かつては、躁うつ病と呼ばれていた双極性障害。まれな病と考えられがちですが、実は以外に身近で接することが多い病でもあります。エネルギッシュに働いている方が、実は・・、ということもあります。
今回は、医師の監修のもと公認心理師が、双極性障害についてまとめてみました。
関連する記事はこちらを参考にしてください。
⇒「うつ病の真実~原因、症状を正しく理解するための10のこと」
⇒「うつ病を本当に克服にするために知っておくべき16のこと」
<作成日2016.4.30/最終更新日2023.2.6>
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この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
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この記事の執筆者みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師) 大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など シンクタンクの調査研究ディレクターなどを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら |
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可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
双極性障害とは何か~うつ病とは全く異なる病気
双極性障害(Bipolar disorder)とは、「うつ」状態と「躁」状態とが交互に現れる病気です。かつては躁うつ病と呼ばれていました。「DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル」(医学書院)の分類などでは気分障害として、うつ病と同じカテゴリーとされています。まだ、わかっていないことも多いとされます。
うつ病とは全く異なる病気です。実際に、双極性障害はうつ病とは治療方法も異なります。
下記のような違いがあります。
1.症状の違い~本質的に異なる症状
その名の通り、「躁」状態があることが異なります。ただ、表面的に躁状態が付加されているだけということではありません。本質的に両者は異なると考えられています。
症状の違いとしては下記のことがあります。
<双極性障害に見られる症状>
躁状態
・気分変動あるいは躁状態
うつ状態
・過眠
・過食
・精神運動制止
・自責感、罪責妄想
・非定型症状(鉛様まひ、拒絶過敏性など)
うつ状態は、表面的にはうつ病とほぼ同じですが、双極性障害の場合、急激な発症、症状が重い、幻覚などが見られる、うつ病状態の回数が多いといった違いがあります。
<うつ病(単極性)に見られる症状>
うつ状態
・不眠
・食欲不振
・精神運動焦燥
・身体的愁訴(頭が重い、など)
2.治療方法の違い~抗うつ剤や内省が効かない
うつ病は、抗うつ剤などを用いますが、双極性障害では気分安定剤(リチウムなど)を中心に用いられます。
双極性障害と知らずに抗うつ剤を処方していると、効かないだけではなく、不安定になったり躁転(躁状態になる)するなど悪化することがあります。
また、精神療法においても内省を行うと悪化するといった特徴があります。
3.発症時期などの違い~比較的若年で生じ、再発率がとても高い
うつ病が中年に多い病気であるのに対して、双極性障害は若年で発症します。生来の双極性気質を持ち、成長に伴い学校など規律が厳しくなるなど環境が窮屈になるにつれて発症と考えられています。10代で発症するケースもあります。うつ病が男女比で1:2であるのに対して、双極性障害では男女比に差はありません。
また、うつ病は1~2年で治り、再発が少ないのに比して、双極性障害は治療に時間がかかり、一度症状が落ち着いても90%以上の確率で再発します。
うつ病が日本では人口の7%程度に見られるのに対して、双極性障害は1%未満とされています。
4.診断の難しさ
双極性障害は、他の障害との鑑別が難しく、アメリカでは診断の確定まで平均8年かかるとも言われています。診断の難しさは、適切な治療の妨げとなっています。
5.病識を持つことの難しさ
躁状態などでは、本人は絶好調と感じられているため、自分が病気であるという認識を持ちづらく、治療の妨げとなります。特にⅡ型の場合は性格のせいだととらえられていて、周囲も「気まぐれ」「わがまま」と考えていることが多い。
双極性障害(躁うつ病)の有名人
