近年、有名人でも闘病経験を告白するようになり知られるようになりましたパニック障害。実は広く認知されるようになったのは最近のことです。克服するためには適切な知識が必要ですが、多くの情報が錯綜しております。今回は、医師の監修のもと公認心理師が、パニック障害についてまとめてみました。
<作成日2016.2.19/最終更新日2023.2.6>
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この記事の執筆者みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師) 大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など シンクタンクの調査研究ディレクターなどを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら |
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この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
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管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考に記述しています。
可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・理解されにくいパニック障害(Panic disorder)
・パニック障害とは何か?
・パニック障害のチェック~その多彩な症状
・パニック障害の発症~誘因としてのストレス、気質、体質
「パニック障害を克服するために必要な5つのこと」につづく
理解されにくいパニック障害(Panic disorder)
パニック障害(Panic disorder)とは、突然、めまいやはき気、過呼吸や激しい動悸などが生じる症状です。古くからある病気で、かつては「不安神経症」などと呼ばれていました。「パニック障害」との呼び名が使われたのは1980年のことです。
現在においても、一般社会や医療現場などでも理解が十分とはいえないとされます。
そのため、「気持ちの問題だ」「また発作が起きたのか!」といった心ない言葉をかけられるということが実際にあったようです。
もちろん、有名人が自身の闘病経験を発表したり、書籍、インターネット等での情報発信などから徐々に知られるようになってきています。医療現場での体制も整い始めています。
(参考)過去にパニック障害をり患された有名人
漫才コンビ「中川家」の剛さん、大場久美子さん、長嶋一茂さん、円広志さん、作家の宮本輝さん、Kinki Kids の堂本剛さんなど。体験談を出版されている方もいらっしゃいます。
パニック障害とは何か?
単なる恐怖症との違い~内因性の恐怖
パニック障害が単なる恐怖症と異なる点は、単なる恐怖症はある対象への恐怖、状況への恐怖という「外側への恐怖」であるのに対して、パニック障害は「自分自身の内側からくるものへの恐怖」、内因性の恐怖であるという点です。
パニック障害は、基本的には突然ひとりでに湧いてくる恐怖です。単なる恐怖症は自分が立つこの世界が「まともである」という確信の中で、恐怖となる対象物がある、という感覚ですが、パニック障害の場合は、よって立つ世界や自分そのものがめまいなどで揺れて感じたり、身体が言うことを効かなくなるなど、主観的世界全体が恐怖となる感覚です。
そのため、通常の恐怖症とは異なる難しさがあります。
パニック障害のチェック~その多彩な症状
パニック障害というと、過呼吸が知られていますが、それはあくまで症状の一つで、実際は多彩な症状がおきます。
・診断基準
診断基準では、下記のうち4つ以上が当てはまり(パニック発作)、一回目の発作から1月の間に、また発作が起きるのではないかという「予期不安」や、発作が起きそうな状況の回避が起きる場合に「パニック障害」と診断されます。
・動悸、心悸こう進(心拍数の増加)
・発汗
・身震いまたは震え
・息切れ間または息苦しさ
・窒息感
・胸痛または胸部の不快感
・嘔気または腹部の不快感
・めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
・現実感消失(現実ではない感じ)または離人症状
・コントロールを失うことに対する、または気が狂うことに対する恐怖
・死ぬことに対する恐怖
・異常感覚(感覚まひまたはうずき感)
・冷感または熱感(ほてり)
・下記の場合はパニック障害ではありません
・身体に異常がある場合
(低血糖、貧血、高血圧、褐色細胞腫、更年期障害、狭心症、僧帽弁逸脱症、甲状腺機能こう進症、
不整脈、側頭葉てんかん、メニエール病、カフェイン過敏症など)
・他の精神障害で説明できる場合
(パニック発作自体は統合失調症、うつ病、PTSDや社交不安障害でも生じます。)
・薬物などの影響で説明できる場合
・特定の状況で必ず発作が起きる場合
・「予期不安」とは何か?
