強迫性障害とは何か~5つの視点からチェックする

強迫性障害とは何か~5つの視点からチェックする

不安障害

 何度も手洗いを繰り返したり、戸締まりの確認を行ったりといった行為で知られる強迫性障害。ポピュラーな悩みですが、しつこい強迫観念に苦しんだり、家族を巻き込むなど深刻なケースもあります。ケースによっては、発達障害などが潜むことが知られています。

 今回は、医師の監修のもと公認心理師が、強迫性障害についてまとめてみました。

 

<作成日2016.2.29/最終更新日2024.2.7>

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この記事の執筆者

三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師

大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了

20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。

プロフィールの詳細はこちら

   

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 ・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。

 ・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。

 ・可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

もくじ

専門家(公認心理師)の解説

強迫性障害(OCD=Obsessive Compulsive Disorder)とは何か?

強迫性障害の原因

強迫性障害のチェック~5つの視点から

 

 →強迫性障害の治し方については、下記をご覧ください。

 ▶「強迫性障害の治し方~11のポイント

 

 

専門家(公認心理師)の解説

 強迫性障害は、生物としての警戒行動が過剰に現れるなど、その方の気質、体質も関係しますが、臨床においては環境の影響も見逃すことができません。安心安全感の欠如(愛着不安)、トラウマ(ハラスメント)を被ってきたことから理不尽な規範を過剰に内面化するといったことが強迫行動を生むことがあります。病院では、一人ひとりに時間も取れないために生育歴の聴取が十分にされないまま症状だけで診断されるケースもあり見逃されてしまいがちです。強迫性障害において発達過程におけるストレスや機能不全家庭の存在などの影響はとても重要なポイントになります。

 

 

強迫性障害(OCD=Obsessive Compulsive Disorder)とは何か?

概要

 強迫性障害とは不安障害の一種で、自分ではコントロールできない不快な考え(強迫観念)が浮かび、それらをおさえるためのさまざまな行動(強迫行為)を繰り返して、社会生活に支障をきたす病気です。かつては強迫神経症と呼ばれていました。人口の2,3%が発症するとされています。比較的若い10代、20代で発症することが多いです。 

 

(参考)強迫性障害の有名人

 元イングランド代表のサッカー選手、デイビット・ベッカム
 アメリカの大富豪、ハワード・ヒューズ
 作家の泉鏡花
 など

 

参考)「国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」 強迫性障害」

 

 

要因(原因)

・脳機能障害の要因

 神経伝達物質(セロトニンなど)のバランスの乱れによって引き起こされている可能性が指摘されています。関連する部位として、視床、尾状核、淡蒼球、眼窩前頭皮質などがあります。 

 

・発達障害など

 発達障害などが背景となり、強迫的になるということもあります。ただ、その際も発達障害そのものがもんだいというよりは、成長過程、あるいは現在の安心安全感の欠如などが影響して気質が悪い方向で

 

・心理社会的な要因

 人間には自己防衛システムが備わっています。まだ生じていないさまざまなことに心配をすることで病気や事故を防ぐことができます。昔は具体的な危険が身近にありましたが、現代では明らかな危険は少ない状況です。

 

 そのため、自己防衛システムの働きが過剰すぎて、目に見えないささいな危険にそなえてしまい、それが強迫観念の元になるということが仮説として考えられています。暇があったり、安全な環境で起きやすいと言われています。

 

・見逃せない愛着不安、トラウマ(ストレス、ハラスメント)の影響による強迫行動

 また、依存症(し癖)と同じようにトラウマ、愛着障害の影響も考えられます。トラウマは、心理社会的な要素として「ハラスメント」の影響が存在します。ハラスメントとは、偽のルール(ローカルルール)で偽装された他者の不全感を飲み込まされることを言います。なぜ、ハラスメントの影響を受けるかと言えば、私たちが「よりよくありたい」「他者と繋がりたい」という意思を持つためです。そうした私たちの善意や社会性を悪用するのがハラスメントです。ハラスメントの影響を受けると、「自分はおかしい」「おかしな自分がよりよくあるためには、~~であらなければならない」と偽のルールを内面化するために、強迫的になってしまいます。その結果、強迫性障害の症状を発症することになります。

 

 あるいは、トラウマの恐怖やフラッシュバックから逃れるために、”まじない”のような行為として強迫行動を繰り返す、ということもあります。

 

 

 →愛着障害、トラウマ、ハラスメントについては、下記をご覧ください。

 ▶「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因」 

 ▶「「愛着障害」とは何か?その特徴と悩み、メカニズム

 ▶「あなたの苦しみはモラハラのせいかも?<ハラスメント>とは何か

 

(参考)強迫性障害になりやすい性格はあるのか?