ソ連の書記長ニキタ・フルシチョフ
キューバ危機のきっかけとなったキューバへの核ミサイル設置は、躁状態によるものではとも言われています。日本史の研究者によると足利尊氏はその行動から双極性障害であったともいわれています。
あと、作家の北杜夫、中島らも、などがいます。
双極性障害のタイプとチェック
研究者によって細かなタイプが提唱されていますが、大きくは3つのタイプに別れます。Ⅰ型とⅡ型についても、単に程度の軽さとして捉えるのではなく、別の病気と捉えるほうが適切です。
双極性Ⅰ型(うつ状態+激しい躁状態)
特徴)
・躁状態が7日間以上続く場合Ⅰ型とされる(り患している期間の1割程度)
・社会機能に支障をきたすような激しい躁状態
・わずかな躁状態(1割程度の期間)と長いうつ状態(り患している期間の3割程度)
・うつ病よりも自殺のリスクは高い(双極性障害の死因の2割は自殺とされます)
・うつでも躁でもない時期もある(り患している期間の5割強は何もない期間)
・加齢とともに躁とうつのサイクルは短くなってくる
双極性Ⅱ型(うつ状態+軽い躁状態)
特徴)
・躁状態が4日間以上続く場合Ⅱ型とされる
・循環気質(社交的で、親しみやすく、ユーモアがある)
・しつこい、慢性的なうつ状態(り患している期間の半分くらいの期間)
・軽い躁状態は絶好調と感じられる時期もあれば、焦りやイライラとして感じられる時期もある
・うつの時期は、億劫さや過眠、体重増加が見られる
・うつでも躁でもない時期もあるが、Ⅰ型より短い(り患している期間の5割弱は何もない期間)
・自殺のリスクは、双極性Ⅰ型よりもさらに高い
・パニック障害やPTSDなど不安障害との合併も多い
・対人過敏や気疲れが見られる。お節介で過干渉気味になることも
気分循環性障害(軽いうつ状態+軽い躁状態)
・基準に満たない軽いうつ状態と躁状態を繰り返す
・何もない時期もあるが、その時期が短く2カ月も持たない
・気分屋として見られる
双極性障害の症状
躁状態の症状
Ⅰ型とⅡ型では程度が異なりますが、基本的には下記のようなものが見られます。
・自尊心の肥大
自信がみなぎるような感覚です。周囲からはうぬぼれと感じられます。
・睡眠欲求の減少
短眠でも元気で、一晩中動きまわるということもあります。
・多弁
急速な思考のままにおしゃべりが止まらなくなります。
・観念奔逸(急速な思考)
観念奔逸とは思考が飛ぶことです。アイデアが次から次へと湧いてきます。思考が早すぎて周囲はついていけないほどになります。
・注意散漫
急速な思考のままに、注意が散漫になります。
・活動の増加
エネルギッシュになり、さまざまな活動を行います。
・痛ましい結果
仕事でのトラブル、無謀な投資やギャンブル、浪費、危険行為、奔放な性行動など、現実においても生活や人間関係を壊しかねない行動をとり、痛ましい結果を招いてしまいます。
・その他
フラッシュバックによって幻覚や妄想、緊張病状態などが見られることがあります。
(双極性の)うつ状態の症状
・憂うつ感
・おっくう感、焦燥感
Ⅱ型の場合はピリピリとした焦燥感が特徴であるとされます。うつ病でも焦燥感は見られますが、双極性障害の場合はより強く感じられます。
・興味、喜びの喪失
・思考力の低下
・自己否定
急速な思考によってうつ病よりも自己否定が強くなります。
・体重の増減
・睡眠障害
双極性障害の場合は過眠がよく見られます。
・妄想
うつ状態では下記のような妄想が見られることがあります。
貧困妄想(お金がない、破産すると信じてしまう)、心気妄想(自分が重篤な病気にかかったと思う)、罪業妄想(自分は罪深いと考えてしまう)。
・幻覚
・自殺念慮
・その他
特にⅡ型の場合は症状が移ろいやすく、ふぞろいで、場面によって現れたり現れなかったりといった特徴が見られます。また、うつ状態が慢性化しやすく、治療への取り組みが失われ、依存症に陥ったりといったことが急速に生じます。
混合状態の症状
うつ状態の時に躁が交じる、躁状態の際にうつが交じるといったように、通常とは異なる状態が見られることがあり、混合状態と呼ばれます。
躁状態なのにうつっぽい、機嫌が悪い(不機嫌躁病)、うつ状態だけど焦り、興奮が強いといった場合です。相反する力に引っ張られるような感じのため、とても苦しい症状です。
合併しやすい症状
・依存症
双極性障害の3割の人に見られます。
⇒「依存症(アルコール等)とは何か?真の原因と克服に必要な6つのこと」
・社交不安障害
⇒「対人恐怖症、社交不安障害とは何か?原因、克服、症状とチェック」
・パニック障害
・PTSD
・過食症
双極性障害の1~2割の人に見られます。
⇒「摂食障害とは何か?拒食、過食の原因と治療に大切な7つのこと」
間違われやすい病気
