が十分とはいえないとされます。
そのため、「気持ちの問題だ」「また発作が起きたのか!」といった心ない言葉をかけられるということが実際にあったようです。
近年、有名人が自身の闘病経験を発表したり、書籍、インターネット等での情報発信などから徐々に知られるようになってきています。医療現場での体制も整い始めています。
・過去にパニック障害を罹患された有名人
漫才コンビ「中川家」の剛さん、大場久美子さん、長嶋一茂さん、円広志さん、作家の宮本輝さん、Kinki Kids の堂本剛さんなど。体験談を出版されている方もいらっしゃいます。
パニック障害(パニック症)のチェック~その多彩な症状
パニック障害(パニック症)というと、過呼吸が知られていますが、それはあくまで症状の一つで、実際は多彩な症状がおきます。
・診断基準
診断基準(米国精神医学会 DSM-5-TR(医学書院))では、パニック発作では、以下の13症状のうち4つ以上が突然現れ、数分以内にピークに達します。さらに、予期しないパニック発作を繰り返し、少なくとも1か月以上、次の発作への強い不安や発作を避けるための行動変化が続く場合に、パニック症が疑われます。
・動悸、心悸こう進(心拍数の増加)
・発汗
・身震いまたは震え
・息切れ間または息苦しさ
・窒息感
・胸痛または胸部の不快感
・嘔気または腹部の不快感
・めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
・現実感消失(現実ではない感じ)または離人症状
・コントロールを失うことに対する、または気が狂うことに対する恐怖
・死ぬことに対する恐怖
・異常感覚(感覚まひまたはうずき感)
・冷感または熱感(ほてり)
・下記の場合はパニック障害ではありません
・身体に異常がある場合
(低血糖、貧血、高血圧、褐色細胞腫、更年期障害、狭心症、僧帽弁逸脱症、甲状腺機能こう進症、
不整脈、側頭葉てんかん、メニエール病、カフェイン過敏症など)
・他の精神障害で説明できる場合
(パニック発作自体は統合失調症、うつ病、PTSDや社交不安障害でも生じます。)
・薬物などの影響で説明できる場合
・特定の対象や状況だけに反応して発作が起きる場合には、限局性恐怖症や社交不安症など他の不安症との鑑別が必要です。
・「予期不安」とは何か?
発作への恐怖から、また起きるのではという不安を持つのが「予期不安」です。予期不安は、パニック発作に伴って生じる症状でパニック障害の根本的な症状です。パニック症では、発作後に「また起きるのではないか」という持続的な不安、または発作を避けるための行動変化が少なくとも1か月続きます。
・「過換気症候群」と「パニック障害(パニック症)」の違い
過換気症候群はパニック発作で見られる症状の一つではありますが、基本的には別の病気です。過換気症候群のみの場合はパニック障害とは見なされません。また、過換気症候群とパニック障害ではメカニズムも異なるとされています。過換気はパニック発作の際にもみられますが、過換気があるだけでパニック症とは診断されません。パニック症では、予期しないパニック発作を繰り返し、その後の予期不安や回避行動などを含めて診断します。
・パニック障害(パニック症)の二層構造~2つの恐怖
現在の認知行動療法でも、身体感覚を危険だと解釈することが発作への恐怖を強める悪循環が重視されます。クレア・ウィークス博士は、パニック障害を二層建て(2つの恐怖)で説明しています(クレア・ウィークス「不安のメカニズム」(筑摩書房)など)。
一つ目の恐怖は、パニック発作など身体に生じる症状です。
二つ目の恐怖は、症状に対する認識(恐れ、不安)です。
二層建てで分けることはとても大切です。克服する際にそれぞれ分けてアプローチをできるからです。
また、一つ目の恐怖だけであれば回復は比較的容易です。しかし、適切な診断が行われず、対応が遅れると、二つ目の恐怖が膨らみ始めます。そして、二つ目の恐怖が一つ目の恐怖を促進するという悪循環に陥ってしまいます。
・パニック障害(パニック症)に伴う症状~「広場恐怖症」「対人恐怖症」「うつ状態」「アルコール依存症」「自傷行為」など
・広場恐怖症
パニック障害になると、逃げられない場所、助けを求められない場所を避ける「広場恐怖症」を引き起こします。広場とは、広い場所のことではなく、街中など逃げられない場所のことです。古代において公共の場所をアゴラ(広場)といったことからきています。
・対人恐怖症
、また、発作への恐怖から人前や外出を避けるようになり、社交不安が強まる場合もあります。
▶「対人恐怖症、社交不安障害(社交不安症)とは何か?原因とメカニズム」
・うつ状態
うつ症状やうつ病を併存することもあります。パニック障害が収まっても、うつ状態だけが残るケースも見られます。パニック障害に伴ううつ状態とは、本当のうつ病とは異なります。そのため、見逃されがちです。
▶「うつ(鬱)病とは?なぜなるのか~原因を正しく理解する10のポイント」
・依存症と自傷行為
パニック障害に伴う不安を紛らわせるために、「アルコール依存症」に陥ったり、「自傷行為」を行ってしまうことも少なくありません。
▶「自傷行為(リストカットなど)の心理と原因~なぜ行うのか?」
・パニック障害(パニック症)に伴う身体の症状
パニック症では、睡眠の問題や頭痛、胃腸症状など、さまざまな身体的不調を訴えることがあります。パニック障害に伴って身体でも症状が起きることがあります。
▶「不眠症・睡眠障害の原因と診断~6つの視点からチェックする」
・パニック障害で怒りや攻撃性が強くなることはある?