 性格については、強迫性障害になりやすい性格(完璧主義)があるとする立場と、性格による影響はないという立場とがあります。

 

 

 

強迫性障害のチェック~5つの視点から

 強迫障害の簡単なチェックの方法ですが、下記にまとめた症状や類似するものに当てはまり、社会生活に影響を及ぼしている場合、強迫性障害となります。症状は非常に多彩で一般的には知られていない症状も多くあります(例えば、強迫性緩慢についてはあまり知られていません。)。

 単に症状からだけではなく、メカニズムやタイプ、関連する病気など、さまざまな視点で捉えると立体的な自己理解につながります。

 

視点1.症状の種類

・不潔恐怖・洗浄強迫

 自分の手や身体が汚染されているという感覚に支配されて、しつこく手や体を洗う洗浄行為を続ける症状です。トリガーとして、自分の体から出る汚れやドアノブ、つり革、受話器、机、椅子、コップなどの汚れがあります。日本人に多い症状です。

 サブタイプとして、相手を汚染してしまうという加害恐怖や、縁起の悪いイメージを洗浄で落とそうとする縁起恐怖、自分の精液が汚物として感じられたり、相手を妊娠させると恐れる精液恐怖とがあります。

 

(参考)強迫性障害と潔癖症との違い

 潔癖症は、清潔であることを徹底して求めます。一方、強迫性障害の場合は、一見清潔でももしかしたら汚染されるという不合理な観念に襲われたり、自分への汚染は気になるが部屋の汚れは気にならない、などといった特徴があります。一見類似しますが、基本的には別のものです。また、潔癖症は病名ではありません。

 

・加害恐怖・確認強迫

 鍵のかけ忘れ、ガスコンロの消し忘れなど、何度確認しても安心できず、確認行為を繰り返す症状です。自分の過失によって周囲を被害を与えることを恐れることを加害恐怖といいます。これも日本人に多い症状です。

 サブタイプとして、ミスによって周囲からの評価が下がることを恐れるランキング恐怖汚名恐怖があります。

 

・縁起恐怖 

 縁起の悪い考えが浮かんできてそれを振り払うための儀式、強迫行為を繰り返すことをいいます。縁起の悪い数字や名前、イメージなどがトリガーになります。

 サブタイプとして、神への冒涜を恐れる涜神恐怖宗教強迫などがあります。イスラム圏などで多いとされます。神からの罰ということで他のタイプに比べて恐怖心が強いことが特徴です。

 

・強迫性緩慢

 行動する前にあらゆることを確認したり、後悔を恐れて行動に移せない症状です。傍から見ると行動が緩慢になるために強迫性緩慢と呼ばれます。順序立てた確認行為を行うことで不安を解消しようとします。頭のなかで行う確認行為のことをメンタルチェッキングといいます。比較的珍しいタイプの強迫性障害です。

 

・収集癖

 モノやデータ、情報など捨てたら二度と手に入らないと不安になり、捨てられなくなったりする症状です。ゴミ屋敷になって周辺にも迷惑をかけて、という事件がワイドショーなどで報じられますが、かなり重篤なケースです。

 サブタイプとして、珍しい場所や普段見られない場所への興味や確認がおさえられなくなる症状もあります。

 

・不完全恐怖

 ものの並びが順番通りになっていないことが気になったり、不完全を許せない完璧主義となる症状です。書棚の漫画が1巻から順に並んでいないと気になってしまったり、仕事も完璧でないと許せなかったり、自分の発言を何度も確認するようなケースがあります。

 サブタイプとして、情報を調べているうちに次々と疑問が湧いて止まらなくなるQ&A強迫があります。

 

・疫病恐怖・洗浄強迫

 重い感染症などにかかることを過度に恐れて、血液や息、唾液などを過度に恐れ、強迫的に洗浄行為を行う症状です。心気症との違いは、心気症が漠然と病気になることを恐れるのに対して、疫病恐怖の場合は対象がニュースなどで知られる重い感染症であることです。

 サブタイプとして、自分が被害を受けることを恐れる被害恐怖、相手に被害を与えることを恐れる加害恐怖があります。

 