・統合失調症
統合失調症でも、陽性症状(幻覚、妄想など)、陰性症状(うつ状態など)があり、変動があることは似ています。猜疑的であったり、妄想の内容が絶対にありえない場合は統合失調症であると考えられます。
・境界性パーソナリティ障害
不安定な気分など、双極性障害と非常によく似ています。
双極性障害では、相手へのスプリッティング(理想化-全否定、という極端な評価)が見られません。
境界性パーソナリティ障害では社会的機能や能力が低いケースが多いのに対して、双極性障害では社会的能力が高いことが多い、といった点で異なります。
⇒「境界性パーソナリティ障害を正しく理解する7つのポイント~原因と治療」
・甲状腺疾患
甲状腺機能が低下する場合、うつっぽくなり、甲状腺機能が亢進すると興奮が高まり活動的になることがあります。また、双極性障害でリチウムによる治療を行う場合に、副作用で甲状腺機能が低下することがあります。
⇒「境界例、難治性うつ病などの意外な原因~副腎疲労、甲状腺など」
・認知症
一過性の躁状態が生じることがあります。
・薬物依存など、薬物によるもの
禁止薬物によって一時的にハイになるといったことはもちろんですが、
抗うつ剤によって躁状態が誘発されることがあります。「物質誘発性気分障害」と呼ばれています。物質誘発性気分障害は、双極性障害との区別は大変難しいものです。
他の病気やタイプ間の鑑別のポイント
<単極性うつ病などとの鑑別点>
⇒「うつ病の真実~原因、症状を正しく理解するための10のこと」
・同調的(他人に合わせようとする)である
病院やクリニック、カウンセリングルームにはじめて訪れて、医師や周囲の環境を忖度し、同調しようとする態度が見られる。
・中学、高校の頃に好調の時期、不調の時期の波があった
・親族にも同様に調子に波がある人がいた
・転職や転居、交友関係で変化に富む
・うつ病と比較して、離婚率や、独身率が高いといった特徴もあります
将来、躁状態が起きる可能性が高い患者のことを「双極スペクトラム」と呼ぶことがあります。
・うつ状態ではまず気分が下がる
精神科医の神田橋條治氏によると、うつ病のうつ状態は、まず能力が低下し、それから気分が下がる(もっと頑張らないといけないけどできず、気分が滅入る)。一方、双極性障害のうつ状態は、まず気分が下がる(気が滅入って何もできない)、とされます。
・窮屈さによってうつ状態になる
うつ状態のうつは脳がくたびれることで生じますが、双極性障害のうつ状態は窮屈な環境に置かれることで生じる傾向がある、とされます。
<Ⅰ型とⅡ型の鑑別点>
・躁状態の程度(入院が必要なほどかどうか)
・質的には観念奔逸が、まとまった作業ができないほど飛びすぎていないかどうか
・Ⅱ型の場合は、うつ状態でも症状が移ろいやすく、ふぞろいで、場面によって現れたり現れなかったりといった特徴が見られます。また、うつ状態が慢性化しやすく、治療への取り組みが失われ、依存症に陥ったりといったことが急速に生じます
双極性障害の背景(原因)
双極性障害の原因は、まだよくわかっていはいません。
下記のようなことが背景として考えられています。
遺伝による影響
親族に双極性障害がいる場合、双極性障害になりやすいことが知られているように、遺伝の影響が強いと考えられています。
統合失調症なども遺伝による影響が強いのですが、双極性障害の場合は影響がより強い病とされます。
脳の変化
双極性障害では脳に変化が見られることが知られています。興奮を抑制する神経細胞である海馬の介在ニューロンの減少、判断をつかさどる前頭前野の活動低下、扁桃体の過活動、また、カルシウム濃度が高いために脳細胞が死にやすいこともわかっています。
カルシウム濃度の高さについてはミトコンドリア遺伝子の異常があるのではないかとも考えられています。
性格気質
性格気質と双極性障害とは関連がないとする研究結果も増えています。
しかし、双極性障害の背景を深く理解する上では、現在でも有用です。
・同調的:
周囲を気遣い、他人に振り回される。他人がどう思うかがとても気になる
・循環器質:
社交的で、朗らかで、ユーモアがある
・執着気質:
集中力があり、凝り性で、几帳面
双極性障害を治療、克服するために大切な4つのポイント
1.本人の異変に適切なタイミングで気づく
双極性障害は病気との認識を持つことがとてもむずかしい病気です。本人は、うつ状態になってはじめて受診します。家族や職場など周囲の人は、本人のテンションが異常に高く、生活や仕事に支障が出てきたら、本人にそのことを伝えて診断を進める事が必要です。
その際、騙して連れてくる、強制的といったことは結局は適切な治療につながりません。本人とよく話して、「一度診察を受けてみたら」と話し、納得した上で診察をうけることがのぞましいです。