・依存的になる
発作への不安から、一人で外出できなくなったり、家族の付き添いを求めるなど、周囲への依存が強まる場合があります。これは性格が依存的になったというより、「発作が起きたときに助けてもらえない」という恐怖が関係していることがあります。
・周囲から「自己中心的」「わがまま」に見えることがある
強い不安や発作への恐怖から、「この場所には行きたくない」「今すぐ帰りたい」など自分の安全を優先する行動が増え、周囲からは「わがまま」「自己中心的」と受け取られる場合があります。ただし、これはパニック症の性格特性という意味ではありません。発作への恐怖や回避が背景にあることがあります。
・攻撃的になる(怒り発作)
パニック症の診断基準そのものに「怒り」や「攻撃性」が含まれているわけではありません。しかし、パニック症や他の不安症の人に、突然強い怒りが噴き出す「怒り発作」がみられることは研究でも報告されています。
過去の研究では、パニック障害の患者の約3分の1に怒り発作がみられたという報告があります。ただし、怒り発作はパニック症に特有の症状ではなく、うつ病や他の不安症でもみられ、とくに抑うつ症状が強い人で多いことが指摘されています。
そのため、「怒りっぽくなったからパニック症」というわけではありません。普段とは異なる強い怒りや攻撃性が続く場合には、うつ状態、他の不安症、双極症、トラウマなども含めて状態を確認することが大切です。
・パニック障害(パニック症)の残遺症状
パニック障害は、非発作性不定愁訴と呼ばれる残遺症状が残る場合があります。
・なんとなく不安
・現実感がない感じ
・イライラする
・感情がわかない
・首や肩などが痛い
・息苦しい
・動悸がする
・熱感や寒気がする
・目がチカチカする
など
発作が減った後も、なんとなく不安、めまい、息苦しさ、現実感の乏しさなどの不調がしばらく残る場合があります。こうした症状が続く場合には、パニック症以外の身体・心理的要因も含めて確認することが大切です。
→パニック障害(パニック症)の原因と治し方については、下記をご覧ください。
▶「パニック症(パニック障害)の原因とは何か~内因説と「トラウマ・葛藤によるパニック」」
※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。
(参考・出典)
日本不安症学会・日本神経精神薬理学会「パニック症診療ガイドライン2025」
渡辺登「パニック障害」(講談社)
磯部潮「パニック障害と過呼吸」(幻冬舎)
森下克也「薬なし、自分で治すパニック障害」(角川書店)
ベヴ・エイズベット「パニック障害とうまくつきあうルール」(大和書房)
シャーリー・スウィード、シーモア・シェパード・ジャフ「パニック障害からの快復」 (筑摩書房)
中原和彦「「お手玉をする」とうつ、パニック障害が治る」(ビタミン文庫)
野沢真弓「私のパニック障害」(主婦の友社)
長嶋一茂「乗るのが怖い」(幻冬舎)
円広志「僕はもう、一生分泣いた」(日本文芸社)
大場久美子「やっと。やっと!パニック障害から抜け出せそう・・・」(主婦と生活社)
貝谷久宜「パニック障害 治療・ケアに役立つ事例集」(主婦の友社)
みきいちたろう『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』(ディスカヴァー携書)
など
