・不道徳恐怖・懺悔強迫

 自分が悪いことをしてしまうのではないかというようなことが浮かんだり、危険なことをしたり、危害を加えたい衝動に駆られたりという不道徳な妄想にとらわれる症状です。さらにその妄想を身近な人に懺悔のように告白して保証を求めて、さらにエスカレートして悪いことが浮かぶようになります。

 サブタイプとして雑念恐怖性的不道徳恐怖などがあります。

 

(参考)強迫性パーソナリティ障害と強迫性障害の違い

 強迫性パーソナリティ障害とは、道徳や決まりに従うことへのこだわり、完璧主義、厳格で融通が利かない、お金にケチ、周囲への強要などから人間関係などに支障をきたす状態のことです。
 基本的に全く別の障害です。両者の併発も1割にも満たないとされます。

 

 

視点2.強迫性障害のメカニズム

 普通の人でも不安や心配を感じますが、適切な範囲にとどまれば問題はありません。
ただ、心配しやすい認知の癖が影響するなど、心配について適切な評価を行えない場合に不安と行動の循環はエスカレートしていきます。
 不安自体は現実にあるものではないため、それを解消するための行動をいくら行っても架空の不安は解消されず、むしろ強化されてしまいます。強い不安を一時的に弱める行動に依存(精神依存)するようになり、日常生活に支障をきたすようになると強迫性障害となります。

 

 トリガー(物、人、状況など)
  ↓
 強迫観念が生じる
  ↓
 不安になる
  ↓
 強迫行為をする
  ↓
 一時的に不安が下がる
  ↓
 強迫行為を繰り返す※社会生活に支障をきたすようになる
 
 

視点3.巻き込み型と自己完結型

 強迫性障害には、自分一人で強迫症状を繰り返す「自己完結型」と、周りの人を巻き込む「巻き込み型」があります。巻き込み型とは、自分の強迫観念を解消するために、周囲に協力を求めることです。例えば、家族にも自分と同じように過度な手洗いを強制したり、不安への保証を繰り返し求めたり、といったことです。その場を収めようとして協力すると、症状はエスカレートしていきます(共依存)。

 

 

視点4.異常性の自覚

 強迫性障害では、基本的には、自らの強迫観念が異常で不合理なものであるとの自覚があります。自覚がない場合は、別の障害の可能性も高いと考えられます。例えば統合失調症の場合、自らの妄想に確信を持っており、不合理という自覚は基本的にありません。

 

・器質性脳機能障害

 これらの病気でも、強迫観念や強迫行為が生じることがあります。もしこれらが原因である場合は強迫性障害とは診断されません。強迫性障害の場合は自らの強迫観念が合理的ではないという自覚がありますが、これらの病気では妄想を確信していて自覚がない場合が多いとされます。

 

 

視点5.関連する病気(強迫性スペクトラム障害として)

 強迫的な傾向を示す障害を一連のものとして「強迫性スペクトラム障害」とする考えが提唱されています。

 

<衝動コントロールの障害>

・依存症全般

  ⇒「依存症(アルコール等)とは何か?真の原因と克服に必要な6つのこと

  →「国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」 依存症」

 

・買い物依存

  ⇒「買い物依存症の特徴、本当の原因と克服するために必要なこと

 

・ギャンブル依存

  ⇒「ギャンブル依存症の本当の原因と治療のために必要な4つのポイント

 

・セックス依存
・自傷行為

  ⇒「リストカット、自傷行為の本当の心理、原因・理由とその対応

 

・抜毛症
・窃盗癖

 

<身体へのとらわれ>

・心気症
・身体醜形性障害

  ⇒「自分の容姿が気になる~身体醜形障害の本当の原因と治療

・摂食障害

  ⇒「摂食障害とは何か?拒食、過食の原因と治療に大切な7つのこと

  →「国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」 摂食障害」

・チック障害
・トゥレット障害

 

 

 →強迫性障害の治し方については、下記をご覧ください。

 ▶「強迫性障害の治し方~11のポイント

 
 

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(参考)

田村浩二「実体験に基づく強迫性障害克服の鉄則35」(星和書店)

飯倉康郎「強迫性障害の治療ガイド」(二瓶社)
原井宏明 岡嶋美代「図解 やさしくわかる強迫性障害」(ナツメ社)
原田誠一「強迫性障害のすべてが分かる本」(講談社)
リー・ベアー「強迫性障害からの脱出」(晶文社)

など