本人が、周囲に危害を加えるほどこう進している場合は警察に連絡し、精神保健指定医による鑑定を求めることになります。
2.生活に支障がでるような躁状態には薬物療法が必須となる
双極性障害は、他の精神障害と違い、統合失調症などのような精神疾患により近いものと考えられています。また、自殺率も他の精神病よりも高いため、必ず精神科医にかかり観察を受ける必要があります。特にⅠ型の場合は、薬物治療は必須となります。
メインとなるのは気分安定薬で、横綱のような薬が「リチウム」になります。双極性障害の6割に人に効果があるとされます。人のよい、明るいタイプの人にはリチウムが効果があると言われます。リチウムは血中濃度を測定しながら処方されるもので、副作用があり扱いが難しいとされますが、躁状態にもうつ状態にも、予防にも効果があります。
4割の人にはバルプロ酸が効果があるとされます。比較的不機嫌な躁状態が見られるタイプに効くとされます。テグレトールが効果的なケースもあるとされます。非定型精神病と思われるようなタイプの方によく効くとされます。
逆に抗うつ剤(三環系など)を処方されるとラピッドサイクルという、うつと躁が急速に交代するような症状が出ます。また、デパスなど抗不安薬はパーソナリティ障害様状態に陥る危険性があるため、使用は避けることが望ましいとされます。
3.環境調整~「気分屋的に生きれば、気分は安定する」
精神科医の神田橋條治の有名な言葉に、「気分屋的に生きれば、気分は安定する」「小さな気分屋的生活は大きな波を予防する」というものがあります。
双極性障害とは、窮屈さや閉塞感に抗うようにして生じる特徴があります。
そのため、完璧主義にならず、一つのことに集中せず、複数のことを「~しながら」行ったり、流れに任せて概ね適当で生活することはとても大切です。
統合失調症などもそうですが、時代によっては、大きな社会的な居場所がある時代もありました。精神障害、精神疾患は社会によって規定されるもので、「生き方」が認められて、居場所があれば、症状は収まるところで安定することは事実です。
さすがに、Ⅰ型の激しい波のある場合は投薬によるサポートは必須ですが、Ⅱ型の場合などは、環境調整や医師のサポートで、活動性の高さなど特性を活かしながら社会生活を送る、といったケアのスタイルもあります。
うつ病も同様ですが、睡眠リズムを安定させることはとても大切で、睡眠時間の確保と同時に、リズムを安定させることもとても大切です。
4.精神療法~内省してはいけない
双極性障害は、病気への知識をつけて、考え方を変えたり、ストレスへの対処法を身につけるなど、精神療法も大切です。認知行動療法などは有効性が確認されています。双極性障害にくわしいカウンセラーから受けることも良いですし、患者自身で書籍などを参考に取り組むこともできます。
ただ、精神療法を行い場合に重要なポイントがあります。
それは、双極性障害の患者は内省が不得手で、無理に自分の気持を考えるといったことをすると混乱し、不安定になってしまうことです。この点は、一般の精神療法とは異なります。
一方で、他者に合わせることが得意(対人過敏性)です。双極性障害の患者は、自分は自分のままでよいという安心感に乏しく、人がどのように考えているのかという他者中心の考え方、他者に評価されて自分の価値を見出す、といった点が強いとされます。
自分の気持を深掘りするよりは、ねぎらいながら自己価値を修復し、相手の気持を考えてどう動くか、といった方向で行うのがコツです。
病気の知識は持ちながら、うまく気分の波に乗って自分の力を発揮して生きていく、ということが双極性障害克服のゴールとなります。そうすると、躁状態などが落ち着いた後、ずっと薬を飲み続けなくても、立派に生活している人も多くいらっしゃいます。
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(参考)
樋口輝彦 神庭重信「双極性障害の治療スタンダード」(星和書店)
ラナ・R・キャッスル「双極性障害のすべて」(誠信書房)
岡田尊司「うつと気分障害」(幻冬舎)
加藤忠史「双極性障害」(医学書院)
内海健「双極Ⅱ型という病 改訂版うつ病新時代」(勉誠出版)
貝谷久宣「よくわかる双極性障害」(主婦の友社)
森山公夫「躁と鬱」(筑摩書房)
青木省三「精神科治療の進め方」(日本評論社)
神田橋條治「第一回 福岡精神医学研究会講演会記録」
「DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル」(医学書院)
神田橋條治、白柳直子「神田橋條治の精神科診察室」(IAP出版)
など