発作への恐怖から、また起きるのではという不安を持つのが「予期不安」です。予期不安は、パニック発作に伴って生じる症状でパニック障害の根本的な症状です。予期不安がない場合は、パニック障害とは診断されません。
・「過換気症候群」と「パニック障害」の違い
過換気症候群はパニック発作で見られる症状の一つではありますが、基本的には別の病気です。過換気症候群のみの場合はパニック障害とは見なされません。また、過換気症候群とパニック障害ではメカニズムも異なるとされています。過換気症候群はストレスへの反応で生じる「心身症」であるのに対して、パニック障害は脳や神経系の機能不全であることです。
・パニック障害に伴う症状~「広場恐怖症」「対人恐怖症」「うつ状態」「アルコール依存症」「自傷行為」など
パニック障害になると、逃げられない場所、助けを求められない場所を避ける「広場恐怖症」を引き起こします。広場とは、広い場所のことではなく、街中など逃げられない場所のことです。古代において公共の場所をアゴラ(広場)といったことからきています。パニック障害の約8割の方が、広場恐怖症に陥ると言われます。
また、パニック発作で恥をかくことを恐れて人前を避ける、「二次的対人恐怖(社交不安障害)」になる人も、全体の3分の1に及びます。
さらに、6割の人が「うつ状態」に陥ることがあります。パニック障害が収まっても、うつ状態だけが残るケースも見られます。パニック障害に伴ううつ状態とは、本当のうつ病とは異なります。そのため、見逃されがちです。
パニック障害に伴う不安を紛らわせるために、「アルコール依存症」に陥ったり、「自傷行為」を行ってしまうことも少なくありません。
⇒「うつ病の真実~原因、症状を正しく理解するための10のこと」
⇒「対人恐怖症、社交不安障害とは何か?原因、克服、症状とチェック」
⇒「依存症(アルコール等)とは何か?真の原因と克服に必要な6つのこと」
⇒「リストカット、自傷行為の本当の心理、原因・理由とその対応」
・パニック障害に伴う身体の症状
パニック障害に伴って身体でも症状が起きることがあります。「過敏性腸症候群」「偏頭痛」「睡眠障害」が代表的です。特に、パニック発作の4割は睡眠中に生じていることから睡眠が怖くなり、睡眠障害に陥るケースは多いとされます。
・パニック障害に伴う性格や行動の変化
・依存的になる
パニック発作で自信を失い、過度に依存的になるケースがあります。
・自己中心的になる
うつ状態を併発している場合に、気分のアップダウンが激しくなり、過度に自分が望むことを要求し、そうではないものを避けるようになり、まわりからは自己中心的とみられる場合があります。
・攻撃的になる(怒り発作)
いわゆるキレる状態です。ささいな事に突然怒りだして、大声を出す怒り発作がおきるケースです。うつ状態を併発している場合に多く、発作の後は自己嫌悪に陥ってしまいます。
・パニック障害の残遺症状
パニック障害は、非発作性不定愁訴と呼ばれる残遺症状が残る場合があります。
・なんとなく不安
・現実感がない感じ
・イライラする
・感情がわかない
・首や肩などが痛い
・息苦しい
・動悸がする
・熱感や寒気がする
・目がチカチカする
など
回復からかなりの時間(数十年)が経ってから残遺症状が起こる場合もあります。残遺症状が残ることがあることを知らない場合、別の体調不良とされて、適切な対応がなされないことにもなります。
パニック障害の発症~誘因としてのストレス、気質、体質
・ストレスが誘因となる
パニック障害は内因性の恐怖症と言われ、最初の発作は前触れなく突然生じます。ただ、多くの場合その背景としてストレスがあることがわかっています。
・仕事や家庭などで一定期間、過剰なストレスにさらされている場合
・ショッキングな出来事や事故などに遭遇した場合
・体調不良、栄養失調などでストレスを受け止めることができない場合
こうしたことがある場合に、脳の神経伝達物質のバランス、自律神経、など脳や身体のバランスが崩れてパニック発作が生じるのです。うつ病が、ストレスが一段落した後に発症することが多いのに対して、パニック発作はストレスの渦中で生じる傾向があるとされます。
・パニック障害は性格が原因ではない
弱い性格だから、怠け者だからパニック障害になるというのは全くの誤りです。むしろ、バリバリと仕事をするような人が陥ることも多いのです。蓄積されているストレスに気づかずに、自律神経の失調を招くといったケースです。
弱い性格とは関係ありませんが、臨床での経験などからパニック障害になりやすい体質や気質があることがわかっています。不安を感じやすい体質、ストレスを感じにくい体質、ホルモンのバランスが乱れやすい体質、呼吸器・循環器へのストレスの臓器選択性などがあるとパニック障害になりやすいとされます。
・ストレスの臓器選択性
ストレスを受けても万人がパニック障害になるわけではありません。ストレスに対する反応は人によって異なります。そのことを説明したのが、「ストレスの臓器選択性」です。ストレスの臓器選択性とは、ストレスの影響が身体のどこに現れるかについての傾向のことです。どうやら人によってあらかじめ決まっているようです。
蕁麻疹に現れる人、消化器に現れて過敏性腸症候群になる人や胃潰瘍になる人がいるように、臓器選択性が呼吸器、循環器に現れる人が「パニック障害」となります。実際にパニック障害の人はそうでない人の2~4倍、心臓疾患にかかりやすいことがわかっています。
・パニック障害の原因とメカニズム~警報アラームの異常
・脳内の神経伝達物質のアンバランス
危機を察知して警報を鳴らす機能として情動の中枢である扁桃体が興奮して、それが青斑核に伝わりノルアドレナリンが放出され、視床下部を通じて自律神経を刺激し、動悸やめまいなどが生じます。
本来は興奮し過ぎないようにセロトニンやGABAという物質が存在し、適度な不安とリラックス感じられるようにバランスをとっています。しかし、セロトニンやGABAが不足している場合は、抑制が効かずに扁桃体の過剰な興奮(キンドリング現象)が生じてパニック発作が生じてしまいます。さらに、大脳辺縁系に伝わり予期不安、前頭葉に伝わると広場恐怖となります。
これはパニック障害の仮説の一つです。神経伝達物質のアンバランスを仮説としているのは、セロトニンの減少をおさえる抗うつ剤が効く場合と効かない場合があるからです。単なる脳内の病気というだけで捉えているとパニック障害全体を見誤ってしまうことになります。
・自律神経の失調
脳内だけではなく、自律神経系全体の失調とする考えもあります。自律神経は3カ月を越える長い期間ストレスにさらされると正常に機能しなくなり、交感神経の過活動(自律神経ストーム)がさまざまな身体症状を生むことがわかっています。自律神経は脳だけではなく、副腎などの器官も関係しています。
・パニック障害の二層構造~2つの恐怖
クレア・ウィークス博士は、パニック障害を二層建て(2つの恐怖)で説明しています(クレア・ウィークス「不安のメカニズム」(筑摩書房)など)。
一つ目の恐怖は、パニック発作など身体に生じる症状です。
二つ目の恐怖は、症状に対する認識(恐れ、不安)です。
二層建てで分けることはとても大切です。克服する際にそれぞれ分けてアプローチをできるからです。
また、一つ目の恐怖だけであれば回復は比較的容易です。しかし、適切な診断が行われず、対応が遅れると、二つ目の恐怖が膨らみ始めます。そして、二つ目の恐怖が一つ目の恐怖を促進するという悪循環に陥ってしまいます。
「パニック障害を克服するために必要な5つのこと」につづく
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(参考)
渡辺登「パニック障害」(講談社)
磯部潮「パニック障害と過呼吸」(幻冬舎)
森下克也「薬なし、自分で治すパニック障害」(角川書店)
ベヴ・エイズベット「パニック障害とうまくつきあうルール」(大和書房)
シャーリー・スウィード、シーモア・シェパード・ジャフ「パニック障害からの快復」 (筑摩書房)
中原和彦「「お手玉をする」とうつ、パニック障害が治る」(ビタミン文庫)
野沢真弓「私のパニック障害」(主婦の友社)
長嶋一茂「乗るのが怖い」(幻冬舎)
円広志「僕はもう、一生分泣いた」(日本文芸社)
大場久美子「やっと。やっと!パニック障害から抜け出せそう・・・」(主婦と生活社)
貝谷久宜「パニック障害 治療・ケアに役立つ事例集」(主婦の友社)
みきいちたろう『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』(ディスカヴァー携書)
など